Page-unknown-y&n1st

戻る

学園もの de 行ってみよう
ユウロス と ナッキャ編 1st
 
 

 夕刻 学院内の図書館
「もうこんな時間か」
 そう言って 置いていた懐中時計を内ポケットに入れて
「でわ 帰るか」
 ユウロスが自分の学校指定の小型の鞄の中にノートや筆記用具などをしまい込み席を立ち上がった

 一学期の期末テストも近く 暑い日が続く 彼が図書館から出てきて校門の前まで来たときに聞き慣れた声がかかった
「ユウロス 今帰るの?」
 ユウロスは立ち止まり振り返って
「ああ 今帰るところだ」
 彼の目の前には彼のクラスメイトであるナッキャが大きな鞄を片手に立っていた
「駅まで一緒にいい?」
「ああ 別に構わないが」
 とくに表情を変えるでもなくユウロスは答え 2人は校門を出た

「もう期末テストも近いね」
 ナッキャの言葉にユウロスは
「ああ」
と 無感動に答えた
 ナッキャはちょっと困惑の表情を見せていたが再び
「そう言えば ユウロス中間テストはどうだったの?」
「国語以外は90点台だが何か?」
「ええっ」
 ナッキャは自分が中間テストで取った得点を思い出しユウロスのそれと比べていた そして口から
「ユウロスって 頭いいのね」
 即座にユウロスは
「それは違うな たかだか高校のテストごときに頭の良さは関係ない 必要なのは暗記力程度のモノだあとはいかに応用を利かせるか それだけのことだ」
「そ そうかな ・・・」あ でも 当たってるかも

 結局ナッキャが一方的に話しかけただけでユウロスから話しかけることもなく駅に着いた
「じゃあ また明日」
 改札を抜けたところでユウロスはそう言ってナッキャから離れていった
 

 翌日 朝
「お早う」
「ああ お早う」
 ナッキャの挨拶にいつもの如く返事をしたユウロスは右腕を頬杖にして本を読んでいる
「なんの本?」
「空想科学小説に見る科学の歴史」
「難しそうね」
「内容自体は難しい訳じゃないさ どちらかと言えば軽い内容の本だよ」

 そんなこんなで放課後
「ナッキャ 今日は部活は?」
 あまりにも珍しいユウロスからの質問に一瞬止まるナッキャ
「どうかしたか?」
「えっ あ 今日からテスト一週間前だから部活はないの」
「もうそんな時期になったのか」
「さっき先生も言ってたでしょ」
「聞いてなかった」
「もー」
 ユウロスに小言を言いながらいつもの大きな鞄ではなくユウロスと同じ学校指定の小型の鞄の中に教科書やノートを詰めていく
「そうか では今日は」
と ユウロスが今日のこのあとの予定を言いかけたとき
「ねえ 勉強教えてよ」
「・・・何で私に?」
「ユウロスってテストで良い点取ってるから」
「悪いけど今日はだめだ 明日以降ならいいけど」
「何かあるの」
「うん ちょっとね」
 そう言ったユウロスの表情はどこか陰のあるものだった
「でもユウロス 明日は土曜日で学校休みだけど」
 言われてから明日が休みだと気が付いたユウロスは
「どうしようか?」
「じゃあ 私があなたの家に行くわ」
「電車代ある?」
「そのくらいは・・・」
 ナッキャの口の動きが止まったのが気になったのかユウロスは
「どうしたの?」
「ユウロス 普通はねえ・・・」と ユウロスに言ってもねぇ・・・「やっぱりなんでもない」
 ナッキャが彼の家を訪れるというのに驚きもしなかったユウロスに説明しても無駄だろうなと思い説明を諦めるナッキャであった
 その彼は時計に目をやるなり
「ごめん そろそろ行かないと 明日朝電話して」
 そう告げるとユウロスは鞄を片手に飛び出すように教室から出て行った
「もう」
 教室から出たナッキャを待っていたのはクラスメイト達の質問攻めであったのは言うまでもない だからといってユウロス同様にそんなことには疎い方であるという事実には本人は気が付いていないのであった

 その夜 ナッキャの寝室
「あした ユウロスの家に行くのかぁ・・・ え?」 ユウロスって確か下宿してるって・・・「じゃあ ユウロスのとこにはユウロス一人しか住んでいないの?」 もしかして・・・「ユウロスと2人きり?」
 そんなことを考えてかその夜しばらく眠れなかったナッキャであった
 

