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 異様な緊張感が漂う中、始まったベンチャーズメドレーであったがこれが至極マトモ。
 いや これはマトモに聞こえるまで練習した血と汗の結晶なのだ。
 そしてこのメドレーで最も驚いたのが二本のギターで形作られる今まで聞いた事もないような”音の広がり”。正に新鮮な感動だった。
 元Mr.Bigのビリー・シーンなどは左右のアンプから出力する?ステレオ機能を施したベースを使用していたかと思うが、それとはまた別物の響きが会場全体を包んでいった。
 間違いなく、今回のライヴで一番のハイライトであり、見所、聞き所であった”二人で一人ギター”も一度の間違いもなく無事に終了。
 他会場では失敗しやり直しを余儀なくされた事を鑑みれば本日は大成功だったのだろう。演奏終了後の二人の安堵の笑顔がそれを物語っていたと言える。



 爆笑と驚嘆の波状攻撃で観客をノックアウトした「ベンチャーズメドレー」の後は石やん「突然でありますがソロコーナーに移ります。東の大横綱 チャー」
 と言ってステージを捌け、チャー一人、スポットライトを浴びる。
 中近東的な音階を屈指したと思われるフレーズを散りばめながらのやや長めのイントロはやがてチャーの最新アルバム「Sacred Hills〜聖なる丘〜」、タイトルソングにつながっていった。
 私もこの曲はエレキで演奏したものは聴いた事もあるだけにどのようにアコギで演奏されるのか興味津々であったが、実にうまくアコギバージョンにアレンジされていた。エレキの曲をアコギの曲にアレンジするのは一見、簡単そうだが、実はそうではない。特にこの「Sacred Hills」のようにエレキギター特有のアームバーを使う箇所が随所にあると尚更である。
 チャーは自らのアコースティックギターのルーツにLed Zeppelinのジミー・ペイジの名前を挙げる事が多いが、チャーのアレンジテクニックの秘密は案外、そんなところにもあるのかもしれないと思ったのだった。
 アレンジの妙が光ったインスト「Sacred Hills」の後は、またまた英語詩の曲。
 だが、曲名が判らない。これは何?と必死に曲名を思い出そうとしている間に終了してしまった。(後の情報では「BABOO JOINT」「Long Distance Call」とも言われていたが果たして....正確な情報をお持ちの方、お知らせ下さい!
 タイトル不明な曲でチャーのソロコーナーが終わったところで石やんが拍手をしながら再登場。それと入れ替わるようにチャーがステージから捌けていく。
 いよいよ石やんのソロコーナーの始まりだ。
 まずは石やんお馴染みのジャズ的なアプローチの早弾きで軽いウオーミングアップ。
 そこからピックを捨てて、スリーフィンガーピッキングでスパニッシュっぽいフレーズを奏でる。やがてそれは聞き覚えのあるメロディラインへと変化していくのだが、いかんせん音楽的教養の無い私にはどんなタイトルの曲なのか全く判らない。インストの場合、特にそうだ。
 曲の雰囲気としてはイタリアの音楽家として著名なエンニオ・モリコーネ(今年のNHK大河ドラマ「武蔵」も担当の映画音楽の大御所)あたりの映画音楽あたりっぽいのだが果たして?(後日、東京、天王洲アイル公演ではこの曲を「なんちゃってタンゴ」と石やんは紹介していたのけれど どうなのだろう?)

 謎な曲が終わり、石やんのソロコーナーは続く。
 今度は先程のインストに変わって石やんが熱いボーカルを聞かせる。

 「悲しむ為に生まれてきたんじゃない 〜
 痛がる為に生まれてきたんじゃない
 紫の雨が降る 〜 パープル レイン♪」


 えっ パープルレイン ?!

 この曲も最初は何の曲なのか 皆目判らなかったのだがあのPrinceの「Purple Rain」とはびっくり。
 もちろんこの有名曲を知らない私ではなかったが日本語歌詞で、おまけにアコギで歌い上げるとは思いもよらなかった意外な曲の登場に思わず顔が綻んでしまう。
 多分、つい最近、来日公演を行ったPrinceにヒント(感銘?)を受けてのチョイスかと思われるが、間違いなく今回のライヴのハイライトの一曲になったのではと思う。
 それに曲の途中で再登場しお馴染みのGibsonのフルアコでソロを決めたチャーの熱演も感動をよりいっそう大きくしていたに違いない。

 感動的な「Purple Rain」の後は、どこからともなく聞こえてくる「チャカポコ チャカポコ」というリズムボックスの音。
 BAHOファンにはもうお馴染み「Black Shoes」のイントロである。
 ステージ上ではセットの「BAD HOT」という文字が眩しく点滅する中、チャーもそのままフルアコで演奏に参加、いつものようにイントロからメロディアスなアルペジオを奏でる。
 曲の中盤ではこれまたお馴染み、チャーのアイドル時代の名曲「気絶するほど悩ましい」へと繋がって往年のファンへの気遣いも忘れない。それからは再び「Black Shoes」に戻るという流れ。これなどはもう『ご飯には味噌汁』『パンにはバター』『日曜の夕方はサザエさん』というぐらいのBAHOライヴでは定番中の定番。これがなかったら暴動になるかもっていうくらいでもある。


