-伝記2 僧侶 ミア-



 先発したクレア達のパーティが一人を残し帰ってこなかった事実は、驚きと動揺を持って受け入れられ、彼女達が相手を過小評価していた事を結果として表したものとされた。彼女達は決して弱いパーティではなかった。王宮の誰もが認める事実は、結果として敗因をそう結論づけらたのである。

その 凶報の数日後、新たなパーティ、戦士 キャシー、戦士 シャリア、技師 サラ、魔法使い タニア、僧侶 ミアの五人が、自称『魔王』の討伐の第2陣を仰せつかった。

 唯一の生き残りからもたらされた情報は、塔の規模に比較すると微々たる物だったが、トラップの存在が知り得たことは有利と思われた。いかに実力者揃いでも、トラップによって消耗してしまえば負けてしまう恐れもある。敵と対峙する時には常に最善のコンディションであるべきが常識の中、それを実現させるため、今回のメンバーに技師であるサラが加えられたのだった。
 今また、小さな騒ぎが塔内で起きようとしていた。


「爆裂球!!」
 タニアの呪文詠唱と共に数個の光球が横一文字に飛んだ。
 光球は敵フロアガーディアンを直接狙ったものではなく、その進行方向の床部分を直撃した。接触した光球は次々にその威力を発揮し、爆発の壁を形成する。
強固な防御力を持つガーディアンも衝撃波の前には流石にその前進を止めざるをえない。
「今だ!」
 隙をうかがっていた二人の戦士が一気に間合いを詰め、勝負に入った。キャシーはガーディアンの左肩口に、先端が幅広い威風な剣を振り下ろした。
-グオオオオオオオオオオォ-
 ガーディアンが唸り声上げる。
 そして次の瞬間、一呼吸遅れて迫ってきたシャリアのバトルアックスが、ガーディアンの頭を砕き、決着がついた。
 戦士達はガーディアンの強さを想定し、物理的ダメージをより大きく与える事の出来る武器を選び、それをタニアの魔法により、更に強化させていたのである。
「これではっきりしたわね。こいつらも倒せない敵じゃないってね」
 ただの岩の塊になり果てたガーディアンにくい込んだバトルアックスを引き抜き、満足げにシャリアは言った。
「要は戦い方ね」
 キャシーも剣を鞘に収めて言った。一同は前パーティが阻まれた関門を突破できたと言う事実を実感し、満足げに頷き合った。
「でも、下があれだけ弱ければ油断もするわ」
 タニアは今し方まで、自分達に苦戦を強いていた物体の成れの果てを杖でつつきながら、ここまでの戦いを思い起こした。
「それも罠の一つでしょうね。上の階の罠にかかりやすくするためのね・・・・」
 サラは早速、ガーディアンが護っていた奥の扉へと近づき、自分の仕事を行っていた。
「ただ、これだけのガーディアンが作れるのに、何でトラップに頼ってるかが分からないのよね~」
 喋りながらの作業の手を休めることなくサラは言う。
「侵入者に対する処置じゃないの?」
 物珍しそうにサラの作業を覗き込むミア。
「だったら、1階であっても・・いえ・・・・1階でやった方が中を荒らされずに済んでいいはずでしょ」
 サラは、この手の作業中は自分から離れていてほしいなと思った。万が一、ガス関係のトラップが作動しては二人共に被害が出てしまう。
 だが、その手のトラップが無いと分かっていたので、あえて口にはしなかった。
「で、思うところ、専門家のサラはどう考える?それを・・・・・」
 ふと、キャシーが尋ねた。
「さぁね、私はあの魔王じゃないから、考え方は分からないけど、誘っているか遊んでいるかじゃない?」
「どうしてそう思う?」
「やってる事に無駄がありすぎるもの。これが目的あっての行為なら、わざとそうしてるって考えるのが妥当でしょ。でも、何を目的にしてかってなると・・・・・・ね」