 翌日 朝
「はい もしもしユウロスですが ああナッキャか 今から家を出る? 分かった ○急岡○駅の改札口で待ってるから え?J○で来るの? じゃあ甲○山手駅で降りて 改札で待ってるから うん じゃあ」
 受話器を置いたユウロスはお気に入りのゲームの曲を書き込んだCDの音を出しているスピーカーのボリュームを元に戻した スピーカー中でこもるでもなく部屋中に響きわたるでもないていどの音量で部屋の中に広がる そして時計に目をやり
「あと40分ぐらい後に行けば大丈夫だな さて」
 冷蔵庫を開けたユウロスは冷やしていた麦茶をガラスの容器からお気に入りのコップに注ぎ一口飲んで容器を戻し冷蔵庫の中を見渡す
「ついでに買い物にも行くか」
 冷蔵庫を閉めて コップに残っていた麦茶を飲み干して自分の寝室へ
 寝室からで出来た彼は その緑みを帯びた白く長い髪をまとめなおし 財布をウエストポーチに入れて 音楽をそのままに鍵をかけて買い物へとでていった

 42分後 J○甲○山手駅
 ホームに降りたナッキャは辺りを見渡し 改札口へと足を進める
「ふーん」神○市内なのかぁ
 ホームから階段を下り 小さな改札の向こうに 彼が買い物袋を持って待ちぼうけていた その彼もナッキャに気づく

「どのくらい待った?」
 改札を抜けたナッキャはユウロスにそう言った
「10分程度だな じゃあついてきて」
 買い物袋を持ったままのユウロスは駅から線路の南側へ出る ナッキャもその後をついて行く
 横断歩道を渡り 少し歩いて右へ曲がり 左手にあるマンションに入って行く
「ユウロス 下宿って言ってなかった?」
 マンションに入ったユウロスに 変に思ったナッキャが言った
「ああ 私のおじさんの所有なのだが おじさんがイギリスに転勤になったから 好意で使わせてもらっているんだ」
「へえ」
 何となく納得したナッキャ
 2人はエレベーターに乗った ユウロスがスイッチを押しエレベーターが上がる
「自炊してるの?」
「ああ さすがに料理のレパートリーも増えたよ」
 ナッキャの質問にいつも通りさらりと答えたユウロス
 5階でエレベーターが止まりユウロスに続いてナッキャも降りた
「こっち」
 そう言ってユウロスはエレベーターホールから通路へ出る その通路の奥まったところにある扉の鍵を開け
「ここが今の私の家だ」
 言いながら玄関の戸を開いた 中から流しっぱなしのゲームの曲が聞こえてくる
「おじゃまします」
 ナッキャもそう言って上がった

 ユウロスは買い物袋の中身を冷蔵庫の中へ入れる
 側で辺りを見渡していたナッキャがどの部屋もきれいに片付いているのを見て
「あまり散らかってないのね」
「客が来るというのに 散らかしている訳にもいくまい」
 冷蔵庫に野菜を入れながら答えたユウロス
「ねえ あの壁に掛けてあるのは何? アニメに出てきそうな道具だけど」
 ナッキャは隣の部屋の空いている物入れの扉の中に除いている物を指していった
「あれは BB弾を発射できるエア・ライフル ただし違法改造してフレームも自作したものだけど」
「は・・・ぁ 趣味?」
「ああ そうだよ 撃ってみるか?左利き用だけど」
「怖くない?」
「大丈夫だよ」
 ユウロスは冷蔵庫を閉めてエア・ライフルを置いてある物入れの戸を開いて 取り出した ユウロスの身長近くもあるエアライフルをテーブルに置き 物入れの同じ棚の中にある弾倉をチェックして入れバッテリーを入れ ガスを補充し
「まださわらないでね」
 そう言って 隣の部屋の隅に的を用意し 戻ってきたユウロスはエア・ライフルを構えて 引き金を引いた
 軽い音 の直後BB弾が堅い物に跳ね返る音が聞こえる
「ね 怖くないでしょ 因みに手元のこのスイッチが手を離した状態だと引き金を引けないようになってるから」
 しばらくして
「わあっ」
 ナッキャの驚きの声が部屋に響いた
 

 まあそんなことがありまして月曜日
「お早う ユウロス」
「ああ お早う」
 ナッキャが席に着き朝礼が始まり
「今日は特に伝達事項はないじゃあ」
 そう言って担任は教室から出ていった
「さて 1時間目は体育の剣道か・・・」
 ぞろぞろと女子が教室から出て行く ナッキャもユウロスに
「じゃあ」
と 言って教室から出ていった

