「くすぐりの塔2」 -勇者降臨編-
     



 5階を攻略して以降、キーンの身の回りは大きく変化した。
 5階にて遭遇、激闘の末に倒したミラーから託された全身鎧のおかげで、雑魚モンスターとの接触が極端に激減したのである。
 もちろん希に、キーンの気配を察して姿を現すモンスターもいたが、キーンの姿を見るなり『ミラー』と勘違いして、萎縮したように引き下がって行くのである。
 ミラーの行為を純然なる物と信用しきっていなかったキーンも、雑魚達の反応を見る限り、本物と信じざるを得なかった。
 だが問題もあった。
 モンスターの大半が『ミラー』の存在を恐れてか、身分の違いからかの理由により姿を現さず、全く会話の相手が存在せず、情報が得られなかったのである。たとえ敵対者としての存在でも、知能があり会話が交わされればその内容から情報を得る事は可能であった。
 だが現状は、それすらも困難なものとなっていたのである。
 変装して内部調査を行う時は騎士より衛兵であった方が良い場合もある・・・・
 とある地方で聞かされた何気ない格言が、この時ばかりはキーンの身にしみた。

 全く戦闘も無いまま、6階を通過し7階へと到達し、大きな広間に出たキーンは、前方を見て思わず身を固くした。
 進行方向に大きな扉が設えており、その左右に妙に風格の良いオーガー系のモンスターが仁王像の様に立っていたのである。
(迂闊な反応は疑惑を招くな・・・)
 そう判断したキーンは、狂いそうだった歩調を辛うじて整え、威風堂々とした感じで扉の方へと近づいて行った。他に道も扉もない以上、そこに近づくしか自然と思われる動作が無かったのである。
 幸い顔の方も、兜のガードが顔の半分近くを覆っているため、表情の変化を悟られる事も無かった。
 キーンは努めて平静を装い、扉の前まで行くと、その正面で立ち止まり、左右に控えるオーガーを無言のまま見上げた。
「ミラー様、御無沙汰ですね。今日は息抜きですか?」
 最初に声を放ったのはオーガーの方であった。妙に機嫌の良さそうな口調は、その凶悪な体格とは正反対のイメージを抱かせた。
「そんな所だ。中の様子がどれくらい変わったかも、直に見るのも面白いと思ってな。アレの相手ばかりでは私でも気が滅入る」
 キーンは予め考えていた台詞を状況に合わせてアレンジし、気さくに声をかけてきたオーガーに向かって言った。
「はっはははは。ミラー様でもそう思いますか?さぞや大変なのでしょうな」
 だろうと思う。と言う意見を呑み込み、キーンは会話の流れを合わせた。
「だからこうしてここに来た。入れてもらえるかな?」
「何をおっしゃいますか。わざわざこちらから来なくとも、専用通路を使っていただければ良かったんです」
 自分の知らない知識が語られ、内心緊張するキーンであったが、オーガーは特にその点を重要視しなかった。
「頻繁に赴いている訳でもないのでな。気が退けた」
「貴方らしい」
 さしあたって害のない言葉を選んで答えると、2匹のオーガーは軽く笑いながらその体躯を使って正面の扉を左右から開けた。
「さ、どうぞ」
 オーガーに促されるまま、中に入ったキーンは周囲の様子を見て思わず愕然とした。
 中はかなり広大な広間となっており、その中ではモンスター達による盛大なパーティが催されていたのである。
「こ、こりゃ何とも・・・・・」
 まさかこの様な光景が繰り広げられているとは夢にも思わなかったキーンは、しばしの間、呆然とその場に佇んでいた。
 飲み食いによる狂乱などは当たり前の現象であったが、よくよく注意して見ると、モンスター達は幾つかのグループに分かれるようにして、寄り集まって何かに興じている様であった。
 その集まり方に統一性や種族性がない事から、個人的な好みによる集まりである事が予想されたが、一同が何に集まっているか皆目見当がつかなかった。
 周囲全てが敵である現状の中にあっても、好奇心が失われなかったキーンは、手近な集まりの中に、偽りの権限を利用して混じって行った。
「おい貴様、ぬけぬけと割り込むとは・・・・」
 その巨体故に集団の後方に追いやられているに近い状態であったオーガー系のモンスターが、その不満を小さき存在に八つ当たり気味にぶつけようとしたが、その相手の姿を見た途端、魂を凍らせた。
「こ、こ、こ、これは、ミラー様・・・・し、知らないとは言え、とんだごぶっ、御無礼を・・・・」
 その存在だけで大半のモンスターを威圧できるはずの大型モンスターが、その身を震わせ三歩下がった。混雑の中の出来事であったため、周囲のモンスターの何匹かが突き飛ばされる形となったが、そんな事は彼には気にとまらなかった。
 中身は偽物ではあるが、体格的には同等のミラーは権力か実力かにおいて、モンスター達の上位に位置していることが判断できる一件だった。
「かまわんよ。こちらも好奇心に負けてしまってルールを破ってしまった・・・・それより、ここでは何をしているんだ?」
「へ、へへっ・・・・たわいないゲームですよ」
 モンスターは、ミラーが自分の無礼を気にしていない事にほっと胸をなで下ろすと、すぐさま彼の疑問に下品な笑いで答えた。
「御存知ないでしょうね。暇つぶしに考案された遊びですから・・・・見てみますかい?」
「ああ、頼む」
 巨体のモンスターはゆっくりと片膝をついて姿勢を低くすると、肩をミラー(キーン)の方へと向ける。
 その意図を察したキーンは、軽い歩調でその肩に乗り、それを確認したモンスターは再び立ち上がり、視点を遙か上へと移動させた。
 このモンスターの視界からすれば、たむろしている集団も障害とは成り得ず、キーンの見たかったモノを簡単に視界へと導いた。
「おうっ」
 それを見て、キーンは思わず声を漏らしそうになった。そこでは、じつにキーンの趣味に合ったお遊びが展開されていたのである。
 そこには四人の少女が人文字で十字を形成する形で拘束されていた。全員、パンティ一枚という姿で手足を伸ばしきった状態で寝かされ、身動きできない状態になっている上に、目隠しと猿ぐつわのギャグボールを噛まされている。
 そんな無防備な裸体の上を、ゴキブリに似た虫らしき物が数匹、縦横無尽に這い回っていた。それも単に這い回っている訳ではなかった。単なる虫でない事を証明するかの様に、女体が感じる部分を的確に這っていたのである。
 首筋、乳房の周囲、乳首、腰のライン、臍の回り、内股、脇腹・・・・・虫達が身体の上で軌跡を描く度に、拘束された女体はピクピクと跳ね、首を振り乱して身悶えていた。
 口からも悲鳴が上がるが、ギャグボールを噛まされているために、まともな言葉を放つ事は出来なかった。
 そして、それを取り囲むモンスター達は、箸のような物を手に持ち、女体を這い回る虫達を捕まえる事に興じていたのだ。
 もっとも、モンスター達に本気で虫を捕らえる意志は無い。
 捕まえるふりをしては箸の先端で女体を微妙な力加減で突っつき、追いかけるふりをしては虫のたどったコースをなぞって、少女達を責めていたのである。
虫とモンスターの同時攻撃、その上視覚を奪われているため、どこを責められるかの情報も得られず、その感覚は余計に敏感となり、加えられる刺激に過度とも思える反応を示す事となる。
「うううううううううんんん~~~~~~」
 少女達は必至に身体を捩り、身悶え、身体を這う虫を振り払おうと懸命な努力をした。
 だが、拘束されている身がそれ程の動きを成すはずもなく、時折、虫を振り払うことが出来ても、虫はすぐにもとの場所、即ち女体に戻り、何の解決にもならなかった。
 モンスターと虫達にいいように弄ばれるだけの少女達は、懸命に堪えているつもりではあったが、その反応は相手の欲情を誘い、汗だくになり、肌を上気させ、涎を流す有様は被虐心を煽る。
「他の催しに比べれば陳腐ですが、これはこれなりに一興ですぜ」
 キーンの脇で、視界確保の役割を負ってくれたモンスターが言った。
(他?他があるのか・・・・・)
 キーンは今、塔内最大の娯楽施設の真っ只中にいた。



