最後の1マイルはどれだろう

インターネットのスピードは幹線で40Gbps(1Gbpsは1kbpsの100万倍)に向かっていますが、一般利用者をインターネットに高速接続する方法には各種あって、これといった決め手がありません。特に、都市部から離れた利用者にとっては、ほとんど選択肢がない。利用者とインターネットをつなぐ線は、最後の1マイルといって大きなビジネスになるでしょうが、そのフィーバーの恩恵をこうむるのは、当分都市部の住人だけのように思えます。

家庭の利用者を考えた時、自分の家から、出来るだけ高速にインターネットにつなぐ方法には何があるでしょうか。今までは、パソコン通信の頃からの流れで、電話回線がそれを担ってきました。電話回線はよじれた二本の電線(撚り線)で電話局までつながれ、そこの交換機を通してプロバイダーのモデムに信号を送っています。この方法は電話回線に流す音の高低や位相を変えることで、56kbpsまでの信号を通します。最近になって、交換機の前に専用のモデムを付けることで、人間が聞こえないような高い周波数を同じ撚り線に流すことで1.5Mbpsまでの信号を通すようになりました。これがADSL[nikkeibp]です。しかし、撚り線では高い周波数の信号を遠くまで流せないので、この方法では電話会社と利用者の距離が長い郊外地域には適しません。それなら、もともと高い周波数の信号を通すのに適した同軸線を家庭に引けばよいわけですが、それをしているのがCATV会社です。

CATV会社は、自分の会社から利用者までテレビの信号を通していました。ですから、同じケーブルに高い周波数のデジタル信号を通す[nikkeibp]ことも出来ます。今のところ、日本で高速にインターネットに接続する一番安い方法はCATVではないでしょうか。ただ、CATV会社の持っているノード(家庭への信号分岐点)が近くになくては始まりません。また、CATV会社としても家庭まで同軸ケーブルを配線するのに必要な出費を考えると、一つのノードでできるだけ多くの利用者に接続しないと儲けがない。その結果、CATVは都市部のような人口密度の高いところでこそコストパフォーマンスが高いということになります。もちろん、電波の届きにくい山間部のCATVをインターネットに接続するということもあるかもしれませんが、これも利用者数によっては金次第ということになります。すると、電話サービスのように、あまねく全国平等に、高速なインターネットアクセスするという手は無いのでしょうか。

最近、高速データアクセスで話題になっているのは、携帯電話と電力会社でしょうか。携帯電話については、次世代(3G)と呼ばれる高速な通信ができるものが今年からサービスされます。ただし、モバイル(移動通信)のためのサービスを、あえて家庭のパソコンとインターネットの接続に使うというのは、料金的にも無駄が大きすぎるように見えます。他にも、無線によるインターネットアクセスには、スピードネット[speednet]のような形態もあります。最大1.5Mbpsの常時接続。ただ、このアクセス方法も、CATV同様、一つの接続装置で出来るだけ多くの利用者につなげないと商売が成り立ちません。そんなわけで、サービスエリアも都市部に限られていて、全国あまねくこれが使える日が来るかどうか定かではありません。無線アクセスについては、この先、高速化が進む[impress]でしょうが、人口密度の高い地域で商売になるという構造は変わらないでしょう。全国規模で使えて、料金と伝送速度から、アナログ電話回線やISDNの代わりとなれる無線アクセスは、いまのところPHSだけのように思います。地方に住む利用者にとっては、もう一つの、電力線を通したインターネットアクセスのほうが可能性が高いかもしれません。

電力線は誰の家にもつながっているので、一番簡単に普及しそうに思えます。既に、九州電力が試験運用[kyuden]しているようです。ただし、この記事にもあるように、近所の電柱から家庭のパソコンまで、そのまま引き込み線を使うのか、無線にするのか(スピードネットはこれ)、電話線にするのか、まだ議論があるように思います。世界的にも、電力線から家庭内の電線まで信号を通すことが出来るのかどうかは、懐疑的な意見もある[cnet]ように見えます。この理由は、他の家電製品が雑音源になって通信を妨害するという点にあります。CNETのニュースのように2.5Gbpsの高速伝送が可能なら、MPEG圧縮された映画をダウンロードすることも出来るでしょう。でもその最中に、古い冷蔵庫のコンプレッサーが回り始めて通信が落ちるという可能性も無いわけではない。一方で、IPv6が普及して、家電製品間のデータ通信が当たり前になったときに、わざわざ、全ての家電製品をイーサネットケーブルで結ぶのは現実的ではないし、一つ一つに無線通信機をつけるよりも電力線を通した方が理にかなっているように思います。だから、2.5Gbpsまで行かなくても1.5Mbps程度なら[cnet]電力線を通したインターネット接続は、理屈の上では十分にありそうな気がします。そのときには、家電製品を、すべて電力線LAN対応製品に置き換える必要があるかもしれませんけどね。

ガス会社についても、自社のトンネルにファイバーを引いて企業に貸す[nikkeibp]というような話が出ていますから、すでにある設備を利用してこの業界に参入するという意気込みはあるようです。電線にしろ、電柱にしろ、地下トンネルにしろ、いかにして自分の持っている設備を流用して利用者まで信号を通すかが勝負の鍵ということです。その点で、電話会社と、電力会社は、一番ゴールに近いといえます。一方で、逆に利用者の立場で見てみれば、ブロードバンドアクセスの地域格差が出来るだけ少ないサービスの普及が望まれるわけで、ここまでに出てきたメニューの中では、既存のインフラそのままの電力線を通した1.5Mbpsアクセスというのがおいしそうに思えます。ただ、この方式のコストが、人口密度に影響されにくいという仮定のもとですが。仮に、半径1kmを超える規模のLANを電力線で構築しようとすると、遅延時間が大きすぎて10Base5のような電線共有型のネットワークは無理そうですね。でも、100m以内のネットワークとなると、無線アクセスと同じ理屈になってしまうかもしれない。ブロードバンドアクセスというのは、人口密集地でないと商売にならないものなのでしょうか。

2001.5.3
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