MR.BIG
The BIG Finish FAREWELL TOUR 2023/24 in Japan







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Billy Sheehan - bass, vocals
Eric Martin - lead vocals, guitar
Paul Gilbert - guitar, vocals
Nick D'Virgilio - drums, vocals












 念願だったものが 叶うと意外と、呆気ない事もある。



 MR.BIGが活動を止めて5年。

 その間には、メンバー(主にエリック・マーティン)が再始動に好意的な意見を述べ、パット・トーピーに代わる新しいドラマーが決まりそうだ〜という話まで提供してくれたが、一向に何も起きなかった。
 ビリー・シーンも時折、MR.BIGについて言及していたが、ポール・ギルバートはずっと沈黙を貫いていた。
 だから、MR.BIG再始動にポールが首を縦に振らないから事態は何も動かないのでは?と思っていた(『炎 Vol.5』のエリック・マーティンの最新独占ロング・インタビューによると、新しいドラマーの件などを喋りまくったのも、再始動の障壁になったらしい)。

 しかし2023年、年が明けてから正式にツアーと来日公演が決まった。
 昨年末から 再始動は確実視されていたが 正直な処、まだどこか不安要素が残っていた。
 そして そのツアーは『The BIG Finish FAREWELL TOUR 2023/24』と銘打たれ、フェアウェル・ツアー つまり『さよならツアー』となることだった。
 パット・トーピーを喪い、バンドとしての未来を描くことは出来ないという認識を共有している我々ファンにとっては、そのバンドの決断は当然のように思えたし、何もなくフェードアウトして消えていく結末ではなく こうして別れを告げに来てくれる事が何よりも嬉しかった。
 5年間、待ちに待った結果は、最高の形で結実した。と言っていいだろう。
 それは呆気ないぐらいものだった。と言ったら語弊はあるかもだが。



 7月になった。

 海の向こうではいよいよ、バンドのリハーサルをやっている模様やTBSでのドキュメント番組制作の一報がインターネットを通じて我々の目に、耳に入ってきた。
 どうやら新しいドラマーであるニック・ディヴァージリオもバンドに馴染んでいるようだ。
 だが、ここにきてこのフェアウェル・ツアーの全容(と言っても10数公演程度だったが)が判明、ツアー初日がここ、名古屋での公演だとばかり思っていた処、実はそうではなく 初日は中国のロック・フェスでのライヴである事が判ったのだった。
 当初から"ツアー初日"を見れるという特別感に酔いしれていたのだが、そうじゃないと判るとややガッカリしたが、すぐ気分を取り直した。

 「名古屋公演はリハーサル代わりにならなくて良かった」
 「中国のフェスの情報で予習が出来る」

 とポジティヴに考えるようになった。

 7月16日、遂に『The BIG Finish FAREWELL TOUR 2023/24』ツアーがスタートした。
 当初、中国の為か情報は非常に限定的であった。
 (YouTubeは中国政府によってアクセスを規制されている)
 だが、ツイッターの情報で中国の動画共有サイト(bilibili)にライヴ動画がアップされていると知り、すぐさまアクセス。
 数年ぶりに リアルなMR.BIGのパフォーマンスを観たのだった。
 それに続き、セットリストを掲載しているサイトにも情報が載った。
 これによりライヴの全容が垣間見れたのだった。
 発表通り 2ndアルバム『Lean Into It』の完全再現を主軸に過去のヒット曲を取り混ぜ、披露するという大方の予想通りのセトリだったが、見知らぬカバー曲をやっている(後になって、バンド恒例の楽器交換の為の楽曲だった)のは新情報だった。
 だが、予想よりも曲数は少なく(よって時間も短い)解せないと感じていたが、フェスなので短縮ヴァージョンなのだろうと予想した(名古屋公演でそれは証明された。予想通りであったのだ)。
 やがてビリー・シーンがツイッターで 日本のコンビニの画像を投稿、翌18日には名古屋のホテルからの風景も投稿。
 なんと中国から直接、中部国際空港へと降り立ち名古屋に移動したようだった。
 てっきり成田から東京、取材等を受け名古屋公演前日ぐらいに移動するものと思っていただけに これには驚いた。
 これだけメンバーが名古屋に長期間滞在するのって、初めてではないか(もちろん、ずっと名古屋に居るという訳でないかもしれないが)。
 準備は万端。ライヴ当日を待った。



