明治大正時代の月斗句 12

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 大正十一年一月より大正十四年一月までの、『大阪毎日』『東京日日』『国民』の三新聞、『ホトヽギス』『枯野』『鹿火屋』『同人』の四雑誌」を中心とした諸雑誌より、今井柏浦が収録したものから抄出した。(島春)

 

 

 

今井柏浦・編『新俳句選集』より抄出。

 

道端や萩の茂りに実梅落つ

 三越七階東窓

炎天の大阪城を真東に

 灘観音林倶楽部にて

土用東風古葉ちりちる松林

新涼や鈴振る虫の草の闇

新涼や日本アルプス温泉の窓に

朝冷や燠を入れたる大火鉢

研ぎすましたる満天の星山夜冷

山の小屋夜冷ひしひし襲ひ来る

朝冷の川靄に浮く家鴨かな

山遍夜寒水車の側を通り行く

秋寒し一萬尺の雲日の出

冷かな思ひにありぬ夜の長き

町中やさ霧がかかる十三夜

焼栗もさめたる月の名残かな

稲妻や北山かけて露の空

干潟人に雲の高さや秋晴るる

秋晴や廻れば五里の諏訪の湖

紺碧の淵をのぞくや秋の声

夜の橋の央に立てば秋の風

秋雨や風榭へ通ふ石の径

秋雨や燈下に落つる蟲の屑

万年青の実一つ赤しや秋時雨

水霜に下照見せしかなめ哉

水霜に金柑色を見せにけり

露けしや磧の穂草ふみ渡る

溪上げて来る霧迅し眺め立つ

薬搗く水車の匂ふ夜霧かな

雷鳥の二羽飛ぶ霧の谷間かな

白雲の去来眼前秋の山

穭田の掘り返さるる日南かな

木曽踊歌は覚えの耳にあり

踊見や露の夜道の小提灯

踊の輪崩れては又小さき輪に

木曽の夜をしのびつ蚊帳の別れかな

新藁のいきれをさます時雨かな

大盃に猩々講の新酒かな

月寒し新酒の酔も妨げず

東に御陵拝しつ太閤忌

朝顔の蔓のもつれや鬼貫忌

竹村や百舌の叫びに日の落つる

落鮎や天竜川の霧の底

風寒み蟲は燈影をしたひよる

庭の闇虫の声々更けにけり

菊の名に滴露とあるがふさはしき

山風にひょろひょろ露の女郎花

 

黍を荒しに貉が来たりよべも亦

落穂拾ひに布子着て出る朝の冷

酒かけて焚火を消しぬ菌山

 耶馬溪にて

山骨の磊々として紅葉かな

頂きの奇巖に鳶や夕紅葉

 玉泉洞中にて

泉水に山の紅葉のうつりけり

大寒や川白々と淀八幡

吹雪してつれなく日影消えにけり

古寺にちる山茶花や霜崩れ

霜の鐘天狗がゆばりかけにけり

大仏の鐘銘霜に泣きにけり

寺の鐘と落葉の風と山眠る

虹かけついよいよ寒し枯野原

傘さして雨の誓文払かな

二ケ村が寄附の鉦なる火鉢かな

老梅の根に遍して焚火跡

南庭や雀が交む避寒宿

酒鬼二人座に隣しぬ年忘

茎漬や裾吹く風に冷え逆せ

干菜湯に疝気の腰をひねりけり

湯豆腐に帯のゆるみも艶冶かな

口ずさむ辞世の三句春星忌

花白く霜気呼ばふや茶の木原

元日の霜堤上の住居かな

元日や淑気の満つる明けの空

歳旦や老が着るなる猿甚平

伊予の温泉へ渡る正月二日かな

青湾の桜枯木や初日の出

天窓に鴉の羽影初明り

初空やほのと榎の梢より

初空や山の連り東へ

初東風や鹿島の神へ小舟して

初霞島を案内の艤

鍬始霜踏む鴉遠きかな

山内の凍にやり羽子響きけり

門先やぽつぺん割りし二た處

餅花にはなやかな宵移りつつ

梁に薺の囃籠りけり

なづな粥餅に少しく黴来たり

珍しき貌つぎつぎに年酒かな

数の子に慈姑に寒き年酒かな

雪となる寒さの恵方詣かな

鶯の燈に鳴きにけり福寿草

鏡餅に敷く裏白を選りにけり

 

 

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