 -第十章 塔内遊技-


 自分が風俗店さながらの娯楽施設にいる事を知ったキーンは、フロア捜索を口実として辺りを見まわる事にした。個人のみの行動のため、誰に断る事も言い訳を論ずる事も必要ではなかったが、やはり僅かな良心が咎めたのだろ。それを納得させるために、彼には『捜索』と言う口実が必要だったのである。
 まず最初に、案内板を見て興味をそそられる物が無いかと確認しようとしたキーンであったが、書かれている文字が自分の知識外である事を知り、彼は人だかり(モンスターだかり)を目安に適当にぶらつくことにした。

 ややして彼は最初の催しに遭遇した。
 彼がここを最初に選んだのには理由があった。それは、目立ちすぎていたのである。
 人だかりは他と同様であったが、全裸の女性が二人、ロープで宙づり状態となっており、少し離れた距離からでもその姿が見えていたのである。
 もちろんこの場において、処刑などはあり得ないと察するキーンは、アレにも理由があると悟り、その正体を確認したいという好奇心からその場へ向かったのであった。
 キーンは例のごとく現在の身分『ミラー』を利用して、最後尾から前列へと赴くと、この催しの全貌を把握した。
 ここは円形の囲いの中に四人の全裸の少女がおり、二人一組で一本のロープを握っていた。そのロープは頭上に伸び、滑車を介して、ここを知るきっかけとなった、吊るし少女二名へと至っていた。が、正確に言うと少女達は吊されているのではなく、自力でロープにぶら下がっていた。
 そして吊されている少女達の真下にはスライムの変異体であろうと思われる物体がクッションの様に準備されていたが、注目するのはその下で、スライムクッションを蓋として、簡易的に組まれた檻の様な物が存在している事だった。
 その檻の中には蠢く物があり、キーンが注意して見ると、それは『手』であった。
 彼は知らなかったが、この『手』は無念のうちに死んでいったモンスター達の怨念が呪術によって具現化した物で、それらが持つ本能は死に際によって異なるが、ここの『手』は全て女体をくすぐり回す事だけを本能としたものとなっていた。
 製造方法・本能を知り得ないキーンではあったが、檻の中で蠢き、すぐ近くでロープを支える四人の少女達に今にも襲いかからんとする様子から、だいたいの想像はついていた。
(つまりは、下の娘がロープを支えきれなくなるか、上の娘が力尽きて落ちると下で待機していた『くすぐりハンド』(仮名)が開放されて彼女達に襲いかかる・・・・と、言う事か。それ即ち、六人全員の運命に繋がっている訳だ・・・・)
 考えて、意地の悪い内容だとキーンは思った。
 とは言え、そうして相手が力尽きるのをただ待つだけと言うのも面白みがなく、それらはモンスター達の共通した意見でもあったため、更なる、あるいは余興の本命として、ロープを支え抵抗のままならない下の少女達四人に対し客席(囲いの外)から悪戯が行われていた。
 悪戯は極単純な物で、長い棒の先に鳥の羽を結びつけて無防備な裸体をくすぐると言う物であった。柵越であるため、必然的に棒の長さが長くなっているため、羽の操作率はかなり悪いものの、いきなり強烈なくすぐったさでロープを離されてしまうのも面白味がないと言う事情もあり、この位が見て楽しむ分には丁度良かったと言えた。
 実際、周囲から伸びる何本もの羽に、身体を無秩序に撫でられ身悶えする少女達の様子は男を徐々に興奮させる雰囲気があった。
 少女達は無遠慮に身体を這う羽にくすぐったさを感じはしているものの、爆笑には至らず、どちらかと言えばもどかしさの残るソフトタッチにピクピクと身体を反応させていた。彼女達を縛っている物、それは自分達が今握っているロープだけであった。出来ればそれを手放し、自分の身体にまとわりつく羽を振り払い、ガードしたいところであったが、仲間を落とすわけにはいかないと言う連帯感と、それ以上に、その結果生じる事態を恐れ、その選択を選べないでいたのだ。
 結局、手によるガードが出来ないまま、彼女達は身体を悩ましげに振り、羽付棒の範囲から逃れようと柵内をぐるぐると移動するしか手段はない。そんな様相がモンスター達の娯楽の材料と化していたのである。
周囲の柵を取り囲むように陣取ったモンスター達は、その範囲に少女達が逃げてくると嬉しそうな声を上げ、手持ちの羽付棒で裸体を撫で回すのである。
 その都度、少女達は身を震わせ、時には喘ぎ声をもらして手から力が抜けるのを堪えるのである。無論この状況下で、責められる側には反撃の手段などありはしない。四肢が拘束されていなくても彼女達に自由は存在せず、籠の中の鳥と何ら変わりはなかった。
「ミラー様もどうぞ・・・」
 進行係なのか、一匹のオークがキーンにも羽付棒を差し出した。
「悪いな」
 キーンはミラーの立場としてそう答えると、差し出しされた羽付棒を受け取り、柵の方へと移動した。中を覗き込むと、少女が一人、手頃な位置で背を向けている状態だったため、早速とばかりに手に持った羽付棒を突き出し、無防備な少女の尻の割れ目からうなじへと、羽先を器用に這わせた。
「はっ!?はぁぁぁぁん!!」
 今までになかった的確な責めを受けた少女が悲鳴を上げ仰け反った。ほとんど反射的とも言える反応のため、仰け反った彼女自身のバランスが崩れ、両膝を床に着けたが辛うじて手のロープは離さずに済んだ。
「おおっ、さすがはミラー様!」
 少女に極端な反応に、周囲のモンスター達から感嘆の声が上がる。実際、少女達までの距離はそこそこあり、羽付棒で触れることは出来ても狙ったポイントに触れる事は意外に難しいものであった。
 だが、キーンの戦闘における主武器は槍であったため、長い獲物の扱いには慣れていたのである。多少長さは違うものの、槍に比べれば格段に軽い羽付棒を操ることはそう難しい事ではなかった。
 そんなわけで、キーンの羽使いは周囲の期待に応えるのに十分な動きを見せていた。
羽の一挙一動が女体を激しく反応させ、まるで磁石の反発とも思えるような動きを見せる。羽の腹が少女の右腰から右脇の下付近まで這うと、女体は激しく「く」の字に折り曲がって左へと逃げようとする。だが、それよりも早く羽が左側に回り込み、同様に撫で回し鏡に写したような反応を見せる。
「あひっ!はぁん・・・あっ・・・・やはぁっ・・・・あっ・・ああぁぁぁ」
 不運にもキーンのターゲットとなった少女は涙目になりながら身悶え、身体をくねらせ淫靡なダンスを踊り続けた。
 それでも使命感あるいは恐怖心からか、手にしたロープだけはしっかりと握って離さないでいる。
「ふん、意外にしぶとい・・・・・」
「手を離した結果を知っていますからな。必死にもなります。ですが、それだからこそ我々も楽しめるのですがね」
 キーンの呟きに、先程羽付棒を手渡したオークが応えた。
「確かにな・・・・だが、それと相反して、『結果』が訪れるのも待っている・・・・と言った面もあるだろ」
「左様で・・・・・」
 期待を込めた眼差しがキーンに向けられた。
「なら、少し責める趣向を変えてみるか」
「と言いますと?」
「この棒、もう一本あるか?」
 キーンは手に持った羽付棒をひらひら動かして、オークに問いかけた。
「え、ええ・・・」
 笑みを浮かべて言うキーンに対し、オークはその真意を見抜けないでいた。

