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昨年、遂にオリジナルランナップとして”初来日”
を果たしたエイジア。 日本を含め、世界中でこのオリジナル・エイジアのライヴは大成功であった事はご存じの通りだが、今年(2008年)は25年ぶりのオリジナルメンバーによるニューアルバム「フェニックス」をリリース。 そして、リリースから間を置くことなく、4人の歴戦の勇士達は再び、日本の地を踏んだ。 Japan Tour3日目となる本日は 名古屋である。 会場は名古屋市民会館から「中京大学文化市民会館オーロラホール 」というまるで大学の講堂にでもなってしまったかという微妙なネーミングのホールである。 私、個人としては2006年5月12日のホワイトスネイク以来、ちょうど2年ぶり。 元来から音が悪いホールと言われている処なのだが、今回はそれほど気にはならなかった。 開場は4時30分、開演は5時。 休日とはいえ、あまりに早いスタートにどうなのか? という気もしたが、それよりもなによりも入場して30分しか余裕がないというのがキツかった。ライヴハウスなら丁度いいのだが... 開場後、狙っていた4人のサイン入りの本(「Heat of The Moment」)は先行発売で売り切れ、影も形もなく意気消沈だったが、まだ今日は明るい気持ちを保つことが出来ていた。 なにせ入手した席が2列目だったのである。 2列目40番という、ややKeyのジェフリー・ダウンズ寄りの席であったものの思いの外、ステージ全体を見渡すことが出来る、ステージが近い。 2列目というのは今までの20年以上に及ぶライヴ観戦歴の中でもタイ記録である。(いずれもこの市民会館 というのは偶然だろうか?)−だが、この好条件も後々、裏目に出ることはこの時は知る由もなかったのだが。 開演までの短い時間を同行した大阪からの友人との話で繋ぎ、5時5分過ぎには場内はおもむろに暗転した。 昨年のエルガーの「威風堂々」と同じような、クラシックの交響曲(?)がホール全体を満たすと暗闇の中、4人のメンバーがステージに現れた。 それぞれ所定の位置に立ち、壮大なシンフォニーが終わりに近づくとジェフリーのキーボードがコードを鳴らす。 観客の誰もが 必ずや予想を覆されたであろう「Daylight」が1曲目であった。 この1曲目からギターのスティーヴ・ハウは早いパッセージを弾きまくり絶好調さを伺わせた。 2曲目でお馴染みのあのフレーズがジェフリーから奏でられると客席は歓声で湧いた。それに合わせるように横を見れば中央ブロックは1列目から総立ちである。 ヒット曲「Only Time Will Tell」にはやはり大きな力があるということを証明させたのだった。 だが、私が位置する左の区画は立つ人がほとんど居ない。 しかも私とVo、Bのジョン・ウェットンの対角線上にいる1列目の客だけは立っている。要するにその人のお陰で座っている私からはジョン・ウェットンの姿は全く見えないのだ(Drのカール・パーマーもほとんど見えない)。 私も立てば何の問題もないのだが、私の後方列もなぜか立つ気配さえない。 こういう場合、立ってのいいのか悪いのか。悩む処であった。 特に昨年からネットでは「ライヴで立つと、後ろから『見えないから座れ』と怒られた」というKY気味な苦情も報告されていただけに思案のしどころであったのだ。 (逆に私がその1列目の人に「座れ」と言いたいぐらいだったがそこは大人らしくグッと堪えたである。) ライヴは昨年と同様、ステージの左右に映像を流す演出だったが、往年のPVを流しながら演奏するだけに郷愁を誘われて仕方がなかった。 この「Only Time Will Tell」 は正にその典型。 昨年も感じたが、モニターの周りを跳ねるように飛び回る新体操の女性達の映像に既に泣きそうになる。 確実に自分の心は20数年前の、夜中、MTVにかじりついていた10代のそれに戻ってしまうのだ。 ジョン・ウェットンが見えないというストレスが溜まる中、私はその流される映像(後方へのオーロラビジョン的な役割も当然ある)と目前のジェフリーをチェックするということに気持ちを切り替えた。少なくともあの曲で立つまでは。と心に決めて...。 3曲目は「Wildest Dreams」。 歌詞の中に「from Washington across to California〜」というのがあるが、これをジョン・ウェットンは「from Washington across to Nagoya〜」と替えて唄った。(歌詞を替えたのは今回、この名古屋と東京、渋谷のみである)ジョンがニューアルバムの事を軽く説明し始まった4曲目は「Never Again」。 映像もニューアルバムのジャケットを模したものに変わった。往年のエイジアを彷彿とさせるこの曲はアルバム「フェニックス」を間違いなく代表する曲であると確信した瞬間でもあった。 5曲目の前には、カール・パーマーが恒例のMCに登場。ドラムキットを飛び出し、ドラム台の先端に立ち、校長先生 の如く訓辞をたれる様はEL&P時代から有名である。 「Steve Howe Roundabout !」 カールからそう告げられた曲はYesの「Roundabout」であった。 MC中に運び込まれた固定スタンドに装着済みの緑のギターをつま弾き始めるハウ。クリーンな音色を一音も聞き逃す まいとする我々観客。