くすぐりの塔
作:キャンサーさん     


 -物語の始まり-

 ここはパラレルワールドには無数に存在する剣と魔法の、さして珍しくもないファンタジー世界の一つ・・・・・・
 この世界の辺境の一つに、女性だけが住む小国『フルーツフィールド』が存在しました。
 何故女性ばかりなのでしょう?それはその昔、この国に男も居た時代、男女それぞれの軍隊を作ってみた所、当時の男達があまりにも弱くふがいなかったため、当時の女王の命令で全ての男が追い出された・・・・・・と言うのが、この世界の言い伝えでした。
 ですが、そんなことはどうでもよかったのです。どうやって人口維持してきたのかも含めてそんな点は問題ではありませんでした。むしろ、物語の展開を考えれば都合すらよかったのではないでしょうか?

 ・・・・・・・それはさておき、この“女性だけの国”が当たり前となって数十年、あるいは数百年、ひょっとすると数年たったある日の事・・・・・
 『フルーツフィールド』の城下町のすぐ近くに、意味ありげな不気味な塔がその姿を現したのです。
 塔の主、自称『魔王』はいきなり『フルーツフィールド』を治める王女(王が居ないので女王も存在しない)と国民に、城の地下のどこかに眠る“秘宝”と、同じくこの国のどこかに封印されている“魔獣”を要求してきたのです。
 “秘宝”も“魔獣”もこの国の人間であれば知らない者は居ませんでした。でも、それがどの様なものか、正確に知る者は居ませんでした。もちろん、王女も全てを知ってはいません。ですが“秘宝”と“魔獣”を封印した当時の者達の言い伝えより、『決してこの国で甦らしてはならない存在』とだけ聞かされていました。
 この言い伝えが良い意味と取る者はいないでしょう。王女は自称『魔王』の要求を断りました。当然です。
 そしてその日より、『フルーツフィールド』と魔王&愉快な配下のモンスターズとの争いが始まったのです。



 -伝記1 戦士 クレア-


 クレアは辺りに敵の気配がないことを確認すると、大きく息をついて床にへたり込んだ。 ここ、自称『魔王』の城は、外から見るとほとんど窓が無かったにもかかわらず、床・天井・壁の全てが自ら発光する石でできていたため、中は意外にも明け方並の明るさを保っていた。
 クレアは辺りを見つめながら自らの力のなさを呪った。
 当初、彼女は四人でパーティを組み、この塔に挑んだ。
 彼女、戦士 リタ、僧侶 ニーナ、魔法使い メイ・・・・・・『フルーツフィールド』では、屈強とされるメンバーだった。
 先陣として王女の命令を受け塔に入った彼女等は、お約束通り待ちかまえていた雑魚モンスターを次々としとめていった。
 1階を快勝で飾り“楽勝”と意気込み、塔の2階にあがった矢先、トラップによりリタが痛烈な打撃を受けリタイヤしてしまったのだ。
 パーティは、リタを塔の外の安全な場所に連れていった後、再び塔へ挑んだのだった。
 そして、トラップの存在を考慮し慎重に進んでいた時、エリアガーディアンと出くわした。三人は見事な連携で闘ったが、相手も手強く、長期戦になった結果、体力の低い魔法使い メイが力尽き、その隙をつかれてメイはエリアガーディアンにさらわれてしまった。
 そしてニーナもトラップにより姿を消し、クレアは一人で闘う羽目となったのである。
 彼女は必死に闘ったが、次から次へと現れるモンスターの数に押され、今や逃げる身となりはてていた。
「くそ、パーティが健在なら・・・・・・」
 悔しそうに呟くクレアだったが、彼女自身も薄々感じてはいた。メンバーが揃っていても、この2階のモンスターとやり合うのが限界であろう。そして装備や戦法を変えない限り、この塔の攻略は困難であろう事も・・・・・・

 ジャリ 

「!」
 突然の物音に反射的に身構えたクレアだったが、遅かった。彼女はすぐ近くまで近づいていたモンスターの吐き出したガスをまともに吸い込み、深い眠りに落ちていった。