「どうぞ、これを・・・」
 キーンの要望はすぐにかなえられ、全く同じ羽付棒が届けられた。
「OK。それじゃ、そこのミイラ男・・・」
 キーンは受け取った棒を軽く確認すると、今度は周囲のモンスターの中から全身を包帯に包まれたミイラ男(本名不明)を指名した。
「・・・・・・・・・・・」
 ミイラ男はしゃべれないらしく、少し大げさなゼスチャーで自分の人差し指を自信の顔に向け、私ですか!?と言う意思表示を行った。
「ああ、だが正確には君ではなく、その身につけている物を分けて欲しい」
 ・・・・と言う訳で、ミイラ男からある程度の包帯をもらったキーンは、それで二本の棒を結び、そのリーチを約二倍にした羽付棒を即席に作り出した。
「それで一体何を?」
 怪訝そうに問いかけるオーク。その場で四人の少女全員に届かせるための工夫かとも思えたが、そんな事をせずとも、円形となっている柵の周囲を移動すれば済むだけの事である。
 そんなオークの疑問をよそに、キーンはロング羽付棒を突き出す。しかしそれは四人の少女達の方ではなく、その頭上で吊されている二人の少女の方であった。
「ちょっ・・・まさか・・・いやぁっ!」
 吊された方の少女は、下から迫り来る羽を見て、その意図を理解した。だが出来るのはそこまでで、彼女には逃げる手段がない。
「く、来るな!来ないでぇ!」
 上の彼女も拘束はされてはいなかったが、吊された身では移動など出来るはずもない。
 身を振り、足をばたつかせて羽を追い払おうともしたが、暴れれば暴れるほど、彼女の掴まっているロープを支える、下の少女達に加わる負担が大きくなるため、存分な抵抗も出来るはずもなく、ついに羽の先が振り回される脚をかいくぐって少女の腹に触れる事に成功した。
「あひぃぃぃん!」
 腹周りを羽の柔らかい感触が襲い、少女が身悶えた。移動という選択がない彼女にとって現状は悪いとしか言いようがない。
「あはっ、やははははははははははははは!」
 抵抗できないことを良いことに、キーンの操る羽は各所をくすぐり、その身体がくねる度に別のポイントへ移動しては彼女に強制的なダンスを踊らせた。暴れる彼女にせいで、下でロープを支える二人の少女の負担は大きくなったが、それ以上に上の少女の負担の方が大きかった。何しろ彼女は自分自身の体重を、自分のか細い腕のみで支えるしかないのである。
 それが己の過敏さによって引き起こされるダンスによって急速に消耗して行き、ついには限界が訪れた。
「あっははははははは・・・ああっ!」
 身悶えていた少女が手を滑らせ、絶望の悲鳴を小さく上げた。
 ほぼ同時にモンスター達からは、ようやく次の見せ物が始まる期待に歓声が起き、下の少女達は揃って表情を強張らせた。
 落ちる少女を担当していた二人は慌てて受け止めようと動いたが、既に遅く、落下した彼女の衝撃により、下のクッション兼蓋を壊し、中で蠢く飢えた『手』=『くすぐりハンド』を開放してしまった。
「いやぁああああ!」
 少女達が悲鳴を上げた。それに呼応するかのように、『手』が活動を活発化させ、指を器用に動かし床を這い進み始める。ロープ担当であった少女は後ずさって柵に背をつけ、落下した少女も急いで立ち上がり逃げようとしたが、それよりも早く『手』に足首を捕まれ転倒してしまい、あっという間に無数の『手』に集られてしまった。
「きゃあっははははははははは!あ~っはははははははは!いや、いやっいやっっははははははははっははははは!」
 少女は身悶えながら床を転がり、まとわりつく『手』を振り払ったが、追い払うより集られる数の方が圧倒的に多く、その抵抗は無意味な物となり、笑い悶えながら床を転がるしかなかった。
「きゃああああ!!」
 その時、集られた少女のすぐ近くに、もう一人の少女が落ちてきた。『手』の開放と、仲間がくすぐり襲われるのを目の当たりにして身の危険を感じたもう一組の少女が、思わずロープを手放してしまい、上にいたもう一人が落ちてきたと言う訳である。
 群がっている『手』の上に落ちた彼女には逃げる暇もなかった。
 あっという間に『手』が獲物を認知して襲いかかり、彼女の全身を覆い尽くすように群がったのだ。
「ああ~~~っっははははははははっは!あっっははははははは、ひゃっははははあっはははははは」
 彼女も笑い悶えながら死にものぐるいで抵抗したものの、こうなっては逃げられるわけもなく、その様相は蟻に襲われる虫そのものであった。
 周囲にいた四人は助けるどころか、近づけば自分も同じ運命である事を知っており、更にはこの場にいる事自体がそうである事を認識していた。
 四人の少女達は限られた空間を各々逃げ、中にはモンスターの好奇の目も気にせず柵をよじ登ろうと試みた者もいたが、モンスター達がそれを許さず、突き飛ばすなどの妨害を行い結局全員、『手』に取り囲まれて集られる事となった。
「いや、いや、ひゃっっははははははは!そ、そこだめぇ~あああああっっはははははははっははははは」
 全身にまとわりついてくすぐってくる『手』に笑い悶え、立つことすらままならなくなった少女達は床の上で魚のようにのたうち回った。
 『手』はモンスターのくすぐれなかったと言う怨念が具現化した物であったが、女性をくすぐれたからと言って成仏し、消滅する事はない。その怨念は本能として定着するため、一度くすぐり始めると、対象がどうなろうとくすぐる続けるのである。
 自力もしくは他者が引き剥がし、隔離するか処分しない限り、捕らわれた者に対するくすぐり地獄に終わりはないのである。
「やめ、やめぇ~、やっ・・・ぎゃははははははあははははははははははは!いひゃぁははははははは・・・く、くるしっくひゃははははははははははははは!!」
 ある者は左右に転がり、ある者はエビの様に仰け反りを繰り返し、ある者は身体を丸めて痙攣を起こし、ある者は俯せになったまま引きつった笑いをもらし、ある者はあまりに多くの『手』に集られたため、身動きも出来ず良いようにくすぐり回されてたりもする。
 そんな多種多様の様子を、モンスター達は実に嬉しそうに眺めていあた。
「いや、さすがはミラー様、着眼点が違いますな」
 不必要となった羽付棒を受け取り、オークが言った。太古持ち的な態度が見え隠れもしていたが、その視線は少女達が気になるのか、時折、柵の方を向いていた。
「直接手を出すことは出来ないが、それなりに楽しめた。次はこれを応用したらどうだ?」
 嘘ではなく、彼はそう思った。
「そうですね。彼女達が気絶して次のグループの番になったら、やってみましょう」
 その言葉を背に、キーンはその場を後にした。



次に彼が訪れた催しは、長方形の形状をしたステージとなっていた。
 その半分が敷居板で隠され、その中央に開けられた小さな穴から、五本のロープが伸びていたが、まだ催しは始まっておらず、ステージにはモンスターも少女も誰一人いなかった。
「おお、ミラー様・・・来られていたのですか」
 ステージ中央で準備をしていたのだと思われるワードックが目ざとくキーンに気づき、声をかけてきた。
「ああ。ところでこれはどんな趣向なんだ?」
 床に伸びている五本のロープを指さし、問いかけるキーンに対し、モンスターはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「綱引きですよ」
「綱引き?」
 もちろんキーンも単語自体の意味は知っていた、だが、それの意味する所が分からず、思わず問い返していた。
「ええ、こちら側は女達が立つ側で、この五本のロープから一本を選ばせます。各ロープにはそれぞれ『担当者』が存在し、反対側・・・・敷居の向こうで待機しており、女はそいつと綱引き勝負を行うわけです」
「勝てば放免。負ければ慰み物・・・・と言う条件だな」
 確信したようにキーンが言い、それにワードックは頷いて見せた。
「さすがキーン様・・・・お察しの通りです。ただ、観客サービスの意味も含め、内容は多少工夫がされております」
「と言うと?」
「まず、あの敷居ですが、実はあれは1メートル程の間合いに近づくと相手をくすぐり責めにするトラップを流用して作った物です」
「つまりは、敗者は慰み物になる前にくすぐり責めに遭うと・・・・」
「はい。この間合いにまで引きずられた相手は、この時点で負けが確定しますが、ちょっとした意地悪・・・・と言った感じですな」
「意地悪・・・か、それでも女側が勝ってしまっては興ざめだぞ」
「その点は御心配なく。確かに力では人間の女にも劣る仲間もいますが、そう言った連中は複数で参加します。それを隠すための敷居でもあるんです」
「なるほどな・・・・・」
 公平に見えてその実はイカサマと言う内容に、キーンは感心して見せた。
「やはりやられ役はやられてこそ、客受けがあると言う事ですな。じきに始めますが、ミラー様も参加されますか?よければ優先させますが」
 キーンはこの身分は、こう言った状況では役得だなと思いつつも首を左右に振った。
「待っている連中に悪い。見る方で楽しませてももらう」
 参加し、もし自分が対戦者となって勝利し、役得を得てもくすぐり方が違うと指摘を受けては元も子もないと言う事情もあった。
「わかりました」
 そんな心理を知り得ないワードックはそそくさと戻り、自分の担当する催しを見に来た最高幹部の一人のために、早々に準備を再開するのであった。