 チャー「もうすぐクリスマスですが 我々のデビューアルバムにはそのクリスマスを唄った曲がありまして 次はその曲です」


 −と紹介したのがミニアルバム「Pink & Blue」(90年12月発売)に収録されていた「PINK&BLUE」
 この曲を聴くのもホント久しぶりだ。
 というかライヴでは初めてかもしれない。チャーの紹介通り、この曲はクリスマスの事を唄ったものではあるが、”クリスマスイヴの夜、ホテルでH”という内容の歌詞だけにとってもエロい。この曲が発表された90年当時はまだまだバブルに世間が踊っていた頃。クリスマスイヴには予約しておいたイタリアンorフレンチのレストランで食事を取りティファニーのオープンハートなんかをプレゼントして、これまた(1年も前から)予約しておいた高級ホテルにお泊まり...というバブリーなカップルが日本中にウジャウジャいたという時代でもあるわけで、それらを皮肉った曲にも思えたのだが考えすぎなのだろうか?
 曲調としては非常にロマンチックなだけに特に女性はうっとりと聴いていたようには見えた。
 「Pink & Blue」の後、間髪入れずに次の曲になだれ込む。
 ギターカッティングを中心とした結構、激しい曲だ。おまけに全編英語歌詞の曲でまたまた曲名が判らない。なんとなくカバー曲っぽいが どうなんだろう。
 「ナ、ナ、ナ、ナ 〜 ♪」という歌詞?が印象的であったのだが...
 頭の中のデータ量が圧倒的に足りない(苦笑)”音楽データベース”を起動して何度も検索してみるものの『該当するデータはありません』と表示されてしまう〜というような間にチャーのシャウトで曲も終了してしまった。
 (注:2003.03.26発売の『Bad Hot Show』DVDによれば「You Shine in My Eyes」という曲タイトルになっています)
チャーが主導権を握った前曲に続いて今度は石やんの出番ということか曲はお馴染み、石やんのソロ作品「酸素」。ちなみに前回のBAHOライヴでも披露していた曲だけに私もこの曲だけは知っている(苦笑)。
 イントロは石やんの手癖的なジャズアプローチな早弾きから始まったが、やがてこの曲本来の軽快な曲調に変化。
 サビの「すきま風から酸素を取れ〜♪」という歌詞の部分が印象深い。サビ以外にも「冷たいくせして 暑苦しい、この町、国際動物園」という歌詞が繰り返されるのだが何かを象徴しているようで意味深だ。
 石やんの曲の次はチャーのPINK CLOUD時代の名曲「UNCLE JACK」
 入手したセットリストにもタイトル不明として記されていた曲は「UNCLE JACK」だったのか!今でもアコギで練習している曲だけにこの選曲は私にとって嬉しい限り。
 ブルースロック然としたリフ、ブルースハープのソロ、チャーと石やんの掛け合いによるスリリングな早弾きと見所一杯のこの曲、今回も全編、見せ場の連続だった。
 特に、チャーがブルースハープを手に取り吹き始めたあたりから 俄然、曲の勢いが増し始める。あきらかに途中から違う曲になってしまっているのだが これが非常にカッコイイ。
 石やんが弾くブルースリフ..というかロックンロールなリフに合わせチャーが吹くハープのソロは小気味よい。
ある意味、ハープとギターのフリージャムの後に再び、「UNCLE JACK」に戻る。
 ここで チャーはハープからギターに持ち替え本格的に参戦、お互い熱い演奏を繰り広げた。ラスト近くの早弾きの掛け合い、ユニゾンでの合奏?会場は確実にクライマックスへと昇りつつあった。

 会場全体がヒートアップした「UNCLE JACK」の後、ステージ上にはスタッフによって大きな二つのコンガがチャー側に用意された。
 意外な楽器の登場に観客も(もちろん私も)一様に驚きの表情を見せる。
 チャーからも軽い説明があったが予想通り、チャーが次の曲ではコンガを叩くらしい。やがて 聞こえてきのは石やんがギターのボディをパーカッシブに叩く打撃音。
 こうなれば もうお馴染み過ぎるぐらいお馴染み BAHOのライヴでも欠かすことの出来ない石やんの代表曲「HAPPINESS」
 また この曲では観客の重い腰もようやく上がり初めてのオールスタンディング。
 チャーも立ち上がってステージの前の方に出てきて大サービス。
 石やんもそれにつられて立ち上がって熱唱。
 それに丁度、世紀も変わったということで 歌詞を変更していたのも聞き逃せなかった。
 サビの

pic  Livin' End of Century 〜 ♪
 Livin' End of Century 〜 ♪
 Livin' End of Century 〜 ♪
 Livin' End of Century 〜 ♪


 という部分が

 Livin' New Century 〜 ♪
 あたらしい Century 〜 ♪
 Livin' New Century 〜 ♪
 あたらしい Century 〜 ♪


