2008年1月はこの2公演

 


MU「愛の続き/その他短編」(A面)

下北沢OFF・OFFシアター 1/17〜1/21
1/19(土)マチネ観劇。座席 先行予約指定(4列目中央付近)

作・演出 ハセガワアユム

 今回の作品のテーマは「LOVE AND MORE」との事。
  当日パンフによると“恋愛のことしか考えなくていいようにシステムが構築されていて、みんな安心して恋愛が出来るはずで、映画も音楽も小説も演劇も恋愛で埋め尽くされているのに、どうしてまだ泣いている人が居るんだろう” そんな想いの作品群らしい。

  あらすじは当日パンフから勝手に引用(勝手に編集)させて頂きます。

☆『愛の続き』
 元カノ(佐倉ゆうこ:足利彩)に呼び出された元カレ(松田博人:寺部智英)は、今カレ(田中太一:松下幸史)の相談を延々とされている。時折脱線し、昔話に花を咲かせてはいいムードになる二人を見ていた松田の先輩の土橋憲司(長谷川恵一郎)は、佐倉がトイレに行った途端、隣の席から「絶対ヤレるぞ」と冷やかしを入れる。相談の内容は、漫画家(田中望美:原作担当の佐倉と作画担当の太一のペンネーム)に熱烈なファンのストーカーがいると太一が思い込んでおり、その謎を解いて行くと病んでしまった原因が自分にあるのではないかというものだった…。身に覚えの無い佐倉は、過去の恋愛からヒントを得ようと「もう一度、ヴァーチャルでいいから彼氏になって」と松田に懇願するのであった。そして、佐倉の部屋の前で待つ松田は、マンションを徘徊する謎の男・奥山俊一(西山聡)に遭遇する…。
 イアン・マキューアン原作・同名タイトルの小説にインスパイアされ、MUが完全超訳(ほぼ別物らしい)。「インスパイアはパクリではなくてアンサーであるべき」というメッセージの下、作られた作品、らしい。

 イアン・マキューアンの原作がどんなものか知らないが、漫画家の話は、グリング『Get Back!』しかり、ちょっと素材としては目新しさがないように感じた。まぁ物語は、テーマに則したLOVE&MOREで、恋人同士の共同作業で漫画を描いている二人を中心に、元カレやストーカー的な男の“それぞれの愛の形”を描いている。でも、心には届かず…なんか薄っぺらなんだよね。
 恋愛ものでは、ちょっとやそっとで心を動かされない私なので(現実の方が波乱万丈過ぎなので)、自分の現状を超える物語でない限り心は動かない。それに、 脚本を読んだら面白いかもってくらいに関係性をセリフにし過ぎるのも残念だと思う。意図的かもしれないが、好き=すぐヤレる、という表現はもう止めればいいのにってくらいに、古臭いセリフで笑えもしない。台所に水を飲みに行って、包丁を持って帰ってくるというオーソドックスな展開も、ストーリーがミエミエで興ざめだったのも事実。

☆『JUMON』
 世田谷区の真ん中に、一件のハーレムがある。そこでは女性七人と一人の男が共同生活を行っていた。駅前の路上で毎夜失恋を歌うアイコ(平間美貴)は、ハーレムの長・菅原信行(長谷川恵一郎)の優しさに触れ、本当の愛を探しにハーレムを訪れる。「ハーレムではなく家族である」とリーダー格の亜衣(足利彩)に断られるも、アイコは、屋敷を乗っ取り、信行の愛を独り占めしようと画策する。それは禁忌に触れているとも知らずに…。しかも同じ晩、ハーレムに女たちを奪われた<被害者の会>が現われ、愛ではなく「ある呪文によって洗脳されている」と、この疑似家族を告発するのだった。
MU曰く、 00年代のMU版“ゴドーを待ちながら”とのこと。

