私がいわゆる「大林映画」という大林宣彦監督作品群にハマルきっかけとなった映画、それは1991年5月公開の「ふたり」である。 その映画に 当時、無名ながらキラリと光る演技をされた女優さんが出演されていた。 主役の北尾実加(石田ひかり)の親友、長谷部真子役をされた ショートカットの可愛い感じの子。 それが柴山智加さんだった。 大林監督の著作などによれば この長谷部真子役というのは 初めは映画のストーリー上、出番のあまり無い ちっちゃな役だったそうだ。 しかし、それが撮影するにつれ どんどん役柄の幅が膨らみ、出演シーンも増え 「上映時間が20分延びたのは智加のおかげ」と後に、監督に言わしめた程である。 その後も「青春デンデケデケデケ」「はるかノスタルジー」「風の歌が聴きたい」などの大林作品にも名を連ね 今や重要なキーパーソンである。 その彼女が舞台を開く、しかも友人達との自主興業と聞いて『いざ 鎌倉』と私も名古屋から遠路遙々駆けつけた次第である。 今回も最近、ご一緒する機会の多いOBs東海支部の支部長さんとの 観劇だったのだが 会場である「麻布die pratze」はどちらも不案内な場所。最寄りの駅(南北線 麻布十番)から 迷いながらの道中ではあったが 途中の外国人だらけのスーパーマーケットの 一角で柴山さんにお渡しする花束も購入も終え なんとか劇場へ向かった。 時間はPM6:50を回っていたが 劇場前には既に70〜80人ぐらいの列が出来ていた。 (ちなみに列の先頭はなんとOBs関東支部のIさん。知り合いが他にいるというのは 心強いですが 1番ゲットとは流石、意気込みが違います。) PM7:00。 予定通りの入場開始。 並んでいた列が ようやく動きだした。後ろを振り返れば かなりの人が続いているのが見える。 もう劇場のキャパである150人ぐらいは並んでいるのではないだろうか。 そして 会場に連なる階段の入り口に到達して ふと「麻布die pratze」という店の看板を見るとなにやらイタ飯系の「ピザ屋」を彷彿とさせる配色具合。die pratze の看板をくぐり黒い階段を上っていくと ゆろゆら揺れて足下の 不安定さが非常に気になる。 こんな時、地震が起きたらどうなるんだ!と考えなくていいことが 頭をよぎるが 幸いにもそんな事はおこらず ともかくも2階の会場入り口へ。 辿り着いたそこには既にいくつかの贈られた花の鉢が飾ってあった。 その中で一番最初に目に付いたのは 大林監督から贈られたもの。 そして 日頃お世話になっている柴山さんのファンサイト掲示板 「柴山智加さんを応援する掲示板」の管理人さんから贈られた物と 見知った人からの花が入り口を彩っていた。 我々が用意した花はどうするのだろう?と思っていると 支部長さんは 後ほど直接お渡しするご様子である。 入り口でチケットの半券をもらい、いよいよ会場内へ。 黒い幕を分け入っていくと 見えてきたのはひな壇状の座席。 中央には ひときわ明るく照らされた舞台らしき正方形の一角が。 舞台の左横にも3列ほどの席(最前列のみ 長椅子に座布団の特等席?) があったのだが 舞台との高低差は全く無い。おまけに舞台天井には 布が吊してあったりと まるでサーカス小屋の雰囲気である。 舞台上には左右のモニターと色とりどりのブロックが並べられただけの簡素な佇まい。 多分、このブロックが芝居によって 色々なオブジェに変化していくのだろうと 容易に想像はつくが さて何に変身するのだろう? そんな期待と興奮を抱えながらも我々は どこに席を確保しようかと悩むが、ここは支部長さんの判断で目に付いた舞台左横の最前列、一番端からの席を選んだ。 この席を選んだのも カーテンコール時などで直接、お花を渡せたらという判断 に基づいたものだが なるほどここなら確実に渡すことも出来そうだ。 また用意された席にはあらかじめ配布されたアンケートやチラシに混じって 掠れがかった赤い字で「JUM」と書かれた小ぶりな茶封筒があった。 さっそく 中身を見てみると「JUM Vol.1」と書かれた赤、緑、黄、黄緑、青、ピンクの色紙の裏にはそれぞれ出演者、スタッフのプロフィールが印刷されている。 