 7月20日

 開場 18:15、開演 19:00。
 平日(木曜日)ならではのスケジュールである。
 だが、観客・ファンにとって開場前から既に戦いは始まっていた。
 戦い−それはグッズ購入という"戦い"である。
 販売開始何時間も前から列に並び、大量に購入というのがここ数年で顕著となったライヴにおけるトレンドだが、その裏には悪名高き転売ヤーの存在があるだろう。
 彼らの自分勝手な行動が白日の下に晒されるようになってから それ以外の購買者へ競争意識を煽り、現在のような争奪戦へとつながった感じがある。
 以前、10〜20年ぐらい前なら開場時間に行っても普通に購入出来るものだったのだが...。
 それに最近の値上げ、値上げの動きはライヴ・グッズにも当然ながら反映されている。
 Tシャツなどは 明らかに昨年から1000円はアップしていた(\4,500 → \5,500)。
 それでもすぐに売り切れるのだから、日本は不景気なのか 好景気なのか判らなくなってくる。
 自分はベースボールキャップが今回も気になるぐらいで、パンフレットが購入出来れば良いぐらいだったので開場に合わせて自宅を出発した。


 会場である日本特殊陶業市民会館 フォレストホールは金山にあり、地下鉄の金山駅から地下通路で直結している為、雨の日などはとても便利な会場である。
 ここにライヴを観に来るのは、2014年のハロープロジェクトのコンサート以来、9年ぶりである。

 本日も雨の心配のない空、非常に蒸し暑い。
 地下鉄を降り、会場への地下通路でさえもその熱気を感じる。
 会場に向かう人の波の中に、ちらほらとMR.BIGのロックTシャツが見受けられるようになってきた。
 日本特殊陶業市民会館は「ビレッジホール」と「フォレストホール」で構成されている。
 中ホールの「ビレッジホール」は2階層に、大ホールの「フォレストホール」は階段(エレベータ)で上った4階層にある。
 「ビレッジホール」の入口前を通り過ぎる頃には、MR.BIG目当ての観客が既に溢れていたが、4階まで上ると横の入り口の受付ではVIPパッケージの客でごった返していた。
 ここがVIP専用入場口らしいのだが、未だ入場が上手くいっていないようであった。波乱含みの始まりを感じた。
 そして正面入口を目指し、扉を開け外に出てみると 其処には驚きの光景が拡がっていた。
 入場待機列が 会場の外を蛇のようにグルグルと何重にも形成されていたのである。
 「名古屋市民会館」と言われた時代から、何度もこの会場は訪れているが、こんな光景を見るのは初めてであった。
 「フォレストホール」のキャパは 2291席とあるが、体感的に言ってその何倍もがここに集っているのではないかと感じてしまう。
 かなりの距離を歩き、やっと会館の端に位置した行列の最後尾に並んで入場を待った。
 徐々に列は進んだが、その列に加わろうとする人々の中に(先行販売で購入した)Tシャツを着る者、今回の為に過去のツアーTシャツを引っ張り出して着てきた者と百花繚乱。
 そんな光景からも ファイナルツアーであるという寂しさを感じてしまう自分がいた。
 20分近く並んだだろうか、ようやく日本特殊陶業市民会館の正面入り口前の階段にたどり着いた。
 徐々に階段を上がり、入り口でチケットをスタッフにもぎって貰い会場に入ると、予想されたことであったがロビーは人でごった返していた。
 ロビーに足を踏み入れると、2階席への階段が視界に入ってくるのだが、其処には再び 長蛇の列が出来上がっていた。
 言わずもがな これがグッズ購入列である。
 まあ、この会場に来る度 この光景はもはや見慣れたものであったのでそれは驚かなかったのだが、その列の長さにまたまた驚愕させられたのだった。
 2階に上がって列の最後尾を探すが、一向に見つからない。
 2階の端まで歩き列の終端をようやく見つけるが、ここまでグッズ購入列が続いているのを見るのは初めての経験だった。
 開演時間が迫る中、とりあえず並んではみたが 開演までに購入できるとは到底、思えなかった。
 少しずつしか進まない列の動きに、諦めるかどうするか逡巡していると スタッフから「パンフレットは公演後も購入出来ます」という話を訊き 私は心置きなく列を離れることにした。
 それにしても やっぱりここ最近のグッズ購入の過熱ぶりは異常であると思わざるを得ません(by あばれる君)。


 ようやく客席に入場した。

 昨年、更新を止めた「CBCロックハウス」にこのライヴの為に入り直し、それを通じてチケットを取ったのだが ゲット出来たのは20列目。
 最低でも10列以内には入れるだろうと思ったが甘かったようで 発券した際、唖然としてしまった(VIP席もあるので、その影響もあるのかもしれない?)。
 とはいえ、前は通路で遮るものがないのは好条件ではあった。

