明治大正時代の月斗句 5

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 明治四十四年六月より大正四年六月までの、『ホトヽギス』を中心とし『日本及日本人』『太陽』その他の諸雑誌、『国民』『東京日日』『大阪毎日』『大阪朝日』『京都日の出』等の各新聞より、今井柏浦が収録したものから抄出した。(島春)

 

 

 

今井柏浦・編『大正一萬句』(大四、博文館)より抄出。

 

陽炎に成ってしまひぬ忘れ霜

雪間風此頃急に野犬狩る

雪解や夜遊びつづく此夜頃

雪解道いづこ財布を落し来し

草鞋はいて旅したき弥生心かな

烏帽子着て神人眠き遅日かな

雪解や胸の痛みに薬塗る

釜座の釜屋の店の遅日かな

茶摘唄霞の中に日上る

寺の茶を摘みて朝起三日かな

我庭の梅なくなりぬ蔵ひいて

梅遠近半日嵯峨を歩きけり

花の中に椿落つるや大悲閣

山裾の南瓜寺や大椿

木瓜椿垣の内外彩りぬ

櫱や池に映れる堂の脚

市中や菜の花向ふ朝まだき

卯月野は紺屋の裏に見えにけり

卯月野となる山裾の大河かな

短夜や塀に数よむ蛞蝓

帯に句を女は強うる袷かな

枕にと袷の膝を女かな

城頭の井を晒しけり空は秋

筑摩鍋酔うたる旅人囃しけり

谷底へ朽ち落ちし堂や閑古鳥

蜘の子は逃ぐるを知って夜の障子

蜘の子は電気の笠に下りけり

紙魚の跡少しばかりはなつかしき

山かげや思ひもかけず余花の雪

若楓法事の酒に酔ふ女

若楓風なき雨に動くかな

卯の花や二尺の水に渡す橋

暮れて月に風習々の牡丹かな

蘆の花北風の濱となりにけり

枝豆に兎のひそむ月夜かな

本堂に縄して干せり唐辛子

木枯に起きゐて淋し村酒屋

木枯や捨てし莨の火は花と

石叩き又来し庭の時雨かな

花道を傘運ぶ夜は時雨るるか

旅の蒲団も暁我に親めり

山東の野より戻りて冬構

雪の底の火燵の国となりにけり

炭俵運びよごれし濱邊かな

釣菜して小家鎧ふが如くなり

十夜戻る灯を藪越しに裏戸さす

冬の蝿白き助炭をはなれずに

 

 

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