「なら、当人に聞けばいいじゃない」
 タニアの意見は楽観論そのものだったが、非難する者はいなかった。全員、敵に勝てると言う自信がある証拠だった。
「まぁ、確実でしょうけど・・・・・・・は~い、OKよ」
 サラが扉を押すと扉は難なく左右に開いていった。
「お見事」
 自分とは全く違う分野の手並みにシャリアは素直に感心した。
「それじゃ、行くわよ」
 キャシーの言葉に全員が頷いた

 彼女達の踏み込んだ未知なる空間は雰囲気敵には今までと何ら変わる物ではなかった。
 前回のパーティが前進を挫折しただけであり、それは当然と言えば当然であった。ただ、彼女達の視点から見ての感覚なのである。
 彼女達は慎重に一本の通路を歩き続けた。本来迷宮用である分岐点用の目印も用意し、帰路順も確保する。
 しばらく何の障害もなく彼女達だったが、ある程度まで来たところで、先頭に立っていたシャリアがはたと立ち止まった。
「妙ね・・・・・ここに来てめっきり敵との遭遇が無いわね」
「あなたもそう思う?それにこの道、いやに単調だわ」
 キャシーも違和感を感じていたらしく、神妙な表情で同意した。
「う~ん、そうね、可能性としてはこの通路自体が罠の可能性もあるわね」
「何それ?」
 思わずサラに詰め寄るタニア。
「えっとね、罠って言うより、罠への一本道ね。この道の行き着く先がガーディアンってパターンもあるって事よ」
「ガーディアンなら問題ないわ。倒せるもの」
 タニアは豪語するが、あくまでも仮定でしかなかった。
「でも、このまま行くのも考え物よね」
 キャシーが意見を考慮して前進か後退かを考えた直後、タニアとミアは自分達の頭上で何らかの魔力が発生するのを同時に感じ取っていた。
「!!」
 反射的に見上げた二人が見た物は、頭上に発生した奇妙な黒い穴から姿を現した小柄なモンスターと、その縮小版のような更に小さいモンスターだった。
「危ない!」
 ミアはなりふり構わずとっさに避けたが、タニアが逃げ遅れ、一番大きなモンスターに背中から抱きつかれるような形で捕まってしまった。
 そして小モンスター達は身軽に着地すると同時に、戦闘態勢を取りつつあるキャシー・シャリア・ミア・サラ四人の牽制的位置に立った。
「は、話しなさい!」
 タニアは自力でモンスターを引き剥がそうとするが、もともと戦士ではない彼女は非力で、相手もがっしりとしがみついている為、とうてい成功する事はなかった。
「くっ!」
 彼女はやむなく呪文の詠唱に入った。
 全身からの放出系魔法により、相手を吹っ飛ばそうと言う魂胆だった。もっとも、接触している相手が対象だと、自らもダメージを受けるのは確実だったが、この美的感覚に乏しいモンスターにしがみつかれる事と比べれば、多少の怪我などは苦にもならなかった。
 だが、モンスターの方は怪我を好まなかった。魔力の波動で、相手が魔法を放とうとしているのを悟ったモンスターは、そうはさせじと、抱きついたまま指をウニウニと蠢かせた。
「ひゃああああああああ!!」
 突然、腹周りに感じたくすぐったさに、タニアは悲鳴を上げ、それによって呪文詠唱は中断してしまった。
「は・・はふっ・・やめ、くふふふ、止めなさい」
 タニアは身を激しく振り回し、モンスターを振り落とそうと賢明になったが、モンスターはしっかりと抱きついたまま、離れようとしなかった。
「あふっ・・この・・・・あははははは・・・・け、汚らわしい」
 タニアは時折悶えながらもモンスターを振り落とそうとし続けた。
 そんな時、さすがにモンスターも疲れたのか、腕の力が弱まり、体が僅かにずれだした。
(いける!)
