島春句自解

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平成15年1月号

島春句自解

羊数へて初夢で逢はんもの 

 

羊年の句。初夢どころか、なかなか寝付かれないのである。

    

日が雲に捉まりほっと花八手

 

日がな一日、陽光に白を極めていた八手の花に、日が翳った。

 

手のひらを飛行機にして子の時雨

 

ブーンと口でプロペラの爆音を立てて、旋回したりする。

 

時雨坂鼻血押さへる心地にて

 

一歩一歩踏みしめて登る坂。鼻をつままれているような感じで。

 

焼藷屋おなじく硬い鼻の皮

 

世の辛酸を嘗め尽くした面構えである。

 

焼藷を割るやほっこりわが太陽

 

丸く黄色で熱いもの。好ましいもの。

 

短日が駅弁の一と山くづし

 

あっという間に、積み上げたのが売り切れた。

 

猪撃ちを昔の指や盆栽に

 

鉄砲で猪を撃っていたのは遠い昔で、今は盆栽いじりの明け暮れ。

 

炭団よりの炎ねずみの尻尾ほど

 

炭団が熾ってきた。炭団の間から細い焔がちろちろしている。

 

大根葉うち照り空港まで間近

 

空港へリムジンで行く。街を抜け、川沿いの道を走り、坂を登って広島空港まで。

 

 

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平成15年2月号

島春句自解

 

公園に水鳥が来て鳩黒ずむ

 

博多のキャナルシティのあたり。流れに浮かび、洲に憩う水鳥。ベンチの周りには鳩の群れが低頭。

      

古駅の古椅子にあり雪包む

 

木で出来た駅舎である。柱も腰掛けるところも艶が出ててらてらしている。古時計もありそう。

 

目薬の蓋転げ居し煤の書架

 

あちこちに目薬を置いていて、何度も差している。私は目薬にかぶれるので、水みたいなのでないと使えない。

 

ちゃらちゃらを外し着替へて煤仲間

 

年一回の煤払いに私は傍観者である。やって来た人も手伝ってくれる。

 

湯を上る数よむに柚子抑へこみ

 

冬至の風呂。肩まで浸って、浮かぶ柚子を指で沈め沈め数を数えて、やっと湯から出ることが許される。

 

雪嶺や近景に犬戯れかかり

 

ホームで、特急通過待ちの車窓からの景色。写真になりそう。

 

明星に金線の月そして初日

初明り月のゴンドラ浮き上り

 

神社から見た東の空の、平成15年元旦の即景。月齢27、8ぐらいか。記録して置く。

 

手を曳かれ帰省し独楽も羽子もだめ

 

後継ぎは都会へ出て行って、正月に連れて帰る孫達の姿もあまり町内には見かけなくなった。

 

薄氷に裾つかまれてセロファン紙

 

雨降り後の路の水溜まりが、朝は薄氷になっている。飛んできた飴の紙がひらひらしていた。

 

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平成15年3月号

島春句自解

 

どてら着て新聞二紙を比べ読み

 

いわゆる中央紙と地方紙と二つの朝刊のニュースの扱いを読み比べて、憤慨したりする。

 

氷柱見て目に入る氷柱目をこする

 

氷柱のきらめきが目に入ったのである。私には尖端恐怖の気がある。有刺鉄線など、考えただけでも。

 

待合室の禁煙ポスター水仙花

 

私にとって、煙草は親の仇だと思っている。為害性に関する最近の知見は愉快だ。

 

墓所に入る供華の水仙掲げつつ

 

限られた土地なので、父母の墓所の周りはたいへん混雑してきた。墓石と墓石の間を身を斜にして通る。

 

靴底の後ろめたさを霜照らす

 

ある思いを持って、それを靴の裏にも感じながら、出かけてゆく。

 

霜柱跫音たてて選挙来る

 

だっだっ。どやどや。抽象にして具体。

 

密偵のやうないでたち探梅へ

 

ゴルフ用のモスグリーンのハンチングを、昔持ってた。

 

蕗のとうそれだけに訪ひ手渡す手

 

手から手へ渡す。それだけのために来た。

 

