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舞台「コルチャック先生」鑑賞レポート

2001.9.9 日曜日



9月9日...そう言えば今日は「ナインティナイン」の日だったなあとふと思い出してみるが そんなことはどうでもよく本日は以前より楽しみにしていた「コルチャック先生」の舞台を見にいく日である。
とは言いつつも 今回のような大掛かりな舞台を見に行くのは意外と 初めてであるので内心は朝から少し緊張ぎみであった。
ただ自分も所属するOBs Club東海支部(大林宣彦監督のファンクラヴ)の支部長の方と一緒に行くということでなんとか平静を保ててはいたのだが....


そもそも今回「コルチャック先生」の舞台を見に行くきっかけは 林優枝(Hayashi Hiroe) さんという女優さんが出演されていたからなのであった。
林優枝さんは大林監督の尾道を舞台にした有名な映画作品 - 尾道3部作の 「転校生」(吉野アケミ役)、「さびしんぼう」(木鳥マスコ役)等に出演されていたことで我々大林映画ファンには非常に馴染み深い女優さんである。 今回ご一緒する支部長さんは今日の舞台に先立つこと2ヶ月前、大林監督も参加された 東京のイベントで林さんとお会いし、本日の舞台終演後、お会いするというお約束を取り付けていた為、私もぜひということでご一緒させてもらった次第である。

そういう訳で我々は名古屋駅、お馴染みのナナちゃん人形の下で早めに待ち合わせ 昼食の後、林さんへのプレゼントとして花束を購入する。
また林さんにお渡しするメッセージ用小型色紙と支部用にメッセージを頂く為の色紙も購入すると、ちょうど時間も開演40分ほど前。我々二人は地下鉄東山線に乗り込み会場である愛知厚生年金会館がある池下を目指したのだった。

しばらくして会場に到着すると入り口では軽く入場を待つ列が出来ていた。
思えば愛知厚生年金会館に来るのは来年、解散が決定した(!! )1991年のMr.Bigのライヴ以来ではないだろうか。正に10年ぶりとは驚きである。
入り口でチケットを係員に渡し入場を完了した後はまず自席確認の為、席がある 二階席に向かおうとするが 支部長さんは持参した花を預ける為カードに氏名などをしている様子。見渡せば そこは一面が花束や花などが納めれた籠がいっぱいでなにやら別世界に紛れ込んだようでもあった。

そして2階席に上がり自席を確認。我々二人はA列ということで最前列である。
私は3週間ほど前、チケットを電話予約したのだがその時点で最前列だった為、客の入りを心配もしたが ざっと見た感じではそんな心配も杞憂に終わりそうだ。
私は開演までの時間、林さんへのメッセージを色紙に書き残さなければいけないなど しなければいけないこともあり支部長さんの席横の通路に座りつつメッセージ内容について相談をしながら、しばし時間をつぶすした。
だが、芝居前ということもありなかなか気の利いたメッセージは思い浮かばない。
そんなこんなで開演時間も迫ったので とりあえずロビーに出てパンフを購入し 自席に戻った。場内が暗転するまでパンフをパラパラとめくってみると 出演者の欄に林さんの写真を発見! それによると「肉屋の女房」を演じられるらしい。
どのような役なのだろう? 舞台の本質にどのように絡んでいくのだろう?
衣装はどんな感じだろう?と色々想像しているうちにほぼ予定どおりの時間に 場内は暗くなった。

やがて舞台右端にスポットライトがあたり一人の男が浮かび上がる。
主役のコルチャック先生である加藤剛さんかと思ったら、ほぼ同時に始まったナレーションによるとイゴール・ネヴェルリィ=ジャーナリスト.... この物語の案内人のような役回りのようである。
そして一端 舞台が暗転して再びステージ中央の机に座った一人の男にスポットライトが当たる。
同時に始まったナレーションで やっとその男が主役のコルチャック先生=加藤剛さんであることが認識できた。どうもマイクの前に座って放送している場面のようだ。

文学者にして医師でもあるコルチャック先生は ポーランドの首都、ワルシャワにポーランド人とユダヤ人の孤児院を作り、孤児の保護と教育に力を尽くしていた。しかし、同じヨーロッパではナチスドイツが勢力を拡大しつつあり、その余波はここポーランドでも避けられず彼のラジオ番組「老博士のはなし」も打ち切りを命じられた....ということがこのコルチャック先生登場のシーンで語られている。
その後、木製の階段状の橋を基本セットとしながら場面転換を図りながら ナチスドイツ軍のポーランドへの侵攻と共に始まったユダヤ人への激しい迫害 の様子が舞台上で綴られていく。
そんな中、ユダヤ人ということでコルチャック先生と孤児の子供達は 高い壁と有刺鉄線で囲まれたユダヤ人居住区=ワルシャワ・ゲットーへと強制的に移住させられるというシーンでいったん、幕となった。

