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最近、読み終えた伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」という小説は社会から隔絶された、地図に載らない”異空間”の島が舞台となっていた。 物語は、ひょんなことからこの島に連れてこられた主人公が奇妙でありながらもどこか憎めない島の住人と過ごす漫然と過ごす日々の中で神のように崇められる”案山子”が殺された(壊された)事に端を発し、島の秘密が徐々に明らかになる−という一風変わったサスペンスミステリー。 先の事を見通すことの出来る予言者でもあった”案山子”がなぜ、自分の「死」を予見出来なかったのか、その謎に迫るというのがこの物語のテーマであり魅力でもあった。 そして、この物語は魅力ある登場人物と共にこの島自体も重要な意味を持つキャラクターとなっていた。我々が生きる世界とは異なる、穏やかな島−萩島。 しかし、この島には唯一、足らない物があった。 最後に主人公がこう叫ぶ。 「この島には音楽が欠けている」と。 そういう意味では、あの日、あの時のあの場所はこの物語の登場人物達が想像出来ない程の音楽に満たされていたのは間違いない。 今春、ヨーロッパから始まったWHITESNAKEとDEF LEPPARDのダブル・ヘッドライナーツアー。ツアー発表当時は、二大バンドの競演という「夢の企画」に喜色満面となったが、果たして日本でもこれが可能なのかという不安も正直な処有ったのは事実であった。 しかし、蓋を開けてみればあっさりと日本公演も決定。 (自分にとって)かってないチケット代の高さに辟易もしたが(笑)、フルスケールのライヴを二つ、連続で見られるとなれば安いかもしれないと思い直した。そう考えると、かっての「SuperRock'84」や 「Final Countdown」がいかにコストパフォーマンスの高いイベントであったか今更ながらに思い返したぐらいだった。 この記念すべきライヴ、ダブル・ヘッドライナーツアー最終日公演である本日もファーストアクトはWHITESNAKEだった。 ヨーロッパではDEF LEPPARDと順番が入れ替わりもあったという話だが、セットの都合でこの流れに落ち着いたらしい。 ライヴは開演予定時間の6時半を4分ほど遅れて始まった。 THE WHOの「My Generation」が先程までとは明かに異なる大音量でスピーカーから流れ始めるとそれがライヴ開始の合図となった。 不安を煽るようなシンセサイザーのSEにギターのロングトーンが同調するかのようなカオスな状況の中、暗転したステージに登場するバンドメンバー達。6列目、ステージ左端(下手)側に座る私にもその姿がはっきり捉えることが出来た。しかも、下手から登場したバンドの中心人物であり、”バンドそのものでもある”デヴィッド・カヴァーデイルが眼前の数メートル先で激しくアピールしている。私の周りはそれだけでも大きく盛り上がってきた。 カヴァーデイルはそのまま、ステージ中央から客席に延びた花道を進み、曲が始まるのを待った。 「Are You Ready−!」 の掛け声と共に、ドラムの連打で始まった「Best Years」はニューアルバムの曲。花道のステージをクルクルと客席を見渡しながら熱唱するカヴァーデイル。 もうすぐ齢60を迎えようとしているとは思えないほどの元気さだ。 「This's a song for ya!!」とお馴染みのシャウトが次の曲の登場を促した。ヒット曲「Fool For Your Loving」である。 どちらかというとまだ馴染みの無い新曲の1曲目と違い、この曲はWHITESNAKEの代表曲である為か、サビの部分が大合唱となった。 既にバンドの顔ともなったギターのレブ・ビーチとダグ・アルドリッチのソロ回しも楽しい。しかも、レブは私のわずか数メートル先に立っているのだ。 3曲目はニューアルバムから「Can You Hear The Wind Blows」。 カヴァーデイルは花道の先端で、マイクスタンドを振り回しながら観客を煽り、最後にはマイクスタンドを逆さに持って天井にかざす象徴的なパーフォーマンスを披露した。 4曲目は「Dedicated to Dear Freined Mel Galey」というカヴァーデイルの言葉と共に始まった。そうなのだ。1983年発表の「Slide It In」アルバムをカヴァーデイルと共に製作したを元メンバーのメル・ギャレーが今年、惜しくも亡くなってしまったのだ。「Slide It In」時にはあのコージー・パウエルも在籍していた。つまり、 もうあの時のメンバーが交いすることは永久に失われたという事である。それを思うと非常に感慨深いものがあった。 そんな思いを込めて「Love Ain't No Stranger」は感動的で、より激しいものとなった。 小休止のブレークでカヴァーデイルはドラムセットの縁に置いてあるビールを手に取り、「ジャパニーズビア、カンパーイ」と一口、二口と飲んだ。 