ROCK STAR

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 監督:スティーヴン・ヘレク

 出演: マーク・ウォールバーグ ジェニファー・アニストン ドミニク・ウェスト、ザック・ワイルド、ジェフ・ピルソン、ジェイソン・ボーナム




 一般紙では 報道される事はほとんど無かったが先日、あるロック・ギタリストが死んだ。
 死因はエイズによる合併症。


 彼の名をご存じの方もいるだろう。
 80年代、アメリカはロスアンゼルスから世界に飛び出していったヘビィ・メタルバンド「RATT」のギタリスト、ロビン・クロスビーである。
 彼については 随分前からエイズで闘病中とまことしやかに囁かれてきたが10年前のフレディ・マーキュリー(「Queen」ボーカル)と同様、その最後は実に呆気ないものだった。
 そのロビン・クロスビーが所属したバンド「RATT」は1980年代中盤、音楽専門チャンネルMTVなどの媒体を通じ爆発的な人気を博したムーブメント「LAメタル」の中心の一角を成すバンドであった。
 当時は その活動拠点から「東のBON JOVI、西のRATT」とここ日本では比較対象にもされたが、アメリカ本土においてはどちらかと言えばそのグラマラスなバンドイメージからRATTの方が人気が上だったようだ。
 (但しBON JOVIはNY出身なので もちろん「LAメタル」にカテゴライズされてはいない)
 しかし、80年代終わりにはBON JOVIの世界的成功により立場は逆転する。
 88年、大晦日に東京ドームで行われた「Final CountDown」というライブイベントではBON JOVIがトリを務め、RATTがゲストアクト扱いであったのは なんとも皮肉な事であった。
 その後、LAメタルを含む、メタル関連の音楽が下火になりRATTもその流れに勝てす解散。現在までに再結成を一度、試みるものの当然、ロビン・クロスビーは参加せず、当時のファンを納得させる音楽性でもなかった為、盛り上がりも一過性のものでしかなかった。
 そしてオリジナルメンバーであるロビンの死。

 こうして「LAメタル」を語り継ぐ生き証人が またこの世から消えてしまった。




 かなり脱線してしまったがこの「ROCK STAR」という映画では 80年代当時、「LAメタル」ムーブメント華やかし頃の事がバンドの内側から虚実、織り交ぜながら描かれているのである。


 1980年代半ば。
 人気バンド「スティール・ドラゴン」の熱狂的なファン、クリス(マーク・ ウォールバーグ)は”コピー会社”のサラリーマンをしながらスティール・ドラゴンのコピーバンド「ブラッド・ポリューション」のボーカルを務めていた。
 クリスはスティール・ドラゴンのボーカル ボビー・ピアーズの声、発声法、歌唱法全てを真似、自ら「カバーバンドじゃない、トリビュ ートバンドだ。」とオリジナルに忠実であることを本分としてきた。
 しかし、あまりのオリジナルへの固執ぶりに 他のメンバーと対立、あっけなくバンドをクビになってしまう。クリスにとって味方は バンドのマネージャーで恋人のエミリー(ジェニファー・アニストン=ブラピ夫人)ただ一人。
 そんな逆境な中、Rockの神様は見放さなかったことか?バンドのグルーピーの送ったテープがきっかけで 本家本元のスティール・ドラゴンのボーカルオーディションを受けられることになる。
 恋人と二人でLAへ急ぐクリス。待っていたのはファンが群がるスタジオ兼バンドの事務所の大邸宅。
 そこで先日、自分も味わったスティール・ドラゴンのボーカルの解任劇を目の当たりにしながらも なんとか普段の調子で唄い晴れて本家のボーカルの座を手に入れる。
 これを「アメリカン・ドリーム」と言わずして なんと言おう!
 それからは もう怒濤の毎日。ツアーからツアー。レコーディングからレコーディング。
 そして 連夜の乱交、乱痴気騒ぎ。当然、ドラッグにも手を染め、最終的には今、自分がどこにいるのかさえ判らなくなるクリス。
 こんな生活に耐えられなくなった恋人のエミリーはクリスの元を離れていくがクリスも 自分がバンドにとって体のいい”雇われボーカル”であった事に気づき、ある時、重大な決断をするのだった...




 「ROCK STAR」は「コピーバンドのアマチュアボーカルが本家のバンドに迎えられる」という正にアメリカン・ドリームを体現した映画である。
 だが、この作品に実在のモデルが有ると言ったら驚くだろうか。
 ヘビィメタルと聞いてイメージするスタイル−「鋲打ち黒のレザージャケット」−を世界に知らしめたイギリスの老舗バンド「ジューダス・プリースト」がそうなのである。
 ジューダス・プリーストには この映画同様、驚異のハイトーンボーカルを屈指するロブ・ハルフォード(現HALFORD)という素晴らしいボーカリストがいたのだが、他のサイドプロジェクト・バンドに関わったことで脱退(解雇?)。代わりに加入したのがジューダス・プリーストのコピーバンドなどで唄っていた無名のティム”リッパー”オーエンズなる人物だった。
 映画は このボーカル交代劇をヒントに80年代のLAメタルの色々なバンドのエピソードを組み合わせて一つのバンドの叙事詩として再構成している。
 その為、当時、このムーブメントにハマッたものにとっては どこかで聞いたようなエピソードばかりでニヤリとするに違いない。それゆえ制作者側の周到なリサーチの跡が窺える。
 監督はジョン・レノンの「イマジン」などPOPSを効果的に使った音楽教師の物語「陽のあたる教室」のスティーヴン・ヘレクという事で音楽物はお得意の筈だったが出来の良さの割には正直、個人的には心に響いてくるものは無かった事は付け加えておかなければならない。
 比べるのは酷かもしれないが、昨年は同じロックを題材としたキャメロン・クロウ監督の「あの頃ペニー・レインと」があったが あれはキャメロン・クロウ自身の体験が色濃く反映されていて70年代のROCKを知る上でもかなりの傑作であった。
 この両者の違いは ひとつに時代性の違い、バンドの外と内という立場の違いとあるが決定的な違いは「ROCKへの愛情」ではないだろうか。
キャメロン・クロウはバンドの「あの頃〜」のように密着レポートがきっかけで音楽記者になり、現在は映画監督まで上り詰めた。スティーヴン・ヘレクの経歴は詳しくは知らないがROCK寄りの人物でなかった事は確かなようだ。
 その思い入れの違いが 映画の真意を伝わりにくくしていたのではないかと思う。
 この手の映画(特にメタル関連)は とかく馬鹿にしたものが多いだけに今回のように比較的出来が良く、マーク・ウォールバーグ ジェニファー・アニストンというスターを起用しながらもROCK映画として傑作にならなかったのは惜しいとしか言いようが無い。





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