 開演までにステージの写真を最前列まで移動しスマホに収め、ライヴが始まるのを自席で静かに待った。
 ステージバックの巨大スクリーンには 2ndアルバム「Lean Into It」のジャケット画である有名な機関車の事故写真と(未見の)セカンドカット(?)が対に並べられそのど真ん中にドーンと「MR.BIG」の巨大ロゴが施されていた。


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 マスク着用の義務化が撤廃され、このようなライヴ会場の屋内でもマスクをしている者が目立って少なくっていることもあって、開演前の喋り声は目立つ。
 コロナ禍前のライヴって こんな感じだったな。と思い出させる開演前の雰囲気であった。


 開演時間19:00を迎え、場内は慌ただしくなってきた。
 色んな楽曲がSE代わりに場内に響き渡っている中、スピーカーからひときわ大きくRamones「Blitzkrieg Bop」が流れ始めると、突然、巨大スクリーンに楽屋の廊下で佇むバンドメンバーを映しだしたのだった。


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 これには客席全体が驚いたと言っていいぐらいだっただろう。
 今までWOWOWとか特別な生中継ライヴなら、このような演出も見た事があったが それを来日公演初日からやってくれるとは!
 こんな演出は先日の中国のフェスでも無かった(と思う?)事だ。
 アドレナリンが一気に上がってくる感じであった。
 「Blitzkrieg Bop」の手拍子と歓声が会場を包み込み、徐々にステージ袖に向かっていくスクリーン上のメンバーに声援を送る。
 観客は一斉に立ち上がり、ライヴ開始を待ちに待ったのだった。
 「Blitzkrieg Bop」が終わり、テンポの良い楽曲に切り替わるといよいよメンバーがステージに飛び出してくる。
 ビリー・シーンのベースが唸りを上げ、遂に始まった。
 タッピングによるベースラインにポール・ギルバートのギターリフが乗る。
 曲はもちろんデビュー曲「Addicted to That Rush」だ。
 今まで10回近くこの世界最高峰の弦楽器隊の演奏を見てきたが、いつのライヴでもアガる瞬間である。
 だが、今回が今までと全く違っていたのは ビリー・シーンのベース・ソロタイムが無くそのまま楽曲に入った事。
 「Addicted to That Rush」は今までは ライヴの後半、アンコール前ぐらいに披露される事が多かったので、ライヴの冒頭に演奏する事はこの30年で初めてであった。
 スクリーンにはポールが書いた?ヘタウマなメンバーが動き回るアニメーションが映し出されている。
 もちろん其処にはパット・トーピーも居る。
 お馴染みなユニゾンで繰り広げられるポールとビリ―のタッピング(ライトハンド)プレイ。
 そんな時にも「このプレイ(瞬間)は最後なんだ」と思いが脳裏をよぎってしまう。
 これ以上無いほどの最高の盛り上がりで 始まったファイナル・ツアー・イン・ジャパン−ファースト・デイ
 2曲目の前にエリック・マーティンは今は亡ききメンバー、パット・トーピーの名前をつぶやいた。
 当然ながら会場は拍手に包まれた。
 それを挨拶がわりに曲が始まる。
 曲はパットが叩いたドラム・パターンが印象的な事で有名な「Take Cover」
 「Take Cover」といえば、ギタリスト目線から言うと 永延と繰り返されるギターリフが印象深い。
 非常にシンプルなのだが、オリジナル・バージョンではとても根気が必要な演奏で大変だと言われていた。
 だからだろうか、ポール自身も永年、オリジナルの弾き方ではなくギターのローポジションを使った簡易な弾き方に変えている。
 今回もそれに倣った感じであった。
 そしてもう一つ、注目はドラム−新メンバーのニック・ディヴァージリオの腕前である。
 既に自身のチャンネルで、パットの演奏を再現してみせていたが 今回それが見事に証明されたという感じであった。
 流れるように3曲目へと続く。
 「Undertow」− 2010年にリリースされた、再結成後初のオリジナル・アルバム「What If...」に収録されたリード・トラックである。
 デビュー曲、パット・トーピーのドラムが印象的な曲、そして再結成後のいわば"再デビュー曲"とMR.BIGにとって歴史的な曲を冒頭に披露するというのは このファイナルツアーにとって大いに意味があることだと思われた。


