「同人」の主張

青木月斗

帝展は帝展の色がある。院展は院展の色がある。二科は二科の色がある。その帝展、院展にも一つ一つに異色を持ってゐるのである。
 同人にも同人の色がある。しかし一人一人別色である。個々の風味を持ってゐる。
 同人の主義主張はと、問はれても、自分の顔や、心を説明するより、尚困難な業である。論より証拠、句をご覧ください。一人一党の句を見れば一番早い。
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同人の句を一口に言へば、
 健全である事。病的でない事。ごまかしでない事。末梢神経の動きはとらない。
 明朗である事。明歴々。露堂々である事。男性的である事。裸で行く事。ぼろを隠した人絹の美服は纏はない事。
 鐘は大きく、強くつく事である。大きくつよく撞けば、従って殷殷嫋嫋の余波が行き渡るのである。初めから、弱く鳴らしたのでは駄目である。
 積極的を愛し、消極的を捨てない。夕立を喜び、時雨を楽しむ。大自然を礼賛すると同時に、人事の葛藤を凝視する。
 
背觸、出離。自由の消息を得べく努力してゐる。

(改造社俳句講座「現代結社篇」昭7より)

 

特色は作品本位である。第一、句作。第二、句作。第三、句作。ちょうど、相撲における、一押し、二押し、三に押しといふ如きである。四十八手裏表の相撲の手があるが、堂々と押し出して勝つといふ正面攻撃が第一である如く、我が同人は、よき句を作る、よき句を残す、これを第一義としてゐる。

(改造社続俳句講座第八巻「俳壇現勢篇」昭9より)

 

 

句は味である。醍醐味。大牢の美味。西施乳。乳の味。肉の味、魚の肉。いづれもよい、結構だ。酒池肉林敢て辞せないが、喫飯来の一汁一菜の米の味が真味だ。懐石の茶道の味も結構だが、喫茶去の苦茗、晩茶の味が句に通じる。
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 句は調べである。春雨の艶な調。五月雨。梅雨の降りの鬱たる調。夕立の轟々一瀉。雷を添へたる豪快さ又なき調子を持ってゐる。秋雨。時雨の粛条たるは身に入みて寂しき調べである。句の味、句の調べは、四時の好時節の日和元より嬉しいが、又雨日の調べも捨て難い。
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 味のない句は論ずるに足りない。
 調べの悪しき句は、語るに足らぬ。
 現代の世相昏迷に陥り、更に落着きを失うてゐる。
 現代の俳句、滔々として、新月並に堕してゐる。百年に通じる句はない。
 味と調を提唱する所以である。

(句集「時雨」序 昭23より)

 

 

底光りのする句。浸透的で味のある句。絢爛四邊を眩ゆくする句。鏘々響きを発する句。天使のやうな純真な句。樹陰を洩る新月の光のやうな句。玄の句。断の句。情の句。幽な句。力の句。千愁萬容、朗々誦して句神をいさめ、驚かす句を集めて「同人第三句集」を作り上げたい。一々々々の力を合せ集めて皇軍の大威力を発揮するやうな「同人第三句集」を作りあげたい。

 

(同人「第三句集」出版に就て  昭和13年より )

 

 

三たび稿を改めて、意に滿たず。これを棄つ。
同人于野。の語に依つて一句を得、乃ち序に代ふ。
 日洽し三々五々に
き踏む     月斗

(句集「同人俳句集」序 昭6より)

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