しかしブレークを経ても、その勢いは新曲「Lay Down Your Love」おいても尚、止まらなかった。ただ、シャウトする部分でのカヴァーデイルのしぼり出す声に痛々しさを感じてしまうのは、年齢を考えば仕方ないのかもしれない。 激しく、熱い曲の後はクールダウンとばかりにアコースティックセットが組まれた。 花道の先端に一脚の白いストゥールがすかざす用意され、ステージ奥に控えていたダグがアコースティックギターを持ち歩み出てきた。 カヴァーデイルからあらためての紹介の後、コードカッティングと共にダグが穏やかに弾き始めたのは「The Deeper The Love」。 以前からセット入りすることも多かったカヴァーデイルお気に入りの曲である。 もちろん、原曲は「Slip of the Tongue」アルバムに収録されたエレクトリックなハードロックである。しかし、プロモーション来日の折、東京で少数のファンを迎えて録音されたアコースティックライヴアルバム「Starkers In Tokyo」でもそれは披露され、エレクトリックヴァージョンとは 全く違う楽曲の持つネイキッドな魅力を大いに知らしめることとなった。 当時のギタリストは盟友であったエイドリアン・ヴァンデンバーグ。 今、カヴァーデイルの傍らにはダグ・アルドリッチが居る。 彼もカヴァーデイルにとって今や、無くては為らない存在になったことはあの会場に居た者なら誰もが感じたに違いない。 そんな心温まる空間の中で、クリスタルディープボイスを響かせるカヴァーデイルのパフォーマンスは軽々しく言葉で表すのが申し訳ない程、感動的であった。 「Is This City of Love ?」というお馴染みのカヴァーデイルの客席への問い掛けから始まる「Is This Love」は、曲名がコールされるやいなや、大きな歓声が挙がった。やがて自然発生的に始まった手拍子と共に唄う人も多い。 ダグの煌びやかなギターソロもその後押しとなった。 曲がドラムの連打と共にエンディングを迎える頃、カヴァーデイルから「Guitar、Reb Beach、Doug Aldrich」と高らかにコールされるとステージの左右で控えていた二人のギタリストにスポットが当たり、激烈な速さでフレーズが客席に向かって放射された。 まずはダグからレスポールのフレット上を流麗な指使いで早弾きを披露したかと思えば、それに呼応するかのようにレブ・ビーチがお得意のタッピングを絡ませた光速フレーズを場内に木霊させた。 その後もダグ〜レブの順でソロ回しが間隔を短くしながら続くとやがてそれはブルース調のハーモニーへと変化し、まるでスタジオでセッションするかのようなパーソナルな雰囲気へと落ち着いていった。その流れはキーボード=オルガンとドラムを呼び込み、俗にいう「Snake Dance」という曲へと繋がっていった。 お互いを確認しながら、次は何を繰り出すか?探り合うかのようにフィンガリングするギターソロ−「至高の時」は、前回の来日公演の時のそれよりも 何倍もヴァージョンアップされたものとなっていたのは嬉しい誤算であった。 間違いなくこのツアーでの見所の一つであったと思う。 ソロの後はカヴァーデイルも合流し、「Snake Dance」のブルーズロック調の流れそのままに新曲「A Fool In Love」へとまるでメドレーのように繋がった。 途中にはクリス・フレイジャーのドラムソロを挟み見せ場を作ることも忘れなかった。 カヴァーデイルのメンバー紹介の後、披露された10曲目はWHITESNAKEファンには感涙に咽ぶほど懐かしい曲となった。 再び、花道に白いストゥールが用意されると、アコースティックギターを抱えたダグがそこに座り、カヴァーデイルの合図でおもむろにコードをかき鳴らし始めた。 「Ain't Gonna Cry No More」は80年発表のアルバム「Ready An' Willing」の曲である。途中からティモシー・ドゥルーリーのキーボードが優しく演奏を包み込んで非常に良い感じとなった。 (ただ曲中、カヴァーデイルはザビの部分である「Hey, ain't gonna cry no more today」を観客に唄わせようとするのだが、大ヒットアルバム「Serpens Albus」以前のそれも30年近くアルバムゆえか、曲を知らない者が多くカバーデイルが意図したような大合唱には為らなかったのは残念であったのだが。) 11曲目「Ain't No Love In The Heart Of The City」はWHITESNAKEのライヴには欠かせない曲である。壮大なロッカバラードと言えばいいのだろうか。 ダグのレスポールギターから繰り出される情感溢れたソロフレーズもこの曲を大きく盛り上げ、恒例のカヴァーデイルと観客のコール&レスポンスが曲に深みを与えた。そう考えると今や、観客の声さえも演奏を支える”楽器”の一部となっているのかもしれない。と思えた。 演奏は途切れなく「Give Me All Your Love」に入った。