美人OLくすぐり懺悔 1/10
<1> 美人OL
美しい女性が会社の廊下を歩いていた。
綺麗に磨かれた廊下である。
「またあのバカな男の相手をしないといけないのかしら。」
廊下を歩いている女性が、うっとうしそうに呟く。
彼女の名前は奈津子。
今年で23歳になるOLである。
彼女はこの会社の制服を着ていた。
俗に言う、「OLスーツ」である。
そのOLスーツがはち切れんばかりの肉体を、彼女は有していた。
と言っても、太っているわけではない。
つくべき所にきちんと肉が付いていて、
いらない部分はきちんとくびれているのである。
ピッチリとしたOLスーツが、彼女のスタイルの良さを強調していた。
豊満な胸はもちろんのこと、ミニのタイトスカートから伸びたセクシーな両脚が、
彼女の魅力を一際輝かせている。
(何故、この私がこんな会社にいるのかしら。)
奈津子はその美しい顔を曇らせた。
そんな顔をしても、彼女の顔は美しかった。
実際、彼女はどんな表情をしても美しかった。
特に彼女の笑顔は絶品であった。
その笑顔で、奈津子は何人もの好みの男を落としていた。
どんな我が儘を言っても、彼女が笑うと、
男達は何でも言うことを聞くのである。
だが、奈津子は不満を持っていた。
それは、この会社に有能な人材がいないためである。
同僚のOL達を含め、社員達は言うことを聞くが、
才能がないため、与えられた仕事が出来ない。
それが有能な奈津子には、我慢できなかった。
(こんな気分の時は、誰かをいじめるに限るわね。)
奈津子は廊下をゆっくりと歩きながら、美しい笑顔を見せた。
そうしている内に、奈津子は自分の担当である経理課に来た。
ドアを開けると、そこは大きな部屋であった。
10坪ほどのスペースに、所狭しと机が並べられ、
その机に10数人の社員達が、忙しそうに仕事をしていた。
「柿田君、さっき頼んでいた書類は出来た?」
奈津子は、自分の机の隣に座って、一生懸命書類と格闘している青年に言った。
柿田と呼ばれた青年は、彼女の声に顔を上げた。
「いえ、すいません、まだなんです・・・」
彼・柿田は今年入社したばかりの新入社員である。
見た目も行動も、彼はいかにも気の弱そうな青年であった。
「申し訳ありません、すぐに仕上げますから・・・」
そう言って、すまなさそうに目を伏せる。
「何ですって?あれからどれだけ時間が経ったと思っているの?」
「これだから高校出は役に立たないのよね。」
奈津子はある有名大学卒であった。
それに比べ、柿田は公立高校卒だったのだ。
「も、申し訳ありません。」
柿田は今度は立ち上がり、再びお詫びの言葉を述べて、丁寧に頭を下げた。
「申し訳ありません、で済むと思っているの?」
奈津子がその美しい眼で、柿田を睨み付ける。
「もういいわ。こんなに仕事が出来ない人はいらないわ。」
わざと大きな溜息をついて、奈津子はきびすを返した。
「ちょっと待って下さい!一体どこへ行くのですか?」
どこかへ歩き出そうとした奈津子を、柿田は必死に呼び止めた。
「どこへ行くかって?決まっているじゃない。」
「課長に<こんなに無能な人がいます>って教えに行くだけよ。」
「そんなことを言われたら、僕がクビになってしまいます!」
「そうかもね。でもいいじゃない。その方が私が楽だもの。」
「お願いです!この書類はすぐに出来上がりますから!!」
「お願いですから・・・!!」
柿田はとうとう、半べそをかきながら訴え始めた。
(全く、この子ったらいじめがいがあるわ。)
奈津子は、この柿田をいじめるのがすっかり癖になっていた。
彼には到底出来ないような仕事を依頼し、
出来ないと、言葉でネチネチといじめるのである。
最初は彼の無能さに、本気で怒っていた奈津子だったが、
怒られているときに見せる、柿田のすまなさそうな表情が、
奈津子の加虐本能に火をつけてしまったのである。
それからというもの、何かと理由を付けては、柿田をいじめるようになった。
今では、それが奈津子のストレス解消法になっていた。
「全く仕方がないわね。」
奈津子は溜息をついた後、楽しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、柿田はほっと胸をなで下ろした。
「何を惚けた顔をしているの?」
「さっさと仕事をしなさいよ。」
さっきの笑顔とは対照的な厳しい表情で、奈津子は柿田を睨み付けた。
「は、はい、すぐに書類を仕上げます!」
そう言うと、柿田は再び難しい書類と格闘し始めた。
「まーた柿田君をいじめてるの?」
あまり可愛くない同僚のOLが、奈津子に囁く。
「仕事が出来ないんだから、仕方ないでしょう。」
「そんなこと言って、ホントは気があるんじゃないの?」
そう言いながらそのOLは、奈津子の脇腹を人差し指で軽くつついた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それだけで、奈津子は部屋中に響きわたるような悲鳴を上げた。
「何するのよ!!」
奈津子はそのOLを鋭い目で睨みつけて怒鳴った。
「ごめんなさい・・・わ、悪気はなかったのだけど・・・」
そのOLは、完全に奈津子の迫力に押されてしまっていた。
そんなOLをすごい目で睨みつけると、奈津子は経理課を飛び出して行った。
トイレの飛び込んだ奈津子は、すぐさま個室には行って鍵を閉めた。
身体中が震えていた。
その原因は、さっきの脇腹をつつかれた事にあった。
それだけで、耐え難いくすぐったさが全身を襲ったのである。
奈津子は元々、人一倍くすぐったがり屋であった。
何でもない素肌をすぅーっと撫でられただけで、
声を上げて笑ってしまうほどである。
ましてくすぐったい脇腹をつつかれたとしたら、
それはもう、彼女にとっては、耐え難い責めであった。
元々極度のくすぐったがり屋だった奈津子だったが、
さらにくすぐりに敏感になる出来事があったのである。
それは、彼女が大学時代の話であった。
奈津子はその出来事を思い出したくなかった。
だが、その強烈なくすぐったさは、その思い出の全てを思い出させた。
(今頃になって何故・・・?)
奈津子は何だか悪い予感がした。
その予感は、図らずも的中していたのである。
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