これがチラシに記されていたパンフらしいのだが このパンフレットの作りが奮っていた。 それは今回出演するJUMメンバーの柴山さん、宮沢さん、黒澤さんがお互いの嫌いなところをそれぞれ書き連ねていたからなのだ。 例えば 柴山さんは 宮沢さんを 「よく似ていると言われるが 私よりちょっと可愛いところ」 また 黒澤さんのことを 「泣くと鼻息が荒いところ」などと非常に面白い。 悪口を言い合えるのも仲が良い証拠という事なのだろう。 ただ 直前で出演がキャンセルになったという黒澤さんのも用意されているというのはどういうことなのだろう? 開演直前になって出演可能になったということなのだろうかこちらの方も気になるところであった。 そんなことを考えている間も 左右に設置されたモニターからは音声無しの往年のバラエティ番組・コメディドラマ(「サタデーナイトライヴ」「奥様は魔女」「フレンズ」「めちゃイケ」「ワンナイ」など)がエンドレスに流され、大音量で流されるラモーンズ系のRock&Rollと対を成していた。 それにしても こんなところで「サタデーナイトライヴ」のチェビー・チェイスや伝説のサムライコントのジョン・ベルーシに出会えるとは驚きである。 PM7:40。 約10分遅れで 場内が暗転。 今まで流されていたビデオ映像も消え音楽も変わった。 代わりにモニターに映し出されたのは 教会の中でただ一人立つウエディング姿の女性の後ろ姿。 振り返って出口に向かって走り出す彼女はJUMキャプテン 柴山智加さんその人だ。 映像では 教会を出ると、住宅街、都心、歩道橋を 人混みの中を縦横無尽に走る、走る、走る。 次に場面変わってTVでワールドカップを見ている女性が一人映っている。 日本代表の稲本がゴールを決めた瞬間、この女性も何を思ったか 突然家から出て走り出す。日本代表Tシャツを着たこの女性こそ宮沢美保さんだ。 柴山さん、宮沢さん、双方が街中走りまくって 感激?の対面を果たした場所... それは先程、我々も通った場所〜 この会場である麻布die pratzeの正面入り口。 やがて モニターに浮かび上がる「JUM vol1 HAJIMEMASITE」のタイトル。 ついに芝居が始まったのだ。 しかし いきなり柴山さんらは登場しない。代わりに音楽に乗って登場した黒いスーツにメガネの男性。今回の唯一の男性出演者、本間剛さんである。 軽快なステップを踏みながら 話題のサッカー ワールドカップのネタを振りまきながら我々観客に語りかけてくる。 その本間さんの話に寄れば「Mr. CHIBEE Show」という架空の公開テレビ番組の中でJUMを紹介していくという舞台設定になっているようだ。 本間さんは 「Mr. CHIBEE」、すなわち この番組のホスト〜MC(司会者)という事である。 テレビ番組という事で 本間さんの目線の先にはビデオカメラが疑似テレビカメラの役割を果たして設置され この舞台の記録用との二重の意味を持つ。 ホスト役の本間さんは今回の舞台について 「即興、すなわち おこす と書きます。.... 3つのお題にそってこれから即興で芝居をしますが そのお題はこちらのモニターに表示され演じられたお題は色が変わります..」 と流れるように説明。 一通りの説明の後、本間さんがJUMキャプテンである柴山さんを紹介し 舞台後方、(我々に最も近い)左側の黒幕が開いて 柴山さんが登場。 大きな拍手で迎えられた。 柴山さんは 上下、白の衣装。イノセントな感じである。 最近はお見かけする機会が余り無かっただけに、というか大林映画での印象が強過ぎて生で見る現在の柴山さんは随分大人っぽくなられたなあという感じがする。 そんな柴山さんは中央に配置されたブロックに座り 前方にあるカメラを見据えるように本間さんからJUMについての質問を受ける。 例えば 「JUMとは何?」という質問に対して 「簡単に言うと劇団です。」 「劇団ということは何人かのメンバーで構成されているということです?」 「私、宮沢美保、黒澤ゆき江の3人です。」 のような受け答えの後、柴山さんは一旦、舞台を退場。 