笠井潔『バイバイ、エンジェル』(創元推理文庫)
◇あらすじ◇

 ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服をつけ、うつぶせに横たわっていた女の死体には、あるべき場所に首がなかった!

 こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。司法警察の警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件の謎を追う。

(文庫カバーより引用)


◇感想◇

 名前はよく聞いていた矢吹駆シリーズ。絶版だったようで手に入らなかったんですが、ようやく復刊されました。
 そういうわけで、かなり期待して読んだので、そんなに傑作とは思えませんでした。駄作とは言わないけれど。

 この作品を語る上で連合赤軍事件は避けて通れないようなのですが、この事件のことはあんまし知らないとゆうか語られること自体が嫌いだし(笑。なんか、おっさんのノスタルジーみたいで。ま、そういう「運動」とは無縁の世代のため、いまいちぴんときません。
 ですから、感想は推理小説的部分に限って書きます(正確に言うと、限ってしか書けない)。

 現象学的推理。これがこのシリーズの特徴の一つになってるんでしょうが、どうもよくわからない。と言うか、これは要するに違いがないんですよね、従来の探偵と。これは矢吹駆本人も言ってるんですけど。名探偵が正しい推理をできたのは本質直観のためだ、と。
 現象学的推理とは特に目新しいものではなかった。ただ名探偵の推理というものを哲学的に説明したという事にすぎなかった。この肩すかしがあまり評価できない原因かもしれません。

 トリックはなかなか面白いかと思うんですが、小粒の感は否めない。6つの謎に関する推理は良かったです。

 と、いったところでしょうか。まあ、著者がもっとも書きたかったのは最後の対決の場面なんでしょうが、最初に書いたようにぴんとこないし、時代的にもどうかなといった感じです。発表された当時ならもっと衝撃を受けたのかもしれませんが・・・。

(1995/6/19)

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