 タニアはそう思った。だが、この状況は彼女にとって成功面よりも失敗面の方が高かった。
 体がずれたと同時に、蠢いていた指の位置もずれ、それが偶然にも彼女の“つぼ”に入ってしまったのである。
「あっ・・・・!あ~~っははははははははは!!や、やめて~!」
 突如として、大きな笑い声を上げるタニア。体の反応も、身悶えると言うよりも、既にのたうち回ると言う方が正しかった。
 しかし今回は、双方の成功が失敗に繋がるものらしく、無我夢中で体を捩っていたタニアがついにバランスを崩し、モンスターを下敷きにして転倒してしまった。
 どちらがより大きいダメージを被ったか、一目瞭然であろう。
「ぐえっ!」
 さすがに床石と人間に挟まれた衝撃には耐えられようもなく、モンスターはタニアを捕らえていた腕を放してしまった。
「し、しまった」
 思わぬ失態に退こうとしたモンスターであったが、それを彼女等が見逃すはずもなかった。
「逃がさないわ!」
 タニアの手のひらから小さな衝撃波がほとばしる。呪文詠唱を必要としない単語レベルの攻撃魔法だった。
 当然、威力はさほどでもないが、彼女も相手を殺すつもりが無かったのである。
 魔法は的確に命中し、逃げるところを後ろから突き飛ばされる形となったモンスターは、もんどりうって倒れた。
「キィィ!?」
 今まで他のメンバーを相手していた小モンスター達は、それを見て一斉に動揺した。
 この一瞬が決め手となった。
 相手の隙を見逃さなかった戦士達は、ほんの一呼吸のタイミングで一気に小モンスター達を切り払った。


 ただ一匹生き残ったモンスターは、正座させられた形で縛りつけられていた。
 先程のごたごたの際、人の言葉を口にしたのをタニアが聞き逃さず、尋問することを提案したためであった。
「貴方、名前は?」
 キャシーが剣を突き出し、問いかけた。
「知ってどうすね、お嬢さん方。そんな情報は何の役にもならんだろ」
 不敵にモンスターは応えた。
「そうね、なら質問を変えるわ・・・・『魔獣』と『秘宝』それを何に使うの?そもそも一体何なのそれは?」
「ほう、お嬢さん達は本当に知らないのか?自分達の国にある物の正体を・・・」
「どういう意味よ?」
 剣の切っ先が更に迫り、モンスターの体に触れた。
「それよりまず教えてくれ。お嬢さん方はどこまで知ってる?前の連中はおとぎ話レベルの内容しか知らなかったようだが・・・・・」
「この前・・・・クレア達ね。彼女達はどうしたの?」
「我々も聞きたい事があって、『尋問』した。今は全員地下の牢獄だ」
「こ、この!」
 シャリアは思わずバトルアックスを振り下ろしかけたが、それはキャシーによって制された。
「こっちも聞きたい事が残ってるわ」
 キャシーは再びモンスターに視線を戻すと相手の意図を考えながら口を開いた。
「かなり昔の伝説のせいか、『秘宝』については『魔獣』より多くは語られていないわ。そもそも在る事さえ疑われているからね。それに過去、『秘宝』を狙った外敵も存在しなかったからね」
「・・・・・・・・ですが、決して益である物でもなかったそうです」
「!!ミア、貴方、知ってたの?」
 予想外の発言者に一同の視線が一斉に集中した。
「はい・・・・と言っても、司教様に代々伝えられた口伝ですけど」
 その言葉に、モンスターの目が意味ありげに光った。
「曰く、『秘宝』は財宝にあらず、古代文明の遺産にして邪なる物。益となるは所有者のみ・・・・と」
「そんな口伝、あるなんて知らなかった」
 初めて聞く内容に、サラは戸惑いの声を上げた。
「じゃあ、『魔獣』は?何か知らされてる?」
「『魔獣』・・・・今では名称も忘れられたそれは、かつて人が作り出した生物だったそうです」
「「「「!」」」」
「その存在、人を虜とし、その魂を喰らう・・・・そう伝えられています」