 さて次の時間 視聴覚教室にてカーテンを閉め切って映画を見ている
 しばらくして ユウロスが後ろに座っていた女子に肩をたたかれた 振り返り
「何か用か?」
 ユウロスの独特なリアクションにその女子は若干笑ったあと
「ねえ 土曜日にナッキャがあなたの家に来たってほんと?」
「ああ 事実だが それがどうかしたか?」
 平然と答えたユウロスにその隣の女子が
「ねね 何してたの?」
「テスト勉強」
「じゃあ何時から何時までいたの」
「朝の10時前から・・・夕方6時ぐらいまでだったと思うが」
「お昼は?」
「私が作った ・・・しかし聞いてどうするつもり いや答えなくとも予測がつくからいいか」
 ユウロスはそう言った後平然として再び映画のつづきを見始めた 後ろでは先ほどの女子がナッキャにその事を確かめていた
 しばらくして
「ねえ変わった事ってなかった?」
「そうだな 例えば?」
 平然と聞かれて 答えに困る女子であった

 二時限目も終わり視聴覚教室から教室へと戻る ユウロスが自分の席に着いた直後
「なあ お前部活はどうした?」
と ラエルが側に来て話しかけてきた
「帰宅部だが どうかしたか?」
「どこにも入らないのか?」
「そうだな ・・・まあ 今のところは興味ないな」
「お前も変わった奴だよなぁ」
 しみじみというラエルに
「まあ 良いじゃないか」
 平然と答えたユウロスであった その彼の視線がふとリネをとらえまだナッキャが戻っていないことを確認して
「ところでラエル お前さんリネとは親しいのか?」
「ああ 家が隣同士で昔からの幼なじみだからな」
「じゃあ聞くが 私の家に土曜にナッキャがテスト勉強に来た 滞在時刻は午前10時から午後6時までだこれをどう思う?」
 いきなり質問されてとまどったラエルだが少し考えた後
「俺みたいにユウロスの事を少なからず知っているのであれば誤解もないが 普通なら誤解を生む種だろうな だからそう言うことは知られないようにする物だ おっとじゃあ」
 ラエルはナッキャが戻ってくるとそう言ってその場から去っていった
「そんなものかな・・・」
「何が?」
 席に着いたナッキャが振り返ってユウロスにたずねてきた ユウロスはいつものように
「いや なんでもない ・・・で あれからテスト勉強とやらははかどったのか?」
「え あはは まあ 少しはね・・・」
「そうか まあ 私には関係ないことだがな」
 無感動に言ったユウロスにナッキャは
「そんな 見捨てないでよぉ」
 そう言ってユウロスの方を見つめるが
「見捨てるも何も 事実を述べただけだ そんなに気にするな」
「だからって もう少しかまってくれたって良いじゃない」
 ナッキャの言葉にユウロスは目を丸くしたあと 苦笑するのであった
「そんな笑わなくても良いじゃない」
「いや 気にしないでくれ 私には長いこと友人がいなかったのでな」
「えっ・・・」
 結局ナッキャはユウロスの言葉が気になったがその事を聞き出せないまま次の授業に入った

 4時間目も過ぎ ナッキャが教卓の上に置かれたお茶の入った大きなやかんから自分のコップにお茶をついで自分の席に戻る ふと 珍しくユウロスが弁当を広げているのに気がつき
「ユウロス お弁当作ってきたの?」
「ああ 時間があったんでな」
 さらりといったユウロスの弁当をのぞき込んだナッキャ 思わず自分の弁当と比べる
「うっ」ユウロスの方が高そう・・・
 そんなナッキャを気にもせず ユウロスは自分の弁当を食べ始める
 ナッキャはいすに横に座りユウロスに一方的に話しかけながら自分の弁当を食べるのであった その間にユウロスは自分の弁当の欠点をいろいろと考えていたのはナッキャの知るところではなかった
 ナッキャが食べ終えたすぐ後 彼女が少し目を離したすきにユウロスが教室からいなくなっていた
「もう」聞きたいことがあったのに
 そんなことを考えながらナッキャはクラスの女子の話の中へ入っていくのだった

