2006年9月2日〜9月27日 明治座
作 橋田寿賀子 /劇化 田井洋子/演出 石井ふく子
大石りく | 池内 淳子 | つね(瀬左衛門の姉) | 涼風 真世 | 細川越中守綱利 | 江原真二郎 |
大石内蔵助 | 宇津井 健 | りえ(十次郎の妻) | 熊谷 真実 | 寺坂吉衛門 | えりな かずき |
瑤泉院阿くり | 京マチ子 | しの | 藤田 朋子 | 平助 | 小島 秀哉 |
大石瀬左衛門 | 植草 克秀 | 大石主税 | 東新 良和 | ||
間十次郎 | 橋爪 淳 | ||||
磯貝十郎左衛門 | 松村 雄基 |
主君の仇討ちのため、 討ち入りの準備を進める浪士たち。
女たちは
彼らの本願成就を祈りながら
愛する者を失う悲しみに
じっと耐えていた。
大義の名の下に苦しむのは いつの世も・女たちばかり
死ぬことよりも
生き存えることの方が辛い。
そんな運命を告げる一夜が
始まろうとしていた。
ずっとずっと語られている忠臣蔵。47人の浪士には、家族がいて、
恋人がいる・・それぞれの話があるわけです。
表に出る雄志ではなく、それを見守る女性を描いた作品。
5人の女性の物語が軸。
それぞれの、討ち入り前と討ち入り後が丁寧に描かれてます。そして、
さまざまな形の愛を見せてもらいました。
池内さんのりくさんは、思慮深さと人の大きさが出ていて素敵でした。
はまり役と言われるのも納得です。
大石内蔵助への情愛、息子主税への愛が描かれていますが、
どちらかというと息子への思いの方を強く描かれていたような気がします。
おもしろがっても悪いのですが、1幕最初料亭で密かに再会をする場面があります。
ここで、内蔵助とは自分達の立場をわきまえ、他人をふりをしながら言葉すくなに話すのですが、
息子とは一転してとても熱いその違いが興味深かった。
それまでの、心遣いが無駄になりゃしないかと冷や冷や(笑)するぐらい。
一番年下ということもあり、他の人に遅れをとっていないか、
体は大丈夫かと・・・矢継ぎ早に言葉をあびせます。
どこの親子も言うことは同じ・・・そんなことを考えながらみてました。
主税役の方もまた幼さの残る顔立ちで・・・ぴかぴかしているものだから、先に見えているのが死だと思うと
その笑顔がいたいたしかった。彼もまた、父と一緒にしていることに誇りを持ちながらも
母とは別れたくない様子なですからね。
ラストの後姿にすべてを受け入れて、先を生きていく決心が溢れる後ろ姿に感動ぉ〜〜。
磯貝十郎左衛門と、しのの話は、普通の忠臣蔵でも描かれていますね。
吉良邸の絵図面欲しさに近づいた大工の娘との恋話。しのさんはいくつぐらいなんでしょかねぇ・・
まっすぐなまっすぐな思いがとてもいじらしいんです。
彼が浪士の一員だと知って「裏切られた」と悲しむシーン、討入り後の再会では、
くってかかっていく姿はとってもかわいくて応援したくなりますが・・・そういう話ではないですね。
鼓の子弟関係という間柄でもあり、気持ちを託すように塀の中と外で鼓を打つシーンは
圧巻です。
りえさんの話は、壮絶。
どの女性も強くて悲しいのだけど、この人のエピソードは激情型。
夫婦だった十次郎とりえ。浪士としての生活を続けるお金の為に自ら、女郎となったりえに
討入り前夜会いにいく十次郎。
会いたいという思いと、今の自分をみられたくないという思いが交差するりえと、
離れがたい思いと、しなければならないこととの間に揺れ動く十次郎。しのさん達とは違う
大人の事情もあってやるせなさも感じます。
討ち入り後、町を練り歩く浪士達。りえもその姿を人目みたいと
思いますが、所詮籠の鳥。
脱走までしようとして、雪の中大立ち回りの末死を迎えてしまいます。
ひとめ・・見たかっただけなんだ。そう言って息絶える姿涙・・・でした。
会いたいではなく見たかった・・。そんな小さな思い叶えられなかったのですから。
女郎のメイクもあってか、テレビでみる熊谷さんよりもずっと色っぽい。ハスキーな
お声も、役にはまっていたような気がします。身を落としてはすっぱな口調での登場ですが
それだけではないっと思わせる雰囲気はさすがです。
雪の中、赤い襦袢と腰紐だったかなが映えて、綺麗というにはむごたらしい死に方でしたが、
視覚的にも印象に残ります。
あんまり好きになれなかったというか妙な感じがしたのが、瑤泉院のシーン。大石に対して、残されたものの悲しみを説くのですけどねぇ・・・
瑤泉院って、討入り願っていた記憶があるのですが、どのドラマだったかは忘れましたが、
のらりくらりと言葉を避ける内蔵助を追い返してしまい。内蔵助が立ち去ったあと、
持ってきた連判状を見て後悔をするというようなシーンがあった。
愛する夫を殺されてしまった無念を晴らして欲しいという熱い思いもあってその女優さんがすごく綺麗だと思った。
この舞台の内容からして、不自然ではない展開だけど・・・なんとなく??デシタ。
かなめさんは、瀬左衛門のお姉さんつねさん。盲目の姉でございます。
いつも笑顔でありがとうございますって愛想がよい。
