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メディアの発生 聖と俗をむすぶもの

書名:メディアの発生 聖と俗をむすぶもの
著者:加藤 秀俊
発行所:中央公論社
発行年月日:2009/5/10
ページ:618頁
定価:3000円+税

最近ではメディアというとテレビや新聞のようなマスメディアをさす言葉だと勘違いされている。本来の意味に立ち戻って、著者が能、歌舞伎、落語、演歌、また祝祭行事などは日本の神話の中の神、かみとほとけ、神仏と人、人と人を仲立ちする「メディア」として生まれてたものである。
古典を紐解き、各地に歴史を訪ね伝統芸能に触れる。壮大な古典の世界、日本人の教養、常識、精神世界を形作ってきたものの淵源を探る文化・芸能史を綴っている。加藤秀俊晩年の集大成。名著です。

メディア「仲立ち」「結ぶ」というキーワード、八百万の神は「かみ」と「ほとけ」とひらがなで書く
。それらの中から教団が出来て「神」「仏」に昇格して稲荷神社、華厳宗などと崇められている。しかし民間信仰、伝統芸能として未だに「かみ」と「ほとけ」は残っている。明治になって神仏分離を強制的に決めたが、それはあくまで法律で決めただけ、日本人の心までは変えることはできない。八百万の神はいまも立派に残っている。無理矢理行った神仏分離を元に戻して神仏習合した方が自然なのかもしれない。

メディア論と思って手に取るとあまりにも勝手が違うかもしれない。しかも600ページを超える大著です。著者の得意なフィールドワークで青森の恐山をはじめ全国の都道府県のすべて訪れた。民俗学の本と行った方が良いかもしれない。一気に読むにはちょっと難しい。

著者は歴史を訪ねるということは「外国」を訪れ、異文化に接することだと言う。比較的近い昭和でもそこはもう異国、現代を生きる人からみると異文化、まして500年前など完全に「外国」そして文化の違いを評価しない(特に現代の価値観で)ただ接する態度に徹している。遊女、芸人などそこに差別、人権、ましてジェンダーなど関与させると本当の所が理解出来ない。あるがままの歴史を素直なこころ、眼で捕らえようとしている。異文化に価値観というフィルタを掛けて判断するのが西洋哲学、そんな束縛から離れて眺めてみるには良い本だと思う。

目次
序章 私のメディア論 まえがきにかえて
第一章「「むすび」の構造――日本の精神世界」
第二章「宮中のど自慢――『梁塵秘抄』の知識社会学」
第三章「大地との対話――逢坂の関から」
第四章「メディアとしての身体――おどり念仏から河内音頭まで」
第五章「神々の市場戦略――熊野を中心に」
第六章「サロンとホステス――遊女の系譜」
第七章「『平家物語』と知的所有権――「語り」の組織社会学」
第八章「祝福のうた――「ほかひびと」の諸相」
第九章「「節」の研究――説経から演歌まで」
第十章「旅するこころ――遊行と道行」
第十一章「ノンフィクションの研究――「読み物」と「語り物」」
第十二章「劇場の時代――装置と演出」