「静かだな」
 そんなことをつぶやいたユウロスは屋上に来ていた 特になにをするわけでもなく 本人はただ立ったまま静かに風に吹かれていたいのだった

 そして放課後
 ユウロスが一人帰ろうとしたところにナッキャが後ろから走ってきて
「駅まで一緒にいいかな?」ああ だめ顔が笑っちゃうよぉ
 教室を出る前にクラスの女子に吹き込まれた言葉が 頭の中を駆けめぐるナッキャ
「何か良いことでもあったのか?」
 微笑んでいるかのような表情のナッキャにユウロスは質問で返す
「ナッキャ 君は何部に入っているの?」
 ユウロスからそう聞かれてナッキャはいつもの表情に戻り
「ユウロス あたしのことを君なんて呼ばないで それから私は少林寺拳法に入ってるの」
 注意をし さらに律儀に答えたナッキャにユウロスは苦笑し
「少林寺拳法か」
「何?」
「いや 知らなかったから」
「そう ・・・ ユウロスは何か格闘技やってた?」
「なぎなたを若干」
「なぎなた? ふーん」
 ナッキャがなぎなたを持っているユウロスの姿を思い浮かべていると 彼は唐突に
「最近 私のそばでいつも笑っているような というか柔和な表情? をしているが 何か良いことがあったのか?」
 言われたナッキャは 一瞬返答に困ったがすぐに
「それはね・・・」まあ ユウロスに言ったところで
「それは?」
「秘密」
「あう」・・・ まさかね
 それから二人は駅までテストのことや最近のことなどを話しながら歩いていった

 その夜ユウロスの家
 電話の呼び出し音が部屋に響くユウロスはすぐに受話器を取り
「もしもし ユウロス・ノジールです」
「ああなんだフリールか どうした? ・・・ え? 夏休みに遊びに来るのか いいよ でも少しは料理できるようになってくれないとな ・・・ ああ わかった じゃ」
 

 数日後
「あ 今日からテストか」
 ユウロスのその言葉を聞いて
「ユウロス もしかして・・・」
「間違えて授業の用意を持ってきてしまった・・・」
「あんたねぇ」
 あきれるナッキャ

 そんなこんなで一時限目国語 さすがにユウロスの表情が曇る
 テスト開始と共に シャープペンシルが紙の上をたたき滑る音が教室に響く
 ユウロスはテスト開始直後 教室に響く音を聞いていた しばらくして問題用紙に目を通し始めるのであった

「はい そこまで 解答用紙を前に集めろ」
 解答用紙を前の人に渡したユウロス そのまま筆記用具を筆箱に入れる
 学級委員長の起立・礼の号令もなく監督の先生は教室から出ていった
「あれ?・・・」
 委員長は号令をかけ損なったという違和感を感じるのであった
「ふう」
 思わずため息をついたユウロス
 彼が気づかないうちに後ろにいたナッキャの声が
「どうしたの?」
「あ き ナッキャか」
「いま 君かって言おうとしなかった」
「うん つい反射的に・・・」
「ユウロスぅー」
 ナッキャの言葉から何となく怒りが感じられる
「ごめん」

 その日のテストも終わり 帰り支度をしているナッキャに
「一緒に帰ろうか?」
「え?」
 ユウロスの言葉に思わず質問で返したナッキャ それもそのはずユウロスから一緒に帰ろうなんて言葉を聞いたのは今回が初めてである
「都合があるのか? じゃあ先に帰るね」
 質問で返されたユウロスはそう言い直し 間違えて持ってきた授業の用意が入っている学校指定の大きな鞄を肩に掛け ナッキャから離れていく
「ああ ちょっと待って」
 言いながら 急いで持って帰るものを鞄に詰め ユウロスの後を追う

 ユウロスに追いついたナッキャに彼は
「何か用事があったんじゃなかったの?」
「用事なんて無いわ あな・・・ うん 一緒に帰ろ」
 思わず あなたといっしょにと言いかけたナッキャだった しかし
「あな 何?」
 ユウロスは何気なく聞くのだが ナッキャはユウロスの横で何も答えず赤くなっている
「もうすこし」
 ユウロスはそう言って少し歩く速度を速め さらに
「もう少し 自分に素直になればいいのに」
 見透かされたのかも そんなことを思いながらナッキャは
「まってよ」
 ユウロスを追いかける そして
「ユウロス 私のことどう思ってる?」
「知りたいの?」
「うん」
 二人そろってしばらく歩き 深呼吸を一つしユウロスが答えた
「私の・・・ 私の心に一番深く入り込んだ人 かな」
「え?」
 予測した範囲の言葉からかなりはずれた返事に思わず言葉が出てしまったナッキャ
「最近 いつも頭の片隅に君がいるんだ こんなのは今までに無かったよ こういうのはいったいなんて言ったらいいのか分からない」
 何か困ったように話すユウロスにナッキャは
「ねぇ ユウロス そのいつも頭の片隅にいる私はどんな人?」
「え いつものナッキャ とても自然体に思えるナッキャだけど」
 少し取り乱した様子を見せるユウロスに ナッキャは
「じゃあ その人がユウロスの中から消えたら?」
「そんなの嫌だ・・・ あっ」
 はっきりとナッキャを見て そう言ってしまった後 赤くなるユウロス
「ユウロスって 素直なんだね」
 真っ赤な顔をしてうつむいているユウロスにナッキャは言葉を続ける
「ユウロスは私のことが好きなのよ だからもう少し私に心を開いて」
「うん」
「じゃ 顔を上げて」
 まだ少し赤いユウロスの顔に自然な笑みが浮かぶ
 

