美人OLくすぐり懺悔 2/10
<2> 過去
一日の仕事がやっと終わり、くたくたになった柿田は、
帰り道にある居酒屋に足を踏み入れた。
すぐさま、カウンターに腰掛け、生ビールを注文する。
もう、やってられなかった。
仕事が嫌で嫌でたまらなかった。
あの奈津子というOLがいるためである。
彼女は美人だが、言うことする事全てが勘に障るのである。
彼女は、おとなしくて文句を言わない、
自分ばかりを集中的にいじめてくるのである。
社員の中には、そんな柿田を羨ましがる奴もいるが、
本人にしてみれば、それはとんでもない間違いである。
「これは愛情の裏返しではないか」という奴もいたが、
どう考えてみても、そんな根拠は微塵も見つからなかった。
考えている内に、生ビールが来た。
(これからどうするか・・・)
彼は生ビールを一気に半分以上飲むと、大きく溜息をついた。
今、会社を辞めるのは簡単だが、再就職できるとは思えない。
かといって、このまま奈津子にいじめられながら、出勤する気にもなれなかった。
(ま、何とかなるか・・・)
柿田は自虐的に微笑むと、生ビールを口に運んだ。
その時、ポンと肩を叩かれた。
振り返ってみると、そこには1人のハンサムな男性が立っていた。
「よ、久しぶりじゃないか。」
その男は、柿田に気軽に声をかけてきた。
「・・・??失礼ですが、どなたでしたか・・・?」
柿田は不思議そうな顔で、その男の顔を見た。
どこかであったような気もする。
「あれ?思い出せないか?」
「俺だよ俺。高校時代の先輩だった如月だよ。」
「え?あ、あーーー!」
柿田はやっと思いだした。
彼は高校時代のテニス部の先輩だったのである。
「如月先輩!お久しぶりです!」
柿田は大げさに立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。
「本当に久しぶりだな。もう5年ぐらいになるかな?」
「そうですね。それ位になりますかね。」
如月は、柿田と同じ生ビールを頼んだ。
「所で、今はどうしてるんだ。」
「今はまじめに会社員をやっています。」
「そうか・・・まじめに働いているんだな。」
「それにしては、さっき死にそうな顔をしてたように見えたがな。」
その言葉に、柿田はズンと落ち込んだようだった。
「やっぱり何かあったんだな。」
「良かったら、話してみないか?」
如月は、柿田に事情の説明を促した。
「実はですね・・・」
柿田は、信用できる如月に、今まで自分が受けた仕打ちを洗いざらいぶちまけた。
「それは大変だな・・・」
一通り、柿田の話を来た如月は、さも気の毒そうに言った。
注文した生ビールをグイッと煽る。
「そのOL、何とか出来ないのか?」
「出来るも何も、彼女の方が仕事が出来ますから、何も言い返せないんです。」
「そんなに仕事が出来るのか?」
「はい、何と言っても、有名大学卒ですから。」
その後に、柿田はその大学の名前を言った。
その言葉を聞いた如月の顔色が変わった。
「ちょっと待て、そのOLの卒業大学と名前は間違いないか?」
「はい、名前はもちろん、大学名も何度も嫌になるほど聞かされましたから。」
「そうか・・・こんな所にいたのか・・・」
如月はそう吐き捨てると、いやらしく笑った。
「如月先輩・・・?」
その異様な雰囲気に、柿田は思わず身震いした。
「ひょっとして、お知り合いなんですか?」
柿田が、おそるおそる如月に問う。
「ああ。大学時代にしばらくつき合っていたんだ。」
「へぇ・・・そうだったのですか。」
意外そうな顔をして、柿田は呟いた。
「あの女はすごく面白い女だぜ。」
「面白い?」
「そう。あいつは実はすごいくすぐったがり屋なんだよ。」
「くすぐったがり屋というと・・・くすぐりに弱い人のことですか?」
「そうだよ。それまでつき合った女の中にくすぐったがり屋は何人かいたが・・・」