場内のアナウンスで15分後、第二幕開始と知らせている中、再び支部長さんの席付近に移り、林さんの出番をお互い確認してみる。なんとかまだ登場されていないようでひと安心。見落としてはいないようである。
そんな休憩時間もあっという間に過ぎ、第二幕開始を知らせるアナウンスの後、 場内は再び暗闇に包まれたのだった。



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第二幕ではゲットーへ移動したコルチャック先生以下、孤児院の子供達の苦痛に満ちた生活が舞台上で語られていった。
子供達は空腹の為にお互いいがみ合い、コルチャック先生に至っては 身分を隠し、変装して街に物乞いに出かけるまで身を落とす。
そしてコルチャック先生が物乞いに出かける街のシーンで いよいよ林さんが登場された!!
林さんご登場の前に、舞台では(変装された物乞いがコルチャック先生 とわかり、コルチャックファンの)肉屋の主人がコルチャック先生に肉を寄付するというシーンが展開され そこに林さんの台詞が舞台袖から聞こえてくる。 声だけでもすぐに林さんだと判る。
やがて台詞と共に林さんが舞台に登場。ついに自分にとって”初生(はつなま)”林さんである。
林さんが演じる肉屋の女房も主人と同じくコルチャックファンということで コルチャック先生に肉を差し出す−という演技をされている。
なかなか勝気な 正に旦那を尻にひいている感じは「さびしんぼう」の木鳥マスコの役柄に近いのかもしれません(あとで林さんご本人もそう感じられていたと仰ってました)いかんせん、二階席からはお顔がはっきりと見れなかったことだけは残念でありました...。

その後、舞台ではコルチャック先生の正体がドイツ兵のSSにばれ(ゲットーを無断で抜けだしている為)連行されるというシーンが演じられているが林さんも主人と共に舞台上で聞き耳を立て様子を伺っている演技をされているようだ。
そして 舞台は暗転。林さんの登場シーンはこれでひとまず終了してしまった。

それからのコルチャック先生と孤児院の子供達は、戦禍に巻き込まれ よりいっそう酷い生活を余儀なくされてしまう。力無い小さな子供達は毎日、毎日、何人か死んでいきコルチャック先生はそれを救うことの出来ない自らの不甲斐なさに怒りと悲しみに沈んでいく。(この加藤剛さんの演技は観客に涙を誘う。)
やがてコルチャック先生と子供達らユダヤ人に東部への移送命令が下る。
(−東部への移送は すなわちそれは”死”を意味する−)
コルチャック先生を助けようと、奔走する人々。
しかし、子供達を見捨て自分だけ助かることはできないとそれら助けを拒否するコルチャック先生。今回の舞台の見せ場でもある。

いよいよ東部への移送の日。
コルチャック先生をはじめ、孤児院の子供達はまるで死装束のような白い衣装を身にまといドイツ兵のSSが取り囲む舞台中央に行進してくる。
今まで舞台に登場していない子供達も含まれておりその数ざっと80人ぐらいか。 二階席から見てもその隊列は壮観である。
死地へ向かう旅でありながら まるで勝ち誇ったようなその堂々としたその行進は 監視しているドイツ兵にユダヤ人としての誇りを誇示しているようにも見えた。
輸送の家畜用の列車の前でコルチャック先生が 観客に向かって語りかけた.....。

そして静かに幕が降りていく。

沸き上がる拍手。
時間を置かず幕があがり拍手に応えるように 出演者たちが 何人かずつあらためて登場する。いわゆるこれがカーテンコールという ものらしい。
林さんも3番目あたりに手を振りながら登場された。
さきほどの出演シーンよりも舞台全体がとっても明るいので 二階席でも 林さんの姿がよくわかる。
最後に主役の加藤剛さん、ステファ役の榛名由梨さんが後方から登場され 全員集合となり よりいっそう激しく拍手が沸き上がる。
そんな拍手の中、再び幕となるが今度はすかざす幕があがり 二回目のカーテンコールとなった。
後ろの若手の俳優さんや子供達は所々でジャンプし、 やり遂げたという喜びを表現している。
考えてみれば 今日が1ヶ月に渡った全公演最後の日、楽日なのである。 他の日に比べても充実感、達成感は役者さんにとって深いものなのだろう。

こうして 舞台「コルチャック先生」は閉幕したのだった。






続く