 だが今回のツアーの本番はここからである。

 それを示すようにスクリーンにはアルバム「Lean Into It」のジャケットが大写しになり、その後、ポール・ギルバート、エリック・マーティン、ビリー・シーンの当時のメンバー写真が活写された。
 それぞれに我々は拍手で応えたが、最後にパット・トーピーの写真が映った瞬間、それは大歓声へと変わった。
 やがて 場内は地底から湧き上がるような轟音が響き渡り、それを合図にドラム、ベース、ギターが渾然一体となった演奏が始まった。
 「Daddy, Brother, Lover, Little Boy」
 遂にアルバム「Lean Into It」の完全再現が始まったのだ。
 「Addicted to That Rush」と双璧をなすMR.BIGにおいて アガる代表格であるこの曲のハイライトはなんと言ってもギター・ソロにほかならない。
 未だにネットでは超絶速弾きの練習曲として取り上げられるくらいのフルピッキングのフレーズから、マキタの電動ドリルを使ったトレモロ・ピッキングという誰も思いつかなかった荒業を繰り出すというのは当時では画期的であった。
 電動ドリルを使ったトレモロ・ピッキングはビリー・シーンもポールに倣い、ユニゾンでプレイするという豪華仕様。心躍る瞬間であった。
 今回も昔を思い出させるように、エリックがドリルを手にとってポールに手渡すという"授与式"を行い、それを高く掲げてアピールした上で演奏を開始、ドリルプレイが終われば再び、エリックに手渡すというお馴染みの光景が繰り広げられた。
 32年前の来日公演では、エリック・マーティンはそのドリルを持ったまま(ドリルを回転させながら)熱唱したが、そんなおもしろ光景も思い出したのだった。

 次曲はアルバム通りに「Alive and Kickin'」
 ブルージーな香り漂う速弾きをイントロ代わりにして曲が始まる。
 これもいつも通りである。
 昔と違うのはポールのギター・ソロのペンタトニックスケール主体のフレーズぐらいか。
 全盛期と比べ声量が落ちているとはいえ、このようなブルーズ・ロックな曲ではエリックのソウルフルなパフォーマンスが映える(なぜかクルマのハンドルのように上下逆にスタンドを持って歌う姿は面白い)。


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 ギターが唸りを上げ、有名なあのタッピングフレーズが響き渡った。
 客席は大歓声に包まれる。
 言うまでもなくに「Green-Tinted Sixties Mind」である。
 以前も書いたかもしれないが、この曲には個人的な思い出がある。
 「Lean Into It」のリリース(1991.4.10)時、会社の新人研修で上京していた自分は、日々の緊張と慣れない4人相部屋生活に既に疲れ切っていた。
 そんな中、定時退社後、渋谷に立ち寄って 東急ハンズの向かいにあったタワレコだったか、レコファンだったかで出たばかりのアルバム「Lean Into It」を購入した。
 それ以来、退勤後 まだ他の同期が戻ってきていない合宿の部屋で 一人気兼ねなくアルバムを聞きながら(鼻歌を歌いながら)部屋着に着替えたりしていた。
 その光景にいつもオーバーラップするのがこの「Green-Tinted Sixties Mind」なのである。
 今思えば「Daddy, Brother, Lover, Little Boy」よりも「Green-Tinted Sixties Mind」の方が強く印象に残る曲だったというのは非常に興味深い。
 その決め手は、やはり冒頭のタッピングフレーズだったのだろう。
 あの浮遊感あふれる摩訶不思議なフレーズが刺さったのだと思う。
 また当時はこの不思議な音使いを、タッピング(ライトハンド)だとは気付いていなかったとも思う。(認識したのは翌月あたりの「YOUNG GUITAR」のタブ譜だったような...)
 だからだろう。
 自分にとってこの曲のタイトルは「Green-Tinted Sixties Mind」ならぬ「Green-Tinted 90's Mind」と言ってもいいぐらいなのである。

 7曲目「CDFF-Lucky This Time」
 前回の2017年の来日公演において仙台、武道館でメドレー形式で披露されたようだったが、私にとっては1991年の来日公演以来となった。
 もちろん、当時のことは覚えていないが サビの歌詞(「Open Your Hearts Tonight,I Beieve,I Beieve You 〜」)を歌うエリックの歌唱に懐かしさを覚えるばかりだった。
 次の「Voodoo Kiss」は ポールのちょっとしたオブリガードを加えたリフのイントロから始まった。
 この曲でも どうしても注目してしまうのはポールのギター・ソロだ。
 以前のフレージングと全く違うことに気付くポールファンは多い筈である。
 なにせギターに装着したボトルネックまで使っているのだ。
 エリックがMCの後、ポールに指示をして始まった9曲目が「Never Say Never」
 この曲も2017年の来日公演において仙台、武道館でメドレー形式で披露されたもう一つの曲であったが、自分にとって生で初めて聞く曲である。
 それだけに感動も一入であった。
 普段のライヴでは見逃されるような 隠れた名曲を聞くことが出来るのも"アルバム完全再現ライヴ"の醍醐味である。と言っても過言ではない。
 またこの曲で特筆すべきはバンドのコーラス・パフォーマンスのレベルの高さ。
 元々、このバンドのコーラスには定評があったが 今まで生で聞くことが叶わなかったこの曲でもその力は遺憾なく発揮されていたのだった。
 バンド・メンバー全員が歌えるっていうのは なかなか無い事である。
 ポール・ギルバートがクリーン・トーンでアルペジオを奏で始めた。
 「Just Take My Heart」はMR.BIGファンにはお馴染みの曲である。
 前回も披露されたが、その時は唯一 パット・トーピーがドラムを叩いた曲でもあった。
 ミディアム・テンポなロッカ・バラードだが、1stアルバム収録の「Anythig for You」を彷彿とさせる美しい曲である。
 (数日後の武道館公演ではこの曲中、客席ではスマホのライトの波が揺れたが、この名古屋公演ではどうだったかな?)
 そしてコンパクトにまとめられたギター・ソロ。
 今回もオリジナル通りの演奏だったが、本人の演奏を改めて見て「弾いてみたい」「弾けるかも」と思わせたのだった。
 (ライヴ後、練習し始めたのは言うまでもない。ただ 想像した以上に難しい(苦笑))

