田川ヒロアキ with Friends
Tour 2010 "Time to hit the Road"







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 ハーモニクスを交えた馬の嘶きのようなアーミングで「Keep Flying」を終えると、間髪入れずどこか懐かしい感じのする和テイスト溢れるメロディが場内を満たしていった。その旋律は自然と口ずさむ事が出来るほどで、演奏後、これが噂の『YOSAKOI−よさこい』テーマソングの一つ「男なら」と判ったが、なぜだか私はMarty Freedmanの事がふと脳裏をよぎった。彼ならこのようなタイプの楽曲を気に入るのではないかと思ったのだ。
 「男なら」の中間部では、半田さんのピアノソロ、和佐田さんのベースソロ(チョッパーベース全開)、ファンキーさんのドラムソロを挟みバンドメンバーそれぞれの見せ場を作り、それはあたかも「よさこい」の持つ楽しさを体現していたかのようだった。
 12曲目の前には本日のゲストが呼び込まれた。
 登場したのは事前の予告通り『ポツダム巨人軍』のギター/ボーカルのポツダムレッドけいじさん。田川さんとは5月の和佐田パーティでポツダム巨人軍と共演した事をきっかけに親交を深めたらしい。私もその時、初めてポツダム巨人軍のパフォーマンスを見たが、お笑いの要素を取り入れながらも高度な技を繰り出す王道メタルに感心してしまった程だった。そのお笑いの部分を象徴とするのが、特撮戦隊物をイメージとしたポツダム巨人軍の”戦闘服”という名のコスチューム
 今回のようにバンドではなく個人で参加の場合、果たしてそれはどうなるのか?と興味津々で登場を待つと−さすが、けいじさん。期待は裏切る事はなかったのである。
 胸に付けた「ポ」というカラータイマーを点滅させ、勢い良く現れたけいじさんが唄い始めたのはロッククラッシックス「Get Back」。云うまでもなくBeatlesの曲である。これを田川さんと二人でボーカルを分けて唄いあう。然も、前半はけいじさんの紹介も兼ねた替え歌となっていた。
 「Get Back」の熱唱後、ボーカルの二人は5月の和佐田パーティの思い出を語り、その中ではけいじさんも「ヘビーメタル・シンジケート」の愛聴者である事が明かされた。番組の中で紹介されていた田川さんにはずっと注目していたという話ぶりからすると、けいじさんも私と同じように「宛先ミュージック」の登場に興奮を覚えた一人なのかもしれない。
 その後、名古屋ネタ(名古屋城、「コメダ珈琲」、手羽先の「風来坊」、味噌煮込みうどんの大須「たから」)でひとしきり盛り上がった二人は、次の曲に行く前に本日の会場であるE.L.Lについての思い出話がけいじさんから語られた。
 それはまだお笑いに転じてはいなかった真面目なHR/HMバンド時代のポツダム巨人軍、25〜6年前の事だった。既にその時は爆風スランプが飛ぶ鳥を落とすぐらい勢いのあった頃である。けいじさんはこの爆風スランプのスタイルに衝撃を受け、今に繋がるポツダム巨人軍の劇的なチェンジに繋がったのだという。
 爆風スランプの話題が出れば必然的にその会話にはファンキーさんも加わり、それは次の曲への布石となった。
 ファンキーさんが「この曲をやる前にはね、前口上を叫ぶ事になっております」と云って始まったのがこれだった。


 『ヘビーメタルに物申す
 ”アクションはオジンだぁ!”
 ”ラウドネスは天狗だ!”
 ”44マグナムはバカだ!”
 史上最悪のヘビーメタルナンバー たいやきやいた!! 』



 ファンキーさん曰く、「若い人には古すぎてバンドが判らない」とも云っていたがLoudnessは別としても確かにアクションは懐かしい(笑)
 「たいやきやいた」「RUNNER」の大ヒットで、いわば”お茶の間の爆風スランプ”になる以前の”なにをやらかすか判らないハチャメチャさ”が有った頃を代表する曲である。「週刊東京「少女A」」「無理だ!」...あの当時の曲に郷愁以上の拘りを持っている人は多いと思う。
 ゆえに私もこの曲の登場を驚きと共に喜びで迎えたが、けいじさんのボーカルは私の期待に十分応えてくれるものであった。田川さんの演奏もテクニカルな部分が有りながらも原曲イメージを壊さず、会場をよりいっそう楽しい雰囲気にし てくれたのだった。
 2曲のゲスト出演を終えたポツダムレッドけいじさんをステージから送り出し、終盤を迎えた14曲目。私が最も聴きたかった曲−「平和の風」が遂に披露された。
 壮大なロッカバラードのこの曲は、反戦を声高でなくシンプルで判りやすい言葉で綴った歌詞が心の奥底にスッと入り込んでいつまでも捉えて離さない力強さがあるまごうことなき名曲。(余談だが、昔からお世話になっている床屋のおばさんにこの曲を聴いて貰った事がある。しばらく聞き入って大層、褒めていた事を思い出す。)今までこの曲を演奏する時は、田川さんがKeyを弾き唄うスタイルである事が多かったが今回は半田さんがサポートする。前半は田川さんはボーカルに専念しそれゆえ歌詞の一つ、一つが心に染み入ってくる。ラストに向かって演奏にギター、ドラム、ベースが加わるとそれはまるでオーケストラのように超然と私達、観客に迫ってきた。静謐で気高く、それでいて優しい。どんな言葉でも形容するのが無意味なほど、それは素晴らしかった。




 田川ヒロアキ 平和の風



 本編最後の曲は、田川さんをネット上で知らしめた曲でもある「My Eternal Dream」
 私も”動いている田川さん”を配信された映像で初めて見た思い出ある楽曲である。
 ノリの良いイントロのリフ、バース、ソロ..田川さんのギターの巧さ、楽曲の巧みさが集約された一曲である。
インプロバイスされたアウトロ・ソロはライヴだけの特権とばかり目映く輝いていた。


 ステージを去るバンドメンバー達。
 それに対し、アンコールを求める拍手が続いた。

 その求めに応じ、田川さんが笑顔で戻ってきた。
 アンコールに感謝しながら、その間にも他のメンバーがセットインする。
 そしてアンコールに紹介されたのは「Keep Flying」のカップリング曲である「やっと、ずっと」であった。
 この曲はミディアムテンポのラブバラードであったが、歌詞を聴くうちにこれは田川さんのこれまでとこれからを唄ったのではないかと思えた。
 いずれにせよ、この曲も「Keep Flying」同様、田川ヒロアキの新しい面を見せてくれたのは間違いないだろう。


 こうしてライヴは幕を閉じた。
 アンコールがこれ一曲だけとは少々、物足りなさが残ってしまったがHR/HM、バラード、よさこい、インスト、ジングルと田川さんが持つ幅広い音楽性を満遍なく表したライヴだったと思う。
 これがファーストツアー、それも初日だったとは私にとっても、田川さんにとっても記念すべきものになったのではないだろうか。私はそう信じている。



 ツアー初日を声も枯れ枯れとなるほどの大熱演で終えた田川さんはその後、京都、今治、岡山、故郷山口、大阪と回りファイナルを地元八王子で迎えた。
 京都、大阪では44マグナムのボーカルであるポールさん、八王子では二井原さんが急遽参加するなど大いに盛り上がったようだ。今回のツアーの成果はきっと来年発表されるバンドスタイルのアルバムでも十分に反映されるだろう。
 私は次のツアーも期待せずにはいられないのである。









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