競馬学校教官の指導に寄せて

膝の位置


 若い騎乗者に共通して目立つ欠点は、膝が堅くなっているように見えることで、それは鐙に爪先だけをかけ、踵を下げすぎて重心の中心が後ろにかかりすぎてしまうことも理由のひとつである。この姿勢では、体重はすべて足首にかかり、しかも馬を追うために身体の上半身を使うので、押すたびに足首が下がり、その結果膝が少しずつ後ろへといく。このときの身体の動きは上半身と下半身が反対で、上半身が前にいくかわりに膝は後ろへと下がるので、馬を押すためには膝を浮かせなければならなくなり、結局は騎座が頭より高くなる。そうなると少しずつ、しかし確実に押す位置は馬の首の下のほうへと下がってきて、やがて追うことができなくなるが、鞭を使ったとしてもこうなると効果はあがらず、そのうえ騎乗姿勢があまりにも不自然なために、騎乗者はすぐに疲れはててしまうだろう。
 最後に追い込むときに騎座を下げると、膝は自然に前にいって馬の肩にあたるので、そのときに鐙にかけた爪先を少し下にやれば手綱は絞ることができ、きちんと前方を見ていれば背中も正しい姿勢となる。こういう騎座で騎乗するほうが自然で、追うときにも、馬の肩にあてた膝の動きに合わせて、手や腕、肩を自由に使うことができる。ただ鐙が非常に短い現代の騎手は、膝から下の部分の内側をしっかりとくっつけ、1ハロン15秒のスピードでも膝を馬につけずに上手く騎乗している。そして激しく追いだすときには、一流騎手の多くは膝を前方に出して内に寄せるようにしていて、その際は鐙に乗せた爪先がじつにいい形になっていることに気がつく。このとき彼らは全能力を発揮しており、みずからが一流騎手であることの証明しているのである。

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