明治大正時代の月斗句 11

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 大正十一年一月より大正十四年一月までの、『大阪毎日』『東京日日』『国民』の三新聞、『ホトヽギス』『枯野』『鹿火屋』『同人』の四雑誌」を中心とした諸雑誌より、今井柏浦が収録したものから抄出した。(島春)

 

 

 

今井柏浦・編『新俳句選集』(大十四、修省堂)より抄出。

 

梅二月大阪中の流行風邪

枯木影日にまざまざと冴返る

井の遍に巣鳥の落ちし朧かな

蛙鳴く田よりの夜風春惜む

空林にまざとかかれり春の虹

檣林にうすれかかるや春の虹

東風寒き朝の山を眺め居る

雪解風山人町に出る日かな

足で踏む洗濯物や水温む

春泥に車の代を貪らる

雛屏風桃の胡粉の落ちにけり

叡山の雪に夕日や凧

春愁を凭れば倒れぬ几

春睡や日あたる窓によりかかり

山を焼く音空谷にひびきけり

梅が香に月の曇りや西行忌

燈して覗けば動く子猫かな

鶯や四山霞に夜明けぬる

二三日椿に蜂のふえにけり

里人に採らるる蜷の育ちかな

山梔子の実の美しや梅の宿

梅ちるや庭広々と竹の垣

知恩院いつまで花の雨宿り

愁人の面上げたる落花かな

春陰や柳の寺に鐘がなる

好もしき色に胡葱膾かな

蝶高し空うらうらと雨上がり

 唖禅母堂八十の賀に

老梅や彌白き花つけて

 岳南氏厳父の古稀に

天高く澄み渡るなり松の花

 果然君厳父遠逝

天霞む安き眠りと覚えけり

果然君に

人の子の淋しき時や冴え返る

日車の高きに風の土用明

田の水に赤く映りぬ夏の星

旱天の北大阪は煙かな

打水に底つく井の旱かな

日盛りや深き庇の雲雀籠

空梅雨の朝々曇り見せにけり

梅雨も半ば降らずに来り竹の月

宵寒き蛙の声や五月雨

拳大の雹を降らして空澄める

雷遠し樹々は風雨と戦へる

大旱を怒り雷荒れにけり

頭上落雷と覚えつ子等の叫びけり

夏川や罾の小屋の灯がつる

夏の川鵞は首たてて遡る

檀特が咲き爛れゐる清水かな

白き浴衣に揮毫の墨を飛ばしけり

嵐山の翠微かかるや衣紋竹

麻襦袢の汗乾きけり衣紋竹

白扇を鳴らして人を罵りぬ

青鷺のぼととぬれゐる雨中かな

蟇亭主の酒と相対す

日覆垂れて暑き釜中の金魚かな

庭茂りよろしきも昼の蚊にさされ

春蝉や汗して上る裏の山

浅山を歩いて蚋に食はれけり

緑陰の水におはぐろ蜻蛉かな

緑陰の泉に頭洗ひけり

溪若葉瀬音の中に河鹿かな

巌角の松形よし若葉山

欄や楓の花に手をのばす

葉桜や谷より風のふき上ぐる

萍を叩きちらして急雨かな

吊忍雷雨に閉す戸の外に

夏草を刈りたる跡のわらびかな

 

 

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