ジミがPPXに残した音源をまとめた6枚組セット。アルバム・タイトルに "THE COMPLETE" とありますが、実際にはまだ他に何曲かの音源が存在しています。
PPXとは、ジミがエクスペリエンスとしてデビューする前に契約していたレコード会社のことです。
●内容について
6枚のそれぞれは、1996年から1997年にかけて、ドイツのSPVというところからバラでリリースされていたものと同じものです。
ジャケットこそジミの顔が大写しになっていますが、あくまでもカーティス・ナイト・アンド・ザ・スクワイアーズのアルバムとして聞いたほうがよいと思います。しかし、ギター・ソロやジミがリード・ヴォーカルをとる曲などでは、十分にその存在感を味わうことが出来ます。
収録されている音源の内容ですが、以下のように、大まかに3つに分けられます。
- 1965年のスタジオ録音(13曲)
- 1965年のライヴ録音(23曲)
- 1967年7月のスタジオ録音(21曲)
3番目の1967年というと、既にエクスペリエンスで活動している時期で、ちょうどモンタレーでアメリカ・デビューをした翌月にあたります。
このときは7月30日と31日の2回に分けて録音されているようです。
●その他
6枚組という恐ろしいボックス・セットなのですが、各ディスクの収録時間をみると、30分〜40分程度なので、実質3枚分のヴォリュームです。
また、それぞれが紙ジャケットに収納されていて、以外にスリム。CDプラケース2枚分の厚さに収まっています。
●曲のコメント
■各曲のコメントに付いては、自分用のメモに手を加えて書いたものです。
■曲名の色分けについて:1965年スタジオ録音 / 1965年ライヴ録音 / 1967年7月録音
■ジミを感じる度数を★の数で表わしております。
Vol.1: 「GET THAT FEELING」★★
Vol.1 |
- Get That Feeling
ジミが弾いていると思われるファズ・ベースが印象的な、ソウル・ナンバー。ワンコードで延々と演奏が続きます。
- How Would You Feel
後にジミのレパートリーになる "Like A Rolling Stone" の原型のような曲。オブリガードなんて、まるでそっくり。
- Hush Now
ワウ・ギターが全面にフューチャーされたインスト曲。このボックスセットには、これと同じ曲で曲名が違うものがいくつかあります。
- No Business
カーティス・ナイトのヴォーカルが妙に印象に残る、オーソドックスなR & Bナンバー。
- Simon Says
軽快なノリ。カーティス・ナイトがラップ風に歌っています。
- Gotta Have a New Dress
オーソドックスな12小節のロックン・ロール。ペキペキの音のギター・ソロだけど、完璧です。上手い。
- Strange Things
イントロからサイケデリックしています。キーボードの音がドアーズを思い出す。カーティス・ナイトの笑い声が不気味。”ストレインジ・シングザァ”と繰り返し歌う声が妙に頭に残ります。
- Welcome Home
アップテンポなR & B曲。初期ストーンズを感じさせる雰囲気。ギター・ソロのエンディング部分が「サンキュー」と聞こえる。
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Vol.2: 「FLASHING」 ★★★
Vol.2 |
- Love, Love
ワウ・ワウを使ったバッキングが印象的。
- Day Tripper
ソウルフルなヴォーカルにジミのファズ・ベースがからむ。何と、ソロ・パートはベースでプレイしています。
- Gloomy Monday
コーラスが60年代サイケ風、ポップでなかなか良い雰囲気。シタールの音が聞こえたりします。
- Fool For Your Baby
これもサイケな曲。哀愁のあるメロディーが昔のグループ・サウンズ(!)を思い出させる。
- Don't Accuse Me
一転して重たいノリのブルーズ。バックでうねるファズ・ギターが印象的。
- Hornet's Nest
イントロから聞かれる硬質ファズギターが印象的なインスト曲。ジミのファズ・ギターが暴れまわる。
- Flashing
音数が多いベース・ラインはジミが弾いています。セッション的なインスト。
- Oddball
ジミのファズ・ベースがメインのインスト曲。これもセッション風。Vol.5-10.に同じ曲があります。
- Happy Birthday
ワンコードの単調な歌にジミのワウ・ワウギターのバッキング。
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Vol.3: 「BALLAD OF JIMI」 ★★
Vol.3 |
- UFO
サビの部分がカントリー風で面白い。ジミの軽快なバッキングが聞けます。
- You Don't Want Me
これも軽快なナンバー。バックでうねっているファズ・ギターが印象的。
- Better Times Ahead
これといって特長のないシャッフルな曲。あまり印象に残りません。まだ未完成という感じがしないでもない。
- Future Trip
ベースラインが "Day Tripper" なので、タイトルもこれに似たものがつけられている。
- Wah Wah(=Hush Now)
曲はHush Nowだけど、これはテンポが遅い。1分とちょっとですぐ終わってしまう。
- Everybody knew But Me
ジミのバッキングに注目。既にこの時点でジミとすぐわかるバッキングです。これも1分半でフェイドアウトしてしまう。
- Mercy Lady Day(=Love Love)
曲名は違うけど、Vol.2-1.Love Loveと同じもの。延々と続く単調なバックにジミのワウ・ワウ・ギターが聞かれるインスト・ナンバー。この調子で8分もやられるのは、ちょっとツライ。
- If You Gonna Make A Fool Of Somebody