 もともと諸準備が簡単に済むため、『綱引き』は早々に開催・・・あるいは再開された。
 既に順番が決まっていた事もあり、モンスター側のスペースにはそれぞれがたむろし、これから訪れる生贄が、自分達の担当するロープを引いてくれる事を誰もが心待ちにしていた。
 キーンは、ワーウルフが気を利かせて用意した席に座り、現場を眺めていた。会場よりやや高い位置にあるため、一目で全体が見下ろす事が出来るベストポジションだった。
「確かに、これじゃ女には勝ち目はないな」
 意気揚々とするモンスター側のメンバーを見て、キーンは思った。一目で勝敗が分かる大型モンスターのサイクロプスを始め、大柄なワータイガーにワースパイダー、以前闘った正式名称不明のタコヘッドに空間跳躍と言う特殊能力を持ったカエルみたいな生物も五匹一組と言うハンデで待ち構えている。
「やられ役はやられてこそ、客にうける」
 とは、先程のワードックの言葉であるが、確かにと、キーンは納得した。彼も又、ここに座った時点でまだ見ぬ女の敗北を望んでいたのである。

 ややして客席から歓声が起きた。キーンが視線を移動させると、二人の少女が押し出されるようにして舞台となるステージに姿を現した。
 彼女達は全裸ではなかったものの、薄地のボディスーツの様な物を纏っており、ぴったりとフィットしたそれはそのボディラインを露わにし、ある意味では全裸よりいやらしい雰囲気を見せていた。
 その自覚は彼女達にもあるらしく、二人は頬を紅く染めもじもじした様相で身体を両手で覆っていた。
 進行役のワードックはそんな事はお構いなく、彼女達を急き立てると五本のロープが置かれている場所へと連行し、この中から一本を選ぶように言い放った。
 少女達もここのルールを知っているのだろう。ロープを選ぶ仕草には戸惑いがあり、軽々しく決定する事を躊躇わしていた。いや、ただ一つ彼女達が知らない事があった。それは、どのロープを選ぼうとも、彼女達に勝利はあり得ないと言う点である。
 実力が十分なら、どれも選ばず周囲のモンスターを打ち倒すと言う選択もあったが、それを実行できる者は限られており、間違っても彼女達が実行できる手法ではなかった。
 どのモンスターが選ばれ、その様な結果に至るか?キーンがそんな事を考えているうちに、少女達は遂に一本のロープを選択した。
 ワードックはそれを持ち上げると、ロープに備え付けられていた手枷を少女達の両腕にはめ込み、途中放棄すら出来ないようにした。それが終わった後、軽くロープを引かせ、対戦相手を確認する。
 客席から失笑とどよめきとが複雑に混じった声が漏れた。今回、あの二人の少女と勝負をする栄光を受けたのが、五匹一組のハンデを受けているカエル型のモンスターであったからである。
「狙ったのか偶然か、微妙な勝負だな」
 キーンは呟いたものの、彼は少女達の敗北を確信していた。先程、微妙な勝負と言ったのはあくまで体力的な面であり、実際に勝負が始まればまず勝てないだろう事は予想できた。これは、直接あの種と闘った事のある彼の実感だった。
 勝負は彼の予想通りに進んだ。
 当初単純な力比べで始まった綱引きは、均衡した状態が続いた。やがて持続力で徐々にではあるが少女達が優勢になるものの、それを頃合いと見たモンスター側の一匹が例の特殊能力、空間跳躍を使って自分の腕を少女達の背後に出現させ、綱引きに夢中になって無防備になっていた脇腹をくすぐったのであった。
 この不意打ちに少女達は身悶えたが、両手は綱に繋がれているため抵抗することも逃げることも出来ず、激しく身を捩りながら笑い悶え、力を失った綱は徐々にモンスター側に引きずられて行った。
 こうなると彼女達の勝機は全くなくなり、さして抵抗も出来ないまま、敗北宣言と同意である敷居の前まで引きずられ、敷居に仕掛けられたくすぐりトラップを作動させられ、無数の手によるくすぐり責めを受ける事となる。
 後は綱引きを行う余裕を全く失った彼女達を完全に引き込み、所有権を得ればゲームはおしまいであったが、辛辣な事に、カエル型モンスター達は綱を引くのを止めて現状維持を行い、しばらくの間、彼女達がトラップにより容赦ないくすぐりを受けて悶える様を見て楽しんだ。
 それを観賞して楽しんだのは彼等だけでは無い。観客にも包み隠さず観賞できるため、自然と観客のテンションは上がっていった。
「成る程、前座って意味合いもあるって事か」
 冷静さを装いながらもキーンは自分自信の血もかなり滾りだしている事を自覚するのであった。
 少女達はトラップに散々くすぐられて悶笑し、体力の大半を使い果たしてしまって後、ようやくにして開放される事になる。
 だがそれは休息を意味する物ではなく、新たな、勝者であるモンスター達の手による責めが始まる事を意味している。
 勝者であるカエル型モンスター達は、自分達の能力を惜しげもなく利用した。
 今、地面には二人の少女が、両腕を肩口から、両脚を付け根近くから消失させて、横たわっている。
 両手足をモンスターの特殊能力である空間転移によって異空間に移動させ、この空間から消失させたのである。これにより彼女達は手足を切断されてしまったのと大差ない状態に陥ったばかりか、自分達の身体に群がり、好き勝手にくすぐるモンスター達に対し、何らの抵抗手段を持たなかった。
「やめ・・・やめてよぉぉぉぉ~!!ああっはっははっはぁぁっはっは~!!」
「やだぁぁぁぁもうや・・・・やぁああっはっはあはぁっはっははっは~!!」
 少女達はこの空間に残る顔と身体をくねらせ、笑いながらその手から逃れようと必至になった。実のところ、手足もこれ以上ないくらい振り乱していたのだが、異空間にあっては何の意味も成さず、肝心の弱点を覆い隠す事さえ為し得ないでいた。
「だから・・・だからあああああっはああはっははははっはあははは~!!」
 モンスターは容赦なくくすぐりを続ける。手足がない状態と言う物は、少々視覚的に気味の悪い物ではあったが、空間跳躍のできる彼等の目には異空間の手足も見えるのかも知れない。
(あの能力、そう言う使い方もあるか・・・・なかなかに興味深い)
 どんな能力も発想次第であると言う事を再認識しつつ、キーンは真剣な眼差しで繰り広げられているくすぐりショーを楽しむ。
 そんな折り、一匹のモンスターが異空間の穴を作り、そこへ手を突っ込むと、中から人間の右足首を引っ張り出してきた。それが今、くすぐられている少女達のどちらかの物であろう事は明白であり、モンスターが嬉しそうにその足の裏に指先を添えると、一方の少女の身体が跳ねた。
「ああぁぁぁっ!!だ、ダメぇぇ~!!!ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ~!!」
 これから何が起きるか、その感触で悟った少女が悲鳴を上げて懇願するが、その要求は無惨にも却下され、足の裏全体をモンスターの指が這い回りだした。
「いっ・・・いやぁ!・・・・っく・・きゃは!!きゃはははははははっははははぁぁぁぁぁああ~!!」
足裏を責められた少女が狂ったようにのたうち回ったが、異空間の出入り口によって出ている足首はクネクネと悶える事は出来ても、位置そのものを変える事は出来なかった。それでいて、責められる側は思いっきり暴れているのにも関わらず・・・・・なのである。本人に手足はしっかりと存在し、なんの拘束も受けてはいない。ただ同一空間に位置していないため、どんなに暴れても干渉する事が出来ないのである。これはある意味、拘束されてのくすぐり以上に質が悪いと言えた。
「あははははははははは!あ~っっははははははははは!ひゃあっっははははははははははははははは!!」
「あひっ、あひっ、あひゃっははははははははははははっはは!あああああああっっははははははははははは!」
 手足の感覚があっても幽体と変わりなく、抵抗にも防御にも役立たない少女等はその女体の弱点をさらけ出したまま、いいように嬲られ笑い狂った。
 やがて彼女達はモンスターの巧みなくすぐりに全身汗まみれとなり、ただでさえ薄手で透けていた着衣を更に透けさせた挙げ句、激しく痙攣して気絶した。
 歓声と共に今回の見せ物が終わり、ワードック達が後片づけを開始し始める。そして数刻の後、また新たな少女が勝ちようのない綱引きに挑戦させられるのであった。
 次の回まで間があるため、退出していくモンスター達の集団の中に、キーンの姿もあった。



