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天草の乱秘聞 富岡城に立つ虹

書名:天草の乱秘聞 富岡城に立つ虹
著者:村上 史郎
発行所: 熊本日日新聞情報文化センター
発行年月日:2010/7/23
ページ:374頁
定価:2000 円+税

悪政と苛酷なキリシタン弾圧に苦しむ領民が、救世主と仰ぐ天草四郎時貞を担いで立ち上がって、原城に立てこもって3ヶ月、幕府の猛攻撃に全員玉砕した島原の乱。その前に起こった天草の乱(富岡城攻防戦)の顛末を一揆側の視点からではなく、むしろその適役となるべく運命付けられた肥前・唐津寺澤藩の天草郡代として富岡城に赴任していた三宅藤兵衛を中心に描いた作品。

三宅藤兵衛は明智光秀の甥明智佐馬助光春と光秀の娘倫(みち)との間に生まれ、光秀の孫、細川ガラシャ夫人の甥にあたる。謀反人の一族という悲運の星のもとに生まれ、明智一族滅亡後、鞍馬寺に隠れ、細川ガラシャ夫人に見いだされ、細川屋敷で少年時代を過ごした。ガラシャ夫人が亡くなった後細川家を辞し、放浪の旅をつづけ、やがて肥前唐津・寺澤藩に奉職し、天草の乱のときには富岡城の番代(郡代)として赴任、そこで歴史的な天草の乱に遭遇する数奇な運命を描いている。

天草地方を丹念に取材して、郷土史家などが集めた資料などを駆使して三宅藤兵衛を浮き上がらせている。また細川ガラシャと忠興の間に生まれた与五郎興秋、細川家から只1人大阪方に加担し、大坂城落城の後京都で自刃して果てたとされている。この興秋が天草に隠れ住んでいた。こんな原資料も駆使して三宅藤兵衛の現地妻志乃との愛の物語も加えなかなか読み応えのある内容です。

島原の乱では極悪非道の幕府方、藩方を描くこと多い。また常に天草四郞に贔屓がされる。しかしこの三宅藤兵衛の話を読むとまた違った視点で徳川初期の家光時代の幕府の施策、藩制、そしてキリスト教徒達を扱い兼ねた実際が見えてくるように思える。ポルトガルがイスパニア(スペイン)に併合されてからの世界、キリスト教を前面に押し立てて世界制覇を目論むイスパニアにどう対抗していったか?
そして藩主、将軍より神を、命より神というキリスト教徒達への洗脳、それが大きな悲劇となっている。