 以前ニュースにもなったカルト教団がモデルの物語(詳しくは知らないけど、女性を洗脳して共同生活をしているみたいなニュースを見た覚えがある)。でも、女性を囲って生活するって素材は、劇団、本谷有希子『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』で、すでに取り上げた題材。全然捉え方は違うけど、切り込み方は本谷有希子の方が上。
 端的に言って、恋愛に失敗した女をクイモノにしているセックス依存症の男と、そのコミューンの話。でも、物語の本質に“ゴドーを待ちながら”を掲げるなら、男を舞台に登場させるべきではなかったし、正体を暴く必要もなかったと思う。被害者の会から描かれる男の像と、女たちが描く男の像(正反対)を、観客が想像で作りあげてこそ“ゴドー待ち”であり、“愛”が見えてくるのではないか。
 全パート募集中の世間を舐めたボーカル・アイコのキャラとかは好きだったのに、ちょっと残念。

 この日は、終演後に動物電気の小林健一さんをゲストに呼んでのアフタートークあり。
 でも、たいした話はなかった…。

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MU「愛の続き/その他短編」(B面)

下北沢OFF・OFFシアター 1/17〜1/21
1/19(土)ソワレ観劇。座席 先行予約指定(4列目中央付近)

作・演出 ハセガワアユム

☆『愛の続き(の続き)』
  『愛の続き』のもうひとつ別の世界。主役二人の「男」と「女」を入れ替えた裏面的作品。ストーリーはA面を参照してください。

 松田博子(斉木まな)、佐倉ゆうき(杉木隆幸)、土橋憲司(浅倉洋介)、田中花子(平間美貴)、奥山俊一(西山聡)、奥山俊二(福原冠)という配役。奥山俊一役を西山聡がA面に続き演じていることによって、ちょっとパラレルワールド的な面白い効果をもたらす。 男と女が逆になっても成立する世界はなかなか面白かったが、男が女言葉なのには違和感を覚える。 セリフに「…なの」ってのが入るとキモイ。そのくらい変えても世界観は変わらないと思うんだけどなぁ…。 でも、ラストはこっちの方が好き。

☆『5分だけあげる』
  どこにでもある小学校のブッ壊れた6年2組の授業参観日。早朝の教室には本田シュート(松下幸史)と進藤ミサ(辻沢綾香)が「この街を出よう」と誓いあっていた。副担任の小笠原孝(浅倉洋介)は吐きながら電話の対応をしていた。担任の梶浦毅(根津茂尚)は、珍しくさわやかな笑顔で登校し、全員が揃い次第、教壇の下に隠した爆弾のスイッチを入れようとしていた。しかし、“とある事件”の発覚で二人以外は登校を拒否していた。二人の両親、本田健人(西山聡)、珠代(平間美貴)、進藤しんいち(杉木隆幸)、公美(奥田史香)は、その“とある事件”を知り、教室に押し掛ける。副担任も入れ8人が教室に集まった。梶浦は、いつもの通り「みんなに5分だけあげよう」とゆっくり微笑み、スイッチを押した…。

 この作品は 今回の短編集で一番良かった。いや、そんな遠まわしではなく、素直に素晴らしかったと褒めたい。この現実をちょっとだけ歪ませた(けど大いに狂っている)世界の描き方は大好きだ。 ただ“荒廃した世界を立て直すのには破壊しかない”と言う、単刀直入な狂った思想には、ちょっと工夫が必要だったとは思った。
 しかし、それを救っていたのが、根津茂尚の静かな演技。「子供たちの心の闇には興味はない」と静かに言い切るところとか、ゾクゾクした。それがラストに繋がって“愛”が見えたりする。まぁベタな展開なんだけどね…。

 今回の公演4作品を観て、率直に言ってしまうと「まぁ、そこそこ面白かったけど、大評判になるにはまだまだ」ってところ。 前回の公演がむちゃくちゃ評判が良かったので期待し過ぎたのか、少々がっかり。物語はしっかり書けているので、現状に驕ることなくがんばって欲しい。


“MU”自分が観た公演ベスト
1.愛の続き/その他短編(B面)
2.愛の続き/その他短編(A面)

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