モコモコしたギター一本をバックに歌われる。ジミは関係していないとされています。
- My Best Friend(=Ballad of Jimi)
"Ballad of Jimi"のインスト・ヴァージョン。3拍子のリズムにワウ・ワウギター、バックではファズギターが鳴りつづけています。
- The Ballad of Jimi
前の曲に歌が入ります。ハモって歌われるメロディーがポップな感じ。歌に入る前に「ジミに捧げる曲」とか言っています。
- Second Time Around(=Get That Feeling)
曲名は違うけど、これはGet That Feelingと同じです。ジミがプレイする、ファズ・ベースサウンドがド迫力。9分にわたるインスト・セッションです。
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Vol.4: 「LIVE AT GEORGE'S CLUB」 ★★★★
Vol.4 |
- Drivin South
エクスペリエンスでのレパートリーとなる曲。ここぞとばかりに弾きまくるジミのギターが印象的。途中、メンバー紹介あり。その間もジミの硬質なギターが暴れまわっています。
- Ain't That Peculiar
モータウン系のカバー。フェイドアウト。
- I'll Be Doggone
これもモータウン系のカバー。フェイドアウト。
- I've Got A Sweet Little Angel
B.B.キングによる曲のカヴァー。ジミのギターをたっぷり聞くことが出来るスロー・ブルーズ。フェイドアウトが残念。
- Bright Light Big City
シャッフルのブルーズ曲。ジミのリード・ヴォーカル。物まねをしているのか、ジミが声を変えて歌っているのがおもしろい。オリジナルはジミー・リード。これまたフェイドアウト。
- Get Out Of My Life Woman
ジミのリード・ヴォーカル。アラン・トゥーサンによる曲。これもフェイドアウト。
- Last Night
12小節パターンのインスト。軽く流している感じ。
- Sugar Pie, Honey Pie(=I Can't Help Myself)
曲名こそ違うが、フォー・トップスのI Can't Help Myselfと同じ曲。
- What'd I Say
レイ・チャールズのカヴァー。ジミがリード・ヴォーカルをとります。声が若い。
- Shotgun
スティーヴィー・レイ・ヴォーン好みそうなバッキング・ギター。1:15あたりから2:00あたりまでジミのリード・ギターが大炸裂。バックの演奏はほとんど無視で暴走しています。いったん曲が終わるのですが、再び演奏が始まり、バンドメンバーの紹介をして、ライヴを締めくくっています。
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Vol.5: 「SOMETHING ON YOUR MIND」 ★★★★
Vol.5 |
- California Night(=Nobody Loves Me)
Vol.6-3.Nobody Loves Meと同じ曲。ジミのブルーズ・ギターが堪能できる。ヴォーカルもジミ。
- Level(=Hush Now)
Vol.1-3.Hush Nowと同じ曲。こちらはよりエコーがかかっている。
- I Feel Good
ジェームス・ブラウンのカヴァー。
- Left Alone(=Bleeding Heart)
後の "Bleeding Heart"("Peoples Peoples")になる曲ですが、後のエクスペリエンスでの演奏とほとんど変わらないのに驚く。ギターをもっと聞きたいところだが、フェイドアウトしてしまうのががくやしい。ジミのシャウトも聞ける。
- Knock Yourself Out
ジミの切れ味のよいバッキングが光るインスト曲。単調なドラムが気になる。
- Something On Your Mind
R & Bのバラード。ゆらゆら揺れるトレモロを聞かせたギター・ソロが印象的。サックスがいい感じです。
- I Should've Quit You(=Killing Floor)
曲はKilling Floorそのもの。しかし、Vol.6-1.Killing Floorとは別ヴァージョン。ジミのリード・ヴォーカルが聞ける。
- Hard Night(=Let The Good Times Roll)
これ、曲名は違うのですが、 "Come On (Part 1)" ( ELECTRIC LADYLAND 収録)の原型と思われます。ギター・ソロは歯で弾いているような音がしています。
- I'm A Man
ジミのリード・ヴォーカル。声が若い。ボ・ディドリーのカヴァー。
- Instrumental(=Oddball)
Vol.2-8.Odd Ball の完全版。ジミによるファズベースのソロが聞けるインスト。12弦ギターの音も聞こえます。
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Vol.6: 「ON THE KILLING FLOOR」 ★★★★
Vol.6 |
- On The Killing Floor
ジミがギターを弾きながら歌っているのですが、サイド・ギターの音が大きすぎて、ジミのギターがよく聞こえないのが残念。のんびりしたドラムが可笑しい。
- Money
有名曲のカヴァーですが、もしかして、ジミのヴォーカル?短いながらもギター・ソロは光っています。
- Nobody Loves Me(=Travelin' To California)
"Red House"のルーツを感じさせる演奏です。1965年の時点でギター、ヴォーカル共にエクスペリエンスでのプレイとほとんど変わらないのに、驚きました。フェイドアウトするのがとても残念。
- Love
ワウ・ワウを全面にフィーチャーした曲。もとはVol.2-1.、Vol.3-7.と同じ。これでもかという程ワウ・ワウしています。
