電力線LANの居場所はあるか

電力線を使った通信[plc-j.org]は、電力会社が家庭へインターネット接続を提供する方法として研究してきたものでしたが、無線通信との干渉の問題で解禁されないでいます。最近、屋外が無理でもまずは家庭内で使おう[impress.co.jp]という動きが出てきました。コンセントにつなげば、イーサネットケーブルや無線LANを入れなくても、200Mbpsの通信ができるという、かなりエンドユーザーにメリットがありそうなストーリーです。とは言うものの、実際に自分の家に入れてみることを考えると、今ひとつ、これが将来の日本の家庭内LANに普及するだろうかと、疑問を感じてしまいます。

電力線通信は、電柱から引き込んでいる電力線に信号を通してインターネットにつなごうという技術です。電話をつないでいない人でも、電気は通しているのが一般的ですから、それを使えば、一気にインターネット接続が普及するというストーリーです。ただ、もともと50Hzや60Hzの交流を通す設計の電力線で、2Mから30MHzの変調信号を使って200Mbpsの通信をしそうというのですから、かなりハイテクな技術です。これは、音声周波数(300〜3,400Hz)を通す目的で張られた電話線で、148KHz〜1,104KHzの変調信号を使って8Mbpsの通信をしているADSLとは、無理のレベルが違うようです。なかでも、送電線を使うと、信号を送るのに使う1対の電線の距離が離れているので、アンテナと同じ様に変調信号を電波として空中に飛ばすという問題があります。この電波が、無線通信と干渉するので、この技術を実用化することができないでいました。しかし、これは電柱に張られた電線を使うから問題なのであって、家屋の中の電力線を使えば、家の外には電波は出ないだろうというのが家庭内電力線LANです。もちろん、日本の木造家屋では多少は電波は漏洩するでしょうけどね。

かりに、家庭内に通信を限ることで無線通信との干渉が解決しても、家庭内で電源配線LANを実現するには屋外と同様に、目的の違う配線で通信するという問題はつきまといます。たとえば、電気で高速に通信するには、その配線が何オームでグランドに接続しているかというインピーダンス設計が必要になります。しかし、家庭内で使われている電化製品は、そんな信号を通すために電源が使われていることなど、全く考慮しない設計になっています。多くの電化製品が並列に接続されている家庭内の電源配線では、家電製品のスイッチをオン・オフするたびにグランドへの抵抗値が変わるので、そうしたインピーダンスの設計が難しくなるでしょう。また、電力線LANを前提としない既存の家電製品は、通信で使う周波数を考慮した雑音防止設計をしていないので、何かの電源を入れると通信速度が落ちてしまう、というようなことが起きるかもしれません。いずれにしても、すぐにはいれずに、しばらく様子を見たい技術です。

セキュリティの面でも疑問があります。無線への干渉が問題になるということは、漏洩した電波を通して通信をモニタできる可能性があります。家庭内と外部とのネットワークの分離もできるのかも心配ですね。ちゃんとした、通信対応の分電版を使えば[impress.co.jp]外部に信号を漏らさないようにフィルタが入っているでしょうが、電気屋からモデムを買ってきて自前で家庭内LANを構築した場合、同じアパートの隣人にインターネット接続を使われてしまう可能性もあるのでは。もちろん、家庭内の電力線通信は暗号化するでしょうが、無線LANのように通信チャンネルを分けるということがなければ、もれてきた隣の家の通信は雑音になるわけで、これも通信速度を落とす原因になります。それでも、きちんと対策すればよいとも思えるのですが、分電版を変えて、ルーター、パソコン、テレビとモデムを買い揃えていくことを考えると、これはこれで出費ですね。

電力線通信を家庭内LANで使うということは、コンセントで100BaseTなみの速度の通信ができるという斬新さとは裏腹に、新しい技術であるがゆえに、言い値のパフォーマンスがでるのか、セキュリティは大丈夫なのかという懸念が出てきます。無線LANも家庭内では障害物となる壁の影響で、パフォーマンスが言い値の1割程度になったりするし、セキュリティも万全ではありません。しかし、無線LANはさんざん使われてきた技術です。今では、無線LANルータを買って電源を入れれば、最低のセキュリティは確保できる設計になっています。では、将来的に使いこなされるようになれば、誰もが電力線通信を使うかというと、その頃の家屋では、最初から各部屋に100Mbpsや1Gbpsのイーサネット配線がされるようになると思うのですね。

遅れてきたハイテク技術という感じがする電力線通信ですが、はたして誰もがコンセントにパソコンをつないで通信する日が来るのでしょうか。私としては、それよりも、イーサネットケーブルでルーターと部屋を結び、さらに、部屋ごとにIEEE802.11a(.11gではない)の54Mbps無線LANを置いてケーブルなしで高速通信するほうが、おいしい環境だと思います。これは、もはや趣味の違いかもしれませんが。

2005.3.21
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