97年7月はこの6公演

 


スプラッシュ・アクターズ「地球物語」

築地ブディストホール 7/8〜7/13  
7/12(土)観劇。座席 自由

この劇団を観るのは初めてだが、空回りするギャグ、変な手振り身振りで役を演じ切れない役者など、欠点だらけ。面白くなる予感はなきにしもあらずなのだが、はじける事なく結局何が言いたいの分からぬまま(テーマがありそうで何もないという感じ)中途半端なSFじたての人間ドラマに終わっている。物語も頭にゴルフボールを当てられた男の夢の中の出来事だったというつまらないオチ。ストーリーも語るほどのものなし。最後に延々と踊るのだが、そのパワーがあるなら、ちゃんと演じろと言いたい。
知人なのでひいき目ですが(きっぱり)、今回が初舞台の角田真理は要注目。今後に期待。

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青年団プロデュース「月の岬」

シアタートラム 7/9〜7/13  
7/12(土)観劇。座席 自由

姉と弟が暮らす離島の家が舞台。舞台はこの弟の結婚式の日から始まるが、平凡に見えていた日常(決して平凡ではないのだが)がこの日より序々に波立ち始め、表面化する。姉の昔の恋人の登場、姉の失踪、弟(教師)の教え子との関係、新妻のノイローゼ、それらが、微妙に絡み合い、交差する。それらのドロドロした人間の内面がみごとに舞台上で表現されている。弟が初めて舞台に登場する場所がこの物語の深層を物語っているので、見逃さないで欲しい。

松田正隆の脚本の面白さもさる事ながら、静かな演劇の祖である平田オリザの演出の味わいは格別のものがあった。会話が交差し、時には絡み合う日常さ、言葉の途切れで表現する気まずい空気、会話の間で感じさせるピリピリした嫌な空気、それらは演出のすばらしさとしか言いようがない。それに付け加え役者もすばらしい。姉を演じる内田淳子を筆頭に、松田、平田の世界をみごとに表現していた。その演技ですっかりその世界に引きずり込まれてしまった。
姉と弟の関係とは別に、この物語は死というものをどこかに宿して進行していると私は感じた。それは両親の死であり、新妻の流産であったり、姉の失踪場所が毎年人が死ぬ場所であったりする。死という生きる事と表裏関係にあるのに遠い存在に感じているものを目の前に突きつけ人間という物を見つめているような気がする。その人間を静かに見つめる風鈴の音色がそんな人間をあざ笑っているようにも、心配しているようにも聞こえた。
物語の結末は姉は失踪したままで終わり、弟の教え子との関係も不明のままだ。もちろん姉と弟の関係もはっきり表面化させてはいない。ただしそれが不快な未消化に終わっているのではなく、その余韻が物語の重さを感じさせ、心地良ささえ覚える。久々に心に残る作品に出会えた。

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MOTHER「やわらかな壁」

シアターサンモール 7/12〜7/21 
7/16(水)観劇。座席 E-16

願い事が叶う奇跡の遺跡に集まった人々の話。最初はたあいのない願い事が叶う喜びに浮かれていたが、序々に願いは発展していき、自己の願いが他人を傷付けていく。いつしか願いは憎しみに変わり「あなたなんて、いなくなればいいのに」という負のエネルギーに変わり、崩壊の道を歩んでいく。ように見えたが、最後はみんなでその遺跡の消滅を願い終わる。願いは自分の力で叶えるもんだという事だろうか...

正直言って、入り込めなかった。何故か退屈極まりない舞台であった。意味のないダンスは物語を止めてしまうし、牧野エミの「私って綺麗」的な演技には閉口してしまう。それにも増して、みんなが役をちゃんと理解しているのか?と疑問を投げかけたくなるような芝居をしている。願い事をするところでは、それが本当に願っている事には決して思えないのである。それがこの芝居に入り込めなかった最大の原因かもしれない。