売れに売れ赤い旋風福だるま

雨また風固唾のみをる福だるま

 

三原神明祭風景。最近は、だるま市とも云われている。

 

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平成15年4月号

島春句自解

 

紅梅の老深ければ寄り難し

 

老梅に敬意を表して、歩み寄るのである。

 

春風の露店煙も湯気も味

 

神明市にて。食い物の店ばかりになった。湯気を上げるものの味。煙を上げるものの味。

 

バス曲りくねり繙く春の海

 

老大の生徒さんと出かけた。バスが大曲りしながら、海岸沿いの道をゆく。

 

窓大景東風の島々凸凹す

 

山やら島やらが繋がって見える、宿の部屋の大ガラス窓である。

 

海原を切り取る窓の長閑なり

 

窓の視野は、海の色だけで占められている位置にある。

 

折節の潮の香酒座を朧とす

 

日暮れて宴席となった。戸の開け閉めのせいか、潮の香りが折節にしてくる。

 

草引けば根がずるずると日脚伸ぶ

 

挿した花の散った花弁を水に浮かべたりするのも、日脚伸ぶの感じ。

 

卒業子本屋へ寄って帰る癖

 

書店というのか、本屋というのか。

 

跳ねて行き転んで戻り卒園す

 

近くに幼稚園があるが、最近は少子化とかで、機関車の形の送迎バスの通園になっている。

 

みほとけにウサギに声し卒園す

 

お寺に附設の幼稚園。帰るときは、みほとけ様、さようなら。兎さん、さようならという。

 

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平成15年5月号

島春句自解

 

もごもごと車列や花の景絡み

 

広島の図書館の雨の日の窓から外を眺めていると、庭木の桜の向こうの街路に車が渋滞している。

 

卵白を溶いてからめて夜の桜

 

夜の景に、卵とじになってゐるのである。

 

日暮れ瀬戸航く春潮に蠢きが

 

暮れてゆく海面に、うごめくものが見える気がする。

 

春愁に花のサラダのナイフォーク

 

カラフルな花びらを食用に供するのである。そのためのナイフとフォーク。

 

谷水が尖りうぐひす遠うする

 

谷の道を高く登ってゆくと、次第に流れが急となり細くなってゆく。

 

横丁から出会ひ頭の蝶ジャンプ

 

横丁から出てきたのは、私のほうだが。

 

大蝶はリボンの動き水の上

 

ゆらゆらと、無風の水の上の宙を踏んでゆく。

 

泣いた烏が笑うて蝶も来りけり

 

こどもがご機嫌なのは良い。

 

浮世より指を抜き取り土筆摘む

 

一日を俗事から離れて、草むらの中の土筆に指を差し入れる。草深くて茎の長い土筆なり。

 

不案内の地に花大根ここかしこ

 

方向音痴ではあるが、それにしても、もの憂い日なのである。

 

 

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平成15年6月号

島春句自解

 

お城下にビルがにょきにょき子供の日

 

三原は、浅野三万石の城下町だが、空襲を免れて、戦後もビルらしきものはなかったのに、最近はマンションが林立してきた。子供の日と称するのも好かない。

 

江戸紫が少年好きで武者飾る

 

作り物の菖蒲の花の部分や、兜の袱紗物などの紫色が、少年になつかしい色彩である。

    

唐紙がある部屋を持ち武者仕舞ふ

 

最近は出してきて飾るということもなくなった。押し入れを大きく占領して箱が積んである。

 

下駄の緒が切れて捨てられ蛇の道

 

そんな小道がある。鼻緒も両方が擦り切れるとどうしょうもなかった。

   

パソコンでレッテル作り蝮酒

 

空き瓶利用のお手製である。ボトルのレッテルも派手にそれらしくパソコンを使って作る。

 

葬場や山うぐひすを展延し

 

街並みから大分はなれた山中まで行った。鶯の声、銀箔のごとし。

 

来ては去る蝶やなんども熱測り

 

幼い頃だが、じっと横にならされていると、窓の景色しかない。

 

たんぽぽのブリーダーたり毬吹いて

 

道ばたのたんぽぽの毬を摘んでは、綿毛を吹いて飛ばしてゆく。ブリーダーという言葉はあまり知らなかったが。

    

