銀
靑木月斗
銀の文字ある句を扇子にしたため行きて
新 年
騎初に銀の鐙を著けにけり
初髮や銀元結も昔ぶり
銀棟の插櫛すがし初鏡
一灣の銀沙を染めつ初日の出
銀髯を撫して溌剌吉書かな
年玉や銀の小粒を一握り
掃初や銀の壽像に羽根箒
初夢や銀子こぼるる麻袋
銀絛の燦々として春服に
春
夜の花銀の燭奴を鳴らしけり
春月の光匂ふや銀沙灘
銀錠を開けまゐらせぬ花見駕
護花鈴の韻金臺銀階に
銀扇は蝶とも春のをどり哉
ポケットに鳴らす銀貨や宵の春
銀行や靜けさにある花の晝
花の句を銀婚式に望まれし
銀ぐさり帶に垂らしつ花見客
遲櫻生野銀山うち霞み
卒業や買うて貰ひし銀時計
雛棚に飾ってあるや銀盠子
諸子網日に銀鱗の光りけり
夏
初袷膝すべらする銀ぎせる
銀甲と銀刀飾り菖蒲酒
洗ひ髮まきて銀釵插しにけり
銀釵を落せし音や簟
銀鉤に朱簾かかげつ湖涼し
羅に銀文字のほ句誰が唫ぞ
銀彩に皐浪畫きつ和田の原
夏帶の帶止め涼し銀目貫
銀織やいやしからざる初袷
銀簪や袷女の後ろ向
銀子百兩の借用證書蟲拂
門涼み銀細工屋の夜なべ哉
羅や傘の模樣の銀鼠
秋
八朔や銀水引の祝ひ物
銀燭の瞬さやか菊の花
夜の秋の古びさやけし銀襖
銀鴨に香をくすべつ後の月
竹生島今宵銀兔を掲げたり
銀墨を磨つて芒を畫きけり
銀泥の月を上げたり東山
丹念に銀杏むいてくれにけり
山莊や月に銀川橫たはる
野の銀露衣褰げて歩きけり
秋の燈に銀の鑷を光らしぬ
冬
銀葉にくすぶる香や冬籠
東山小春歩いて銀閣寺
紫に銀甁燒きつ冬ごもり
冬凪にとべる銀鴎雪鷺哉
銀屏も朱竹も寂びぬ冬安居
河豚の醉更けし銀座の裏通り
年忘れ銀主の耳を嘗めにけり
眞黑に燒けし銀貨や古火鉢
河豚汁に銀の杯洗しりぞけぬ
雪の富士月下にありて銀燦々
句集『時雨』（昭二三）
昭和16年『櫻鯛通信句會』