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いのち守りつなぐ世へ むのたけじ語るⅡ

書名:いのち守りつなぐ世へ むのたけじ語るⅡ
著者:むのたけじ
発行所:評論社
発行年月日:2008/7/20
ページ:365頁
定価:2100円+税

むのたけじは全国各地で3200回超える講演会を行ってきたそうです。その中から14遍を選んで編集されたものです。歯に衣を着せずに発言しているので誤解も多いかもしれないけれど、なんと言っても人間に対して優しい。この本は人類67億人の一人ひとりへの励まし。まっすぐな言葉、易しい言葉、方言(秋田横手)で語る。そして反骨のジャーナリストの芯はぶれない。反戦といのちの大切さをずっと訴えている。

今の人々から見ればとんちんかんなと首をかしげる場面、反論したいところも多々あるもあるかもしれないけれど。新鮮なことを言っている。

人類700万年の歴史からすれば最近のことは瞬間のこと。1万年前に農耕が始まった。それまでは人属は猛獣などに食べられないように逃げて、いかに生き抜くかに腐心していた。農耕によって食、富の蓄積が出来るようになったところから6000年~4000年前に戦争を始めだした。700万年から考えれば1/700しかたっていない。著者は人間は生きていくために自分の位置を知る。自分のことを知る。そのために空間を知るために地理、時間軸を知るために歴史、他者との関わりあうために倫理があると言う。

ぶれない自分を作るためにこの自分の置かれている位置の確認が必要と言う。大きな問題は700万年の時間軸、大宇宙の空間軸。デモクラシーは多数決ではない。人間の尊厳を敬う。お互い認めあうこと。そして自主自立した人間になること。少数の意見に耳を傾けること。と言う。
易しい話し言葉で当たり前のことを当たり前に言っている。教育の根本問題として家庭でやるべき事、学校でやるべき事。それを峻別することが出来ていない。自分のことは自分できる子供にしつけるのは家庭の仕事、学校は子供達を比べることではなく、教えることでもなく、子供持っている才能を引き出してやること。励ましてやること。褒めてやること。そしてどちらにも言えることですが、子供を守ること。子供に罪を着せて逃げないこと。何処までも守ってやること。そして「何のために!」という目的目標を示唆してやること。と言う。

お金には全く縁のない著者ですが、そこにはお金、ビジネスの世界の中で価値判断が大きく狂ってきた現在を生きる人達に一種の清涼感を与えてくれる。文章に形容詞がついてくると嘘が混じる。名詞と動詞では嘘は混じらない。著者はそれをいつも心がけているようだ。今まで憲法を賛美していたが、ある日突然憲法の第九条「完全非武装」は戦勝国に侮蔑されて押しつけられたことを悟る。永遠に日本は世界の舞台に出てくるなと、憲法を押しつけられた。でも例え押しつけられても憲法第九条は世界に誇れる憲法。この2つの葛藤に悩んでいるとのこと。
ロッキード事件でもアメリカに逆らった田中角栄は失脚した。(アメリカを無視して日中接近を)アメリカに未だに逆らえない。歴代の首相を見ていると判る。反アメリカの首相はすぐに失脚する。

本書より
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人類は生まれたときはすごく野蛮で、以後時間とともに徐々に進歩、発達して現在の文明人になったと言いますが、私は「違う!人類は地上に生まれたときもっとも高貴な文化人だった。時とともに、一万年前の農耕創始から権力をふるいだしてずたずたに悪くなって野蛮になって、今一番悪いときだ」私はこれを死ぬまで力説します。

「自衛権も放棄する」に対して当時の国会で一人だけ「これでいいのだが、今は戦争体験が生々しいから一切の武装を放棄するでいいけれども、将来時間がたったとき、自分の国は自分で守るべきではないか。自衛の武装も必要ではないか」と質問した。共産党の野坂参三です。そのときに、「これだけの歴史体験をしながら軍隊をつくって外国に対抗するなんてとんでもない時代錯誤だ」って、今の自民党を構成する自由党・民主党の連中は嘲笑ったじないですか。それほど、第九条は「完全非武装」、そう言うことで国民の合意が成り立っていたんです。

憲法なんて守るものじゃないんです。用いるもの、使うものです。私どもこどもの頃年寄りたちに「持ったら使え、使わないなら持つな」とこう教えられたものです。それは我々民衆の子が羨む金持ち・物持ちもうまく活用しなければ持っていることが禍となって亡びるということも含めながら「持ったら使え、使わないなら持つな」それは憲法にそのまま当てはまることなんです。憲法は使わなければ駄目です。

知恵は表現する行為によって磨かれる。見たこと、読んだこと、聞いたこと、考えたことを絶えず書き表し、言い残す努力を続けることによって、知恵はたくましくなる。

真に恐いのは失敗することではなく、いい加減にやって成功することだ。飢えて死ぬより食いすぎて死ぬ人間のほうが多い。失敗してだめになるより、成功してだめになる人間の方が多い。精神の肥満は、判断力の動脈硬化を引き起こす。〕

読書は、第四の食事である。望ましい作法は、他の食事と同じである。暴飲暴食は精神に下痢を起こすだけである。一度に多量ではなく毎日欠かさず適量を摂取すると一番ためになる。読書は満腹させるものではなく、飢渇の自覚を深めていく食事である。