本間さんの威勢の良い掛け声によって いよいよ芝居の本編がスタートした。 左右のモニターに映し出された3つのお題、それは『関西、墓参り、嘘』 まずは 柴山さんが登場し、舞台に設置されたブロックの一つを前に屈み おもむろに 手を合わせこんな題目を唱え始めた。 「ナンマイパー、ナンマイピー、ナンマイプー...」 あまりにもヘンテコなお題目の為、客席から笑いが起こる。 正に「つかみはOK!」というところか。 つまりはブロックは墓のつもり〜柴山さんは墓参りに来たつもりということで モニターを見れば 「墓参り」の文字部分が白から赤色に変化していた。 意表を点いた柴山さんに続き、本間さんもここで登場。 この状況を説明すれば姉のお墓参りに来た柴山さんは そこで姉の恋人であった本間さんとも出会う。(あるいは 本間さんが柴山さんを追いかけてきた?) 本間さんは 妹の柴山さんにも言い寄っているようで当の柴山さんも 姉に申し訳ないと思いながらも本間さんとの禁断の恋に身を焦がす...という感じでしょうか。 本間さんが舞台を捌けたところで今度は宮沢さんが 入れ替わりについに登場! こちらも白の衣装であった。 〜宮沢さんについては今回初めて生で見た訳ですが 彼女の関連サイトで見る 大人っぽい感じよりも 実際はぐっと可愛い感じの女性であったのが意外。 (最初は 高田万由子に似ているなあとも思いましたが) おまけに 身長は170cmぐらいでスラッとしていてスタイルも良い〜 その宮沢さんは 柴山さんの姉、つまり幽霊という役柄らしく 突然登場した姉の存在に 柴山さん(妹)は驚いているようだ。 ここで 大林映画ファンなら気づくだろうが これは あの映画「ふたり」の設定そっくりなのだ。だが 宮沢さんがおかしげな関西弁を喋っている事で映画ほどのシリアスさはここにはない。 なぜ 関西人でもないのに関西弁をしゃべるようになったか、 と柴山さんから問われればそれは あの世で出会った彼が関西弁だったからという もっともらしい言い訳....。 そこに今度は もう一人女性が登場。 衣装は 同じく全身白。 彼女が黒澤さんの代理の方なのか?それとも黒澤さん、ご本人? 名前も判らず 彼女の様子を伺うと彼女の役も宮沢さんと同じく幽霊らしい。 その女性は柴山さん、宮沢さんよりはちょっと年齢は上かな(苦笑)という 感じですが かなり濃いキャラな方でありました。 その彼女は宮沢さんをある事に誘いに来たという設定で なんと 現世の誰かを覗きに行くと言う。 二人とも この「覗き」が楽しくてしょうがないという感じで妹の柴山さん も ただ呆れるばかり。 ここに本間さんが戻ってきて 柴山さんを口説いたり、説得したりで 色々話は展開するのだが 最後のキーワード「嘘」が明かされる ことなく(と感じた)1話目は終了。 終了後、また黒ずくめ、MEN IN BLACKな本間さんがMCとなって 再び登場、先程の芝居の考察に入っていく。 そこで ようやく「あの世で 出会った彼というのは 嘘。もっともらしく 見せる為、関西弁までしゃべってみせたが これも妹が好意のある 自分の元彼と幸せになって欲しいという姉の精一杯の思いやりで あった」というような要旨説明で納得。唐突に芝居が終わっただけにやっと胸のつかえが下りた感じだ。 そして その本間さんの紹介で 宮沢さんが再登場。 次のキーワード『癒し系、海老、セールスレディ』の 説明を軽くされて 拍手の中、舞台を捌けられたのだった。 引き続き2話目のキーワード『癒し系、海老、セールスレディ』がモニターに表示され芝居が始まった。 まずは柴山さんが舞台に登場。改めて中央に配置されたブロック の近くに座り込み、何事か電話を掛けている。 場所は 柴山さんの自宅という設定らしい。 電話の内容から 相手は会社の先輩。そして 柴山さんは 仕事の失敗から会社をずっと休んでいるOLという役柄のようだ。 その先輩は柴山さんを励ます為に電話を掛けてきたということらしい。 やがて その柴山さんの自宅(マンション?アパート?)に近づく 不審な男性。もちろん 本間さんだが、柴山さん家の呼び鈴を押す前に 何事か 独り言をブツブツ。