王子小劇場 7/8〜7/12
7/7(水)観劇
作・演出 青木秀樹申し訳ありません。まだ書けていません。
作・演出 池里ユースケystサービス(余命わずかな事がわかってしまった人の、人生最後の望みを叶える会社。費用は、必要経費と死ぬまでのビデオを撮る事)の古久利丈二(阿部純三)は、島田しんじ(室野尚武)からの電話を受ける。古久利は、島田が3ヶ月の命という事で相談を受け、同窓会を企画する。しかし、古久利が集めた同窓生達は、虫沢フミオ(大口達也)以外は、虫沢に雇われ、同窓生を演じているだけであった。その事を古久利は知らない・・・。
塚島夕貴(田中美穂)は、漫画家としての才能のなさをカバーするために、自分の経験を漫画にしていた。自動車事故を起こした被害者・溝口キリコ(清水智香子)との友情を描いた漫画はベストセラーになっていた。そんな塚島に、ファンと偽り近づいてきたのは虫沢であった。そして、7年前に少女を監禁し、殺害してしまった少年Aとは友人だったので、その事件を描かないか、と持ちかけたのであった。実は、その少年Aとは、島田しんじの事であった・・・。
そして、その漫画を読んで、古久利が塚島に近づいた。古久利は、少年Aに殺された少女の兄であり、今でも少年Aに復讐をする事だけを考え、生きていた。そんな折、ystサービスに島田から電話がかかってきたのである。島田が余命3ヶ月だと知った古久利は、死ぬ前に島田を幸せの絶頂から不幸のどん底へ突き落としてやる、と“復讐”を企てるのであった・・・。
-----------以下はちょっとネタバレ-----------------------------------
しかし、物語は急転する。島田はすでに死んでおり、古久利が見ている島田は幻であった事が判明する。誰が誰を騙して、誰が真実を語っているのか・・・7年前の事件が、さまざまな人物、さまざまな事情を絡らませ、物語は終局へと向かっていく。そして、7年前の事件の真相が明らかになる・・・。ひょんな事で出会った劇団。今回の作品は、2バージョンあり「黄」がコメディ、「黒」がホラーらしい。自分の空いている時間がこの時間しかなく、どちらのバージョンなのかも知らずに劇場へ入る。チケットを見たら「黒」だった。いつもはコメディ路線らしく、今回自分が観たバージョンで、劇団の持ち味が発揮できたかどうかは、知る由もない。まぁ、次回公演も観てみればいいんだけどさ。って観るつもりだけどさ。なにより、客席が満席状態(今回1100人くらいの動員があったらしい)で、正直申し訳ないが驚いた。有象無象に増えていく東京の小劇団事情の中で(お金にならないのに本当に劇団数が多いと思う・・・)まだまだ自分の知らない集客力のある劇団があるって事に、自分の視野の狭さ、情報網のなさを反省。今回で10回目の公演だってのに・・・。いや、知らなかったのは、劇団のPR不足だぁ!!って事で、責任転嫁をして自分を正当化してしまおうと思う。
で、肝心の芝居がどうだったかと言うと、面白かったのである。マジに。こんな才能を持った人物が表舞台に出ていないのは不思議だ、ってのは褒め過ぎかもしれないが、それに近い驚きがあった。観劇途中、物語の辻褄合わせ的な“偶然の出来事”の積み重ねに、ちょっとがっかりしてしまった部分があったのだが、ラストで全てが(7年前の事件も含め)ある人物が裏で操っていたと気づかされた時の面白さは格別であった。仕組まれた偶然に「あー、やられたぁー」って感じ。観客をガッカリさせてしまうくらいに意図的に偶然の積み重ねを行って、最後にしっかり意味を持たしているのは、なかなかの業師と見た。物語の途中で過去と現在が行き来する時の見せ方には、少々不満が残る(ちょっと判りづらい)が、脚本はなかなか素晴らしい。笑いどころもあるし。あっ、そうそう、居酒屋の場面でお品書きに『ヤスシ盛り合わせ(主に小野)』とか書かれてあるのが、絶妙に琴線に触れる。そーゆー物語とはまったく関係のない、言うなれば意味のないくすぐりに感動を覚えた。
役者では、阿部純三の素晴らしさが目を引く。個性があって演技もうまい。芝居の中に引き込ませる玄関口は役者の腕だと思う。どんなにいい脚本でも役者が駄目だと現実に引き戻されてしまう。その点、阿部純三は完璧。それまで、この劇団は面白いのか面白くないのか不安で観ていたのだが、阿部純三が登場してからは、安心して芝居の世界に浸れた。一人の役者により芝居全体を面白いと予感させてしまうのは、すごい才能だと思う。逆に下手な役者もいて(名指しはできないけど)、時々冷めてしまう時も無きにしも非ずであった・・・。全体的なレベルアップを期待したい。
それにしても飛び込み同然で観た芝居を気に入るのは久々。だから感動も一入なのかもしれないが、こんな出会いは大歓迎である。
作・演出 飯野邦彦申し訳ありません。まだ書けていません。