 数日後
返却されたテストを見て
「ああ こんな点数・・・」
 そんな言葉を言った前の席に座っている彼女に
「どうだったナッキャ」
 ナッキャは自分のテストを見えないようにし振り返って
「ユウロスはどうだったの」
「国語がだめだった ほら」
 ユウロスの国語の答案をのぞき込むナッキャ
「ユウロス・・・ 漢字も文章読解もだめなんだね」
 通称赤点ぎりぎりの答案用紙を見てそう言うしかなかったナッキャであった
「あははは・・・ でナッキャは?」
「え?」
「再テストがあったら教えてあげるけど」
「大丈夫よ 今回は」
「じゃ 次回ね」
「ユウロス・・・」
「冗談だよ」
「ふーーーん」
「あはははははは」
 乾いた笑いを返すしかなかったユウロスであった

 放課後
「ねえ ユウロス 一度ユウロスの長刀と戦ってみたいんだけど」
「え?」
 テストから解放されたのかとんでもないことを言ったねぇ との言葉を飲んだユウロス
「どう?」
「あまり気が進まないな」
「どうして?」
「いや ちょっとあってね」
「何が?」
「だって 好きな人をボコボコにしてしまうかもしれないから」
 ボコボコと言われ思わず
「あたしだってそんなに弱いつもりは・・・ あ ボコボコにされるのも良いかも」
「どうして?」
「そしたら ユウロスに責任取ってもらって・・・」
「あのねぇ」
「でも あながち冗談でもないんだけどな」
「いや まあ それは分かるけど・・・」
「じゃあ 決まりね」
「あまり気が進まないけど・・・」
「まあまあ じゃ 私部活があるから」
「いってらっさーい」
 ユウロスから離れていくナッキャに手を振った後
「大丈夫 昔のことだから・・・ 奴は」

 夕刻 その日 寄るところがあったユウロスが○急岡○駅で下車し中野○公園の南側の道を歩いていると
「ん?」
 視界の中に私服のクラスメイトの後ろ姿が入った 向こうはまだユウロスに気がついていないようだそのままクラスメイトに近づき
「よう どうした?」
「ん? ユウロスか」
 一瞬の意味深な間を空けてユウロスは
「誰だっけ」
「私は作者だよ」
「私はノジール しかし同級生だというのにお互いを覚えていないのは・・・」
「良いんじゃないの そんなもんだよ」
 二人はぎこちなくも世間話をしながら歩いて行く
 本山○三小学校の北側を通り信号を渡ってから南に折れ再び横道に入る 赤鳥居のある通りを通り抜けしばらくそのまま進む 作者は平然と道を進みユウロスの家のあるマンションに入る
「ちょっと良いか?」
 さすがに変に思ったユウロスがそう言った
「どうした?」
「なんでここに?」
「307号室見てみて そこが私の家だ」
 そう言って作者は郵便受けを指し示し階段へと足を進める 言われるままに指し示された方を見る
該当する郵便受けには弥雨那と書かれていた
「そうか」
 振り向いたときには作者はユウロスの視界から消え 階段を上る足音がする
「まあいいか」
 そんな言い訳に似た言葉を言ってユウロスはエレベーターのボタンを押した

