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殿のハゼ釣り。遊漁券?! 2005年12月16日 |
先日,我がクラブの,6種目の鬼→虎→猫・・・殿が,川にハゼ釣りに行ったというので,「遊漁券はどうしました」とのご質問をさせていただきました。 殿曰わく 「何いってんの。えっー,金取られるの。それ,おかしいんじゃないの。どうして。何の権利があって。はぁー。だってさー,うぇー。セイ・セイ・セイ......」と,日本語なのかと思うような訳の分からぬことを申しておりました。 氏の言いたいことは分かります。が,一方では,キチンとした決まりがあるということも知っておかなくてはならないということだと思うのであります。 まず,川の漁業というものを知る必要があります。専門的には「川」というのではなく「内水面」というそうで,内水面漁業なんて言い方をしています。 内水面は,「海」と違って,一般の採捕者,遊漁者が多く,資源上増殖をしなければ成り立たない水面であるという性格を持っています。このため,内水面漁協は漁業権の免許をもって漁業を行うことになりますが,同時に漁協は資源の増殖の義務も生じます。このようなことを通して漁協さんに自治的に内水面漁業の管理をさせている格好になるんだろうと思います。 ポイントは,増殖義務が課せられて漁業権が免許されているところです。逆を言えば,増殖義務を果たしていなければ,漁業権は免許されないということになります。そしてさらなるポイントは,多くの遊漁者が利用することを想定して,漁協と遊漁者の間の決まり事として遊漁規則を定めなければなりません。しかもこの遊漁規則では対象とする魚種を明記する必要があります。 少々話が複雑になってきたので,整理し直しますと,漁業権は増殖義務を果たすことができる魚種に対して与えられて,これとリンクする遊漁規則も増殖義務が果たされなければ,その中に魚種として明記することはできない。増殖義務を果たすことのできない魚種は遊漁規則に入れることができず,遊漁料を徴収されることは無いということです。 つまり,遊漁規則が無い場合には遊漁料なんて有り得ないし,遊漁規則に明記された魚種以外のものを釣るのだったら遊漁料を支払う必要はありません。ちなみに遊漁料は税金として役所に取られると思っている人がいるらしいですが違います。漁協が徴収して増殖対策に使うのですね。 茨城県のある河川漁協の遊漁規則を見てみますと, 「コイ,フナ,ウナギ,ワカサギ,ヒガイ,エビ,ソウギョ,レンギョ,ウグイ,ニゴイ,アユ,オイカワ,ボラ,ハゼ,カジカ,陸封性マス」 となっています。 6種目の御大がどう主張しようと「ハゼ」はちゃんと入っているのです。したがって,釣りをするには遊漁料が必要となります。 そこで,素朴な疑問が湧いてきます。 「ハゼねぇ。ハゼの増殖なんかやってんの。ハゼの放流なんて聞いたことないぜ。」 おっしゃるとおり。ハゼの種苗放流は私の知る限りでもありません。でも,前にもK&Tで書きましたように,漁場の耕耘・水性植物帯の造成など,魚が再生産しやすい環境を創り出すことも増殖義務として認められます。 次なる疑問として,コイ,フナ,アユ,あたりは分かるが,ソウギョ,レンギョなんかは増殖義務を果たしているのかということ。これは,難しいですね。前述の漁場造成でカバーされているような気もするし,そうでないような気もする。ソウギョ,レンギョ自体なんかは迷惑な面もある魚といわれていますから,積極的に増殖するなんて意味がないかも知れない。 ソウギョ,レンギョは元来,日本固有のいわゆる在来種ではありませんでした。過去に,食料確保の観点から中国から輸入したもので,中国では「家畜」ならぬ「家魚」なんて表現をするような魚です。現在はその役目を果たし終えたと考えるのが一般的で,これらの魚に対しては増殖どころか駆除しようとするところもあるくらいです。このような,現実を考慮すると,遊漁規則に入れているのは果たして正しいのかとも考えてしまいます。グレーゾーンというよりもダークサイドでしょうかね。 しかしです。まだまだ,気をつけなければならないことがあります。 選択性のあるタックルを使っているかということ。エサ釣りで遊漁規則に入っていない魚,例えば,ブラックバスとでもしておきましょうか,それを釣りに行ったとすると,コイが釣れることもありますよね。バスを釣りにきたと言い張っても,タックルには魚を選ぶ機能はないので,他に証明することはできません。この場合は,遊漁料を取られても仕方がないと考えられます。ルアーならば別。コイが釣れることはまずないですから。スレで掛かったとしても,これは言い訳ができると思います。もちろん,すぐにリリースしなければなりません。コイなど釣る気は毛頭無いことを対外的に示す意味でも。 