受け答えを練習しているかのよう。 その独り言からも本間さんはセールスマンを演じられているようだ。これはキーワードの「セールスレディ」への伏線ということなのか? ただ このセールスマン、口下手というか お人好しの性格が反映して 成績もイマイチ。 おかげでクビ寸前なので 玄関に出た柴山さんにも 土下座までして 泣きの一手で なんとか商品の説明までこぎ着ける。 しかし、これが余りにも胡散臭い商品。 例えば ダイエットに最適な飲料水。これはアフリカ奥地の海老が棲むアマゾン川の水を特殊の精製技術で云々..という全く意味不明でほとんど信用性ゼロ。 信用おけない商品の連発で あきれ顔の柴山さんも暇つぶしになればいいやぐらいで対応している感じだ。 セールスマン本間さんも 売り込む手持ちの商品もつき、不利な状況であることを痛感していたのでなんとか形成挽回を計って 携帯で会社に連絡。 なにか他の商品を持ってこさせようとういうことかだろうか? そこに現れたのが会社の同僚役である宮沢さん。 本間さんは商品を受け取る代わりに なんと宮沢さんを 「最新式のヒト型犬ロボットです」と紹介してしまうものだから さあ大変。 宮沢さんはもとより 柴山さん、観客もこれには唖然とするばかり。 当然、宮沢さんは「そんなの聞いていません!!」と本間さんに抵抗するのだが お得意の土下座と泣きの一手で会社に戻って違う商品を取ってくるまでの時間だけ 「ヒト型犬ロボット」として振る舞うことを渋々承諾してしまう。 そして当の柴山さんまでも 面白がって宮沢さんを「花子」という名前まで付けて「ヒト型犬ロボット」として扱う始末。 しかし、ロボットと言っても犬なので しゃべれる言葉も 「ワン ワン」のみ。 その為、受け答えは「Yes」は「ワン」。 「No」は「ワン ワン」と約束事を決めてコミニュケーションを 計ろうとする。 宮沢さんのポーズもここからずっと ずっとしゃがみこんだ”犬らしい”お馴染みのもの。 ある意味、ヘンなPlayを想像させる(苦笑)−首輪でも あったらアブなかった−構図でありますが 宮沢さんの 容姿と共にその犬に成りきった演技でヘンなイヤらしさは 無い。でも 犬らしく舞台で転げ回る宮沢さんの愛らしさに 会場の男性諸氏はイチコロであったのは確かです(苦笑)。 そんなところに現れるのが 1話で宮沢さんと同じ幽霊役を されていた方。今回は 先程まで電話で励ましていた先輩OL ということらしい。 この彼女、はじめは電話と同様に励ましていたものの 次第に馬脚を現したということか、自分よりも 若く、成績も 良かった「セールスレディ」の柴山さんに嫉妬心丸出しで 冷水を浴びせるかのような言葉を最後に あっという間に 舞台から去っていく。 この言葉で 勝ち気に振る舞いながらも、内心では落ち込んでいく柴山さん。 先輩OLとの様子を苦々しく見ていた宮沢さんは 柴山さんを犬ロボットであるというスタンスを 失わず、つまり「ワン ワン」だけで励まします。 そして 柴山さんから語られる自身の事。 「なぜか 最近、セールスの成績が落ち、一生懸命やっても 、いや やればやるほどうまくいかない。 こんなはずでは無かった。ほんとはこんな仕事、私には 向いていないのでは...」 二十代も後半になれば 柴山さん役のキャリア志向の強い 女性ばかりだけではなく 男性でも一度はぶち当たる迷い を芝居の中で表現していて このシーンは誰の心にも響いたに違いない。 そんな見せ場の後に、本間さんが再登場。 「ヒト型犬ロボット」は真っ赤な嘘であることなど またまた土下座しながら 正直に白状するが そんな事は柴山さんも先刻ご承知とばかりである。 (まあ あたり前ですが) ふざけて この「ヒト型犬ロボット」の芝居に加わって 申し訳なかったけど お陰でまた明日からがんばることが 出来そうだ。という見事 宮沢さんの犬型ロボット、 本間さんの同じセールスマンとして頑張る姿が「癒し」というキーワードにつながったのだった。 |
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