 一度自分の家に帰り しばらくして私服に着替えたユウロスが階段を下りて307号室へ向かう
インターホンのベルを鳴らす 少しして 向こうから
「鍵は開いている 入って来いよ」
「おじゃまします」
 そう言ってユウロスはドアを開け 自分の家と同じ間取りの家に入る 玄関から上がり中を見渡すが家具がほとんどなくからんとしている
 ちょうど死角にいた作者がお茶を飲みながら現れた
「何で家具が少ないんだ?」
「倉庫みたいなものだからな」
「倉庫?」
「広い家に私一人住んでいるのならそうなるさ」
 言いながら作者は手招きをしてパソコンの置いてある部屋にユウロスを誘導する
「ゲームでもしてるの?」
「いや 私はものかきだから」
「ものかき?」
「じゃあ 自称小説家 なら分かるだろ」
「ああ なるほど」
「いま 更新するホームページを作っているところだよ」
 いすに座り 作者は再び作業を始めるべくマウスを持った スクリーンセーバーが解除され作成中のホームページがユウロスの目にも入る その少し後ユウロスは
「あ これ読んだことあるよ」
 言われて一瞬表情の曇る作者 ユウロスはさらに
「へえ 君だったんだねぇ」
「まあ ね」
 ディスプレイには書きかけのガルバリア3第3章が映っている
「どうせ暇だろうから その辺の漫画でも読んでいたらいいよ」
 作者に言われ大きな本棚に整然と置かれている漫画に目をやる
「すごいな」
「まあ ゆっくり読んでいていいよ」
 結局 そのまま二人はそれぞれに時間をつぶすのであった

 その夜
 ユウロスの視界に実の祖母の道場が現れた
「お願いします」
 一礼をした相手に まるで反射するごとく長刀を構えるユウロス
 しばらくそれなりに試合が続くが 突然視界がまるでテレビを見ているように現実味を失う 直後鋭い動きで相手をめった打ちにする自分の感覚が入ってくる
「止まれ」
 そう言うが 強い嫌悪感を覚えるのみで 倒れた相手をさらにめった打ちにする感覚は続く
「嫌だ やめろ」
 そう叫ぶが 体は目の前に倒れた相手が動かなくなったのを確認して 次のターゲットを探すごとくあたりを見渡す
 そして その中にナッキャの姿が
「だめだ それは やめろぉー」
 言葉も虚しく 体は動き 間合いを詰めた後 両手に鈍く長刀が肉に突き刺さる感触が伝わり 返り血が視界を赤く染め・・・

 二つ下のベランダ 午前4時を過ぎ 星を見上げ静かに花梨酒を飲みながら涼んでいる作者に 悲鳴にも似たどこかで聞いたような叫び声が耳に入る
「ん? 上か?」
 

 翌日 朝学校に登校してきたナッキャが挨拶する
「おはよう ユウロス」
「おはよ ナッキャ」
 顔を上げ
「どうしたの? 目の下にくまなんて作って」
「いや ちょっとね」
 夜中に悩んでいたなんて言ったら心配するだけだしな と思ったユウロスはそう言ってごまかした

 今日はテストの残りが帰ってくる クラスの面々はそれぞれの表情で自分の答案を見る
「まあこんなものだな」
 ユウロスは自分の答案用紙を見る
「すごぉーい 満点じゃない」
 振り向いたナッキャがそう言う
「あのな 平均点80点代のテストでどうしてナッキャはそんな点を取るか信じられないんだけど」
 冷たく言い返すユウロス
「いいじゃないの どうせ副教科なんだから」
「まあ ねぇ」
 ちなみにナッキャは通称赤点である

 休み時間・・・(インターミッションかも)
「なあ 俺たちって脇役だよな」
 作者がしみじみと言ってのける
「いいじゃないの そう言う作品なんだから」
 島村がそう言い返す
「リディアは出てこないのか?」
 森本のその言葉に一瞬の間をおいて
「コ○ベ講堂の銅像にしちゃったからなぁ」
 言った後暫し沈黙し
「ああ 保健室の先生で出せるな」
「卵は生まないの?」
 奥村の言葉に
「それは俺の台詞だって」
 つっこむ島村であった

 放課後
 ナッキャに言われるままに道場の入り口までつれてこられたユウロス 彼は言われるままに入り口の前で立っている
「どうした ユウロス 覗きに来たのか?」
 道場のそばにある花壇に水をやるべくホースを持ってきた読がちゃかす ユウロスがそれに言い返す暇もなく
「おや ユウロスじゃないか どうした?」
 後からシャベルを持って現れた作者はそう言った
「ナッキャが私と戦いたいと言ってなぁ」
 言葉がトーンダウンするユウロス
「ユウロスって たしか長刀じゃなかったけか?」
 昨日 話したことを思い出した作者が言った後 入り口が開きそこには顧問の先生とナッキャの姿があった
「君がユウロスか?」
「ええ」
「長刀はどのくらい?」
「一応 有段者です」
「一応?」
「ええ 段をとったのは中学のはじめの方でしたから 中学2年以降は引っ越ししたため夏休みとかの長期の休みに祖母の道場に行って・・・」
「自信のほどは?」
「そうですね長刀にとらわれなければなんとでもなります あとは」
「後は?」
「いえ それはこちらの事ですから」
 さすがに暴走しなければとの言葉を飲んだユウロスであった