 どの位の時間が経過したのか?
 クレアが眠りから覚めた時、彼女は自分が後ろ手に縛られ床に転がっている事に気づいた。
 鎧や剣は全て外され、今、彼女の身を守っているのは、薄手のレオタードのようなインナーウェア一枚だけだった。
 クレアは辺りを見回した。塔内のどこかの部屋の一つだろうそこは、通路より石の光量が強くなっており、外とほとんど変わらない明るさになっていた。
 そして、自分とさして離れてない場所にニーナとメイが自分同様に装備を外され床に転がっているのが確認できた。
「ニーナ!メイ!」
 クレアは縛られたまま何とか身を起こし、二人の元に走った。
 二人は意識こそあったが、瞳は涙で潤んでいた上に虚ろで、呼吸も荒く不規則だった。
「二人ともどうしたの。しっかりして!」
「ク、クレア・・・・・・?た、助けてぇ・・・」
 力無くメイが言った。
 そんな二人を見て、クレアは唇を噛んだ。
 何があったかは分からない。だがそれよりも、自分も捕らわれ、彼女達を救う事すらかなわない状況に歯がみしたのだ。
「ようこそ、お嬢さん」
 背後で知らない声がする。
 はっとなり振り向いたクレアの視界に一匹・・・・いや一体・・・・もしくは一人と言うべきか・・・・のモンスターがいた。
 大きさは子供程度で、カエルとカメレオンを融合させ、無理矢理二足歩行形態にさせ、鳥山●調にアレンジしたようなモンスターだった。
 無論、クレアが見たことのないモンスターであり、作者も名前すら決めていない。
 その不気味さはあるが恐怖感のわかないモンスターがゆっくりと歩み寄ってきた。
「い、嫌、もう来ないで」
「や、止めて下さい」
 モンスターの接近に反応したのはニーナとメイの方だった。
 二人の異様な怯え方に、クレアはこの小柄なモンスターに何があるのか疑問に思ったが、仲間をかばうべく、二人とモンスターの間に縛られながらも立ちはだかった。
「何をするつもり?」
 形だけは威嚇するようにクレアが言った。
「尋問だ」
 実に端的にモンスターは言った。
「さて、お二人さん。さっきの質問に答える気になったかな?」
「し、知りません・・・」
「は、本当に知らないんです・・・」
 怯えきった二人が懇願するように言った。
「まだ、強情を張るつもりかな?」
 モンスターの右手が上げられ、何かの合図を送ろうとすると、ニーナとメイの二人は小さな悲鳴を上げた。
「あ、ああ、やめてやめて!」
「も、もう、それだけは・・・・・・」
 クレアはそんな二人の怯え方に動揺する以外の術を知らなかった。
「・・・では、仕方ないな・・・・・・」
 そう言ってモンスターは右手を下げ、代わりに左手で違った合図を送った。
 その途端、二人のいる床下に黒い空間が大きく口を開け、二人は小さな悲鳴を残して闇の中に落ちていった。
「ニーナ、メイ!」
 クレアが駆け寄ったが、空間はすぐに小さくなり、視界から消え去った。
「なっ!二人を何処へやったの?」
「地下の特別室だ。いわゆる牢獄だな」
「一体あなた達は何が目的なの?」
「おや、お嬢さんは我々の主の要求を聞いていないのかな?」
「“秘宝”と“魔獣”!それをどうするかを聞いているのよ!あんな、おとぎ話レベルの伝説に何の意味があるって言うの?」
「両方が我々の手中に入れば結果はおのずと分かる。それでだが、その“秘宝”と“魔獣”・・・・・何処に隠され安置されているか教えてはくれないかな?残念な事に、あの二人は教えてはくれなかったのでね」
「あ、当たり前でしょ。そんな伝説を詳しく知る人なんて・・・もう、居るはずないじゃない!」
 クレアがそう吐き捨てた時、彼女を縛っていた縄が緩まり床に落ちた。
「!?」
 彼女は会話の間に縄抜けを行っていたのである。
 クレアは一瞬ひるんだモンスターを突き飛ばすと、壁に飾ってあった長剣を取り、モンスターに斬りかかった。
 だが、モンスターも素早い身のこなしで剣筋をかわすと、素早く回り込みクレアに足払いをかけた。
「あうっ!?」
 たまらず尻餅をつくクレア。
「くっ!」
 すかさず立ち上がろうとしたクレアだったが、それより早くモンスターが粘液状の物体を口から吐き出し、彼女の、剣を持った右手ごと床に貼り付けた。
