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095  「勤式集」発行について


「勤式集」発行について

 浄土真宗本願寺派「勤式集」発行について。

 【「勤式集」は免物ではなく刊行物】

 2003年6月30日、本願寺出版社より、勤式指導所編集の「勤式集」が発刊となりました。まず注意して頂きたいのは本願蔵版本の免物(許しもの)ではなく、勤式指導所編集による本願寺出版社刊行物であるということです。

 ご本尊等の免物とは、許された者だけに与えるといった下付されるものですので、請求書と共に送って下さいとはいきません。
 この度の「勤式集」は免物ではないので、基本的に練習本ということです。練習本と言っても体裁が整っているので、本山内陣出勤の折りは、勤式集の使用を可とするとの見解です。
 また早速、7月以降の得度、教師の折りは、「龍谷勤行集」から、この「勤式集」持参に変更となりました。

 この度の「勤式集」の特徴は、現行の「声明集・往生礼讃偈・御文章」の中から依用頻度の高いものを選出し、仏事勤行として阿弥陀経と正信偈、和讃、奉讃早引作法(大師・源空)をあわせて編集されていることです。


【今回の改訂点】

 従来の「龍谷勤行要集」や蔵版本「2冊本声明集」からの改訂点は、以下の3点(詳細はA4で13枚程の量がある)です。声明集からの変更点は、

1.実勢の声明に則した譜に譜を改訂
   例 一音半上がる場合、「ウツル」から「ハル」に変更

2.経段等の読み方の仮名の変更
   鼻音の場合 「つ」→「ツ」 終「しゅう」→「しゅ」
   促音「ふっ」→「ふ」
   「無量寿経作法」35カ所 「阿弥陀経作法」13 他 全111カ所


3.旋律回施譜の表記法の改訂(折れ線表記の採用)。

の3点です。

私見ですが、

〔1〕の譜の改訂は、以前から龍谷・勤行要集と本願寺2冊本声明集の博士の相違点は指摘されてきました。
 本願寺派僧侶でかつ、天台魚山血脈に正式に入記され、魚山法師の称号を戴く水原夢江氏(兵庫教区新宮組寶林寺住職)は、平成9年6月10日に開催された本願寺派勤式指導員研修会の折り、「本願寺2冊本の博士の不安定カ所の指摘」および「2冊本と龍谷・勤行要集との博士の相違カ所」を文書で指摘しております。
 これらの中から明らかに誤りであるものを実勢に合わせて改譜したものです。

〔2〕の経段等の読み方の仮名の変更は、平成8年1月1日に発行された、御文章の拝読における伝承音の一部変更とひらがな御文章の発行(日常拝読用御文章の選定変更)の流れの中にあります。
 この経段等の読み方の仮名の変更は、この度新たに変更したものではなく、昭和60年発行の浄土真宗聖典に基づいています。
 この浄土真宗聖典では、本願寺派依用の聖典文字の右側に呉音のルビをふり、左側に唱読音のルビをつけています。
 この唱読音のルビは、故岡崎諒観氏が伝承されてきたものであり、故岡崎諒観氏の指示によってルビを施したと、聖典編纂委員会の福永静哉編纂主監から聞きました。
 この浄土真宗聖典の別冊に「勤式に依用する聖教の唱読音の解説」の項があり、唱読音の歴史や鼻音、ワル仮名、善悪(ぜんまく)といった音が変わる連声について解説されていて大いに参考になります。

〔3〕については、便宜上の表記を列記したものですが、この表記法の採用は表記法の変更に止まらない大きな問題を含んでいます。
 本願寺派声明は大原に伝承される下ノ坊流と上ノ坊流のうち、下ノ坊流が伝わっており、この下ノ坊流には独特の唱法があると先の水原夢江氏の指摘です。
 この折れ線グラフ的表記法の採用は、こうした口伝による独特の節回しや塩梅音(虚飾音)などの声明独特の音律を除いたものを正規の声明とすることへの転換という要素も含まれています。


【近年の変更】

 以上、今回の「勤行集」の変更点を簡単に紹介しましたが、近年の声明に関する変更内容を参考のために列記しておきます。

●往生礼讃の譜について
旧来初重・三重で「アタリ」で唱えていた箇所は、昭和48年(1973)9月以降すべて「ユリ」で唱えることに統一。阿弥陀を各偈とも一字一拍とする

●昭和61年(1986)4月 葬儀規範勤式集発行
・ 添引和讃の名を廃し和讃とする。変成男女等男女の別をなくす。
・帰三宝偈の譜に「引」を記す。

●御文章の拝読における伝承音の一部変更(平成8年1月1日より)とひらがな御文章の発行(日常拝読用御文章の選定変更)


【拝読における伝承音の一部変更について】
    式務部・勤式指導所 H7/9宗報

1.和語(本来日本語・一(ヒトツ)・二(フタツ)・三(ミツ)・保つなど)の中で従来、鼻音(鼻的破裂音)によって発音していた下記の文例に準ずる箇所を普通の「つ」「tsu」と発音することに変更します。

  〈文例〉
   ワカ身ニハヒトツモアヒソフコト (御文章1帖第11通)
   ヒサシクタモツヘキニアラス   (御文章2帖第7通)
   フタツモミツモアルヘカラサル  (御文章2帖第8通)
   当流ニタツルトコロノ      (御文章2帖第10通)
   アヒソナワリツヘキモノナリ   (御文章3帖第9通)
   ヲクレサキタツ人ハ       (御文章5帖第16通)
   御タスケアリツルアリカタサ   (御文章5帖第22通)

2.従来、促音によって発音していた下記の箇所を「つ」「tsu」と発音することに変更いたします。

   信心トイフコトハカツテ是非ノ  (御文章1帖第12通)
   後生ヲハカツテネカハス     (御文章4帖第2通)
   信心ノ沙汰トテハカツテモテ   (御文章4帖第12通)
   フツトタスカルトイフ事     (御文章5帖第2通)

3.漢字音(中国音の日本語化したものー(イチ)・七(シチ)・八(ハチ)・吉(キチ)・越(エチ)・日(ニチ))の下記の文例に準ずる箇所を普通の「ち」と発音することに変更いたします。
  〈文例〉
   コノタヒノ往生ハ一定ナリ    (御文章1帖第5通)
   万一相違セシムル子細      (御文章4帖第6通)
   三途八難ニシツマン事ヲハ    (御文章2帖第1通)

*昭和36年3月5日発行「本願寺新報」に
「今般正信偈、念仏および和讃の唱読法を左記の通り定めましたからおしらせ致します」「鼻音(鼻的破裂音)について、従来唱えていた鼻音化された『つ』は、すべてこれを廃し、普通の『つ』に発音する」と発布されている。

●平成8年(1996)3月 表白集発行 文語調・口語調の2種類 
*文語調ー生(しょう)を 口語調ー生(せい)と仮名の改訂。

●平成10年(1998)日常勤行聖典発行「誓不成正覚」に従来読み癖であった火急の「ー」が入る


前東京教区勤式指導員 西原祐治

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