 一同は衝撃を受けた。ミア自身も初めてこの話を聞かされた時は同様だった。『秘宝』はともかく『魔獣』と言う生き物さえ人間が作り出した事実は、容易には受け入れがたかった。この事実の意外性が、未来への言い伝えの風化に助力したのかもしれない。
「おおむね正解だ。だが確信には触れてはいないようだがな」
「じゃあ、貴方はどこまで知っているのかしら?答えて貰うわよ」
 再びキャシーの剣の切っ先がモンスターに突きつけられた。
「貴方達の目的と、何より・・・・・・『魔獣』と『秘宝』の真実を!」
「残念だが断る。そこまで答えていいとは言われてないのでな」
「言われてない?」
 発言に疑問を感じた瞬間、不意にモンスターの座っている床下に黒い穴が現れたかと思うと、モンスターは縛られた格好のまま、その中へと落ちていった。
「ま、待て!」
 逃がすまいと剣を振るうキャシーであったが、寸前の差で刃は空しく空を切った。全てが消える瞬間、彼女は見た。モンスターの意味ありげな笑い顔を。
「くっ・・・・あいつ、いつでも逃げ出せたんだ」
「わざと捕まったのね・・・・・でもどうして?」
 サラの疑問は一同のそれであり、今、この場にそれに答えられる者は存在しなかった。
「どうします?私としては一度戻って、『魔獣』と『秘宝』の事を調べ直す必要があると思いますけど」
 事態を重く感じたミアが発言する。
「そうね・・・・・私達が守ろうとしている物の正体を知っておくべきかもしれないわね」
「多分、教会の地下書庫か王宮の資料館になら何かしらの情報があると思います」
「・・・・・・そうね、王女に判断を仰ぎましょう」
 結局、本来の使命より、事の重大さを選んだ一行は、取り敢えず引き返す選択をし、今来た道を引き返していった。

 しばらくして、進行していた道を黙々と戻っていた一行は、その一歩一歩と進むに連れ違和感を増大させていった。
「・・・・・・・・変ね・・・・・・・」
 心中の疑惑の念を真っ先に表したのはシャリアだった。 
「貴方もそう思う?」
 抱いていた疑惑が自分だけでない事を知ったタニアも、自分の意志を問いかける形で表現した。
「ええ、なんとなくね」
「そうね、そろそろ、ガーディアンのいた大広間のはずなんだけど・・・・」
 最後尾のシャリアが呟く。が、通路は依然一本道となっていた。
 ふと辺りを見回すシャリア。そして、ある一点を凝視すると、小さく頷いた。
「そう言う事か・・・・・」
 次の瞬間、シャリアは大きく振りかぶり、バトルアックスを力一杯壁に叩きつけた。
『キシャァァァァァァァ!』
 突如、辺りから悲鳴が沸き起こり、破壊された壁から鮮血がほとばしった。
「!?」
 アックスが引き抜かれると同時に、壁は崩れ、それに呼応するかのように周りの壁も次々にその結合力を失っていった。
「な、何よ、どうしたの?」
 強力な一撃であったとしても、この現象は異常だった。初めて遭遇する出来事に、サラは戸惑いを隠せなかった。
「こう言う事よ」
 シャリアは手近にあった無傷のブロックを蹴った。
『ピキィィィ!』
 小さな悲鳴があがったかと思うと、ブロックから申し訳程度の二本の手と四本の足が生え、おまけに二つの目がぎょろりと開いた。
「なっ!」
 想像もしなかった生物の存在に、サラが思わず後ずさる。
「ブロッカーモンスターの変種よ。こいつらが集まって壁に擬態して惑わしていたのよ。本来はダンジョンで人を迷わせて楽しむ悪戯者だけど、こいつらは多分、私達を罠に誘い込むつもりだったのよ」
「こんなのがいたんだ・・・・・でもどうして分かったの?」
「経験者は語るってね。ほら、ミアの足元の床、傷があるでしょ。そこ、さっきのガーディアンとの戦いで私がつけた物なのよ。それを思い出したら、この壁が偽物だって分かったのよ」
「依然、同じ目にでも遭ったの?」