 それから暫くの間、キーンは辺りを放浪しては目にとまった催しを見て楽しんだ。
 催しは数多くあり、ジャンケやくじで、賞品の少女をくすぐる権利を奪い合う単純な物から、がっしりと拘束した全裸少女の身体に絵筆を用いて絵を描く様なマニアックな物や、特別に作られた迷路内に数人の少女を放ち、それを『ローパー』と呼ばれているイソギンチャクの親戚のような形状をした人造生物数匹を宝珠でコントロールし、追いつめ・捕らえ・『ローパー』の特徴でもある触手でくすぐり嬲ると言った、手の込んだ趣向も存在した。
 それらを一通り見て回り、気に入った催しには自らも参加しながら、キーンは自称『フロアの調査』をし続けた。
 そして全てを見まわる事にしていた彼は、必然的にあるスペースに辿り着いた。
 そこは、周囲の盛況さに反して何の催しもなく、開いたスペースに小柄なモンスター人間型のモンスターが数匹座り込んでいただけだった。 
「ん?何なんだここは?」
 周囲に比べれば確実に浮いている区画に足を踏み入れ、キーンはそこの担当であろうモンスター達に声をかけた。
「あぁ?」
 モンスターは不機嫌そうに唸った。
「ここでは何をしているんだ?」
 改めて問いかけるキーン。
「何を・・・だぁ?見てわかんねぇのか?何もしちゃいないよ!」
 面白く無さそうに唸ってモンスターは相手を睨みつけたが、相手の姿を見た途端、敵意丸出しであった表情は瞬時に凍り付いた。
「かっ・・・あ、ミ、ミラー・・・・様」
「し、失礼いたしましたっ!」
 いきなりモンスター達は頭を下げた。
「知らなかったとは言え、不機嫌さに任せとんだ御無礼を・・・・も、申し訳有りません」
 ここに来て、もう何度も行われている行為である。
「もういい、で、何故何もしていない?」
 つき合っていては長ったらしい社交辞令となる事を、経験から知り得ているキーンは、先手を取ってそれ以上の言葉を遮って、本題へと入った。
「そ、それが、恥ずかしい話しなのですが、ネタが思いつかなくて・・・・」
「ネタ?」
「はい。ここではどんな趣向の催しも良いとされていたため、それならばと、凝った趣向を考えようとしたのですが思い至らず、他のチームに先を越されてしまい、今更ありきたりの事も出来ず、途方にくれておりました・・・・・」
「成る程な・・・・」
 メンバーを結成したはいいが、発想に富んだ者がいなかったと言う訳である。
「ミラー様、何か良い趣向はお持ちでは無いでしょうか?願わくばお知恵をお借りしたいと存じます」
「ふ~ん・・・・・」
 いきなり現れた自分に対し、いきなり助力を乞う以上、かなりせっぱ詰まっている事がうかがえた。キーンは腕組みをして考え込む。別に拒否する権利もあったのだが、自分のアイディアが実施できるチャンスに思わず考え込んだのである。
 彼は今まで見て回った催しを思い出し、それらには無かった点を模索する。そして頼んだモンスター側が申し訳なく思いだして結構ですと言う言葉を言おうとした直前、キーンの脳裏は閃いた。
「思いついた!」
「えっ!?」
 モンスターの目が期待に輝いた。
 が、キーンはすぐに案を語ろうとせず、ちょいちょいと手招きをして、モンスターの一匹を呼び寄せた。
「は?」
「まず、確認したい事がある」
 近づいてきたモンスターに、そっと耳打ちした。
「・・・・・・・・・・・・・・・と、言う物は存在するか?そして・・・・・・・と言う物と・・・・・・と言う物、あるいはそれに類似する物を揃えられるか?」
 キーンに耳打ちされたモンスターはしばし考え、記憶の奥底を検索した。
「おそらくは・・・・・・スライムの方は御要望の種が調整された話を記憶しておりますが、薬品に関しては確認をしてきます・・・・・あるいは専門士に調合を依頼しますが、用途が一向に読めませんが?」
「いいから、揃えられるのなら揃えてくれ」
「承知しました・・・・・」

 待つこと数刻・・・・戻ってきたモンスターから朗報がもたらされ、キーンの求める物全てが揃う事となり、早速企画の準備に入った。
 キーンの参加による結果か、志気の上がったモンスター達はその小柄な体型にも関わらず頻繁にパワフルに動き、準備はあっと言う間に完了した。

