(book)

監修 小倉法子  著者 川村史記 市江澄子

この世に生を受けた誰もが、自立した歩みを始めたその時から、一筋の足跡を残してゆきますが、幾重にも打ち寄せる時代の波にさらわれ、やがてその多くは遠ざかる潮騒のごとく、人々の記憶の彼方へと消えてゆきます。しかし、私達がよりよい人の世の在り方を模索したり追及する努力を続けるかぎり、安易に記憶の外へ置き去りにしてはならない足跡も数多くあるということを忘れてはなりません。



[
筆 者]

川 村 史 記

市 江 澄 子

一般にまだ幼児教育への理解が希薄であった昭和初期、東京の杉並区荻窪に設立され、注目を集め続けた『日の丸幼稚園』の志を今日に受け継ぎつつ、フレーベルの教育理念および教具(恩物)への理解を深め、より真摯な保育活動に発展させた天沼日の丸幼稚園の取り組みはまさにそうした足跡の一つです。

残念なことに、親子二代にわたる奮闘を求心力とし、社会へ貢献し続けた天沼日の丸幼稚園は多くの人々におしまれながら、西暦2003年3月、その活動の幕を閉じました。閉園は70歳代を迎えた小倉法子園長が、園舎の老朽化や後継者のいない現実を熟慮した結果の決断でした。

しかし、日の丸幼稚園から天沼日の丸幼稚園へと受け継がれ、七十余年のたゆまぬ発展の道筋をたどったその教育活動の『実像』はいまだ色あせることがありません。それどころか、天沼日の丸幼稚園の取り組みから学ぶことで、幼児教育の重要性とともに、混迷する日本の教育の現状を見直し改革するための確かな道筋を読み取ることができます。

本書の目的は、とかく“歴史の中にかつてあった教育手法”として片付けられがちなフレーベルの教育理論や教具の『思慮深さ』『素晴らしさ』をしっかりと把握し、保育の日常に位置づけた天沼日の丸幼稚園の幼児教育がどのようなものであったかを、今なお幼児教育への熱い思いを共有する関係者の語る言葉の中から素描し、子育てに取り組む多くの皆様の心へお届けすることにあります。

西暦2008年6月