 11曲目「My Kinda Woman」も 生では初めて聞く曲であった。
 しかし、ニックのドラムを合図にして始まったイントロからしてベース、ギターが明らかに音が揃っていない。
 不協和音を醸し出している感じがした。
 すぐさま、演奏はストップ。客席からは笑いが起こった。
 とっさにエリックがマイクを取り トラブルが解決するまでMCで間を繋ぎ、客を盛り上げる。
 こういうメンバー間の連携が上手く取れているのが さすが30年の歴史があるバンドだと感心してしまう。
 トラブルの原因はポールのギターにあったのだが、ギターを交換して再スタート。
 だが、またまた演奏がストップ、ポールはすぐに演奏を止めてしまったのだった。
 その場でチューニングし直したか(再び交換したか)覚えていないが、3度目の正直となるとやっと曲が正常に始まった。
 MR.BIGのライヴでここまで機材トラブルが発生したのは初の体験だったが、思えば1991年の来日公演でも アコギのワイヤレスの不調でエレキで「To Be With You」を弾いたのが公式ライヴ映像でも確認出来る。
 あの時は、メンバー間では爆笑の出来事になったそうだが、今回はどうだったのだろう?
 観客としてはちょっと緊張の尾が切れたという感じではあった。
 なお、今回のトラブルの原因はギターの複雑なチューニング問題だった?とファンの方のつぶやきで判りました。
 (「BURRN! 2023年10月号」に掲載された全員同席インタビューによれば、ギターテクのミスではなく 自分の完全なる勘違い。とポールは告白。異なるチューニングのギターを弾いてしまったらしい。)
 こんなトラブルも日本公演初日ならでは?かもしれない。
 そんなトラブルがあったからだろうか、演奏後にはひときわ大きな拍手がバンドに贈られた。
 12曲目「A Little Too Loose」も久々に聞いた曲であった。(もしかしたら1991年以来?)
 再結成後では初だったと思うが、オリジナルよりもキーが下げられていた為か、低すぎて冒頭のビリーのボーカルでさえも歌いづらそうな感じであった。
 ギター・ソロもオリジナル通りではなく、アレンジが加えられていたようだ。
 ビリーがMCで「NAGOYA」とつぶやくと大歓声が巻き起こった。
 エリックはその声を受けてカウントを刻むと あの曲の4つの声による美しいコーラスが始まった。
 「Road to Ruin」は2011年以来の披露である。
 今回の「Lean Into It」再現ライヴでは、自身の最近のスタイルを踏襲した比較的オーソドックスな速弾きを披露していたポール・ギルバートにとって、この曲はオリジナルに準じたかってのスタイルの速弾き(フィンガリング)を披露していたのは ファンとしては嬉しかった。
 ポール・ギルバートはこうでなくちゃ。と思わせる演奏であったのだ。