いらっしゃいませって丁寧に。そして・・わりとよくしゃべる。
ただ、なんといったらいいのかちょっと不自然なぐらいに明るい。
目が見えなくて人の手を借りなければいけないことが多いから身についたんだろなとそんな風に想像してしまう
ものなのです。
おだやかな家系なんでしょねぇ・・瀬左衛門もまた書を愛する優しい男。
姉を心配させたくないと、討入りのことを話せずにいた瀬左衛門。それでも雰囲気で察していたのですねつねさんは。
内蔵助が訪ねてきたことではっきりします。もっとも内蔵助は、身分を偽っていたのですが。
そんなことはすべて・・・お見通し。
今夜は、自分が夕食を作るという瀬左衛門。この時代の男性ですから作ったことなどないのでしょう。
それもまた分かっていて・・頭の中で思い描くごちそうをふたりで食べるシーンは、
涙を誘うものでした。
そして、用意してきたのが白装束。この日の為にとつねさんが縫っていた。
どこまでも、湿っぽくならず弟の決意を揺るがすことなく送り出そうとする姿勢が・・・ああ(;O;)
瀬左衛門の植草さんも、優しさがにじみでる眼差しが印象的。
切腹したことをりくさんに告げられた時も、取り乱すことなく
りくさんが自分のところにこないかという申し出をあっさり承諾する。りくさんも
安心した様子で帰ります。
しかし、彼女の心内は波打っていたのです。
りくさんの姿が見えなくなると、彼女の心が溢れでます。
半狂乱になり部屋の中を歩きます。白い屏風に弟の使っていた筆を持ち出し、
瀬左衛門と一気に書き上げます。
覚悟はしていたのでしょうが・・現実になってみるとその悲しみは誰よりも深かった。
「貴方がいなくなった後、人の手を借りてまで生きていたくはありません」
この一言が全て。
そう・・彼女は覚悟してた。筆を置いてすっといつものつねさんに戻ったかと思うと、箪笥から取り出してきたのは
瀬左衛門に渡したのと同じ白装束。
そのまま、彼女はわが身の命を絶つ・・・。
想像ができそうで、できない結末でした。
ちらしを見た時になんかいつもと違うな?と。和物だしおとなしい色のお着物だからかなと
思っていましたら・・・目が見えていないんですよね。
ですから、いつもの眼力がないっ。
こんなにも印象が印象が違うものなんですねぇ・・。
笑顔のかなめちゃんはとってもかわいいんです。悲劇の姉ちゃんだと思ってみてますから、
あまりにかわいいのでちょっとびっくりしました。
でも、上にも書きましたがどこか不自然でちくはぐな印象。
弟の死を聞いた時の表情には一瞬緊張感が走ります。そのまま冷静におりくさんと話をしているようで心がそこにないものよく分かるんです。
そして、溢れる思いが止められなくなった時・・その狂気の状態を演じる姿はかなめさんならというエネルギーがあったような気がします。
昨年書のおけいこを始めたと言ってたのはこの為だったんですね。あれだけの大きなところに大胆に書くのは難しいだろうなぁ〜〜と、客席から拍手が上がる日も多かったそうです。
絶叫しながら書く姿をみてなぜか冷静にみていたのですが、その後は、やめてって今度はこっちが絶叫しそうでした^_^;。
おもむろに白い着物の袖を通し、短剣をとりだす。この時代武家のものは、そういう儀式を
どこかで習うのでしょうか。厳かな雰囲気と緊張感に声がでない感じ。
舞台の上でのエネルギーは、「あずみ」の時にもすごく感じましたが、今回もまた
びんびんにそのエネルギー感じて帰って来ました。
大きくっていえば・・・池内さんとも立って並ぶとでっかいなぁ〜〜と思わずにいられず・・・
(植草さんもなんかちっちゃくみえたなぁ)座ってなさいって思ってしまいました・・とさ(笑)
忠臣蔵といえば知らない人はいないっていう前提で作られているのもおもしろかった。
なぜ、彼らが討ち入りをするのかとかっていう説明は一切なしで、いきなり討ち入り前夜。
一番の見せ所のシーンだって幕が開いたらすでに終わってますから。
絵図面の話だって、瑤泉院の存在だって知らない人にはかなり?だっただろうなと思います。
それでも、そんなことは関係なく、それぞれのエピソードに惹かれていく強さを感じました。
今の世の中よりも、男性の生き方を尊重しながら生きていた時代の女性たち。
そのように生きたいとは思えずとも、一途に人を愛して生きる彼女たちをみながらDNAがうずくような気がします。
討ち入り話がすっとんでいるところ以外はものすごく見る側に親切な舞台なんじゃないでしょうか。セットもそれぞれちゃんと組んであって(それだけに転換は大変そうでしたが^_^;)。
必ず役者は真ん中で芝居するので見切れることも少ないでしょうし。
真ん中って言えば、つねさんの屏風、つねさんがずりずりと真ん中に持っていくのだけは
やめてって思ってしまいましたが^_^;。
男性陣の
2幕はじめ橋をずらりと行進するシーンは見ごたえありました。明治座の花道も
うまく使われていたと思います。
数えてはいませんが、46人ちゃんといたそうです(プログラムには
ちゃんと役名で載ってます)、主要メンバーだけでなく、
いろんな意味で豪華で贅沢な舞台でした。