デジタルテレビの通信端末度

今月の始め(2004年12月)に、突然テレビが壊れてしまった。もう、9年くらい使っているテレビなので、こんなもんかと思ったものの、毎日使う家電製品なので放っておくわけにも行かない。この際、テレビの無い生活にするかぁ、などといっても多数決で却下されるし。そこで、新しいテレビを買おうと電気屋にいったら、気がつかぬ間にテレビのラインナップが激変しているではないか。薄型ディスプレー地上波デジタル対応ハイビジョンテレビがずらり。でも、その中から私が選んだのは、端っこに申し分けなさげにおかれていたブラウン管の地上波デジタル・ハイビジョンであった。なぜって、薄型テレビは32V型(Vは表示範囲の意味だそうだ)で25万円を超えるが、ブラウン管なら同じサイズが10万円台で買えるから。さらに何万円か値切れたし。しかし、レガシーなブラウン管ハイビジョンとはいえ、我が家はいきなり、最先端のIT家電環境に突入してしまったのだった。

最近のテレビ事情に関して言えば、圧倒的に液晶ハイビジョンデジタル型が売れている[nikkeibp.co.jp]そうな。でも、なぜだろう。私に言わせれば、フルハイビジョン(1920×1080画素)でないテレビはハイビジョンではない(^_^)。そして、現在のところ、この画素数が表示できるのは、液晶でさえ37V型以上。プラズマディスプレイだと80型(おーっ)になる。32V型程度のお茶の間サイズでは、フルハイビジョンの薄型テレビは手に入らないのが現状(2004年末)だ。もちろん、画素数だけがハイビジョンではない、ブラウン管はちらつきがあるし、焦点も甘いだろうという液晶チームからの反論もあるだろうな。そうした反論に対しては、ふ〜ん、液晶は応答するのに30msもかかるの?サッカー中継のボールも映らんとちゃう?と言おう(^o^)。他にも、液晶はベタ黒が表現できないとか、プラズマは諧調が荒いとか、いろいろケチはつけられる。なのに、なぜか皆さんは薄型ハイビジョンを買いに走る。もう少し待てば、SED[canon.jp](Surface-conduction Electron-emitter Display)やFED[nanoelectronics.jp](Field Emission Display)という、究極の薄型ディスプレイが登場するかもしれないのに。何年先になるかは置いといて...。ま、ここは、一長一短ありますから、自分できれいだと思えたテレビがベストチョイスってことで、納得しましょう。それに、ボーナスたっぷりの皆さんに、液晶テレビを買っていただかないと、さらに薄型テレビは進化しないのも事実だし。冗談はさておき、こうした薄型テレビに興味のある方、私みたいに、既に買ってしまったけど納得したい方(^_^)には、日経BPの特集記事[nikkeibp.co.jp]が面白いです。

さて、今回は液晶とブラウン管の戦いが本題ではないのだった。どどーんと、奥行き50cmのブラウン管ハイビジョンとはいえ、表示以外の機能は液晶やプラズマディスプレイのハイビジョンと同じ。デジタル化されたテレビは、アナログテレビのような放送を表示する機械というよりも、通信端末に近い家電製品になっています。ある意味、放送も含めて4つのデジタル通信を受けられる端末といえます。一つは、通常の放送。二つ目はデータ放送、三つ目は電話回線、四つ目がイーサネットです。この内、通常の放送と、データ放送は同じ電波に乗って配信されます。地上波デジタルでは、1チャンネル6MHzを13のセグメントに分けて[wide.ad.jp]、それぞれ個別にも、束にしても使うことができます。例えば、まるまる13セグメントを使って、ハイビジョン(17Mbps)1番組とデータ放送(2Mbps)を放送することもできるし、同じ帯域を、通常の解像度の放送(5.5Mbps)3番組とデータ放送(1Mbps)で使うこともできます。つまり、放送とはいえ、13のパスを持つ下り方向だけの無線LANみたいなもんです。今後、1セグメントを、携帯電話へのデジタル放送に使うことも考えられています[nikkeibp.co.jp]。アナログ放送では、一つの放送局が1つのチャンネルで1つの番組しか流せませんでしたが、デジタル放送では、13個のセグメントを巧みに使って、複数のサービスを流すことができるのです。ここで、画像放送はMPEG-2で圧縮するので、ハイビジョン放送でも23Mbpsを全て使い切る必要はありません。そうして残った帯域にデータ放送を多重化して流しているわけです。

空いた帯域を使うデータ放送は、アナログ方式で言えば文字放送のようなものですが、情報量は桁違いに多く、また多様な使い方ができます。文字や静止画情報はhtmlの拡張版といえるBML(Broadcasting Markup Language)で書かれていて、テレビはWebサイトを丸ごとダウンロードするようにして、自分のメモリーに取り込みます。ダウンロードが必要なので、テレビのメイン電源を入れて、すぐにデータ放送を表示しようとしても出てきません。数分あとでやっと表示できるような感じです。その代わり、テレビの中に取り込んでしまえば、インターネットでWebを開くのよりは応答が速いですね。実際の放送では、割り当てられた帯域を全てBMLのダウンロードに使うわけではありません。ニュースや天気予報などBMLでダウンロードする方法を、カルーセルと言うそうですが、この他にも、あたかもテレビ放送のように動画をリアルタイムにダウンロードしながら表示していくPES(Packetized Elementary Stream)とか、BMLを番組の進行に合わせて能動的に操作していくイベントメッセージといった放送の方法があるようです。これらは、並行して表示することができて、例えば、1.5Mbpsのうちの1MbpsをPESに使って、残りの0.5Mbpsをカルーセルで使うというようなことをします。よくデータ放送で見かける、画面の一部に番組の絵が動いていて、他の枠の部分に天気予報が出ているような構成では、カルーセルとPESが組み合わされています。こうしたことができるのもデジタル放送ならではです。当然、動画を表示すると帯域が重たくなりますから、文字データがなかなか表示できないという現象も起きます。データ放送の技術情報に興味があればこちらのリンク[dekiru.tv]が良いでしょう。