 「Lean Into It」アルバム最後を飾る曲、それはヒット曲「To Be With You」しかない。
 (厳密にいえば、日本盤の最後はボーナス・トラックの「Love Makes You Strong」である。この曲も非常に格好良いので ラストはこちらという印象が個人的には強い。)
 エリック・マーティンが例の言葉でビリーを紹介したのを皮切りに、ポール・ギルバート、そしてニュードラマー ニック・ディヴァージリオを紹介。
 ニック・ディヴァージリオは3回も連呼して客にコール・アンド・レスポンスを促し盛り上げる。
 その間に、ポールはエレアコにチェンジしていた(ギターはアコギを含め、ずっとアイバニーズを使用してきたポールだったのだが、今回のエレアコはどうやら「ゴダン」製のようである。珍しい。)。
 「To Be With You !!」というエリックの掛け声で曲が始まれば、即座に場内は手拍子に包まれた。
 この曲なら。と全編歌っている観客も多数いる。
 エリックが観客に歌をふると 完璧に歌えてしまうのが大ヒット曲であるゆえんだろう。
 もう何度も聞いてきた曲、というか自分が経験したMR.BIGの来日公演全てにおいて聞いてきた曲であるが、なんだろう、このバンドで聞くのが最後なんだと思うといつもと違う気持ちが湧き上がってきたのだった。
 「To Be With You」の歌詞が余計にそうさせるのかもしれない。
 大きな拍手で曲を終えると、メンバーは機材チェンジ等で慌ただしい。
 その間を利用し、エリックは観客と「Ohhhh 〜」とコール・アンド・レスポンスをして一瞬たりとも飽きさせない。
 喋りまくるエリックのMCも懐かしい限りだ。


 さて次の曲は中国のロック・フェス通りなら「Wild World」なのだが....と思っていると エリックは「Big Love」とつぶやいた。
 全くの予想外の選曲で驚いたという感じだ。
 1stアルバムに収録されたこの「Big Love」は当然ながらのエレキ曲である。
 それをアンプラグド・ヴァージョンで披露するなんて。
 全くもって嬉しい驚きであった。
 そんな驚きは、演奏後に贈られた暖かい拍手にも表れていた。


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 驚きは次曲にも続いていた。
 16曲目は「The Chain」であった。
 4thアルバム「Hey Man」に収録されたアコースティカル・チューンである。
 ただ予習?復習?不足だった為か、個人的には 全く忘れさられた曲であった。
 1996年の「Hey Man Japan Tour」以来だろうか。
 懐かしい曲であった(この「The Chain」には、エリックもアコースティックギターで参加した)。
 アンプラグド・セッションはなおも続いた。
 次の「Promise Her The Moon」はイントロからすぐ判った。
 馴染みの曲である。
 それゆえ観客の反応も早く、場内には手拍子が響き渡った。
 ポール・ギルバートの力強いストロークで始まった18曲目「Where Do I Fit In ?」
 これも「Hey Man」に収録されたブルージーなロックチューン。
 アコギで披露するのは新鮮だと思ったが、2011年リリースのライヴ・アルバム「Live From The Living Room」でも披露したようである。
 なかなかいい感じの仕上がりに大満足であった。
 ただ音響的にちょっと不具合があったようで 曲終了後にスタッフは裏で奔走していたように思えた。
 やや不安定な状況でポールが短めなアコースティック・ソロを弾くとそれがイントロとなり、「Wild World」へと繋がった。
 キャット・スティーヴンスのカバーであるこの曲。
 「To Be With You」の二番煎じを狙うようにレーベルから強制され、無理くり追加収録された曲であったことを知ってからネガティブな印象しかなかったが、あらためて生で聞くと良い曲である。
 比較的、オリジナルに忠実な楽曲であるが MR.BIGが演奏することでこの楽曲に力強さが加わった感じがするのだが いかがだろうか。


 大合唱の後、スポットライトがポール・ギルバートに当たる。
 他のメンバーはステージをはけていく。
 お待ちかねのギター・ソロのコーナーである。
 指ならしとばかりに速いパッセージを弾いたのに続き、リフでリズムを刻むとやがて聞き慣れたメロディが場内を満たす。
 「Nothing But Love」である。
 ポール・ギルバートの最近のスタイルである楽曲の伴奏と共に、歌メロをギターに置き換えるという手法をこの曲においても実践したのだった(ポールの最新作「The Dio Album」においても、ロニー・ジェイムス・ディオが歌ったメロディラインをギターで再現している)。
 メロディラインのしっかりとしたミディアム・テンポのバラード曲である「Nothing But Love」は、今回のツアーのギター・ソロ・コーナーで演奏するのは最適だったと思う。


