IPv6界の居心地はいいだろうか

NTT東日本がフレッツユーザに提供している、FLET'S.Net[flets.com]というサービスを使い始めました。これは、IPv6ネットワーク[atmarkit.co.jp]で、Windows XPのパソコンを持っていれば、簡単に始めることができます。利用料金も315円/月とお手軽なので、IPv6に興味がある人に向いています。もっとも、現在(2004年12月)のところ、外部のインターネットには繋がっていない、閉じたネットワークです。これは、訳もわからず使っているIPv6初心者には適切だとは思います。

このサービスを始めるには、flets.comサイトから「FLET'S.Netスターターキット」[flets.com]というソフトをダウンロードして契約します。(NTT東日本のフレッツ・ADSLかBフレッツを使っている人で、Windows XPの利用者であることが条件になります。)このソフトは、懇切丁寧にガイドしてくれます[rbbtoday.com]。丁寧すぎて時間が掛かりますが、途中で止めても、再起動すると続きから始まるので、まぁ許せます。注意点としては、始める前に、フレッツにつながったときにNTTから送られてきた、開通案内の書類(重要な書類とか封筒に朱書きされたもの)を用意することです。あの、とても暗記できない「お客さまID」と「アクセスキー」が必要です。ハード的には、NTTお勧めのルータを使っていれば、なんの問題も無いですが、私の場合は、一世代前のブロードバンドルータなので、ONUからのケーブルをつなぎ替える必要がありました。FLET'S.Netの利用を考えている方は、ベンダのホームページに言って、FLET'S.Netで使える機種かチェックした方が良いでしょう。ここで言う、つなぎ替え(接続構成の変更)というのは、IPv6の信号をルータを通さずにパソコンに通すための作業です。具体的には、ONUやADSLモデムからのイーサネットケーブルを、一度ルータのスイッチングハブポートに入れ、それを改めてルータのWANポートに入れます。こうすると、ハブの空きポートか無線LANにパソコンをつなげば、フレッツ網からきたIPv6のパケットを、ルータを通さずに受けられるようになります。通常のPPPoE信号は、WANポートからルータで処理されて、再びスイッチングハブ(無線LAN)に戻ってきます。ちょっとトリッキーですが、ハブにはWANからのPPPoEパケット、IPv6パケット、それにルータが変換したIPv4パケットが出てきます。もっとも、スイッチングハブなので、全部が混じってパソコンに流れるわけでもないですが。

めでたく契約が完了すると、flets.netというポータルサイトに接続できます。このサイトは、インターネットからは接続できませんし、フレッツ利用者でも、FLET'S.Netに契約していないと(つまり、IPv6のアドレスがもらえないと)見ることができません。ここで、ファイル交換とか、インスタントメッセンジャー、ビデオコンテンツなどのサービスが[flets.com]利用できます。試しにビデオコンテンツを表示しながら、ルータのLEDを見ていると、ONUやLANのランプが忙しく点滅しているのに、ルータのWANランプはピクリともしないのが分かります。つまり、LANにあるパソコンから、スイッチングハブを通して、直接、IPv6のネットワークに繋がっているということです。無線LAN経由の接続についても、特に問題は起きていません。もう一つ、flets.netのホームページにつなげると、自分のFdNネーム[flets.com](ハンドル名)が表示されているのに気が付きます。私のホームページの掲示板も、一度書き込んだ人はハンドル名が勝手に表示されますが、これはクッキーを使って認識しています。flets.netの方は、そういうログイン動作をしていないので、つないだ人のIPアドレスから、本人を特定しているのだと思います。以上の話をまとめれば(^_^;、ルータを通さないネットワーク接続と、本人が特定できるIPアドレスが、IPv6の特徴と言えます。これは、一見、大した話ではないかのようですが、ある意味、これまでの常識を無視しているので、使っているとなんか不安を感じさせます。

まず、ルータがいらないというのは、IPv6では全てのLANアダプタにIPアドレスがつけられるからです。誤解していけないのは、パソコンにIPアドレスがつくのではなく、LANアダプタにつきます。というのは、LANアダプタのMACアドレスを使ってIPアドレスを作るからです。もちろん、匿名性が要求される用途ではランダムに作る方法もある[ipv6style.jp]ようですが、普通はIPアドレスの半分にはMACアドレスが入っています。これは、上のrbbtoday.comのリンク[rbbtoday.com]にも出ていましたが、IPv6につないだ状態で、Windows XPのアクセサリにあるコマンドプロンプトを起動し、ipconfigと入力すると確認できます。LANで取得したプライベートアドレスの下に、16進数表示の入った、妙に長いIPアドレスが表示されるでしょう。なお、ついでに言えば、IPv6アドレスは3箇所に表示されますが、下の方に2つ表示されるのは、自動的に作られたローカルアドレスです。こちらは、IPv6プロトコルをネットワーク接続コントロールパネルのアダプタに加えるだけで作られます。さて、話を戻すと、LANアダプタにつくということは、複数のアダプタがあると、登録時に通信していたアダプタだけがFLET'S.Netで使えるようになるということになります。私の場合、無線LAN経由で登録したので、パソコンの有線LANポートをスイッチングハブにつないでも、FLET'S.Netには繋がりません。もちろん、追加料金を払えばこっちにも割り当てることができますが。