「ええ、遠征隊の所属だった時に、ダンジョンで迷ったあげく、いらついて壁を壊したら・・・・」
「こうなったのね」
 一同は辺りを見回した。
 個々の存在となったブロッカーモンスターは、数的には圧倒的に多かったにも関わらず、元来臆病なのか、あたふたと辺りを走り回り、挙げ句に一目散に逃げ出してしまった。
「直接には害にはならないんだけどね・・・・」
「でも、あんなのがいるんじゃ、今まで作った地図は役に立たないわね」
 自分が今まで記録していた道順を、残念そうに眺めサラが言った。
「魔法式の専用マーカーが必要って事ね」
「もしくは、フロア単位で完全制圧していくか・・・・」
 またも新たな問題に直面した一行が、今後の解決策を思考していた時、異様な気配を感じたキャシーが、反射的に剣を抜き、身構えた。
「何か来るわ、複数よ!」
 シャリアがバトルアックスを構え、タニアが呪文詠唱の準備にかかる。
 相手は数ヶ所から堂々と、ごく普通に通路の影から同時に現れた。その数、全部で十五匹。
 体型は人とほとんど大差ない。しかし、その体は気に覆われ、頭も人のそれとは違っていた。
「ワーウルフ(狼人間)!」
 緊張した面もちでキャシーが言った。
「・・・じゃないみたい。ちょっと違うわ」
 思わずへっとなり、注意深く見ると、確かに違っていた。どう違うかと言うと、ひとえに迫力というものが欠けている。ウルフ(狼)と言われるだけの野性さが感じられないのである。
「・・・・・・ひょっとして、ワードック(犬人間)とか言わない?」
 タニアの問いかけに、相手は一斉に頷いて見せた。
「・・・・・・・あんた達、帰りなさい・・・」
 冷ややかにシャリアが言う。おおよそ相手にするのもめんどくさいと言った表情である。
「我々を甘く見ると後悔するぞ」
 ワードックの一匹が言ったが、はっきり言って彼女達に個々の差を区別する事は出来なかった。
「やってみなさいよ!」
 おきまりの台詞と共に戦いは始まった。
「散・光・矢」
 タニアが短詠唱の魔法で、小さな魔法の矢を複数放った。
 二匹のワードックが突進中、顔面に矢を受け倒れたが、残りはかわすか堪えるかして、依然突進を止めない。
 シャリアとキャシーは比較的動きの遅くなった相手に迫り、それぞれの武器を大きく横振りし、数匹をまとめてなぎ払った。
 それでもワードック達は怯んだ様子を見せず、各々の間合いで迫ってくる。
 シャリアはバトルアックスを振るったが、重量型の武器はその反応を鈍らせモーションを大きくさせる。相手は身をかがめてそれをかわすと、全身で体当たりし、彼女もろともひっくり返った。
「しまっ・・・・」
 体勢を立て直そうと立ち上がるシャリアに新たなワードック二匹が群がり、彼女を押し倒した。
「シャリア!」
 仲間の窮地を知り、駆けつけようとしたキャシーだったが、俊敏さに勝るワードックは、その隙をついて背後から組み付き、彼女も押し倒した。
「キャシー!シャリア!」
 格闘は得意ではないタニア・サラ・ミアが援護に回ろうとした時、突如、床の一部が隆起し、あっという間に壁となった。
「ブ、ブロッカーモンスター!?まだいたの?」
 それは戦士達を隔てただけではなかった。気がつくと、各員がそれぞれブロッカーモンスターの壁によって、分断されてしまっていた。
「しまった!」
 壁に直面し絶句するミア。その背後で声がした。
「さて、お前さんの相手は我々だよ」
 ミアは敗北感を感じつつも、振り向きざまに魔法の衝撃波を放っていた。
「ぐわっ!」
 一匹のワ-ドックが、まともに衝撃波を受け吹っ飛ぶ。
 相手がこの一匹であれば彼女にも勝機はあっただろう。しかし、彼女の相手は三匹存在した。
 残る二匹は素早く左右に散ってミアを翻弄すると、あっという間に間合いを詰めて彼女を取り押さえ、そのまま床に押し倒した。
「さて、おしまいだ」