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 それこそ初期の頃は、ストリング・スキッピングを主体としたマシンのような速弾きや、ドリルによる「スキヤキ」演奏とかあってそれはそれで面白かったが、もうそのような奇をてらうような事は必要なくなったのかもしれない。
 「Nothing But Love」のギター・ソロの最後をボトルネックで余韻を持って終わらせると、次の曲を予感させるようにメタル的なリフと昔を彷彿とさせる速弾きで観客を沸かせた。
 するといつの間にかステージに戻ってきていたメンバー達。
 ニック・ディヴァージリオのカウントで始まった猛烈な速さのギターとベースのユニゾン・プレイ。
 「Colorado Bulldog」である。
 この曲のレコーディング当時、イントロのあまりの速さにビリーとポールは相当、精神を集中して弾かないといけなかったという苦労話が思い出される。懐かしい限りである。
 嵐のように過ぎ去った感じの「Colorado Bulldog」の終わり、そのままビリーのベースがロングトーンを鳴らし続ける。
 すなわちビリー・シーンのベース・ソロ・コーナー始まりの合図である。
 思えば、自分にとってハイ・テクニックなベースソロをこれでもかと見せてくれたのはビリー・シーンが初だったと記憶する(その前年−1990年に、ジョー・サトリアーニのライヴに帯同したスチュワート・ハムも凄かったが)。
 これだけ綺羅びやかに、タッピングやスラッピングを見せてくれるのはやはりビリーしかいないのではないだろうか。
 今回はMR.BIGとして最後だからだろうか、今までもよりもそのソロタイムは長く取られていたように感じた。
 考えてみれば、ビリーはこのバンドのリーダーである。
 その特権を行使したとも思わなくもない(笑)。
 ベースの残響音がまだ響く中、メンバーがステージに戻り、ニックがスネアを連打。
 やがて始まるポール・ギルバートのタッピング・プレイ、其処に乗っかるビリーの激しいインタープレイ。
 すなわちTalasのカバー曲「Shy Boy」である。
 冒頭はビリ―がボーカルを取るのはお馴染みのスタイル。
 その後に続いて熱唱するエリック・マーティン。
 エリックがこれを歌うのも このツアーで最後となるだろう。
 だからこそ、この一瞬、一瞬を目に耳に刻みつけようと心掛けたのだった。
 曲が終わると、熱演に敬意を払うように大きな拍手がメンバーに贈られた。メンバーは大歓声を背にステージを降りて行った。




 やがて拍手はアンコールを求めて、力強く、リズミカルに打ち鳴らされていく。

 それを受けてステージに復帰するメンバー達。

 アンコールが始まった。
 その1曲目は 奇しくも1991年の来日公演と同様にHumble Pieのカバー「30 Days in the Hole」であった。
 エリックのカウントで曲が始まると、アカペラでメンバーが「30 Days in the Hole〜♪」とコーラスを聞かせると、それに続きエリックの先導で我々観客が「30 Days in the Hole〜♪」と同じく合唱をする。
 今まで、何度も見られた光景であった。懐かしさが込み上げてくる。
 演奏後「アリガトウ、ナゴヤ」とエリック。
 アンコール2曲目は、予習で見た中国のロック・フェスの映像で最も驚いた趣向で選曲。
 MR.BIGと言えば、30年前からアンコール時にメンバー間でパート・チェンジ(楽器交換)を行うのが常だった。
 それは再結成以後も続き、恒例化しファンにとって楽しみの一つではあった。
 だが、それはパット・トーピーが居たからこそのスペシャルなイベントだと思っていた。
 しかし、新ドラマ― ニック・ディヴァージリオを巻き込んでもこのスペシャルをやるとは!と驚いたのだった。
 そのパート・チェンジの内訳は 定番化しているポール・ギルバートのドラムを始めとして、エリック・マーティンがベース、ニック・ディヴァージリオがギター、ビリー・シーンがボーカルという布陣。
 ウィキペディアで調べると、どうやらこの布陣はバンド史上 初めてであったそうだ。
 それぞれが違うポジションに付き、慣れない楽器を持って始めた楽曲はThe Rascals(Young Rascals)「Good Lovin'」
 映像で見るまで全く未知な曲であったが「BURRN! 2023年10月号」に掲載された全員同席インタビューによるとビリー、ニックにとってとても思い入れのある曲で、ポールにいたってはGITの講師時代 生徒にこの曲を課題にしたという逸話もあったそうである。
 メンバーにとっては身近な曲という感じなのだろう。
 それを感じさせる楽しいパフォーマンスであった。
(ちょっと高い声が苦しそうであったが、シャウトしまくっていたビリーが一番楽しんでいたのかも?)
 ポールの派手なドラムソロで曲を終えると大きな拍手が沸き起こった。