「ふむ」
 このままでは だめだな とユウロスを視界の一部にとらえたまま考えた作者
「おーい」
 読が呼ぶが 反応のない作者
「おーい」
 再び呼び 反応のないのを確認して
「ぐわぁ」
 軽く中段回し蹴りを繰り出す読と それを視認していたにもかかわらず当たった作者 読はそのまま
「水を出して」
「ああ わるい 今出すよ」
 そう言って 作者は蛇口へと走って行く
 一連の動作を見ていたユウロスは 過激だなと思ったのだった

 夜 作者の家
「どうしたユウロス不景気な顔をして」
 玄関を開けた作者の前に沈んだ表情のユウロスがいる
「とりあえずあがれ」
 そう言って作者はユウロスを中へ招く
「今日4時過ぎに大声を上げたのは君だね」
「ああ」
 若干の沈黙の後 答えたユウロスに
「怖い夢でも見たのか」
「ああ」
「そうか まあいい」
 作者は言いながら棚から花梨酒の瓶とお気に入りの18-8ステンレス二重構造のコップを取り出し 氷を入れ花梨酒を注ぎ 一口のみ
「何か話が合ってきたんじゃないのか」
「では 何で酒をのむ?」
「あははは 脳味噌に血液を送るためだよ」
「実はな」
 

 翌日
 今日は終業式
「おはよう」
 ユウロスは大きなケースを持って教室に入ってきた作者にそう言った
「あまり・・・ これが必要にならなければいいのだかな」
「ああ」
 作者の言葉に 暗く返事をしたユウロス
「じゃあ」
 そう言って作者は その大きな長細い荷物を抱えて自分の席へ

「礼」
 学級委員長のその声が一学期の終了を告げた
「さて・・・」
 作者は大きな長細い荷物を抱えて他の生徒に混じって教室から出ていく
 ユウロスも持ってきた長刀と胴着の入った鞄をもってナッキャの後をついて行く 不安な表示用を浮かべたまま
 やがて 道場の入り口にさしかかる
「やっぱり やめようよナッキャ」
 ナッキャは振り向いて
「何言ってるの ここまで来て!」
 複雑な表情を見せるユウロスに対して強く言い放ったナッキャに
「うん」
 そう 小さく答えたユウロスは彼女に引っ張られるように道場の中に入っていった その様子を作者は昨日ユウロス言った言葉を思い出しながら 園芸部の部室からのぞいていた
「大丈夫 君はそんなに弱くはないよ」
「何言ってんだ?」
「え? あ ちょっとね」
 つぶやいた言葉を読につっこまれてごまかした後立ち上がって
「さて 異種格闘義戦でも拝見しに行くか」
 もちろん読は喜んでついて行くのであった

「ユウロス」
「何?」
 勢いの良いナッキャの言葉に暗く言い返すユウロス
「手加減は無用よ」
「分かった」
 ユウロスとて手加減するつもりはなかった一瞬で終わらせられれば暴走することもないから・・・

 審判をつとめる 顧問の先生はユウロスに
「真剣勝負するわけではないからな 頭ときん・・・って 向こうにはないか はねらわないように」
「分かりました」
「では はじめっ」
 そして試合は始まった
 少林寺の胴着姿のナッキャと長刀の袴姿のユウロス 二人はお互いにそれぞれの手段で打ち合う
「いかんな」
 優勢なしかし決定打にかけるユウロスを見て作者はそう言って いつでも取り出せるように袋のファスナーを開き準備し始めた
「なにそれ?」
「本来使うべきではない道具」
 そう作者は読の質問に答えた
「・・・にしても優雅だな まるで舞を舞っているようだ」
 そんな感想が自然にもれた が作者はいつでも飛び出せるように構えていた
 その前で 二人は戦っていた二人とも本気で 一人は早く終わらせるため 一人は自分を試すために道場にナッキャの気合いの入った声のみが響く ユウロスは声を発さずに舞うようにナッキャの相手をしている
 少しして ユウロスが遠目に間合いを取った後 彼の動きが変わった さっきよりも早いタイミング
で動き出したのだ ナッキャの気合いの間からかすかにユウロスの鼻歌が聞こえる それはユウロスがいつも聞いているゲームの曲だった
「なかなか」
 開いていた入り口からのぞいていた森本が言った
「ん?」
 ユウロスの鼻歌とは分からずながら ノイズのような感覚で耳に入る音を感じる島村
 その一瞬後 ナッキャが偶然放った一撃が ユウロスのガードを抜け頭にHIT
 ギャラリーの息をのむ音と審判の声が響くなか ユウロスは倒れた
 一瞬の沈黙の後

