「千里の道も」取材秘話
その4:ああ!全英

98年7月。ロイヤルバークデールで行われた全英に、原作者の大原は単身取材に訪れた。

まず驚かされたのが、めまぐるしく変わる天候。戸張捷氏が、「イギリスは1日のうちに四季がある」と、よく解説しているが、大原の実感は「ひとつの空に、いくつもの天気がある!」だった。

見上げると、きらめくような青空のすぐとなりに重苦しい雲があり、さらにその向こうから嵐が駆け足で近づいているといった具合である。

容赦なく風雨がたたきつけたかと思うと、すぐ次の瞬間まばゆいほどの日差しが訪れる。こればっかりは、穏やかなモンスーン気候で人生を送ってきた身には、ただただ恐れ入るばかりだった。

「新・千里の道も」コミックスより 「新・千里の道も」コミックスより

驚かされたことの2番目は、プレスインタビュー。どんなトッププレーヤーも誠実に受け答えするし、プレス側も洒落の利いた質問をどんどんぶつけていく。そんな気持ちの良い、緊張感あふれるやり取りが、ちょっとしたホールほどの広さのインタ ビュールームで小一時間。それも、練習日から毎日びっちり行われる。

もちろん、大半は現場で聞き取ることが出来ず、大原はホテルに戻って、インタ ビューのコピーを辞書を繰りながら読み直すのだが、その内容の濃さには、ただ舌を 巻くばかり。日本の試合でのインタビューの底の浅さを、自戒を込めて痛感せざるを 得なかった。

とはいえ、最も驚いたことは、ギャラリーの質の高さ。選手の有名無名を問わず、ナ イスプレーには惜しみない拍手と喚声を送る。ナイスプレーの意味も、単にピンそば に寄ったとか、バーディを決めたとかいう基準ではない。たとえば180ヤード彼方か らフォローの中でピッチングを選択し、50ヤード手前の花道に落として、うねるグ リーンに駆け上がらせる。乗った位置がピンから10メートルでも、それは最善の ショットであり、最高の結果であることをギャラリーは熟知しているのだ。だから、 魂がグラッとするほどの喚声と拍手が起きる。「もっと早くここへ来たかった!」と 言った細川選手の気持ちが、痛いほど分かるロイヤル・バークデールでの1週間だっ た。

▼過去の取材秘話を読む

トップページ 本の紹介 作者の紹介
名勝負とその舞台 その5へ 登場人物たち