「しまった!」
 引き剥がしにかかろうとするが、次に吐き出された粘液が今度は彼女の左手を捉えていた。
 これによって彼女は右手を真横に、左手を頭上に伸ばした状態で床に磔の形となった。
「は、放して!」
 クレアは両腕に力を込め、全身を振って両手を拘束する粘液を引き剥がそうとしたが、粘液は多少の弾性を示したものの、全く床から剥がれる様子を見せなかった、
「無駄無駄。人一人の力でどうなるほど、ヤワではない」
 そう言うとモンスターはクレアの膝に向けてさらに粘液を吐き出し、両脚を揃えた形で床に固定した。これで彼女はほぼ完璧に自由を奪われてしまった。
「ああっ」
 絶望感にクレアは小さな悲鳴を上げた。 
「さて、改めて聞くが、“秘宝”と“魔獣”はどこだ?言わなければ当然ながら拷問が待っているが・・・・」
「何されたって知らないものは知らないわ!」
「お嬢さんも同じ答えか・・・・」
 モンスターは否定されたにも関わらず、どこか嬉しそうにつぶやくと、サッと合図を送った。
 すると、部屋の数ヶ所にあった円柱状の石柱の影から小さな人影が四つ、その姿を現した。目の前のモンスターをただ小さくしただけの様な小モンスターだった。サイズはおおよそ幼児程度だった。
 その小モンスターはキィキィ小さな声を上げながらクレアの左右に陣取った。
「それでは、予告通り体に聞かせてもらおうかな」
 モンスターの言葉と同時に四匹の小モンスターは一斉に自分の両手の甲をクレアに見せつけるように差し出した。その小さな指先には刃物のような鋭い爪が突きだし不気味に光っていた。
「ひっ!」
 あの鋭い爪に引き裂かれると恐怖したクレアは、小さな悲鳴を上げて息を飲み、身を強張らせた。
 だがそれは無用の心配だった。
 小モンスター達は全ての爪を指の中に引っ込めると、にやりと笑みを浮かべ、その小さな指先でクレアの体をインナーウェアの上から撫で回すようにくすぐり始めた。
「ひゃっ!・・あっ、あはっ、あはっ・・・・な、何?あははははははははははっ!」
 予想していたものと全く違った刺激に襲われたクレアは、思いっきり吹き出し全身をびくっびくっと震わせながら大笑いし始めた。
「いや~~~っははははははっ、だめっ・・・へへへへへへへへ、やめてやめて!きゃあっはははははっ!!!」
 まだ自由であった首と腰を振り乱し、必死で小モンスターの指から逃れようとするが、体の無防備さには全く変化はなく、クレアは執拗にくすぐりを受け続けた。
 くすぐりを続ける小モンスターは全て同じ顔ではあったが、そのくすぐり方には特徴があった。
 指先で妖しく撫で回す者、起用に全ての指先の位置を変え突っつく者、あらゆる掴み方でもみもみする者、指先を体に押し込みぐりぐりと震わせ、蠢かす者。
 この、どれ一つをとってもたまらなくくすぐったい技が、一定時間を置いて互いの居場所を入れ替え激しく彼女を責め、彼女に息をつかせる暇を与えなかった。
 拷問開始から丁度3分後。クレアにとっては地獄に等しい時間の後、その責め苦はモンスターの合図によって中断された。
「どうかな?話してくれる気になったかな?」
 休み無く強制的に笑わせ続けられ、呼吸困難になりぜいぜいと息を吸い込んでいるクレアにモンスターは遠慮なく問うた。
「い、いつか、倒してやるから!」
 苦しさを憎悪にかえてクレアは言った。
「きっと、仲間が助けにくるわ!」
「来るだろうな」
 クレアの精一杯の威嚇をモンスターはすんなり受け止めた。
「お嬢さん、何故に我々が最初から全員を捕まえなかったかわからんか?チャンスはいつでもあった。だが、全滅では“次”が無くなるかもしれんし、総攻撃の恐れもある。だが、少しでも中を見た者が残っていれば、救助・再討伐の目的でまた何人か来るだろう。2階で一人、トラップで大ダメージを与えたのは、大部隊ではトラップにかかった場合、被害が大きいと思わせるためだ。そして、やって来るパーティやって来るパーティに、少しずつ先に進ませ情報を与えてゆく・・・・後少しで我が主をしとめられると思わせる情報をな・・・・・・」
 モンスターの語った真実にクレアは青ざめた。