 早々に組み上がったステージ自体は他と大差なく、円形の観客席の中央に、見せ場となる舞台が設置されており、観客も入り始めていた。特に大々的な宣伝は行ってはいなかったが、新しい催しと言う存在が客の期待感を刺激した事実もあった。
 そして舞台には既に餌食となる五人の少女達が訪れる運命を待たされていた。五人のうち一人が拘束用ベットに全裸でX字に拘束されており、その周囲を四人の少女達が床に寝かされるように転がっている。両手は後ろ手に縛られ、両脚も揃える形で縛られており、ろくに動くことも出来なかったが、X字拘束されている少女と異なり、彼女達には衣服が着せられたままになっていた。
 この状況で何が行われるか予測できる者はいなかったが、五人と言う人数と、この状況に、観客の期待は否応無しに上がっていった。
「一体何を見せてくれるんだぁ?」
 ここの事情を知る者からの声が、観客席からもれた。
「余興余興!」
 負けじと主催者側のモンスターが叫んだ。
 キーンは舞台の角で目立たぬように客席の様子を伺い、席が満杯になる頃合いを見計らって照明の光量を低めに調整し、対照的にステージへの光量を高くした。単純な演出効果ではあるが、もともとテンションの高かったモンスター達にはこれだけで十分だった。
「さて、お集まりの皆様、今回、初公開となるこの催し、残念なことにまだ正式名称がありません・・・・・・ですが、基本テーマは『自己と友情』とも言うべき物で、理性の強さが問われるものです。それでは、早速始めましょう」
 その言葉を合図に、ベットに拘束されていた少女の周囲に四匹のモンスターが歩み寄り、周囲を取り囲んだ。彼等は左手に小さな缶バケツを持っており、その中からは刷毛の柄が突き出していた。
「ちょっと・・・何よ・・・・」
 少女・・・・かつては騎士団長と言う身分を誇っていたレイラは首を左右に振って、四匹全員の手にそれが握られているのを知って小さく身震いした。この塔内に捕らわれている女性で、彼等の好む趣向を知らない者はいない。これから行われるだろう事を想像しただけで彼女の身体はムズムズとした感覚を覚えるのであった。
「では、始めてくれ」
 その命令を聞き、待ってましたとばかりに四匹のモンスターが一斉に、缶の中に入っていた液体を刷毛に含ませ少女の全体に塗りたくった。
「きゃ!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!あっあっあひゃっははははははははははははははははははははははははははは!」
 もともと、そう言う人選をしたのではあるが、レイラはかなりのくすぐったがりやであった。特にポイントを狙ったわけでもなく、無造作に刷毛が触れただけなのにも関わらず、彼女はいきなり吹き出し、拘束された身体をガクガクと激しく揺さぶった。
「きゃ~っはははははははははははは!あっははははははああはははは、や、やめ、ひょははははははははははは!や~っっははははははっはははあははははは!」
 堪えることの出来ないくすぐったさに、まともに言葉の出ないレイラは激しく首を振って拒絶の意志を示したが、そんな反応を見せられると、基本的に男は興奮する物であり、自然と刷毛の動きは意地の悪い物となっていった。
 腰から脇腹を何度も往復する者、腹周りで何度も円を描くようにして刷毛を動かす者、足の裏から指の間にまで丹念に、まんべんなく液体を塗り込む者、ピクピクと反応し捩る体に合わせ、ピンと張りつめた部分に刷毛を這わす者、それぞれが辛辣に女体を責め嬲り、絶え間ないくすぐったさに襲われ続けるレイラは気が狂わんばかりに笑い悶え続けた。
「いやぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはーーー!!だ、だめぇーーー!!きゃっはっはははははははははーー!!ひゃははははは!きゃはははははは!あっはははははははは!た、たす、ぷっひゃひゃはははははは!たす、たすけ・・い~っっひひひひひひひひひひひ!助けて、はひゃ、みんな助けてぇー!きゃはははははは!!」
 助けを求めても、そして仲間内の身分を利用した命令であっても、その場にいる仲間達も身動きが出来ず、助けに行けるはずもなく、無力にも上司の笑い狂う声を聞き、次は自分ではないかと恐怖を抱く以外に出来ることはなかった。
 それからどの位の時間が経過したか・・・・
 刷毛責めを受けたレイラは、休むことも出来ずに勝手に身体が反応する事で延々と悶え続け、意識が朦朧として何も考えられなくなった頃に、ようやく開放された。
 これは慈悲などではなく、単に用意していた液体が彼女の全身に塗り終わった結果であった。
 レイラは荒々しく大きな呼吸を続け、酸欠状態になっていた身体を落ち着かせるため大きな呼吸を続けている。最初は全裸で拘束されていた事に恥じらいを見せていた彼女であったが、今はそんな事も忘れ、第一に乱れた呼吸を唱える事に手一杯の様子であった。
 そんな彼女の身体は、モンスター達の塗りつけた液体によって色っぽい光沢を放っていた。
「さて、彼女の方はこれで準備終了です。では、いよいよ本命に登場していただきましょう」
 モンスターのアナウンスに合わせ、刷毛と缶を持っていたモンスターが舞台裏に消え、今度はそれぞれがスイカ程のサイズの陶器製の坪を持ち出し、先程と同じように中央でX字に拘束された少女を取り囲むように配置に着いた。
 配置に着いた四人が司会役に視線を向け、それを受けた司会もアイコンタクトで頷き合図を送ると、四人は頷き手に持った坪を床に落とし、自分達は早々に引き上げていった。
 何が入っている?
 少女達だけではなく、観客のモンスター達もそれに注目した。
 砕けた坪の破片の影から、何かが蠢いた。青く、淡い光を自ら放つ不定形の物体。そう、スライムの一種が、坪から開放され、活動を再開し始めたのである。
「おお、スライムとの絡みか!」
 これから何が起きるかが想像でき、にわかに客席が色めき立った。
 だが、客の予想とキーンの考案にはまだ若干の差が存在していた。
「さて皆さんもお察しの通り、ここに蠢く不定形生物はスライム系の生物ではありますが、これはスライムマスターの手によって調整された特殊なスライムであり、その性質は生意気にも女好き・・・・であり、女体に取りついては弱点を探り、くすぐりを行い、女性を笑い悶えさす『くすぐりスライム・ブルーバージョン』であります。ここまで言えば分かりますね?では、しばし彼女達の運命を御覧頂くことにしましょう」
 そう言い残して司会役のモンスターは舞台の角へ移動し、客に視界を譲り渡した。
 そこでは、目ざとく目標を見つけたスライムが、逃げる術を持たない少女達ににじり寄っていく様子が繰り広げられていた。
「いや、いやぁ!!」
 説明を聞いていた少女達は悲鳴を上げて逃げようと試みたが、両手は後ろ手に両足首も揃えて拘束されている状態では、思うように逃げられるわけもない。
 芋虫のように不慣れな態勢で這う少女に対し、這って移動する事に慣れているスライムとでは移動手段は同じでもそのスピードが違い、いとも容易く追いつかれてしまう。
 スライムは衣服に貼り付きながら捕らえた獲物の弱点を探るべく、体中を這い回った。
「くっくっくううう~!!やめ・・あぁ~そん・・そんな・・・・服が・・」
 人の指とは異なる感触が身体を通過する度に少女は身体を身震いさせ、スライムを振り落とそうとのたうち回った。だが、粘性のある身体はぴったりと貼り付き、その上、分泌される粘液は徐々に少女の衣服を溶かしていたのである。
「あはぁああ~!!・・そんな・・・いや・・・いやああぁ~!!」
 徐々に肌を露わにされる恥ずかしさと、徐々に激しくなるくすぐったさに少女は顔を真っ赤に染めて身悶え続ける。
 やがて着衣全てが溶かされれば、スライムの感心はくすぐりのみとなる。それが分かっているだけに少女達の心は焦ったが、今、彼女が出来るどの様な抵抗もスライムを引き剥がすには至らず、スライムもそれを嘲笑うかのように、着実に各所を溶かし、弱点の捜索を続けている。
 放たれた四匹のスライムの内、三匹は床に転がっている少女達を捕らえたが、あと一匹は発想が他と異なっていたのか、拘束ベットをよじ登り、X字にされている少女を狙う選択をした。
「ほ、スライムにも型破りがいるのか」
 キーンが妙なところに感心を持ったが、このスライムの要望は達成される事はなかった。
 スライムはベットの上まで這い上がると、相手が完全に拘束されているのを知っているのか、伸ばした身体の一部をいきなり脇腹へと差し向けた。
 観客も、先程の過剰な反応を思い出し、虚ろな状態で呆ける少女がどの様に反応するかを想像し、それが実現するのを心待ちにしたが、スライムは身体の一部が僅かに少女に触れた途端、ビクリと震え、まるで塩に触れたナメクジの様に縮こまり、いそいそとベットから降り、残っていたもう一人の少女へと向かって行ったのである。
 このスライムは、今度は何事もなく相手に接触したのだが、観客達には何が起きたかまるで理解できないでいた。
 床に転がっていた四人の少女達は、それぞれがスライムに接触され、その不定型な身体全体による蹂躙を受けなければならない状態になっていた。
「あ、あ、ああ、あああっ、・・・やはははははははははっ!い~~~っひひひひひひ!!あはっ、あはっ、あ~~~~~っはははははははははは!」
「はぁっ!!あひっ!!きゃっはははははははははははははははははははは!はあっ・・ああああっあははははははははははははははは!!」
「ぎゃはははははは!だめ~~~きゃはははは!よして、よし・・・っひひひ!くひゃははははははははは、あ~っっはははははははは!」
「あひゃっ・・あひゃひゃはっははははははははははははははははは!!!そこだめぇ・・・やははははははははははは!」
 少女達は陸に上がった魚のように身体を弾かせ、今、我が身に起きている感触の苦しさを体現して見せた。
 だが、彼女達が悶え、身体を跳ね上がらせれば跳ね上がらせる程、見ている観客にとっては興奮の材料となるのである。
「きゃははははは!!やめてぇー!!あっはははははーーーー!!」
「お願い・・お願いだからもうやめてぇーー!!きゃっははは!!あっはっははは!!」
「きゃっはっはっはっは!!やめてぇーーー!!やめてぇーーー!!」
「だめぇーーー!!苦しぃーーーー!!や、やめ・・・きゃはははははーーー!!」
 ややすると彼女達の服は、スライムの粘液によりほとんど解け落ち、全裸状態となった。
 遮る物のなくなった柔肌にスライムの不定型な身体がまとわりつき、その上、衣服以外には全く反応を示さない粘液が、ヌルヌルとした感触となって襲いかかり、くすぐったさを増大させる結果となる。
 少女達は身体が激しく反応しながらも、そして無駄と知りつつも、少しでも助かればと儚い抵抗を続ける。