データ放送は、インターネットで言うWebに似ていますが、大きな違いは双方向ではないということです。もちろん、地域をテレビに登録すことで、その地域のニュースや天気予報のページを自動選択する程度の、擬似双方向性はありますが。少なくとも、文字を入れたり、ボタンを選択することでサーバーのデータにフィードバックするようなメニューはありません。こうした、双方向性のニーズは当然あるわけで、すでに、一部の放送局では、データ放送にインターネットを通した通信機能を組みあわせて[nhk.or.jp]、双方向サービスも始めています。もちろん、これを使うにはLANポートにイーサネットケーブルをつける必要があります。こうしたインターネット経由の通信を加えることで、コンテンツの種類やファイルサイズに自由度が広がります。NHKの場合、簡単なゲームもできるようになっています(Javaだろうか)。もちろん、まだテスト段階のようで、双方向のサービスを積極的に使った機能が使い切れているとは思えません。多分、この先、これまでの電話回線を通した視聴者参加番組が、インターネット経由の参加番組に変わっていくと思います。もちろん、この場合、相手が特定できませんから、何らかのユーザー登録をさせることになるでしょう。一方で、テレビによっては、テレビ局と無関係な、Webブラウザ機能も搭載されています。

私の買ったテレビには、Tnavi[tnavi.net]という機能がついています。これは、松下が提供している、テレビに限定したインターネット経由のWebサービスで、他社[tnavi.net](Sony以外?:笑)のデジタルハイビジョンテレビで、リモコンにTnaviのボタンが付いていれば対応しているようです。リモコンで、これを選択するとポータルサイトにインターネット経由で接続します。画面の表示の仕方や操作は、ほとんどデータ放送と同じですが、やっていることはインターネット経由でホームページを閲覧しているのと同じです。(パソコンからも同じサイトを見ることができますが、テレビの縦横比表示になります。)イメージ的には、携帯電話向けサイトのテレビ版です。基本は、Webですからサービスも双方向になります。例えばフォームから文字を入力することもできます。ページのデザインやメニューの選択といったインタフェースがちがうだけで、提供されているコンテンツ[tnavi.net]はインターネット上のWebと同じです。例えば、ニュースサイトであればasahi.com、電車の経路検索であれば乗り換え案内、地図情報ならマピオン、天気はWeather Eyeといった具合です。他にも、占い、ショッピング、保険会社にいたるまで、Tnaviを運営している会社が選んでいるとはいえ、数はそろっています。ちなみに文字入力が必要な経路検索の場合、駅名などは漢字で入力します。方法は携帯電話と同じで数字キーを数回押すことでかな入力し、方向キーで漢字変換します。これは、携帯電話とほとんど同じなので、普段、携帯電話でWebを見たりメールを送信している人には、ぜんぜん抵抗がないですね。ちなみに、メールをインターネットとやり取りしたいときは、今のところhi-ho[hi-ho.ne.jp]にお金を払って入会するしか方法が無いようです。ちなみにパナソニックのプロバイダです。囲い込み?(^_^;

ただ、テレビのインターネット接続は、データ放送と同じインタフェースであるがゆえに、サイトの応答が遅いのが逆に気になります。普段、パソコンではページの表示を待つのは何のことも無いのですが、テレビだとなぜかすぐに画面が切り替わるのが普通だと思ってします。まさに、チャンネルを変える応答を期待してしまいますね。こうしたスピード感は、今後、FTTH経由でIP通信を使って、テレビ放送を見るような場合に、もっと感じてしまうかもしれません。IPを通すということは、一つのチャンネルのデータしかパソコンに流れてきません。チャンネルを変えるということは、サーバーに流す画像を変えるように信号を送って、サーバー側がどのファイルを流すか切り替えることになります。電波を使った放送の場合は、見ていないチャンネルの画像データも受信していて、テレビがそれを切り替えるだけなので、瞬時にチャンネルを変えることができます。同じファイバーを通して放送を配信する場合も、BPONやGPONのように特定の光の波長で、全ての放送信号を垂れ流しておいて[itmedia.co.jp]、デジタル放送のチューナーでそれを選択する方法が向いているでしょう。一方で、VODのように、ビデオを鑑賞するような使い方だと、頻繁にチャンネルを変えることも無いので、IP信号を使っても違和感はないでしょう。

さて、デジタル放送、データ放送、インターネット経由のデータ放送、Webサービスと、いくもの通信手段を提供するデジタル・ハイビジョンテレビですが、これって見ようによっては、サービスがかぶっていて使いこなせないのではないかと思っちゃいますね。結局、最後は使える機能が生き残るんでしょうか。それとも、さらに将来、FTTHやADSL経由のビデオ配信機能までビルトインされるかな。ついでに、ゲーム機やDVDレコーダーも入れちゃおうか。しかし、ここまで来て気が付くのは、機能が増えるのはいいが、ディスプレイが一つしか付いてないって事だったりして。昔のチャンネル争いが、今度はコンテンツ争いになる?うーん、デジタル・ハイビジョンテレビは、一人に一台買わないとだめ?そうか、究極のデジタルテレビはパーソナル通信端末なのか。それにしちゃ、でっかいけど。

2004.12.25
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