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 こんな客席の熱い反応を見たら、ライヴをこれで終える事はできない。
 エリックとビリ―が少し相談?すると曲が決まったのか、ポールが手慰みとばかりにフレーズを弾く。
 そのフレーズのメロディーに合わせ、即興で歌うエリック。
 MR.BIGらしいセッションである。
 ポールの弾くフレーズはやがて聞き馴染みのあるリフへと変化した。
 それが判ると場内からは一斉に歓声が湧き上がった。
 曲はThe Whoのカバー「Baba O'Riley」である。
 この曲も1989年の初来日公演(東京・川崎・大阪)の時からやっている定番中の定番曲である。
 しかも1991年の来日公演のアンコール最後の曲でもあったのだ。
 中間部にはポールがボーカルを取る部分もあの頃と変わらない。
 そして最後のギター・ソロでもスペシャルが用意されていた。
 ソロを弾き始めたポールの傍らに寄っていくエリック・マーティン。
 エリックはギタープレイに集中するポールの肩を叩き、しきりに歯を見せアピールをする
 「もしかして、アレでは?」と予想すると、それは見事に当たっていたのだった。
 ポールはおもむろにギターのボディを顔まで持っていき、歯で弾いてみせたのである。
 思えばこのパフォーマンスも初期の頃からやっていたお馴染みなものだった。
 今回、ポールが"歯弾き"自体を忘れていたのか、想定外だったのか判らないが、エリックのリクエストで行った。というのが何より嬉しかったのである(なお、その後の大阪公演、武道館公演も同様のパフォーマンスを行った)。
 場内、手拍子の中「アイシテマス ナゴヤ!」とエリックが絶叫。
 「Baba O'Riley」の演奏が終わりを告げると、今日一番の大きな拍手が全てのメンバーへと贈られたのだった。

 ニック・ディヴァージリオもドラムキットを降り、メンバー全員ががステージに横並びする中、ビリー・シーンがマイクを取った。

 「ここに再び来られてとても光栄だ。君たちは俺たちにとって、かけがえがない友人であり、ファンであり、素晴らしい人たちで、ずっと良くしてくれた。愛しているよ、ドウモアリガトウ」Greenさんのサイトより)

 そして ビリーは最後にあらためてメンバーの名前を紹介した。

 「私、エリック・マーティン、ポール・ギルバート、ニック・ディヴァージリオ..... パット・トーピー。 We Love You 〜 Thank You アリガトウ」


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 大歓声と拍手がいつまでも続く中、本公演のクローズニング・テーマとなったバットカンパニーの「Shooting Star」を背にメンバーはステージを降りて行った。
 記念すべき「MR.BIG The BIG Finish 2023/24 FAREWELL TOUR」日本公演の初日はこのように終わりを迎えたのだった。

 その後、7.22(土)大阪公演(Asueアリーナ大阪)、7.25(火)東京公演(日本武道館)、7.26(水)東京公演(日本武道館)と無事に終え バンドは残りのアジア・ツアーへと旅立っていった。
 WOWOWでも生中継されたラストの武道館公演では、最後にメンバーの家族もステージに登場し、スペシャル・ゲストとしてパット・トーピーの奥様と息子さんまでも現れた時は皆、涙した。
 日本のファンと永年、深い絆を築いてきたMR.BIGの我々への最後の贈り物だったと思う。



 現在(2023.9)そのアジア・ツアーも終了し、メンバーはそれぞれの活動に邁進している。
 MR.BIGとしての活動は先日、X(旧Twitter)にて 来年3月〜4月に掛けてイギリス、ヨーロッパを周ることが発表された。
 このファイナル・ツアーがいつまで続いて、どのように終わりを迎えるのか今はまだ不明である。
 出来るなら、最後にもう一度、日本に戻ってきて欲しいものだが 武道館の最後に特別な事を行った以上 もうそれは難しいのかもしれない。

 だからこそ このライヴ・レポートをこの言葉で結びたい。



 「ビリー、エリック、ポール、リッチー、そしてパット。長い間、夢を見させてくれてありがとう。バンドが大変な時に 助けてくれたマット、ニックもありがとう。33年間 お疲れ様でした」





 名古屋公演の公式映像
Nick D'Virgilio - On Tour with Mr. Big: VLog # 2







SET LIST
Opening S.E. Blitzkrieg Bop(Ramones)               
1Addicted to That Rush
2Take Cover
3Undertow
4Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
5Alive and Kickin'
6Green-Tinted Sixties Mind
7CDFF-Lucky This Time
8Voodoo Kiss
9Never Say Never
10Just Take My Heart
11My Kinda Woman
12A Little Too Loose
13Road to Ruin
14To Be With You
15Big Love(unplugged)
16The Chain(unplugged)
17Promise Her The Moon(unplugged)
18Where Do I Fit In (unplugged)
19Wild World(Cat Stevens)(unplugged)
20Paul Gilbert Guitar Solo(〜 Nothing But Love)
21Colorado Bulldog
22Billy Sheehan Bass Solo
23Shy Boy(Talas)
・・・Encore・・・
2430 Days in the Hole(Humble Pie)
25Good Lovin'(The Rascals)
26Baba O'Riley(The Who)
Closing S.E. Shooting Star (Bad Company)       












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