 あれから更に時間が経過し、一向に衰えないスライムの責めを受け、このままでは気が変になると、彼女達の誰もが思いだした時、それを見抜いたかのように司会役が彼女達に向かって言った。
「どうです?お嬢さん方、苦しいですか?止めて欲しいですか?」
「おね、おねがいぃ~!やめ、やめ・・・・や~っっはははははははははは」
「くる、くるしっ・・・ひゃっははははははははは!くるしぃ~ひはははっはははははははは!止めて~!!!!」
 少女二人がのたうち回りながら懇願する。その傍らではもう二人も必至に首を縦に振っていた。
「そうですか。それではあなた達に『選択』を教えて差し上げましょう」
 意味ありげな笑みを浮かべ、司会役は中央の拘束ベットの所へと移動した。
「さて君達、現状を振り返って何か疑問に思いませんか?」
 司会役はX字拘束されている少女の脇腹を指先でスッと撫でながら、今尚、笑い悶えている四人の少女に向かって言った。
「ここにいる彼女は何故、スライムに選ばれなかったか?一度、スライムの一匹は彼女を目指したのに何故、放棄したか?疑問であると同時に察しもついていると思いますが・・・・・・そう、最初にたっぷりと塗らせてもらった液体、あれが、このスライムにとっては忌避剤となっている訳です」
(やっぱり)
 仲間が身悶える姿を見て、自分も身体がムズムズとするのを実感しながら拘束ベットの上にいるレイラは自身に対して持っていた疑惑に納得した。
 だが、一方の疑問が解消するともう一方の疑問が浮き上がるもので、何故自分にだけこの様な処置を行ったのかが気がかりとなった。
 しかしその疑問も、遅疑の瞬間には本人の全く望まぬ形として判明する事になる。
「さて、今尚スライムの責めに喘いでいる少女達・・・・君達には選択肢を与えてあげよう」
 一人一人の苦悶の表情を嬉しそうに眺めつつ、司会役は言った。
「ベットに拘束されている彼女に塗った忌避剤だが、これは塗って効果を発揮するだけの物ではない。実は塗るという行為は非効率的で、本来は服用して使う物なのだよ。その液体を服用すると、忌避成分が『汗』と言う形で全身から発散され、その身を覆い、スライムを近づけなくすると言う訳だ。・・・・・分かるかな?君達がその、くすぐりスライムの呪縛から解き放たれる方法。それは、ベットに拘束されている彼女の身体に塗りつけられている忌避剤を服用すると言う事だ」
「ひっ!」
 その言葉にベットに拘束されたレイラが小さな悲鳴を上げた。服用・・・・と言えば言葉は良いが、四人の少女達は手を後ろ手に、足首も揃えて縛られているため、彼女の身体に塗られている忌避剤を服用するなど、御世辞にもまともには出来るはずもなく、その実体は『舐める』しかないのである。
 ただでさえ敏感な自分が、拘束されたまま四人の仲間に全身を舐められる事を想像しただけで彼女は身悶えそうになった。
「さぁ、選ぶのは君達の自由だ。仲間のためにスライムの責めに耐え続けるか?それとも我が身可愛さに身動きの出来ない彼女から忌避剤を舐めて助かるか?無論その場合、行き場を失ったスライムは、忌避剤の無くなった彼女の身体へと移動するが、好きな方を選びたまえ」
「そんな、そんなぁ~っっはははははははっはははは、だめ!そんな!ゆるしてぇ~やっっははははははっっはっははあっははあはは!」
 にわかに即答できる訳のない選択に少女達は絶望感を感じた。他の責め苦であれば自己犠牲の精神も発揮されたであろうが、くすぐりだけは別だった。こんな苦しい刺激に対しては何の訓練も受けた事がない少女達ではあったが、それでも仲間は裏切れないという僅かな理性によって堪える道を選択する。
 少女達には深刻な事態も、それを眺める観客から見れば沸き立つシチュエーションでしかなかった。
 早々に各所で賭が始まり、どの位持ち堪えるか・どの様な結果になるか・どの娘がどの位耐えるかなどの予想が飛び交い、それぞれの思惑の込められた罵声・声援があちこちで巻き起こった。
(良かった、受けた・・・・)
 ステージの隅で観客の様子を見て、発案者のキーンは安堵の息を漏らす。もともとテンションが高かった事もあったであろうが、ともかく彼は相談を持ちかけてきたモンスター達との義理を果たしたことになる。
「あはっ、あははっ、あ~っっっっっはははははっはははあははははやっははははははっはあはっははははは」
 床の上で少女は激しくのたうち回り笑い続けた。必至に外道的な選択を行わないように堪えていたが、くすぐり責めに対する『逃げ道』は、精神的に追い込まれている少女に緊急避難の選択を選ばせようとする。
「ああああああ~!!!はあぁっっっっはははははあはははははあはっっひゃっひひひはひゃあははははははは!!」
 誰もが開放と言う誘惑に耐えていた。自分だけが仲間を裏切るわけにはいかない。自分が自由を得た結果、上司であるレイラがどうなるかを十分知り得る・・・と言うより、いまその身で体感している少女達は気が狂わんばかりに笑い悶えながらも、辛うじて理性を保持させ続けた。
 だが、無限に続く責め苦に対し、彼女達の精神力には限界がある。
 どのみち避けられない結果ではあったが、遂に少女一人が限界に達し、悶えのたうちながらではあるが、その身体をゆっくりとベット拘束された少女の方へと移動させた。
「ひっっひひひひひっひひひひゃははあはっはははははあ、ごめ、ごめ、きゃはははははは、レイラさん・・ご、ごめんなさい・・・くひひひひひひひ」
 レイラの手前まで躙り寄った彼女は、表情を汗と涙と涎とでぐしゃぐしゃにしながら、相手に謝罪の言葉をもらした。
「だ、だめ、お願いキャシー、堪えて・・・わ、私があんな事されたら狂っちゃう。ねぇ、お願いぃ!」
 目の前で身悶えるキャシーの気持ちも分からない事もないレイラであったが、彼女が自覚する身体の過敏さを考えると、仲間達が受けている責めは自分には致命的にも感じられるのである。
 拒絶の意志と相反して、逃げる事の適わないレイラの身体に近づいたキャシーは、拘束用のベルトで抑えつけられながらも懸命に藻掻く、彼女の右足の膝頭に軽く噛みついた。
「はうぅっ!」
 噛みつきと言う未経験な刺激を受け、少女が息を止めて仰け反り、膝がピクリと震えた。本来は大きく弾けたのだが、拘束具がその大きな動きを制したのである。
 それでも不意に起きた動きは、キャシーの噛みつきから脱する結果となり、獲物を逃した彼女は、今度は露骨に膝頭を舐め、舌先を太股の方へと移動させる。
「やはっぁ・・・・やぁ・・・・ああっ!」
 仲間の一心不乱な舌技にレイラは思わず反応した。必至で歯を食いしばり堪えようとするが、彼女の敏感な体質はそれを許そうとはせず、甘美な感覚を徐々に全身に広めつつあった。
 キャシーは身悶えるレイラなどお構いなしに忌避剤の塗りたくられている太股を舐め続けた。
 その様子は乾いた犬がようやく得た水に貪りついているのに酷似している。
 彼女はそれこそ我が身だけの開放を求めて、一心不乱に舐め続け、その度にレイラは身体を駆けめぐる刺激に吐息をもらし続けた。
 しかし彼女にとっての地獄は、まだ始まりにも至っていなかった。
 もともと『仲間達』と言う連帯感で耐えていたはずの四人の少女達は、一人の脱落によって、雪崩式に崩れる事となる。
 彼女でさえ耐えきれなかったのだから・・・彼女に耐えられない物が自分に耐えられるわけがない・・・そんな自己弁護的な彼女達の心を支配し、辛辣ではあるが確実に存在する『開放の手段』がここに加わり、彼女達の精神的防壁は脆くも崩れ去る事となる。
 そうなると後は自己保存が優先してしまい、彼女達はこぞって床を這い、自由への鍵を求めた。
「はぁぁぁぁん・・み、みんな・・・やめ、やめて!」
 レイラのの懇願も無意味な物だった。我が身を優先した少女達には仲間の悲痛な声も全く届かなかったのである。
「あっ・・・あっ・・・ああぁ~~~~~!!!や、やめ、はぁぁあん!」
 四つの舌は全裸であるレイラの身体を思い思いになめ回した。今まで出来うる限り声を噛み殺していた彼女も、四倍になった刺激には全く耐えきれず、大きく仰け反った。
「やはぁぁ~ん、あっ、あはははぁ・・・く、くすぐったい・・・やぁ~~~ん」
 忌避剤を求める舌が無遠慮に脇腹・脇の下に達し、そのくすぐったさにレイラは身悶えたが、単純なくすぐったさのみによる反応ではなかった。過敏体質と仲間達の自由に動けないぎこちなさから来る刺激がくすぐったさより快感として感じ始めたのである。
 絶え間なく各所から送り込まれる甘美な刺激は彼女の感性を翻弄し、ある方向へと強制的に導いていく。
