デファクトスタンダードのメリットなんて

インターネットやパソコンの世界は技術の進歩が速いので、いちいち標準化なんてしてられないぜ。ということで、デファクトスタンダード(既成事実化)というのが常識になっています。でも、ユーザーにとっては、なんのメリットもないのではないかなぁ。

去年の暮れに、56kb/sモデムの規格が統一されることに決まりました。これで、Rockwellが提唱していたK56flexと、U.S.Roboticsのx2という二つの規格が一つになって、消費者はどちらを買ったらよいか迷わずにすむようになりました。しかし、私も含めて既に買ってしまった消費者も多いはず。ROMのバージョンアップサービスを約束しているメーカーがほとんどですが、安いモデムは当然のように有償になります。プロバイダーも、既に入れてしまった専用の送信機を更新することになるので、出費になります。本当に、技術の進歩を速めるには、これだけの出費をユーザーに要求するのは当然と言いきれるのでしょうか。

似たことが、DVD(digital versatile disk)でも起きています。DVDはCDに置き変わろうとしている高密度な光ディスクです。多機能(versatile)というだけあって、音楽用、動画用、記憶装置用など、いろいろな仕様があります。音楽用については、すでに話がまとまりつつあって、今年の末にはソフトがではじめると言われています。これは、CDの7倍の容量があって、これまでの2チャンネルのステレオに4チャンネルを加えた、サラウンドシステムも使えるようになるだろうとのこと。また、CDで懲りた海賊版対策も規格に盛り込まれています。一方、記憶装置用では4.7GBの容量があるDVD-ROMについてはまとまっているようですが、DVD-RAMの仕様がもめています。これには、いまのところ2.6GBの規格があるのですが、さらにSony, Philips, Hewlett-Packardが提案している3.0GBのもの、Pioneerが提案している3.95GBのものが出ていて、まだまだ収束しないようです。このまま、DVD- RAMが規格統一を待たずに市場に出てきた場合、以前の3.5インチMOディスクと同様、買った途端に容量が倍の製品が出るということにもなりかねません。

DVD-RAMは少なくとも、規格をまとめようという意識がメーカー間であるので良いのですが、もっと勝手に進んでいるのがWebブラウザの世界です。インターネット・イクスプローラ(IE)とNetscape Navigatorの対決。これこそ、デファクトスタンダード争いですね。やり方はともかく、マイクロソフトはIEをスタンダードにしようとなりふりかまわぬ攻勢をかけています。ホームページに動画や音声などを組み込むマルチメディア機能については、非常に多くのソフトがプラグインとして出回り、スタンダードになったものはブラウザの機能として組み込まれています。一方で、ダイナミックHTMLの様な新しい技術については、プラグインではなくIEやNetscapeの機能として拡張されたので、それぞれで互換性がなくなってしまっています。ダイナミックHTMLを体験するなら、Netscpe Communicator 4.0ユーザーはこのページIE4.0ユーザーこのページをクリックしてみてください。ここで、Communicator 4.0を使ってIE 4.0のデモを見ようとすると、エラーメッセージが表示されます。また、IE 4.0でCommunicator 4.0のデモを見ようとすると、デモが始まらずに真っ白な画面になったりします。こうした機能を使わないでも、IEとNetscapeの間で見かけの違いがあるからか、いくつかのホームページでブラウザとしてIEを指定する所が出ていて問題となっています。こうしたデファクトスタンダード競争は、ユーザーにとってはなんのメリットもないので、互換性のないサービスは元から無いものとあきらめて勝手にやってもらうしかないのですね。ちなみに、今、どっちのブラウザを使っている人が多いかについては、ここをみるとよいでしょう。

だからなんだという結論は、例によってないのですが、技術の進歩を加速するデファクトスタンダードなんていう唄い文句は、テクノジャーナリストの言い分であって、消費者としては迷惑以外の何者でもないのです。結局、早く新技術を体験したい人はリスクを持って買ってみればよいし、別に構わない人は、決まってから買えばよいということでしょうか。多分、技術進歩の速さから言って、2年くらい待てば規格が固まるでしょう。もっとも、ブラウザ競争みたいに、IE 4.0でないと見えませんとか言うようなホームページは、迷惑だからやめて欲しいですがね。そんなところは、見てやらないというくらいの意志の強さがあれば、これからのデファクトスタンダード競争にも動じない消費者になれるでしょう。

1998.01.09
IEしかサポートしないホームページの中に入っていた、スタートレックサイトがネットスケープのブラウザにも対応するというニュースが出ています。「確かに正論だ」と思ったら、早速方向を変えるところがアメリカ人のバランスのとれているところです。日本のパソコンメーカーは、相変わらずIEバンドル版のWindows 95しか売らないつもりらしいし。私なんか、Netscape Communicatorのバンドル版があったら、そっちを選ぶかも知れない。ところで、ネットスケープしか使わんという人のことを、Netizen(ネティズン)って言うんですね。IEしか使わない人はなんて呼ぶんだろ。
1998.01.16
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