競馬学校教官の指導に寄せて

手綱の持ち替え


 もっと速いペースでの練習になると、生徒は騎乗姿勢をいくらか変えなければならなくなる。1ハロンを20秒ぐらいのゆったりしたペースで練習が行われていると、騎乗姿勢もそのペースで馬を制御できるようになっているからで、ただ正直にいえば、変えるといってもそれほどたいして変えられるものではない。教官は、手や背中、脚、騎座について、気になることがあったにしても見ているしかなく、当然ながら生徒は、その馬を制御できるような姿勢で騎乗するので、ときには教官の思い通りにいかないこともある。ゆったりしたペースでの生徒の騎乗姿勢は様々な条件によって決まってくるからで、扱いやすい馬に騎乗したときには最高の乗り方を見せるが、ハミに逆らったり、左右にもたれる馬に騎乗したときには、教官が見慣れたり、期待した騎乗姿勢より悪くなったりする。
 ハロン16秒までスピードをあげたとしても、ずぶい馬やそれほど走る気のない馬の場合、そのままでも手綱を絞ることができる生徒もいるかもしれない。ここで私がいっているのは、短くするために手綱を持ちかえることができるということで、このときにはさらに騎座を低くする必要がある。なかにはスピードをあげたがる馬もいるので、16秒のペースで走ってはいても、14秒にあがったときには手綱を短くして腰を低くすべきで、そうすることで13秒でも12秒でも追うことができるような騎座となる。これらの動作はできるだけ静かに行われるべきで、馬の肩口で動きすぎると、真っ直ぐに走らなくなったり、急ぎすぎたためにハミが外れたりすることがたびたびあり、レースでの最も重要な場面や速いペースでの練習では、これには時間をかけて正しく行ったほうがいい。くりかえしていうが、騎乗者はつねに考えるために時間をかけるべきである。
 馬の頭をしっかりと制御し、騎座を低くする騎乗者は、すっかり準備が整ったと感じるだろうし、この騎座からなら自然に馬を追い出せることも分かるだろう。筋力がついていれば、腕の動きはとても自由で、しかも上手く騎乗しているようにも見える。
 若い騎乗者にとって、手綱の持ちかえを覚えるのはなかなか難しいことだが、教え方がきつかったり、早すぎたりしなければ、自分なりのやり方で、やりやすいように覚えていくだろう。手綱を持ちかえたり、あるいは手綱を短くすることは、おそらく馬に乗ることのなかで最も重要な動きで、正しくできないと騎乗姿勢も崩れてしまう。追い出すときにあまりにも手綱が長いと、それを補うためにおそらく身体は後ろのほうに置き、その結果立ったようになってバランスは失われるからで、そうなると馬の背の上で立ち往生することになる。
 上手く手綱を持ちかえるために簡単なのは、スタートからしっかりと馬の頭を制御しつつ、両手で30センチぐらいのブリッジを作っておくことで、手綱を絞りたいとき、あるいは鞭を使いたいときには、片方の手でそのブリッジを持つようにすればいい。こうすれば片手が自由になり、鞭をとることも、手綱を絞ることもできるし、もしもっと手綱を絞りたかったとしても、いつでも自由に手繰りよせられる。ただそのときには、騎座を低くして馬の中に座り込むようにすることが重要で、それによってリストや腕に体重をかけずに一連の動作をやってのけられるだろう。経験のある騎手なら、ほとんど考えずにこれらを自然にできるので、実際のレースでも馬のスピードは増し、勝利を手にすることができる。

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