気をつけなくてはいけないのは、持ち運べるカード型やUSB接続型のLANアダプタの場合、パソコンを選ばないということです。例えば、今後、IPアドレスだけで認証するようなサイトが現れた場合、外せるアダプタは盗まれると危険ということになります。これは、お財布携帯電話と同じような危険性を持っていますね。それに、持ち運べることはIPv6のメリットでもありますが、逆に、つないだだけで居場所が割れるので、個人情報の保護はどうなるのかということもあります。例えば、今後、ホットスポットと呼ばれる無線LANを公衆の場で提供するサービスがIPv6に対応すると、その人の位置を割り出すことができます。電気通信事業法の範囲で守られるとは思いますが。さらに、IPv6の恐ろしいところは、名前がばれると、そのIPアドレスにトラフィックを集めて通信を邪魔させるとか、インスタントメッセージの嵐をあびせるとか、幾らでも意地悪ができることです。なんせ、そのIPアドレスが、その人の居場所であるということが前提のネットワークですから。そうですね、自分のアドレス(ドメイン名)は電話番号と思ったほうが良いでしょう。でも、ついつい、インターネットにそれを書いちゃう人が出てくる可能性も大きいかも。

ルータは、IPマスカレード[ascii24.com]を使って一つのグローバル・アドレスを複数のプライベートアドレスで使いまわすので、プライベートネットワークのパソコンを守るという機能もありました。したがって、ネットワークを遅くするルータは不要だと感じる人と、一方で、セキュリティの面でNATが欲しいという人も多いようです。インターネットに、全てのパソコンが直結するという状態は、私にも不安を感じさせます。ルータを挟むことで、ポートスキャンでパソコンのセキュリティホールを探って、プライベートネットに入り込んでくる、いろいろなクラッキングの手口を、初期の段階で避けることができます。しかし、パソコンで直接受けるということは、そうしたルータの壁が使えないので、パソコンのファイアウォール機能だけが頼りになります。これには、使う人が責任をもって自分のパソコンに入れたWindows等のOSのセキュリティホールをメンテする必要があります。電源入れっぱなしの、ずぼらな人のパソコンが乗っ取られて、次のクラックに利用されるような問題が出ないとも限りません。そもそも、コンピュータウイルスがこれだけ消えないということは、同様の問題がクラッキングで発生して悩みの種を増やすことになるでしょう。こんどは、パソコンのファイアウォールソフトが必須になる。また出費ですね。

FLET'S.Netの良いところは、インターネットに繋がっていないことです。例えば、自分のFdNディスクにホームページを作って、FLET'S.Netの利用者に公開することもできますが、インターネットからは参照できません。ある意味、プライベートネットワークなのです。これは、比較的安全ですが、同時に寂しいことでもあります。flets.netポータルの掲示板を見ても、アクティブなメンバーは居ないようですし。一人で飛び込んで、掲示板にレスをくださいと書いても、何の応答も無いという状況ではね。利用者も少ないのかもしれませんが、ここの利用者は、不特定多数とのコミュニティを作るというよりも、仲間だけでFdNネームを公開しあって、その中のプライベートなコミュニケーションのツールとして、IPv6を使っている可能性が高いと思います。さらに言えば、ここにFdNネームを公開するということは、誰からも、一方的なコミュニケーションを求められる可能性がでるということでもあります。つまり、下手をするとストーカーのターゲットですね。インターネットの匿名性というのは、昔議論になりましたが、私は、匿名性が不特定多数の間のコミュニケーションを良くも悪しくも、育ててきたのではないかと思うのです。IPv6は匿名性があるようで、無い世界です。つまり、IPv6のネットワークは、本来、プライベートな用途に向いているということでは無いでしょうか。

一番身近なプライベートなネットワークというのは、携帯電話ですね。電話帳に登録した番号だけのプライベートネットワークです。そして、IPv6はIP電話の普及とも関連すると思います。個人のIP電話利用者数はネットワーク利用者の27%程度[ns-research.jp]いるということで、これは460万人に相当します(2004年8月末時点)。面白いことに、その7割はYahooBBの利用者のようですが。実際にIP電話を使っていると、常時接続しておくことが安定に使う条件のように思います。つまり、これは、DHCPで動的にグローバルIPアドレスを割り当てたとしても、実際には、常に誰かに使用されているという状態になります。これでは、固定で使っているのと同じですから、IPアドレスがなくなる恐れが出てきます。そこで、電話一台ごとにグローバルアドレスが割り当てられる、IPv6が必要になります。ある意味、IPv6は、こうした知り合いの間のコミュニケーション(あるいは企業のLAN)に向いている仕組みのように思えます。多分、IPv6が普及してくると、インターネットの掲示板を使ったり、メッセンジャーを使うために、IPアドレスを匿名化する技術が使われることになるでしょう。つまり、利用者をトレースしにくくしてコミュニケーションを助けるサービスです。

商売の面では、相手の端末を特定することで一対一の通信が要求されるVOD配信[nikkeibp.co.jp]などが、今後、普及するでしょう。なんせ、テレビにも、LANアダプタがつく時代です。もちろん、テレビ電話なんかも[nikkeibp.co.jp]一般的なIPv6アプリケーションでしょうね。こうしたサービスでは、利用者はIPアドレスを気にする必要はありません。でも、知らないうちにテレビがクラッキングされている可能性もありますね。何を見ているか、全部筒抜けだったりして。IPv6が普及する過程で、こうした、何らかのプライバシーに絡んだ問題が出てくる予感がします。ま、それまでは、インターネットに繋がるIPv6ネットワークに飛びつかずに、FELT'S.Netのようなサービスを利用してIPv6を遊びながら慣れていくのが良いのかも。できれば、お友達を誘って(^_^;。

2004.12.11
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