“MOTHER”自分が観た公演ベスト
1.ジャンキースクエア
2.やわらかな壁

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「昭和歌謡大全集」

銀座セゾン劇場 6/28〜7/27  
7/19(土)観劇。座席 4-16

同じ「ミドリ」という名を持つ6人の女達と世間に溶け込めない6人の若者達。若者の一人がひとりの「ミドリ」を衝動的に殺した事により、何の接点もなかった2つのグループが目には目をの復讐戦に心を踊らせる話。

幕が上がり舞台には階段が置かれている。その段上から女性6人が「恋の季節」を歌いながら降りてくる。それと入れ違いに客席後方より男性6人も「恋の季節」を歌いながら舞台にあがる。舞台は階段から一転して車のスクラップ置き場になっている。このオープニングにはわくわくするものがあったが、その後客席に入り込む事が多く、その度に後ろを振り返らねばならず、話の進行が中断する思いであった。この演出にはがっかりである。
パンフレットの蜷川幸雄の言葉には「平凡に暮らしている人々が、何かをきっかけとして大胆になり、輝いていく過程を描きたい」とあるが、女性陣はどこか生活感が感じられなく、台詞に真実味がない、男性陣に関しては完全に精神異常の集団であり、決して平凡に暮らしている人々ではない。そんな奴らだから人殺しで輝いていったのかもしれないが、そうなるのが必然的過ぎて面白さがない。平凡な人間が静かに狂いだし私的な戦争にまで発展してこそこの作品が面白かったのではないだろうか(原作を読んでいないのではっき り言えないが)原作=村上龍、劇化=清水邦夫、演出=蜷川幸雄という事で期待したのがいけなかったのか、期待外れに終わった。出演者もいろいろな人が顔を合わせているので期待したが、声を出すだけに集中しているのか感情表現が希薄に感じられた。
チケット代で作品を評価してはいけないと思うが、この公演に9,000円はひど過ぎる。

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グローブ座カンパニー
「子供のためのシェイクスピア『リア王』」

パナソニック・グローブ座 7/12〜7/27  
7/26(土)観劇。座席 2階L-41

シェイクスピアの「リア王」を子供にわかりやすくした作品。

と、言ってもバカにしたもんじゃないです。出演している人はいいし、話は面白いし、大人にとっても大変わかりやすく楽しめるものになっていた。シェイクスピア最大の悲劇がこんな楽しい芝居になっているとは驚きである。偉くなると聞き耳を持たなくなり、崩壊していくのは、今も昔も変わらない。また子供に権力を譲り隠居しようとするが、妹の家からは煙たがれるところなんかは、現代の核家族化にも通じるものがあり、とっても興味深く見れた。現代にも通ずる話を書いていたシェイクスピア侮り難し。今回のリア王を演じたのは小須田康人。最年少のリア王じゃないかとどこかに書いてあった記憶があるが、ひとりよがりの元気ながんこじじいをうまく表現していた。子供のためのシェイクスピアは今年で3年目になるそうだが、とってもいい企画なので、何年も続けてもらいたい。

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龍昇企画「ガム兄さん」

ストアハウス 7/30〜8/3  
7/30(水)観劇。座席 自由

ストアハウスの初プロデュース作品。昨年200本近くを観たストアハウスの代表がベストワンに選んだ作品との事だったので楽しみに出かける。
ストーリーは失業保険が切れたのに働く意欲すらない男の部屋へ、行方不明になっている妹の亭主がやってくる。そこへ訪れるガム売りや旅人。ガム好きの男の妄想が生んだ正体不明な人間たち。それらを通し現代人の孤独と不安を浮き彫りにしている、という作品。

出だしの「さまざまな問いかけが、ひとさらいのように、俺の右肩に手を乗せる」というセリフや、人の目を決して見ようとしない兄、そんな兄を睨み付けながら話す義弟など面白い要素があるのだが、今ひとつ面白味に欠ける芝居だった。どこまでが現実でどこまでが妄想なのかわからないという不条理さが欠けていて、孤独や不安が襲う狂気みたいなのがなく、ただただ男の妄想につきあっているだけの芝居に終わっていた。もっと練り込んで行くと面白くなるとは思うが、今の段階ではあまり好感は持てず。

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