三原の俳諧

沢井常四郎 

 

三原の俳諧については別段纏まったものはない。随って俳諧史ということになればなかなか容易のことでない。今はただ目に触れたものを二三書いてみよう。

 

  備後砂集 元禄八年五月 澄心軒草也撰

 

集中に楢崎時習、川口霞風、安井草柳等あり。今は草也の獨吟歌仙二三を載せる。

  春の日の雹撰らん備後砂

  里は名酒の東風かほる比

  八重霞背戸の船着彩あり

家鴨鴎のせせるちり塚

  柴売の翁は月を荷ひつつ

  秋に淋しき袖摺のまつ

 

 

 早野巴人十七回忌追善句 宝暦八年

 

  水仙や茶人の中の白うる      生山

  夕霧の隠れてはまた須磨の浦     霞友

  花やいまこころに見ゆる東山     緑里

 

 

 家嚢句話 宝暦七年 川口西州

 

  よく見れば鳥の吸ふほど初霞

  月も宿かるや若菜の袖の雨

  天上の便りや梅の一おろし

  瀬に傾若菜や妹がそそき

  むめ咲くや谷々霞む室の内

 

 

奉献百韻 明和四年二月 川口西州

 

  梅に来て我も人なり朝ぼらけ

   最一つ吹きつ岡のはる風

  雲雀鳴く比は旅出もさまさまに

   截目正しき昆布かまぼこ

浜側の欄干にとどく汐かしら

 踊の笠の細工してゐる

 

 

 常志倍の梅 寛政五年 合歓庵社中

 

 芭蕉翁百年忌に社中が西野梅林に翁の句碑建て集出版したのである。

  とこしへに匂ふや墳のうめ朝日    梨陰(三好)

  をほろけならす百年の春       土芝(川口)

  君かため賎が仕業ののとかにて    芝暁

  水むす手に菜の葉なかるる     時興(楢崎)

  売馬の背に着し薦を喰ちらし     波松

  ものこそはけ市の秋雨       五沖

酒汲て三月尽や惜むら       何笠()

 

 

也満可豆楽 文政五年以後 広島多賀庵

 

山葛は広島多賀庵の句集文政五年から天保八年の頃まで十余年間年々出版したもので図書館には二十巻くらいは持っている。その中で三原人の句を抜いてみよう。

 青柳やぬける頭巾を引直し     北芝

   三月は来り柳にかけはしこ     芝鳳

   我園を摘あましたる若菜哉     青牛

   山吹や尾長き鳥のはしり込     茶陰

   藻魚喰ふ心となり今朝の秋    安屋鋪

   山里の貢すますや炭たはら     鳧眠

   大寺や雪に米搗地のひひき     孑々

   冷酒に勢のつく田植かな      松涛

ね心のよさよ御祓の夜のわらし   文淵

負た子の手に届けり赤つはき    南

ほろ酔や蛍ふみたす小草原     帷玉

 

 長崎紀行の中 天保六年 栖霞

  

 此頃栖霞といふ俳諧師があって長崎旅行して其時の贈遺等を記したものがある。其中に次の二句があるが栖霞の句が見えぬのが遺憾である。

   唐人の寝言もさえな花の旅     木屑

   いさきよし夏を隣の船路哉     笠下

 

   (三原の郷土史研究家。昭和十一年『桜鯛』11月号所載)

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