豆笛が胸ポケットに炒られゐし

 

いまだに見つけては摘んで豆笛を鳴らしている。よく鳴るのをポケットに納めておいたら、いつの間にか乾びて真っ黒になって居た。

 

霞吸ひノンストップで来たりけり

 

高速道路を、食事抜きで飛ばしてもらってきた。まるで仙人だ。

 

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平成15年7月号

島春句自解

下船するみな年寄や島薫風

 

爽やかで長閑な島々に寄港しては、年寄りを乗り下りさせる。

 

煙草吸ひのための停車に風薫る

 

トイレ休憩して深呼吸、というよりは、煙草吸いが一人いるのだ。

 

溝川に満ち潮韻き花ざくろ

 

潮がさしてくる河へ注ぐ溝川が、家の間を縫うて流れている。干満がその流れにひびく。

 

誰も躓く敷居があって柿の花

 

黒い土の路地。そこで誰かが躓く。誰もが躓く。

 

苑荒れて雨あられとも雨蛙

 

草茫々で、行く先々にぱらぱらと豆蛙が跳び出す。

 

新品の干し竿柿の花降らす

 

日が射してきた。枝に掛けたおろしたての竿がまだ馴染まない。

 

レアの肉刺して青葉のレストラン

 

気取ってレアにしたステーキを食べる。

 

短夜を手繰りて人工滝落ちる

 

ホテルのロビーに水をきらきらと落している。一晩中循環させているのだろう。

 

短夜の瞬きもなし燈のシェード

 

瞬くことを知らないのである。

 

冷たさがキャベツより皓歯へ届き

 

歯に沁みるほどの真白な刻みキャベツ。

 

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平成15年8月号     

島春句自解

夏薊青天の気が地にも沁み

 

晴れきって、空の青さが地に泌みこむ思いである。

 

十薬の忍者取り巻く闇の庭

 

夜の塀際や庭石の周りを、どくだみの花のくの一がひしひしと取り巻いている。

 

振り返り夏山となる墳墓かな

 

墓参を済ませての帰り。何度も振り向けば、もう夏山。

 

雨蛙消防屯所付近より

 

鳴き声が、消防屯所の植え込みからだったので意識。

 

雨蛙屋敷に身内打ち寄れば

 

雨到る。今は、やや遠い身内がその屋敷を継いでいる。

 

扇子入れ眼鏡サックがはみ出しぬ

 

常用のセカンドバック。老眼鏡は必需品である。

 

白い記憶の芯なる紅い扇かな

 

その白の記憶を見つめてみた。

 

団扇パタパタパタパタし論を折る

 

聞き手に、団扇が盛んに使われるようになり、論を置いた。

 

遊船に競馬新聞広げては

 

車の中でも、会議の中休みでも。

 

沖膾いつしか島の裏景色

 

波の上下動、いつか島の裏側の景。

 

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平成15年9月号     

島春句自解

 

地に着いてすぐ片肘や桐一葉

 

葉柄のことである。家の外は殆ど舗装されてしまった。

  

蟻の観察頭の芯に日が届き

 

長く見つめていたら、頭脳の芯まで陽射しが届いてしまった。

 

泳ぎ上り脚の空気が抜けてゐる

 

姪の児の小さいのを潮に浸けてやったついでに、何メートルか泳いでみた。

 

炎天や器以上の水溢れ

 

古い甕をベランダに置き、水草を植えている。ホースの水を出しっぱなしにしていた。

 

路地裏の生態系が梅雨明けす

 

中でも人間どもが、あれこれしている。

 

入江沿ひの夜店を折れて街明り

 

夜店明かりを外れ、暗いところを少しゆくと、眩しい街明かりの界に入る。

 

浴衣着て心情的に他人的

 

さばさばしているというか、バサバサしている。

 

丸いから月梅雨晴の筋雲に

 

夜空に薄雲がかかっている。その中に、同じ白さで丸いのは月なのである。

 

あれあれと朝飯前の虹なりし

 

あっという間に薄れてしまったが、そんなもんだ。

 

虹を見るインコを肩にガラス越し

 