 二匹のワードックは、片手で彼女の左右の腕を押さえつけながら、もう片方の腕と爪で器用に彼女の装備を奪っていった。
 唯一の防具である胸当てが引き剥がされ、僧侶であることを示す法衣が引きちぎられ、魔法補助のアイテムさえ奪われた彼女は、法衣のアンダーウェアである深いV字カットの水着のような布だけの姿となっていた。
「さぁ、丁重にもてなしてやるよ」
 ミアの眼前に新たなワードックが現れた。いや、最初に彼女の攻撃を受けた者である。外見からはほとんどダメージが無いように見えるが、それは全身の毛によって隠されてるだけで、実際は痣などが数ヶ所は出来ていた。
「何をするつもり?拷問?」
 ミアは気丈に振る舞ってみせる。
「とんでもない。女は丁重に扱えとの、あの方の仰せだからな」
「あの方って・・・・・・・あっ、い、いやぁ~!」
 ミアは疑問を最後まで口にすることが出来なかった。最初のワードックが、閉じられていた彼女の股間に長い舌をこじ入れ、布越しに舐め始めたのである。
「はぁ、いや、や、やめて!」
 両脚を振って抵抗を試みるミアであったが、それは簡単に取り押さえられたあげく大きく開脚され、そのガードを奪われる結果となった。
 無防備な股間をワードックの舌が激しく責め上げる。
「はっ・・・あ、あふっ・・・こ、こんな・・・・あ、こんな事で・・・」
 悶える様が説得力を奪っていたが、ともかくもミアは抵抗の意志を示した。
「安心しな。これからが本番だ」
「な、何・・・?きゃ!きゃ~っははははははは!!」
 ミアは突如身震いしたかと思うと、けたたましく笑い声を上げた。
 股間を舐めていたワードックが、そのまま彼女の両膝を、犬と人の中間のような指でくすぐりだしたのである。
 それだけではない、左右の腕を押さえていた二匹のワードックも、舌と片手で無防備な彼女の体をくすぐり始めていた。
 快感とくすぐったさのミックスであったが、この場合、くすぐったさの方が遙かに勝っていた。
「あ~ははははははは、や、やめ、やめなさい・・・・・いやっはははははは!!」
 ミアは必死に体を捩るが、腕は全く自由にならず、その一方で脚は簡単に自由になるのだが、それならばとワードックの指は別のポイントをくすぐりにかかるため、何の解決にもならなかった。
「どうかな、気に入ってもらえたかな?我々一族の舌技とくすぐり・・・絶品であろう?」
「そんな、そんな、くははははははははは!い、いいわけ、やははははははは!ないでしょう、はははははは、や、やめてよ~!」
 ミアが必死に訴えたとき、本当にくすぐりと舌責めが止まった。
 急な解放に、疑問を感じる前に、激しく呼吸を整えるミア。未だ腕の自由は奪われており、若干体が舌責めによる女の火照りを発していたが、今の彼女にそれを自覚するゆとりはなかった。
「やはり同時はきつすぎた様だな」
「ならば順に慣らして行こうではないか」
「そうだな」
 申し合わせた会話の後、右腕を押さえていたワードックが、ミアにその顔を近づけて言った。
「なぁ、あんた、さっきのくすぐりと舌責め、どっちが良かった?」
 とても答えられる質問ではないので、ミアは押し黙った。
「あれだけ喜んでいたのだから、くすぐりかな?」
 そう言って、片手をわきわきさせ、ゆっくりと脇の下に伸ばしていく。
「はぁ、あっ、あっ、駄目、いや、くすぐらないで」
 ミアは少しでも指から遠ざかろうと体を捩るが、押さえつけられては結果は大差ない。
「ふも、さっきも苦しそうだったしな。ではやはりこちらか・・・・」
「あっ、ああぁ~!!」
 ミアが再び艶やかな声を上げた。
 仲間の台詞に合わせ、股間に位置していたワードックが、再び彼女の敏感な部分を容赦なく舐めまわし始めたのである。
 そして左右の二匹も舌を伸ばし、布の隙間から乳房そして乳首を各々思いのままに舐めまわした。