「あの女ほどくすぐりに弱い女はいなかったな。」
「へぇー、見かけによらないものですね。」
「そのことに気がついたのは、あいつと最初に寝たときだったんだ。」
「寝た時?ですか?」
「そう、ベッドで始めてあいつの身体に触った時、ケラケラ笑いだしたんだよ。」
「ちょっと触っただけだったんだがな。」
「それからは、寝るよりもくすぐる方が面白くなっちまって・・・」
「会う度に手足を縛ってから、身体中をコチョコチョくすぐってやったんだ。」
「SMで言う、<くすぐり責め>ってやつだな。」
そこで如月は、生ビールを飲んだ。
「<くすぐり責め>ですか・・・」
柿田が面白そうに目を輝かせて言った。
「どんな風に縛ったんですか?」
やや身を乗り出して、柿田が言った。
どうやら柿田も、この話に乗ってきたようだ。
「両手吊りにしたり、大の字に磔にしたり・・・・・一言では言えないな。」
「何だか面白そうですね。」
「ああ、すごく面白いぜ。何なら一回やってみるか?」
「え?そんなこと出来るんですか?」
「出来るさ。」
「じゃあ、一回お願いしてみたいですね。」
「ああその内な。」
そこで2人は生ビールを口にした。
「今でもあの人とつき合っているんですか?」
何の気なしに柿田が言った。
その途端、如月の表情が一変した。
「あ、すいません・・・余計なことを聞いてしまったようで・・・」
柿田はあわてて謝罪した。
「いいや、いいんだ。」
「実はな、あの女は俺の金を持って消えちまったんだ。」
「つき合って一年ぐらい経った頃だったかな。」
「消えた?」
「そう、俺の貯金通帳や部屋にあった現金なんかを持ってドロンさ。」
「ひどい話ですね。」
「ああ、だからやっと見つけたんだ・・・・」
そう呟くと、如月は生ビールを一気に飲み干した。
その時、柿田の携帯電話が鳴った。
「はいもしもし・・・あ、どうも、今日はすみませんでした。」
相手もいないのに、柿田が頭を下げる。
どうやら、電話の相手は奈津子らしい。
「え?今からですか・・・?今はお酒を飲んでいる所なんですけど・・・」
「はい、はい、わかりました・・・今からそちらに伺います・・・・・・」
そう言うと、柿田は電話を切った。
「あの女からか?」
如月が問う。
「はい、今残業が終わって会社にいるから、迎えに来いって・・・」
「あはは、お前、あの女の足にされているのか?」
「はい、あの人には逆らえないんです。」
「そうかそうか、今からあの女に会うなら都合がいい。」
「これを持っていけ。」
その言葉と共に、如月はポケットから白い粉薬を取りだした。
「これは・・・?」
「心配するな。やばい代物じゃあない。」
「単なる即効性の睡眠薬さ。これをコーヒーかジュースに混ぜて飲ませるんだ。」
「そんなことしたら・・・」
「大丈夫。お前がこんなものを持っているなんて、あの女は思っちゃいないさ。」
「飲ませて眠らせたら、ここへ連れて来るんだ。」
如月はもう一度ポケットに手をやると、一枚の紙を取りだした。
そこには、ある場所への地図が記されていた。
「ここはいったい・・・・?」
柿田が不思議そうに問う。
「いいから余計なことは考えるな。」
「いいか、必ず連れて来いよ。」
「俺はここへ先に行って待っているからな。」
そう言うと、如月は店を出ていった。
(どうしよう・・・・・?)
如月が店を出てから、柿田はしばらく悩んだ。
奈津子にこんなものを飲ませ事が知れたら、間違いなく辞めさせられるだろう。
しかし、如月の言っていた「くすぐり責め」も見てみたい。
(まあ、このまま会社に行き続けても良いことなんかなさそうだし・・・)
(如月先輩には逆らえないしね。)
(仕方ない・・・・行こう・・・)
柿田は覚悟を決めると、奈津子に会うべく、店を出ていった。
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