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親鸞 吉川英治全集14

書名:親鸞 吉川英治全集14
著者:吉川 英治
発行所:講談社
発行年月日:1980/6/21
ページ:546頁
定価:1600円+税

この本は3回目、吉川英治が言いたかったことが少しずつ見えてくるような気がします。比叡山に籠もって必死に修行をして六相碩学に励み、悟りの道を求め続ける親鸞。そして「なむあみだぶつ」を唱えるだけで仏になれると説く法然との出会い。そして関東放浪。宗教というのは仏教でも、キリスト教でもイスラム教でもいずれの宗教であろうと矛盾が一杯のもの。したがって「信じる」という一つに集約されるところがある。それは何故?それは人間が実は無茶苦茶な矛盾満ちあふれているものだから。

頭の中で論理的に考えていけばいくほど矛盾の泥沼に入り込んで、煩悩の縁で右往左往する。そしてそこから抜け出すには?とまた落ち込んでいく。そんな迷いの世界を放浪する親鸞、そんな姿の中に人間の本質というものを感じる。そしてそこから解放されるには、普通であれ、自然であれ。

山が、石が、大木が「かみ」であったり「ほとけ」であったりそこらにあるもの全てに「かみ」「ほとけ」を気づくことではないかという気もする。其れが感じられれば、他人の中にも「かみ」「ほとけ」を、自分の中にも「かみ」「ほとけ」を感じることが出来るのでは?他人を敬う、勿論自分も敬う。森羅万象すべてを敬う。「善人尚もて往生をとぐいわんや悪人をや」も感じることができるのではないか?肩肘張らずに気楽に自然に、頭を使わずにあるがまま。

そんなことを気づかせてくれる本でした。吉川英治の「語り」は旨い、ついつい読み進めてしまう。これはやっぱり作家の天性のものか。いつも楽しませてくれる。