トルコ旅行記14 【イスタンブール・カッパドキア旅行記】



第14話
1997年7月11日 第7日目 ボスポラス編

 

【ボスポラスクルーズ】

 しばらく2階にいたのだが、1階におりてみる。1階は基本的に部屋の中になってしまうようで余り人気がないと思っていたのだが、実は穴場が存在したのだ。1階は船の周りが細い通路のようになっていて、船尾を中心にぐるっと半周できるのだが、その通路沿いにベンチがあったのだ。ここに座れば周りの景色が実によく見える。もちろん片側しか見えないわけだが、屋根のある奥まった場所から見るのとはダイナミックさに差がある。海を渡る風を受けながら見る景色は最高だ。しかし、既に人がぎっしり座っていて、空いているところはなかった。仕方ないので船尾の鉄柵に腰掛けて景色を眺めることにした。

 夏の日差しを浴びて汗ばむ気候なのだが、風に当たっているとむしろ涼しいくらいだった。そして次々と繰り広げられる景色を見ながらもの思いに耽る。

 エミノニュを出てしばらくすると進行方向左手に「ドルマバフチェ宮殿」が見えてくる。船は一旦そこに寄り、再び出航していく。ドルマバフチェ宮殿もイスタンブールの名所の一つだ。時間があれば訪ねてみたいところなのだが、今回は行けそうにない。次回、もし来ることがあったら寄ってみよう。

 船は再びボスポラス海峡を北上していく。海峡の両側には街が続いていた。平地ではなく、見上げるような山なのだが、山の上の方にまで住宅が建っていた。そして海岸線には高級な別荘が並ぶ。自家用の港を持つ高級リゾートといった感じだ。イスタンブールの金持ちたちがこぞって建てたものらしい。

 そのうち海峡を渡る大きな橋が見えてきた。ボスポラス大橋(左写真)だ。船はゆっくりと橋に近づいていき、下をくぐっていった。車がひっきりなしに走っているのが見えた。明石海峡大橋を見慣れた僕にして見れば、それほど大きいとも感じなかったのだが、この辺りでこれほどの規模の橋は、そうそうないだろう。観光名所としての価値はあるかも知れない。

 それから、またさらにいくつかの寄港地に寄りながら、船はさらに北上していった。だんだん家の数も減ってきて、海峡の両側は海岸沿いを除き、深い森へと変わっていった。そして海峡の細くなったところの山中に城跡が見えてきた。ルメリ・ヒサールのようだ。その後ろには「第2ボスポラス大橋」が見える。

 ルメリ・ヒサールは石で出来たヨーロッパスタイルの城で、海峡を守る要の場所だったようだ。既にかなり崩れているところが、風情をかもし出している。この部分だけ見ていると、ローレライで有名な「ライン河下り」を思い起こさせる。そう、とてもヨーロッパ的な風景が展開されているのだ。

 その城跡を横目に見ながら、第2ボスポラス大橋もくぐっていく。ボスポラスクルーズも中盤にさしかかった。

 景色に少し飽いてきたので、再び2階に戻ってみた。2階の一部は食堂になっていた。ジュースなどが売られているが、買っている人はあまりいなかった。そのためか、食堂のおじさんたちはジュースやヨーグルト(トルコではヨールト)をお盆にのせて客席の間を売り歩いていた。ヨーグルトは結構売れていた。トルコ人たちはヨーグルトが好きなようだ。

 それからしばらく航海が続き、終点の「アナドル・カヴァウ」が見えてきた。こんもりとした山裾の海岸に広がった小さな街だ。山の上には崩れかけた城跡が見える。あそこまで登っていけば「黒海」が見えるはずだ。

 船は間もなく桟橋に到着した。僕らは何か不思議なものに出会えるかも知れないという期待の気持ちを胸に秘めながら船を下りた。イスタンブールのアジア側に初上陸だ。


【アナドル・カヴァウ】

 桟橋から街の中に入っていくと、海鮮料理レストランやアイスクリーム屋などが軒を連ねていた。立派な観光地だ。トルコの人たちも、ここで海鮮料理を食べたり、ぶらぶらしたりして過ごすんだろう。なかなか華やいだ雰囲気だった。

 そして、店が建ち並んでいる地域の中心には小さな公園があって、人々が思い思いに集い、語らっていた。そしてネコたちも多く集まっている。観光客にえさをねだるのだろう。しかし、やせたネコが多かったのが気になった。

 とりあえず雑貨屋に行ってペットボトルの「水」を買った。それからお菓子屋でワッフルを購入した。そしてそれを食べながら、先ほど見えていた「城跡」を目指すことにした。帰りの船まであまり時間がなかったので、急いで登らなければならない。

 城跡は船からははっきり見えていたのだが、街中に入ると建物のために見えなくなっていた。しかしおおよその方向が分かっていたので、ぶらぶらと歩いていくことにした。山の上なので、道も最終的には1本になっているはずだ。

 適当に歩いていくと、山の上の方へ続くかなり急な道が見えてきた。山の上の方を見上げてみると、城跡が見えた。この道で間違いないようだ。

 道はちょうど工事中で、あちらこちらを掘り返していた。煉瓦のようなブロックを敷き詰める作業のようだ。ということは、この城へ行く道をきれいにして、観光地化しようということなのだろうか? どうもそうらしい。道路工事のおじさんたちに挨拶しながら、登っていった。

 時間的にはちょうど昼下がり、少し歩いただけで汗が噴き出してくる。しかし、トルコは乾燥しているので、日本のようなことはない。日本の山を同じ気温の中で登ったとしたら、恐らく汗でシャツがどろどろになってしまうだろう。しかし、暑いものは暑い。

 途中何度か休憩し、やっとのことで頂上近くにまで来た。既にたくさんの人が登ってきているようで、頂上は子供たちの歓声で溢れていた。

 

頂上より黒海を望む              頂上より南側を望む
城跡に集まる人たち             山頂の崩れかけた城

 頂上の城跡は壁(城壁?)を少しとどめているだけで、ほとんど壊れていた。そこにスカーフを巻いた女性たちや、子供などが家族連れでピクニックに来ていた。僕らと同じ船に乗ってきた連中も、何人か登ってきているようだった。

 さっそく高台に立って風景を眺めてみた。頂上からの眺めは格別だった。天気も良く、遠くまで見通すことが出来た。眼下には河のように細長いボスポラス海峡が横たわっており、それが「黒海」につながっていた。黒海への入り口は、あたりまえだが地図と同じ形だった。黒海の先は霞んで見えなかった。この先にウクライナやロシアがあるのかと思うと、何だか不思議な気分だった。アジアの果てに来たという実感が、少しわいてきた。

 崩れた城壁の上に座ってぼーっと景色を眺めてみる。今までかいていた汗も、すっかり引いてすがすがしい気分になった。風も気持ちいい。イスタンブールの喧噪もいいが、こういう風景の方が、僕の性にあっているような気がした。いつまでもいたい気分だった。

 海峡では船がひっきりなしに移動していた。黒海から南下してくる船、そして黒海へと北上していく船。見ていて本当に飽きない。写真を撮ったりしながら、ゆったりとした時間を過ごし、帰途についた。

 麓の街まで下りていくと、ちょうど船が来ていた。早速、船に乗り込んだ。

 

 

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