 流されては駄目だと思ってはいるものの、レイラにそれを抑える術はない。身体が大きく仰け反り、腰が自然と浮き、乳首が固くなり、ほんの僅かな理性も限界に達する寸前となった時、それを見計らったように、四人の少女達にまとわりついて刺激を与えていたスライムが、急に活動を停止し、いそいそと身体から離れていった。
 忌避剤の服用の効果が現れ、彼女達の身体から流れる汗に混じって忌避成分が滲み出てきたのである。 
スライム達は体内に取り込んでしまった忌避剤を吐き出すかのような苦しげな動きを見せた後、やがて落ち着きを取り戻し、気を取り直して再び少女達に襲いかかろうとしたが、もはや彼女達はスライム達の触れられる存在ではなかった。
 スライムにとっては死活問題となる成分を含んだ汗はが少女達の全身を覆い、例えうっすらとした発汗であっても触れる事は適わなかった。
 結局、接触を諦めたスライムであったが、すぐに新たな獲物を見つける事となる。ベットに拘束された敏感少女レイラである。
 スライムはこぞって移動を始めた。四匹のうち一匹は、一度接触を試み、その身体に忌避剤が付着していたため目標を変えた経緯があるが、それを記憶しているほどの知能は無い。ただ単純に相手に取りつき、くすぐる事だけが本能であり、それ以外の行動はあり得なかった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!いやぁ!」
 ベットに這い上がってくるスライムを見て、レイラが悲鳴を上げた。これに対する唯一の防壁も、仲間達の舌によって殆どが失われ、もはや彼女を守る物は無かった。一分後の状況が容易に予想され、事実となりつつある現実に彼女は恐怖した。
「お願い、もう止めて!な、何でもする、するから、くすぐりだけはもうやめてぇ~!」
 彼女は自分を助ける事の出来る最後の存在、すなわちモンスターに懇願した。四人の仲間はあてには出来ない。彼女達も囚われの身である上、自分が今、必至でそう願っているように、くすぐりから逃れるために自分から忌避剤を舐め取ったのである。例え自由があったとしても、くすぐりスライムの取り囲まれている自分には近づけないだろう。
 だが、モンスター達にもレイラに対する義理はない。せいぜい娯楽のための存在であり、敗者側の人間の鉄則に近い定番だった。
 そんなわけで当然、この懇願が受け入れられるはずもなく、返答は、レイラにとっては無慈悲な、当人には期待を込めた笑みのみで済ませられた。
「あっ!ああぁぁぁぁ!!!」
 突然、少女が艶やかさを含めた悲鳴を発した。
 遂にスライムが身体に達し、まるで浸透するかのように身体に広がり、貼り付いて行ったのである。その接触面ではスライムの身体が脈動し、人間の指では到底再現不可能な刺激を与え続けている。
「ぎゃっははははははは!!!!きゃああっははははははははははははは!!あははははははははは!きゃははははははははは!!あっ!あっ!ああっ!!ああああっ~~~!!いやっははははははははは!!だ、だめ、きゃはははははははは!」
 少女は狂ったように笑い悶え、身を激しく捩り続ける。その間に二匹目、三匹目が辿り着き、遠慮なく貼り付き同様にくすぐりだし、四匹目も貼り付いたときには、彼女のほぼ全身が覆われてしまった。
「だめ!!あっあはぁ・・・くひひひひひひひひひ・・・!!いやっ!いやっ!っひ!ひひゃっっはははははははははははは!!あきゃはあっはははっははははははっはは!」
拘束具が切れるのではないかと思われるほどの勢いで少女は悶え狂った。全身を覆い、一体化したかにも見えるスライムであったが、一匹一匹によってくすぐり方が異なり、決してパターン化した動きを見せなかった。
 貼り付く事により、どんなに藻掻こうと全く隙を見せないくすぐりは、まさに地獄であり、レイラの精神をあっという間に消耗させていく。
「もうだめぇ!!本当に!!あっははははは!!ひゃはははははは!!本当に死んじゃうってぇ~っっっっ!きゃははははっはーーー!!あっあっあっあっ・・・あああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 激しい悲鳴と共に、大きく身を仰け反らせてレイラは気を失った。それでもスライムの動きは止まることを知らず、少女の身体は脈動に反応するかのように不規則に震え続けていた。
 司会役はレイラが完全に気を失ったことを確認し、その視線を周囲の少女達に向けた。
 我が身の安全を優先し、仲間を裏切ってしまった罪悪感からか、彼女達は俯き、あるいは背けて、上司を正視してはいなかった。
 司会役はそんな心情を理解していた。と、言うより、この見せ物の発案者であるキーンが事態を想定し、何通りのかの予想を伝えており、それは見事、想定範囲内に納まっていたのである。
「さすがはミラー様、大したものだ」
 理解の点で若干の誤差があったものの、司会役は事が発案者の計画通りに進んだ事に感心した。あとは、この結果を口実に、最後の観客サービスを行うのみであった。
「さて皆さん、如何でしたでしょうか?大義名分・自己犠牲を口にしている彼女達も、こうなると結局は我が身を優先する物である事を目の当たりにし、楽しんでもらえたと思います」
 辛辣な言葉であった。ほとんど選択の余地のない状況に追い込んでの結果ではあったが、実際にレイラを見捨ててしまったのは彼女達である以上、強気な反論が出来るはずもなかった。
「次のグループを準備するまで若干の時間を要するため、皆様には退場していただきますが、退場ルートには仲間を見捨てた彼女達を吊しておきますので、お客様の手で代わって『お仕置き』を与えてやって下さい」
「「「「!!?」」」」
「おおおおぉっ!」
 この司会役の予期せぬ発言に、少女達は目を見開き、観客達は喜びの呻き声を上げた。「その方がそちらの罪悪感も薄れると言うものだろ」
 勝手な解釈を少女達に押し付けながら、更に司会役は言葉を続けた。
「それと言い忘れたんだが、さっきの忌避剤だが、服用するのが本来の使用法とは言ったが、その場合、副作用もあってな、忌避成分が皮膚から汗となって流れる過程で皮膚を過敏にしてしまってな。そろそろその効果が現れだして・・・・だいたい二日間は風が軽く吹き付けるだけでもかなりのくすぐったさを感じてしまうんだ」
 これを聞いた少女達は、これ以上ないくらい仰天した。そんな状態で観客の『お仕置き』を受けては、場合によっては発狂しかねない。
 もちろん、こんな大事な事を司会役が言い忘れるなどあり得なかった。全ては仕組まれてであり、絶対に助かる術を与えないと言う、このフロアの催しに沿っての企画であった。 少女達はこれからの事に恐怖し、無駄に足掻いた。
 だが、黒子役のモンスターにあっさりと取り押さえられ、それでも暴れる者は身体を軽く撫でられ躾られた。副作用が現れだし、彼女等はそんな僅かな刺激だけで激しく反応し、以降の抵抗を諦めてしまう。
 結局の所、抵抗してもしなくても行きつく結果は同じである。彼女達は程なくして、帰路に沿う位置に順に吊され、退場していく全てのモンスターに、くすぐられて行く事となる。
 一匹一匹の所要時間は、通り間際の僅かな物で、些細ではあるが、全体の数と身体の状態が並ではないため、言いようのない地獄を味わう事は目に見えていた。
 その後、彼女達の性感がどの様に変化するか、見送るキーンの最も興味深い点だった。
「・・・・・ま、こんな物だな」
 最後にもう一イベントあるとは言え、事実上終了となった催しを、そんな一言で自己評価するキーン。
「お見事です」
 役目の終わった司会役が戻ってきて、同テーマに端的な評価を述べた。
「いきなりの企画だったが、そこそこ上手く行ったな」
「御謙遜を・・・後発の催しとしては好評です。それに内容も類を見ません」
「そう言ってもらえると助かる。内心は不評だったらどうしようかと心配していたんだが、これで、義理は果たせそうだな」
「有り難うございます」
 司会役は深々と頭を下げた。一度成功すればあとはキーンの立ち会いは不要であった。
 彼はモンスターに軽く別れを告げると、その場を満たされた表情で去って行くのであった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、満たされてどうするぅ!!!!」
 唐突に事態を振り返ったキーンの、自己批判が通路に響き渡った。


つづく





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