競馬学校教官の指導に寄せて

鞭の持ち替え


 学校のトラックのゴール前にきたときなど、生徒が手綱を持ちかえたり、鞭を持ちかえたりすることに苦労する場合がある。手綱を持ちかえたり、鞭を取り出そうとしてグリップが緩み、その結果手綱が緩んだり、ときには先端の幅が原因で鞭をスムーズに抜けなかったりする。鞭の先端が幅が広いときには親指で軽く鞭を持ち、その指で自由な手に渡すようにし、残りの指は手綱をしっかりと握っておくべきである。これらがきちんと行われれば、馬がハミを外すことなく、真っ直ぐに走り続けるだろう。だがもし騎乗者が、鞭を取ろうとしたり、持ちかえようとする前に手綱を絞っておかなければ、馬はおそらく真っ直ぐ走らなくなるので、手綱を絞るために鞭を戻さなければならず、無駄な動作となってしまう。
 レースの初めの頃や練習で素直な馬に乗っているときに、鞭を持ちかえることができたとしても、それは馬がおとなしかったり、レースのペースが落ち着いているからで、馬が全力を出していたり、疲れてしまったときには事情は異なる。しかしたとえそうであっても、馬の頭をしっかりと制御しないで鞭を取り出そうとしたり、持ちかえようとすれば、ほぼ間違いなく真っ直ぐに走らなくなるし、疲れてしまった馬の場合も同じだろう。馬が全力で走っているときに鞭を使おうとする者はあまりいないかもしれないが、あえて私がそういうのは、学校で行われる騎乗テストでよく見かけるからである。
 学校でのテストは1000mのタイム競走で行われ、最後の200mでは馬が全力を出したがるので、鞭を取り出す歳に、気をそらしたり、ことに手綱を緩めたりすると、急によれてしまうことがある。生徒はそのとき、なんとかしなければならないのだが、ある意味ではこれは、異なった状況での能力を証明するチャンスでもあり、教官にしてみれば、生徒の可能性を探る最高の機会である。毎日のゆったりした速さでの練習では、すでに述べたように、たいていは騎乗する馬によって決まってしまうので、彼らの持っている能力を発揮することはほとんどできない。しかしスピードをあげたときに、鞭や手綱を正しく持ちかえることができれば、追う能力があることをゴールまでのあいだに少しでも証明することになり、教官にしても、ここで彼らの欠点を見つけだして、アドヴァイスしたり、実地に教えたりして矯正することができる。

− 6 −


前のページへ  次のページへ

目次に戻る