 もともとくすぐりによって、精神の抵抗が低下していたミアにとって、この甘美な刺激は抵抗しがたい物だった。
 こらえようとしても、刺激の度に体がはね、望みもしない声が意志に反してもれてしまう。
 人間では到底不可能な舌の動きに、ミアは不本意にも絶頂に突き上げられていく。そう分かっていてこらえることも出来ず、彼女は流されるまま、あっという間に絶頂に達してしまった。
「はあっ!あっ、あっ・・・・」
 今までに経験したことのない勢いの絶頂感に、ミアは体を仰け反らせ、ピクピクと痙攣を続けた。
 だが、その絶頂がおさまり、余韻となる一瞬の間も与えず、今度はワードックのくすぐり責めが始まった。
「ああああ~っはははははあはははは!!」
 ミアは肺から全ての息を吐き出すかの勢いで吹き出した。無理もない。絶頂時の最も精神の無防備状態を狙われたのだ。とても耐えられるものではない。
「きゃはははははは!いやっははははは!もうだめ、は~っははははははは!も、もう、許して~っひゃはははははは!!」
 ミアが必死に絞り出した懇願空しく、責めは続いた。
 大きくばたつかせていた両脚は、股間を責めたワードックに両脇で抱え込むように押さえられ、その指は、両膝の裏をじっくりとなでくすぐっており、長い舌は膝を中心に太股の上をナメクジのように這い回った。
 左右のワードックは、ミアの両腕を伸ばしきった状態から少し余裕を持たせる位置に移動させ、上半身の捩り具合に若干の余裕を持たせた。
 ミア自身はそれに気づかず、必死にくすぐりから逃れようと体を捩り続けたが、それを楽しむように、逃げる先々にワードックの指か舌かが待ち受けていた。
 左の責めに右に体を捩ると、待ってましたと言わんばかりに右脇腹をくすぐられ、左に逃げると、伸びきった左脇の窪みを長い舌が舐めまわす。
 そんなやりとりが延々と続くのだ。
「ひゃはははははははは!あ~っははははははは!やめ、ど、どうして、はふぁははははははははは!こ、こんな、こんな、あ~っははははははははは!!」
「もうだめ!あはっ!あはっ!許して、いひひひひひひひひひ!へ、へんに、変になっちゃうわよ~~っほほほほほ!!」
 しばらくの後、体を捩る体力も失ったミアは、それこそ絞り出すような笑い声を上げて微かに悶えるだけとなった。
 やがて彼女が窶れ、目が虚ろになったかと思うと、彼女は一度、大きく仰け反り、そのまま失神した。失神してなお小刻みに震えるのは、夢の中でもくすぐられている証だろうか?

 そんな様子を見て、ワードック達はにやりと笑った。
<そちらはどうだ?>
 突如、三匹の頭の中に重々しい声が響いた。
「はっ、今し方、処理を終わりました」
 姿を見せない相手に一匹のワードックが答えた。その表情は緊張で強張っている。
<他の者も終わっている。こやつらも予定通り下へ送れ>
「承知しました。しかし、今回は命令通り、全員を捕らえましたがよろしいので?」
 常に生存者を出し、さらなる相手を呼び込む方針に合ってない事を遠回しに問いかける。ワードック。
<心配には及ばぬ。お前達一族が担当したのが今回の侵入者の全てではない>
「左様でしたか・・・・」
 彼等、ワードックの感覚にも感じ取れなくても、“声”の主がそう言うのであれば間違いはない。
<こちらから出向くにはまだまだ時間が足りん。当面、雑魚の相手は任せるぞ>
 それは彼等の手に負えない者以外全てを含む。もちろん、“声”の告げた、所在の分からない侵入者は担当外となる。
<承知しました>
 返礼の後、ワードックにのしかかった威圧感はぷっつりと途切れた。
 ワードック達は無言のままミアを抱えると、通路の影に溶け込むように姿を消した。



  つづく



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