|
|||||
晩成書房より発売中 |
|||||
著者 川村史記 ・ 福島 康 |
【出版記念パーティー風景】/【本書の書評−月刊誌“演劇と教育6月号より”−】●【教育新聞2010年7月22日号】 |
一点集中!表現展開−表現力を育てるワークショップの実際− 【戻る】 【目 次】 まえがき はじめに 第1回講座: オリエンテーション 第2回講座: 自分と向き合う 導入:グループ分け/実技:自画像を描く/柔軟度チェック/講義:人間の身体 第3回講座: 母子遊びの重要性 導入:心身のほぐしとしての『鬼ごっこ2題』/実技:乳幼児期における母子遊びの重要性と遊びの演習/講義:愛情遮断症候群・情緒剥奪症候群 第4回講座: 保育および教育と遊び 導入:円陣による集団動作―さまざまな挨拶―/実技: 集団で遊ぶのに便利なグループ作り/講義: 授業への遊びの導入と留意点 第5回講座: 手の運動の発達 導入:手振り表現/実技:手の表現と手遊び/講義:手の動作の発達 第6回講座: 表現と教育の関わり 導入:劇的要素を含んだ伝承遊び/実技:教師の技術としての演劇的手法/講義:芸術の種類と特長および芸術(特に演劇)と教育の関係 第7回講座: 集中と作法 導入:署名活動/実技:一点集中の方法と作法/講義:心と気の関係 第8回講座: もうひとりの自分の発見 導入:既習実技の活用/実技:自分の身体を知る/講座:自分自身を知る 第9回講座: 身体表現の基礎基本 導入:緊張と緩和/実技:課題に基づく身体表現―エチュード(etude)のいろいろ―/講 義:緊張と緩和およびエチュードの意味するところ 第10回講座: 想像から創造へ 導入:言葉からの創造/実技:エチュードの発展/講義:遊び心からの出発を経て 第11回講座: 観察から創造へ 導入:自主性の発揮/実 技:立ち方・歩き方・人間彫刻/講義:人類にとって宿命的な腰痛症 第12回講座: ごっこ遊びから劇遊びへ 導入:主体性の確立/実技:劇遊びの実践/講義:創造のプロセス/脚本作りのポイント おわりに |
は じ め に
表現という言葉を耳にしたときに人々が真っ先にイメージするのは役者が舞台や映画やテレビ番組で演ずる行為でしょう。そして、それは一見、特殊な職業の人々の特殊な行為のように思えますが、よくよく注目してみると日常生活や現実社会の観察と模倣の上に成り立っている行為であることが誰にでもすぐにわかります。つまり、見方を変えれば役者達の様々な表現は、我々の日常生活が多種多様な表現に満ちていることの照り返しなのです。
そして、生活する一人ひとりの人間の表現が複雑に絡み合った各種の『広がり』と『まとまり』からいろいろな『社会』が生み出されてゆきます。ですから、子ども達や若者達が大人になっていくということはまさに、そうした社会の担い手として一人前の表現者になっていくということでもあるのです。
しかし、ただ野放しにしておいても彼等が一人前の表現者(社会人)になれるわけではありません。そこには教育するという指導者達の表現行為が必要になります。つまり、指導者の表現能力がからっぽでは『無からはなにも生まれない』の道理で、子ども達の表現能力を引き出したり、育成することはできないのです。
ですから、子ども達や青年達の教育に携わる人々はまず率先して、優れた表現者になることを志し、努力する必要があります。よって本書では福島式表現指導に基づき、まず、指導者の典型である教員を養成する教育課程の中で、“先生”自体の表現能力育成プロセスをどのような形で履修させるかということを学習指導案としても参照できる具体的な表現行為の学習プログラムの流れで紹介してまいります。
ところで先に、多種多様な表現の『広がり』と『まとまり』から種々の『社会』が生み出され てゆくと述べましたが、その様々な社会から逆に、人間個々の表現や生活が規定されたり、抑圧されたりする側面が厳然たる事実としてあります。そこで、これまで実施してきた大学での講座では常に、現状についてのタイムリーな話題を提示し、それを課題としたレポートの提出を義務付けてきました。これにより、学生達は、現在の社会を動かしている思想や政治や経済へ常に関心を向け、自らの頭で考え行動に結びつけることが真の表現能力育成であることを学ぶことになりますが、本書では紙面の都合上、その取り組みの詳細を記述できませんので、各講座ごとに提出された学生のレポートを1、2例掲載することで、学生達の考え方の一端を紹介します。
本書の読者である学生諸氏はいずれ教育の現場に立つ人々であり、ひとたび教育の現場に立てば必ずや、子ども達や若者達が考えること、読むこと、書くこと、歌うこと、描くこと、造ること、発表することのすべてに表現能力が関わってくるという現実に直面します。そしてそうした現実に気づいたそのときから、教員そのものが授業のコンテンツを企画し、ストーリーを描き、それを演出し、自らも演ずる主体であらねばならないということを実感する日々の連続となるでしょう。我々執筆者は皆さんが繰り広げる教育指導の奮闘を念頭に、多種多様な教育現場で、福島式表現指導が具体的な指導案づくりの“ヒント”としてお役に立つことができればと願っております。