バラードから一転したこともあり、この曲の登場に大いに盛り上がった。カヴァーデイルもそれに応えるように花道のステージを360度グルリと回りながら唄い上げている。その間隙を縫うかのようなタッピングとアームを使った特徴的なレブのギターソロも曲にマッチしていた。 そして、サビの部分ではカヴァーデイルの先導の下、客席も大合唱。どうしても小さくなりがちであった我々、観客もここぞとばかり大きな声で唄った。 余韻を残す暇もなく、次の曲を示す合図となったティモシーのキーボードの音色が場内を満たすとそれをかき消すぐらいの大きな歓声が挙がった。これを聞きたかった者が多かったのだろう。それを示すかのように「Here I Go Again」は歌詞の最初の一節から唄う者が多く、それは曲の進行と共により大きくなっていった。 カヴァーデイルのコンダクターのような観客を指し示す振りもより大きくなったのもきっとそんな観客の声に後押しされたものであった筈だ。 レブ・ビーチの素晴らしいギターソロでエンディングを迎えた「Here I Go Again」の後訪れた一瞬の静寂がドラムのハイハットのリズムによって破られると、スピーカーから流れ出る激しくドライヴしたディストーションサウンドが広いアリーナを包み込んだ。 言わずもがな、WHITESNAKEの名を世界に知らしめた曲「Still Of The Night」である。 発表された当時は、あまりのLed Zeppelinライクな曲であった為、激しいバッシングも受けたが結果的にはこの曲を含んだアルバム「Serpens Albus」は大ヒット。 「Still Of The Night」はWHITESNAKEを代表する曲となった。 当時、この曲のPVを撮影する為に集められたメンバーには、後に登場するDEF LEPPARDの現メンバー、ヴィヴィアン・キャンベルが居たことは今でも私にとっては忘却の彼方の事ではない。ゆえにある種の感慨を持ってこの曲を聴いたが、(当時のメンバー〜そこに実質的な作曲者、John Sykesを含めても良い〜が誰も居ない)New WHITESNAKEは当時と比べても、十分にヴァージョンアップしていた。 その核となったのはやはりダグ・アルドリッチとレブ・ビーチのギタリスト二人の存在だろう。 私はこの布陣ではドラム以外(前回はトミー・アルドリッチ)を2年前にも見ているがこの曲においても、曲のまとまり、メンバーのコンビネーション、全ての点で向上していたと思う。 あと、足りないものと言えば、懐かしきエイドリアン・ヴァンデンバーグが行った”弓弾き”ぐらいだろうか。 ところでこの曲では、ちょっとしたサプライズな出来事が有った。 サビの部分に演奏が差し掛かる頃、突然、カヴァーデイルがステージ上手に引っ込んだのだ。ステージ下手側の席の私にはそのステージ袖の様子は見えるものの、距離がある為、ほとんど見えなかった。ただ、かろじて”スタッフらしき”人物にマイクを向け唄わせているようなシルエットだけは見えたのだが...。 後の情報で、”スタッフらしき”人物は次に登場するDEF LEPPARDのジョー・エリオットとフィル・コリンであったと判ったが、あの時、もう少しスポットライトが当たる場所に出てきてくれたなら、客席はそれはもう狂喜乱舞だった事だろう。 いずれにしても、このJapan TourにおいてはWHITESNAKEとDEF LEPPARD、両バンドによるセッションの機会は無かっただけにあの瞬間だけは、それが為ったビッグサプライズだったかもしれない。 それは日本公演に集った全ての人々への感謝を意込めたカヴァーデイルからのプレゼントだったのではないか。 そう思うと自然と笑みが零れたのだった。 カバーデイルのお馴染みのセリフ− 「Be safe, be happy, and don't let anyone make you afraid.」 共に曲は終わり、それは同時にWHITESNAKEのライヴ終了を示したのだった。 |
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WHITESNAKE | |
1 | Best Years |
2 | Fool For Your Loving |
3 | Can You Hear The Wind Blows |
4 | Love Ain't No Stranger |
5 | Lay Down Your Love |
6 | The Deeper The Love |
7 | Is This Love |
8 | Guitar Solo / Snake Dance |
9 | A Fool In Love |
10 | Ain't Gonna Cry No More |
11 | Ain't No Love In The Heart Of The City |
12 | Give Me All Your Love |
13 | Here I Go Again |
14 | Still Of The Night |