それがリズミカルで軽快な曲へと変化するとそこにジョン・ウェットンの野太い声が乗る。 ハウは所々、細かいオブリガード(ハーモニクスなど)を入れるなど昨年とは違う趣があるように感じられた。 中盤のソロではハウとジェフリーのギターとキーボードの掛け合いもあったが後ろの映像-各自の演奏がその時々で CG映像を背景に合成されていた-に表れたハウはそのCGが光り輝くものであった為、まるで後光が差しているようにも見え、その風体と共にまるで仙人のようであった。 6曲目「Time Again」は重々しいベースとギターのリフでスタートし、ジョンの「アアー」という叫びにも似た歌声で一気に加速。ノリの良い曲である。 またハウのステージアクションも今回も健在であった。これを見ているだけでも飽きない(笑) 一時はLine6のギターアンプ(コンボタイプ)に上りアピールしようとするも複雑なフレーズに来てしまった為、途中で断念するなど 非常に面白い。気持ちだけはまだまだ若い奴には負けないぞという心意気がそこには感じられたのだった。 この後、ライヴは各自のソロコーナーへ移っていった。まずはジェフリー。 10台ものキーボードを華麗に操り、多種多彩な音色で”音の壁”を構築していく。アドリブ的な曲がいつの間にか「Cutting It Fine」のボレロ部分へと繋がる。 観客もこの荘厳なる雰囲気を楽しんでいるかのようであった。 ピアノの調べで終わったジェフリーのソロに続き、ステージ中央に用意されたパイプ椅子に向かい、ステージ下手から、ジョンの呼び掛けによってアコースティックギターを抱え登場。 椅子に腰を落ち着けるやいなや、映画のサントラ?〜確かに一度はどこかで聞いたことがあるカントリー調のメロディを軽快に弾き始め、それが「Clap」の主旋律へと変化(へんげ)した。 それと同時に始まる手拍子は確実にハウの演奏を後押ししていたに違いない。 そして、個人的にここからが本日のライヴの白眉の瞬間(とき)−ハイライトであった。 ハウの紹介でステージ上手からジョンが黒のALVAREZ(ヤイリ)の12弦ギターを持って現れた。 「ビーチボーイズが云々」という説明をしながらジョンが唐突に歌い始めた(演奏もなしに 本当に唐突に) 「Voice of America」は”弾き語り”という予想もしないスタイルに新鮮な驚きと共に感動を覚えた。 唄い終えれば、お馴染み 「キミタチ サイコウダヨ」 も飛び出し客席は湧いた。 次の名曲「The Smile Has Left Your Eyes」ではジェフリーは1台だけ客席に向かって置かれていたキーボード(ピアノ音色)に陣取り、上手側のハウはドブロギターを寝かせて弾く為、同じく椅子に座っている。実にこじんまりしたアコースティックセッションである。何小節かジョンが唄いあげた後 カールもブラシでドラムをなでるように優しく叩き始めた。昨年もこの曲は感動的であったが、今年はまた一味違って情感に深く訴えかけるものがあったように思う。 それはステージ後方で映し出された同曲のPVの影響もあったかもしれない。 しきりに電車がプラットフォームから離れていく印象的なシーンを繰り返していたが、(曲の意味や背景、PVのストーリーを知らなくても)どこか哀しげであった。 11曲目の「Ride Easy」もそのままのアコースティックセットで演奏された。 唯一変わったのは ハウのギターがドブロからメインで使っていたGibsonのES-Artist に変わったぐらいであろうか。 再びカールのMCから始まった「Open Your Eyes」は静かに始まるものの、ドラムが曲に加われば誰もが思い浮かぶエイジア・スタイルの曲となる。 それと共に、アコギセットでは大人しく座っていた件の彼がまた立ち上がった。これでしばらくはジョンとカールは視界か消えてしまうのか。 しかし、そんな個人的な事情はお構いなしに演奏自体はなかなか興味深いものであった。 この曲でもハウは端々に特徴的なオブリガードを入れ、それに加えて、先程の固定スタンドにセットされた緑のギター (シタール的な独特な響きの音色)と自分で抱えたメインのES-Artistを交互に弾きこなすという職人技を披露し観客を魅了した。 ジェフリーの弾くキーボードが微かな響きからやがて高らかな、天上を昇る龍の如くファンファーレとなって観客を貫くと歓声と共に大きな拍手があがった。そしてはじまるドラムの連打。 「one、two、three、four !」 カールの雄叫びと共に始まったEL&Pの「Fanfare For The Common Man」。EL&Pというギターレスのバンド代表曲でもあるのにも関わらず主役は今回、ギターとキーボード。すなわちハウとジェフリーだ。 ジョンの"ブリブリベース"の短いソロが呼び水となり交互にギターとキーボードで弾き繋げる、いわば楽器を交えた バトルが永延と5分以上も続いたのだった。 エイジアというバンドはメンバーの経歴からプログレ的な部分で語られることが多いバンドであるが、このバトルだけ聞いてみると実にハードロック的、メタル的でもある。 HR/HMの世界に慣れ親しんでいる私でも抵抗無く馴染める原因はこういう処にもあるのかもしれない。 14曲目「Without You」では再び、しっとりと、徐々に力強く唄い上げるジョン・ウェットン。 彼のVocalistとしての真骨頂とも言えた。 | ||||
続く |