- You Got Me Running
だらけた感じのヴォーカルのブルーズ曲。しかし、ギター・ソロでは目の醒めるようなフレーズが聞かれます。
- Mr. Pitiful
オーティス・レディングのカヴァー。オーティスに似た歌い方をしていますが、カーティス・ナイトのヴォーカルではないような気がします。ジミの切れ味のあるバッキングが心地よい。
- Torture Me Honey(=Hush Now)
Hush Nowと同じもの。
- Sleepy Fate(=No Business)
Vol.1-4.のヴォーカルなし。ファズベースに12弦ギターのバッキングが印象的。
- Satisfaction
残念ながら、ジミらしさを感じさせるギターはほとんど聞くことが出来ません。この曲、オーティスがカヴァーしていたのを思い出しました。
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●参考
収録曲の整理をしてみました。
1.1965年スタジオ録音(13曲)
1965年10月15日にPPXと3年の契約をした後、12月までの間に、ニューヨークのディメンショナル・スタジオというところで録音されています。
- How Would You Feel
- Simon Says
- Gotta Have a New Dress
- Strange Things
- Welcome Home
以上Vol.1収録曲
- Fool For Your Baby
- Don't Accuse Me
- Hornet's Nest
以上Vol.2収録曲
- You Don't Want Me
- Better Times Ahead*
- Everybody Knew But Me*
- If You Gonna Make A Fool Of Somebody*
以上Vol.3収録曲
以上Vol.5収録曲
*印はこのシリーズ初出の音源を示しています。
記録によると、このほかに "No Such Animal Part 1 / Part2"という曲が録音されているのですが、今回のセットには収録されていません。
2.1965年ライヴ録音(23曲)
*印をつけているもの以外は1965年12月26日、アメリカニュージャージー州、ハッケンサックの「ジョージズ・クラブ」でのライヴ録音です。
*を付けている曲については資料(「エレクトリック・ジプシー(Electric Gypsy)」)によると、録音時期は"'65Winter"となってました。この5曲はヴォーカルが違う(ジミのようだけど高音が違うような…)ので、おそらく同じ頃に別のところでやったものだと思われます。
- Drivin South
- Ain't That Peculiar
- I'll Be Doggone
- I've Got A Sweet Little Angel
- Bright Light Big City
- Get Out Of My Life Woman
- Last Night
- Sugar Pie, Honey Pie
- What'd I Say
- Shotgun
以上Vol.4収録曲
- California Night
- I Feel Good
- Left Alone
- Something On Your Mind*
- I Should've Quit You*
- Hard Night
- I'm A Man
以上Vol.5収録曲
- On The Killing Floor*
- Money*
- Nobody Loves Me
- You Got Me Running
- Mr. Pitiful*
- Satisfaction
以上Vol.6収録曲
この他に今までに発表されてきているライヴ音源で、今回のボックス・セットに含まれていない曲としては
- Land Of A Thousand Dances
- Walkin' The Dog
- Stand By Me
- Hang On Sloopy
- Twist & Shout
- Bo Diddley
- Wooly Bully
- Just A Little Bit
などがあります。
"Twist & Shout"や"Stand By Me"などは一度聞いてみたいところです。
3.1967年スタジオ録音(21曲)
記録(「ジミ・ヘンドリックスの生涯」 TONNY BROWN, 1992)によると、1967年7月30日に5曲、翌7月31日に7曲が録音されたとあります。
これを合計すると12曲にしかなりませんが、ミックスを変え、編集し、曲名も変えてでっちあげられたものがかなりあるようです。
ワウ・ワウ・ギターがフューチャーされているのが30日録音分、ファズ・ベースがフューチャーされているのが31日録音分と考えて良いと思います。
1967年7月30日に録音された5曲は
- Gloomy Monday
- Happy Birthday
- Hush Now (=Wah Wah, Level, Torture Me Honey)
- Love Love (=Mercy Lady Day, Love)
- Ballad of Jimi (=My Best Friend)
1967年7月31日に録音された7曲は
- No Business (=Sleepy Fate)
- Future Trip
- Day Tripper
- Get That Feeling (=Second Time Around)
- U.F.O.
- Oddball (=Instrumental)
- Flashing
( )内は曲名違いで、元は同じもの。
参考資料
- 「ジミ・ヘンドリクスの生涯」
- トニー・ブラウン著、米持孝秋訳(株)シンコー・ミュージック刊 1992
- 「エレクトリック・ジプシー」(上)・(下)
- ハリー・シャピロ&シーザー・グレビーク著、岡山 徹訳、大栄出版 1996
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