 にアレンジされていたのだがこんなちょっとした変更が非常に新鮮に聞こえる。
 「HAPPINESS」と言えば後半の

 『欲しいものは HAPPINESS 〜♪
 XXXX HAPPINESS 〜 ♪』


 の石やんと客との掛け合いが聞き所であるのだが 今回も

 『神社仏閣 HAPPINESS 〜 ♪』
 『食前食後に HAPPINESS 〜 ♪』


 など気の利いた単語を即興的に歌詞に組み込み唄いあげていく。
 用意されたコンガも予定通り、ギターから持ち替えたチャーによって激しく連打され いつもより150%増しにノリノリな曲へと変貌していった。
 途中にはコンガのソロもあったりとなんとも一粒で二度美味しい展開だ。
 結局、チャーが最後までコンガを叩き続けるという今までにない曲構成は古くからのファンをも喜ばせたに違いない。(TV中継された東京公演ではコンガを叩くこと自体なかったし)

 大いに盛りがった「HAPPINESS」でライヴ第一部も終わりを迎え それぞれのメンバー紹介の後、二人は一旦、ステージを降りていった。



 3分〜5分ぐらいのやや長めのインターバルをおき 再び、ステージ戻ってきたBAHOの二人。
 そんな彼らにすかさず3席ほど隣の男の客が
 「チャー 愛してる〜!」
 と野太い声の嬌声を挙げる。
 しかし相手が男ゆえかチャーも苦笑するばかりで 何も応えないのが逆に可笑しい。
 そんな風に方々で掛け声やら歓声が挙がる中、超絶技巧インスト「TREMENDOUS」は披露された。
 前回のライヴでも演奏されたこの曲は特にチャーと石やんのギターテクニックが代わる代わる披露される事でもファンにはもうお馴染みである。
 まるでその様は”バトル”という形容が相応しいのだが二人から醸し出されるオーラを視覚化出来たならば”紅い炎”というよりも”青白き炎”と言った表現がぴったりとするくらいなのだ。米国人なら多分、こう言うだろう
 「Oh Cool !」って。

 火が出るような熱演のあと、再びステージを去る二人。
 すぐさま、アンコールを求めて観客から声が挙がり始めるのだった。


 再度のアンコールに応えステージに現れた二人はまず我々、観客に感謝の言葉を述べ、すぐさま次の曲の紹介に入った。
 曲のタイトルは「二つのギター」
 事前の情報でも話題だったBAHOの事を唄ったという久々の新曲である。
 それも意表を突いてフォークなのだという。
おまけにチャーの言葉を借りれば「暗〜い曲」と言い放っていたが....
 しかし、蓋を開けたら曲調は往年の四畳半フォークを意識したような、はたまた森田童子、山崎ハコあたりの曲調をお手本としたかのようでもあったがそこはそれ。BAHOがただのフォークをやる訳はない。
 「すぐに笑いを取って逃げるいい加減さ」
 のような類の歌詞を散りばめ会場は大いに爆笑に包まれた。
 まったく「どこが暗い歌やねん」 なのだがこれがBAHOのBAHOらしい所以だろう。
 観客さえ煙に巻くこのトボケたスタイルに私を含め、多くのファンが長年、魅了され続けているのだ。

 爆笑に包まれたBAHO's FALK 「二つのギター」が終了すると再び、チャー、石やん共に観客に挨拶してステージを後にしたのだった。


 だが、何かが足りない!何かが足りないのだ!

 そう、当然、演奏されるべきジャパニーズ・ロックの金字塔「Smoky」がまだなのだ!
 他の客も当然、それを期待してか再びアンコールを求める声が続く。
 2分、3分....5分と続いただろうか。
 一時は再び、二人が登場するのではという淡い期待も雰囲気(場内に流れていたお別れSE(?)「Sacred Hills」が途中でブツッ、ブツッと二度ほど途切れ、もしや再登場か ! と期待してしまった)もあったのだが結局はコンサートの終了を告げるアナウンスが場内に響き渡り、ジ・エンド。
 夢の時間は過ぎ去ってしまった。
 それでも 自分を含め、多くの観客は名残惜しそうであったが、係員の声に気圧され、泣く泣く会場を後にしたのだった。







 〜総評〜



 定番「Smoky」が無かった事は確かに消化不良な感じではあった。
 が、しかし今回も見所、聞き所一杯のライヴであった事は間違いない。
 お馴染みの「アミーゴ」「All Around Me」「HAPPINESS」「BLACK SHOES」、二人それぞれのソロ、意外なカバー曲、GSメドレー、新曲、ギターバトルな「TREMENDOUS」そして笑撃な”二人で一人ギター”ベンチャーズメドレー。数え上げたらキリがない。
 いずれも観客を飽きさせないエンターティメントなパフォーマンスに今回も脱帽であった。

 不定期に活動し、今度のライヴはいつというのが全く見えないBAHO。
 しかし、今後もライヴには足繁く通う事にはなりそうだ。










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