すぐに肩に乗る。一度そのまま闇夜のベランダに出てみたが、しがみ付いて逃げようとはしなかった。

 

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平成15年10月号    

島春句自解

古路地の燈篭明かりうきうきと

 

路地の住人は老化してしまったが、お盆の頃は何か華やぎがある。

 

花火みたいな戦争の画や盆テレビ

 

お正月テレビという言葉があるが、今年の盆のテレビ画面には繰り返しての砲煙が挙がる。

 

赤い星朝かなかなに消えにけり

 

火星最接近。その頃は未明の西空に浮かんでいた。お芝居のようなかなかなの声。

 

ビラ貼られ白粉花にして過激

 

お爺さんが一人住んでいる家だが、ビラ貼り看板がいつか据えられていた。。

 

遮音窓の虹に向ひて開いた口

 

人間の口が開いている。

 

遠花火こころの中で撥を打つ

 

光だけである。ドーンドーンと心の中で撥を振っている。

 

ひっそりと蜻蛉の姿プランター

 

葉と葉の陰の細い茎にぶら下がっているのはとんぼ。ベランダにやってくるのは稀である。

 

かき分けるほどの蜻蛉に旅中かな

 

実際は船を下りて桟橋から島の土を踏んだときの感じ。

 

落ち蝉のせんべい緑濃き車道

 

片側が山の車道でひっきりなしに車が通る。轢かれた蝉が道端に。

 

蝉の本土よりややの航蝉の島

 

高速船のスタートとゴールは蝉の声の占有するところ。

 

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平成15年11月号    

島春句自解

 

貰はれて糸瓜が床に長居せり

 

子規忌に持って来てくれたもの。鴨居に吊っても見たが、床の間にどさっとまだ鎮座している。

 

女郎花風の便りに小首して

 

風に肯いて首を振っている。これも子規忌の供華。

 

葛花に甘へられつつ山畑へ

 

山の畠まで登ってゆく細道の上を葛が覆って芳香を放っている。

 

海の色甘美に望む葡萄園

 

海が見える丘のぶどう園。遠望する浪の色も葡萄色。

 

葡萄粒アダムとイブと毟り合ふ

 

気楽なものさ。そのまま風呂上りの葡萄ひと房。

 

口軽の無花果が先づ剥かれけり

 

大きく口の裂けた分から食べねばならぬ。

 

売れ残る無花果が欠びを噛んで

 

透明なパックに詰められて、もう夕暮れの八百屋であくびを噛み殺す。

 

台風逸れ島が雲生む曇天へ

 

老大の生徒との吟行の日。全天曇りで、その雲の下の島が、雨の過ぎたあとの低い雲を生む。

 

ステテコで台風劇の主役たり

 

台風が来そうになると大ハッスルする老齢の所帯主が居る。

 

蟷螂の反り窮まれば跨ぎけり

 

進路に、我をふりさけ見つつひっくり返りそうになっている。

 

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平成15年12月号    

島春句自解

 

照り色の野の底のもの穴惑

 

野が花いろとなる頃、その底のほうに潜む蛇の色を見る。

 

露が干てブロンズ像が眠たげに

 

露淋漓の「喜ぶ少女」像。朝露が乾くと表情が少し変わる。

 

鼻梁登るコーヒーの湯気秋高し

 

テラスにて、外人さん気分。

 

葉一枚載りサンルーム天高し

 

冬や大風の日は、電動で天幕が覆うようになっていたのだが、長く故障のままである。

 

股ポケットは団栗でありにけり

 

欲張って詰め込んだので、もっこりとして歩きにくい。

 

どんぐりと釣銭と半券も汗

 

遊園地の中は自然が残っている。入園したポケットの中。

 

手の中にどんぐり力や山歩き

 

手のひらの中に、団栗を握り締めている。杖みたいに頼れる。

 

物干に菊棚に日が平等に

 

新興住宅地。玄関と車庫と少しの空き地。

 

郊外の秋退くパチンコ休業日

 

郊外パチンコ場にも休業日があり、駐車場は広々。

 

行秋の刻が満車を崩しだす

 

ある時刻から潮が引くような動きがある。

 

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