「そして一人ずつ捕らえては、こうして尋問をする。まぁ、大部隊で攻めてこようと負けはしないが、せっかくの獲物が怪我をして死んでしまうかもしれないので、こうして手間をかけてるのだよ。その、手間分の楽しみもあるがね・・・・」
 ニヤリと笑みを浮かべてモンスターは合図を送った。
 それに伴い、恐怖のくすぐりが再開される。
「ああっ、きゃあっはははははははは!だめ~~~や、やめっ、ははははっははは・・・」
「さっきの二人は二匹ずつのだったが、お嬢さんは四匹・・いや、五匹にくすぐられる・・・・耐えきれるかな?」
 そう言うと、モンスター自身も“拷問”に参加しだす。
 小モンスターより大きな指がクレアの足の裏をゆっくりと撫で回し始めた。
「ひあっ!・・・あひっあひっ・・・・・・ひゃっはははははははは~!」
 新たに加わった感覚にクレアは更に笑い悶えた。必死にもがいても、膝でしっかり固定され、足首しか動かない状況では、自らくすぐられる位置を変える結果にしかならなかった。
「あはっあはっ・・・・・もう・・もう・・きゃあはははは・・・やめてぇ・・・あ~ははははは・・・私も・・何も・・ひゃははははは・・知らない・・はははぁ・・のよ~」
 それを聞いたモンスターは、わざとらしく残念そうな顔をした。
「お嬢さんも口が堅いな。まぁ、仕方ない。もうしばらくこの拷問を続けようか・・・そうすれば話す気になるか、何か思いだしてくれるかもしれないからな」
「そ、そんなぁ~~あ~はははははっ!」
 クレアにとっては絶望的な言葉だった。許しを請おうとしても、激しいくすぐったさがそれを許さず、自分の笑い声でかき消されてしまう。
 しばらくするとモンスターの足の裏責めは終わって、眺めるだけとなってはいたが、小モンスターによる全身のくすぐりは全く衰えず、むしろその激しさを増していった。
「あうふふふふふふ、ほ、本当にぃ、きゃはははははは・・知らないんだってば~あ~~っははははは、死ぬ、死ぬ~っふふふふふ!」
 クレアの悲鳴が一層高くなった時、慈悲なのか、不意に全てのくすぐりの手が止まった。
「!?」
 クレアはその異変を疑問に思ったものの、ようやくとも思える開放感に、息をきらせつつも、大きく深呼吸を繰り返した。
 だがそれはフェイントだった。彼女がくすぐりから解放された安堵感で気を抜いた瞬間を見計らい、またも小モンスター達がくすぐりを始めた。
「きゃふう?っははははははははは!」
「あ~~~ははははははははははははっ・・・や、やめてぇ~!」
 予想もしなかった不意打ちにクレアは激しくのたうち回る。こらえようにも四匹四種の責めパターンと不規則なローテーションは、その構えすらさせる余裕を与える事はなかった。
 そして、呼吸がピークに達したと見るやその手を止め、彼女が気を抜く一瞬を突いては再びくすぐり始める。
 クレアは狂ったように大笑いしながらも、モンスター達の手口を悟っていたが、どうしてもくすぐりから解放されると気を抜いてしまい、そのくすぐり波状攻撃に翻弄され続けてしまうのだった。

 十数分後。
 地獄以外の何物でもない責めがモンスターの合図によって中断された時、クレアは呼吸以外のことを考えられなかった。
 小モンスター達は最初に姿を現した柱の影に姿を隠し、今、室内にはクレアと最初のモンスターだけとなっていた。
「さて、何か思いだしてくれたかな?」
「ほ、本当に・・・知らない・・・」
 げほげほと咳き込み、懇願するように答える。
「ほう、そうか・・・」
 ゆっくりとモンスターの右手が上がった。
 それが何の合図か悟ったクレアの表情が恐怖で引きつった。今、彼女は先に消えたニーナ・メイと同じ恐怖を味わっていた。
「ほ、本当なのよ・・よ、よして・・・・」
 当初の威勢が完全に失せたことを実感したモンスターは表情を変えず左手の合図を送った。
 その途端、床に磔となっていたクレアの背に大きな穴が現れ、彼女はその穴に飲み込まれて消えていった。
「ふふふふ、さて、これからどの位の楽しみがやって来るかな・・・・」
 石だけとなった室内にモンスターの声が小さく不気味に響きわたった。


  つづく




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