「大丈夫か?」
 審判の問いかけにユウロスは 機械的に
「ええ」
 まるで人間ではないような反応をした
「そろそろか」
 作者はその手に汗を感じながら試合を見つめる
「はじめっ」
 再び審判の声
 ナッキャの牽制の気合いに微動だにせず ユウロスは長刀を構えたまま静止している その視線は見透かすかのように相手を見ている
 ナッキャがその視線に気がつき 一瞬の恐怖に落ちた瞬間 ユウロスが動いた 今までとは比べものにならない音がナッキャの腕とユウロスの長刀のぶつかりから発せられる
「本気か もうレッドゾーンかな」
 作者は笑みを浮かべその言葉を放った
 ユウロスはナッキャを圧倒していた 攻撃の隙さえ与えず凄まじい早さで長刀をふるうユウロス 有効打を防ぐナッキャ 彼女のその部分にはすでに感覚など無かった
「待て」
 突然の審判の言葉に とっさに攻撃をやめるユウロス
「中央へ」
 言われて ユウロスはナッキャに背を向け長刀を担ぐようにしてその場から離れる
「痛い」
「まだやれるか? ストラフィーネ」
「はい」
 ナッキャは全身の疲労感と数カ所の痛覚に あのユウロスがなぜここまで強いのかと疑問を持ち その彼の背中を見ながら 中央へと戻る
 再び向き合ったナッキャは ユウロスが何かを振り払うように首を横に振ったのに疑問を持ったが考えるのをやめ構えて合図を待った
「はじめ」
 いきなりユウロスの突きが飛んでくる 確認したときにはすでに体はそれをかわしていた そのとき彼女の頭に一つの方法がひらめいた そしてまた少しの撃ち合いの後 一瞬の間をおいて突きが来た
 ナッキャはそれが静止した瞬間手で長刀をつかむ そしてそれを利用し一気に間合いを詰めようとし視線をユウロスに戻した 焦点が合わないそう思ったまま ナッキャは放物線を描いて3メートルは離れた床に手に持った長刀ごとたたきつけられた
「そこまで」
 審判の言葉にユウロスは安堵しそのまま倒れているナッキャの元に駆け寄り
「大丈夫?」
「うんあちこちうったけど大丈夫 手を貸して」
 ナッキャはユウロスの手をつかみ立ち上がろうとする ユウロスの力強さを感じながら そのままユウロスに引っ張られるように立ち上がったナッキャ
「ねえ ユウロスなんであんなに動き方を変えられるの?」
「そうだな 自分とも戦っていたからだな」
 ナッキャは歩きだそうとした しかし急に床にへたり込んでしまった
「あれ?」
「どうしたの?」
「あれ? 立ち上がれないよぉ」
「しょうがない」
 ユウロスはめざとく作者を見つけると呼びつけ長刀を渡し ナッキャを抱え上げる
「ユウロス」
「何?」
 恥ずかしいと思いつつも まるでこれが当然とばかりに返したユウロスに何となく安心感を覚えるナッキャであった
 

 翌日
 ユウロスの家
 有効打が少なかったとはいえ体にはいくつかの痣が
「あ痛たたた」
 さらに筋肉痛も同時に来て非常につらいユウロス
「ユウロス ざるうどんできたよ」
 作者の声を聞き いろんな場所から痛みの走ってくる体で台所へ行くユウロス

 ほぼ同時刻 ナッキャの家
「大丈夫?」
「うん 大丈夫 鍛えてるもん」
 痣こそあるものの 筋肉痛も無く あの後行った医者で身体の異常もなかったナッキャ
「いただきます」
 そう言って 箸を手に取りそうめんを食べ始めるのであった

 今日から夏休みそれぞれの思いと宿題をのせて・・・


戻る

Ende