何よりもまず注意したいのは,トラブルを醸成させるようなことは避けることでしょう。ハゼで文句を言いたくなるのは分かりますが,漁業権魚種に指定され遊漁規則に明記されている限り,戦っても消耗戦(対象魚に対して増殖義務が成されているかどうかを争うことも可能ですが,こんなことで裁判を起こしてもくたびれるだけ)になるだけです。料金を徴収にきたら払わざるを得ないでしょう。 ただし,将来の問題として,多くの遊漁者が素直な疑問を持つことは良いことだと思います。 冒頭の「えっー,どうして。」は当然の疑問として持つべきで,これに対し,漁協さんは,キチンと説明すべきなのだと思います。HPを使えば簡単な分けですから,「これこれこうして,あれと,これと,それは増殖義務を果たしているから,遊漁で釣る場合には遊漁料をお願いね。」最低限,この程度のことは周知すべきと考えます。そして,昔は別として,現時点では増殖する必要のない魚については,遊漁規則から,はずすべきだと思うのです。見直しをすべきということ。 現場で,事実が伴わずしかも法的な理由を説明できない人が監視員として河川の見回りをすることは不自然だと思ってしまいます。 あくまでも個人的な意見ですけれど,内水面漁業の方々には「川の番人」としての大切な役目があると思っています。 川の漁で生計を立てている人はわずかで,実際のところ,川の漁や監視員報酬などによる収入はアルバイト料的なものに過ぎず,儲かる職業的なものではありません。河川の漁業者さんは,魚獲り好きが高じて組合員になっている人も多々いると聞いています。 ですから,遊漁料収入で儲けているなんてことはまずないといえます。数百人規模の組合員により組合を運営していく上では,様々な経費がかかりますから,遊漁料→組合に金が入る→組合員が儲かる,という図式は成り立ちません。組合員は年会費のような賦課金を組合に出しているのです。 川の漁業者さんですから,当たり前といわれれば当たり前ですが,網や仕掛けをセットしたり,漁のための水の色具合や水位など,川に出かけることが多いんです。つまり,川の漁業者さんは常日頃から川に接しているので川のことを良く知っているわけです。例えば,川に油が流れたり,シアンなどの毒性のある物質が工場から流れ出した時のような場合,魚のみならず環境に大きな被害を与えかねないのですが,このような危険な状況をいち早く確認・通報し,原因を突き止めたり,被害を食い止めるような活動をしたりしているのです。わずかな川の変化を察知して,予防的な措置を講じることだってあるでしょう。 このような人たちがいるからこそ,川は守られ,生物の多様性が確保できているといっても良いかもしれません。 一方で,冒頭の遊漁料の徴収にもあるように,いくつかの批判があることも確かです。河川工事があると補償が出たり,水を流したりすると迷惑料を払ったりと,開発がらみの何かがあると漁協にはお金が入り,儲かっているのではないかということです。このことについては,必ずしも漁協側が悪いとは考えていません。開発側の姿勢にも問題があります。面倒なことを避けたいがために,お金でケリをつけるところです。これが慣例化していることの方が問題なのでしょう。 以前,神奈川の○川○川漁協の組合長さんとお話しする機会がありましたが,その際の組合長さんの考え方・川に対する意識の高さに驚かされたことがあります。 「釣り人からは様々な要求がされている。彼らのなかには知的レベルの高い者がおり,川を管理する漁協がキチンとした経営を行っていないと問題視されかねない。したがって、漁協の健全経営は必然的なものと考えている。また,組合の事業のPRも必要である。このため,公的なイベントに参加したり,種苗放流の際にも役所の広報に事前に載せるなどしている。市街地を流れる○川では様々な形で川をいじられやすい。補償金・見舞金に惑わされると環境を悪化させることになりやすい。環境修復まで考えた工事や水の放流ならば受け入れるが,それ以外は河川環境を悪化させる原因ばかりだ。」 至極ごもっともであります。このような内水面漁協の姿勢が本来スタンダードとなるべきであり,今の時代に必要ではないかと考えます。 漁協は,公的団体では無いにせよ,私的な団体とも言えない準公的な団体なのですから,ある程度の透明性は持っていた方が良いのだろうと思います。そして,川を守るための組織活動を展開し,そのことを積極的にPRすべきだと思います。 さもないと,「内水面に水産業協同組合法の団体なんていらない。NPOで充分じゃないの。」といわれてしまいかねませんから。 私は思うのであります。法律のもとの立派な団体である漁協さんが,川守であり,川の番人であり,川の環境を大切にする人たちだと。そうでないとするならば,それは「漁協」ではないんじゃないかと。 |