作・演出 山中隆次郎直接は関係ないが、挨拶文が導入部分でもあるので、そのまま引用させてもらう。『高校のころ、ムカデと呼ばれている友人がいた。どうしてムカデだったのか、いまとなっては理由もわからない。ムカデにはおとなしい弟がいて、二人とも野球部だった。二人の父親は、地元に大きな工場をいくつももっていた。「9回裏、逆転満塁ホームラン」という一幕を一度だけ見たことがある。そのホームランを打ったのは、代打のムカデだった。その一瞬だけ、ムカデは本当にかっこよかった。ホームに戻ってきたムカデに、弟ムカデが何事か声をかけた。ムカデはそれに反応して、ムカデは瞬間、凍りついた。あれはなんだったんだろう。』
舞台は、CE−1(第1種接近遭遇)やキャトルミューティレイションの多発する東北某市のバッティングセンター。東京から“ムカデ”こと城田地図夫(山中隆次郎)が、傷害事件を起こした弟・城田旅人(木田尊大)の謹慎処分中の代役として、父親が経営する軍人将棋の会社へ赴任してきた。そして地図夫は、会社の野球部に入部し、このバッティングセンターへと案内されたのであった。そこには、アルミホイルの帽子をかぶりUFOからの電波を恐れる“ドクオ”と皆から呼ばれている、種尾裕造(芦原健介)がいた。種尾は、誰かの迎えを賭け軍人将棋をしながら待っていた・・・。
場面は変わり過去へ。旅人は、父親である社長から、「種尾が出社するように毎日説得する」、「コーラを飲ませる」という命令を受けていたので、毎日バッティングセンターに来ては種尾の説得にあたっていた。何故種尾に執着するのか、旅人には父の心が理解できなかった。父親はUFOにさらわれてから、人格が変わったという噂もあった・・・。それはともかく、頑なにその場所を離れない種尾。種尾によると皆チップを入れられ宇宙人に操られているのだという。そればかりでなく、コーラも奴らの飲み物であり、丸井に行くとチップを埋め込まれる、鳩は奴らのスパイだ、と信じきっていた。木星への避難を2万円でかなえるというパロマー(青木宏幸)は、伝言を残したまま姿を消してしまう。種尾の行動を監視しているような同僚の大門喜八(佐藤真義)と西望(数間優一)は、バッティングセンターのアナウンスが入ると操られるように球を打ちに行く。血豆がつぶれようとも・・・。旅人の婚約者の馬場菜穂子(横山優美)も誰かの声が聞こえるらしい。
バッティングセンターの周りには異常なほど鳩が集まっていた。本当に奴らのスパイなのか。突如最接近するUFO。しかし誰もその光景に驚く様子もない。異常を察しした旅人は、種尾に救いを求めるのであったが・・・。前作は狂気に物足りなさを感じたのだが、今回はいい具合に「狂気」が心に忍び込む。自分の好きな題材だったというのもあるが、むちゃくちゃ面白かった。普通に飛来する未確認飛行物体。種尾が言うように皆操られているのか、それとも種尾が狂っているだけなのか、誰が狂っていて、誰が正常なのか。種尾の言葉は狂言なのか、それとも真実なのか。旅人は狂ってしまったのか、真実をつかんでしまったのか。全ての事が不明確。だが、その不明確さが故に不安感が増殖し、恐怖感へと変貌する。“人の心に忍び込む原因不明の悪意を題材とした、余韻の残る「淡々としたホラー」。醒めていながら不安な心理”という劇団色をみごとに表現した作品だったと思う。
東京がUFOに襲撃されているのに、それを地方の人間はテレビで淡々と見ているって芝居もいいなぁ(まだ見ていないけど、怪獣が東京を襲っている中、普通に毎日を送る地方都市の人々を描いた『大怪獣東京に現る』という映画はあったが)と思ったが、実際に宇宙人が侵略してくるなら地方から徐々にって感じかもしれないと思った。知らず知らず蝕まれていく感じ。地方のそんな様子は中央では誰も知らない・・・。でも芝居では、宇宙人の侵略が真実なのか、狂気の中の出来事なのかは明言しない。そんな不安な恐怖感を淡々と描く素晴らしさは、さすがだと思う。
舞台美術もすばらしく、あの劇場をあんなにも広く使ったのは初めてなんじゃないかとも思う。ってそう言えるほど王子小劇場には行ってないけど。あの広さも、なんかリアル感と言うか切迫感と言うか、現実の生っぽさを感じられて良かったと思う。
ただ、1つだけ疑問が残っている点がある。もし、宇宙人の侵略を現実だとして描いているのなら、過去に種尾が連れ去られるシーンがあるにもかかわらず、今もバッティングセンターに居座っているのは何故なんだろう。種尾には特殊な能力が備わっているのだろうか?洗脳できない種尾の監視人として新たに選ばれたのが兄の地図夫なのだろうか・・・?。
まぁそんな疑問が残ったりもしたが、さまざまな疑念を残したまま、一瞬の惨劇で終わる幕切れは、大好きである。心地よい“恐怖”の余韻を楽しめる。多く語るだけが能じゃないって。映画の『サイン』や『ドリームキャッチャー』も余韻を残して描いてくれたのなら面白かったかもしれないのに・・・。この芝居を観て反省してもらいたいもんだ。って無理を承知で書いてみました。余談だが、劇団のプロフィールを見たら制作の三好佐智子が主宰となっていた。知らなかったぁ〜。作・演出家が主宰という劇団が多い中、新たな試みではないだろうか。そんな体制で演劇に取り組んでいる姿に、ますます興味が深まるばかりである。
まぁ、とにもかくにも、次回作はどんな恐怖を植えつけてくれるのか、今から楽しみである。
“スロウライダー”自分が観た公演ベスト
1.ホームラン 2.アダム・スキー