島春句自解

平成16年

平成 16.1

平成 16.2

平成 16.3

平成 16.4

平成 16.5

平成 16.6

平成 16.7

平成 16.8

平成 16.9

平成 16.10

平成 16.11

平成 16.12

 

 

 

 

平成16年1月号

島春句自解

小春空より拡がり来着陸す

離陸して空港を小春に戻す

 

広島空港に隣接する「三景園」に吟行の句。

 

回遊の順路の先の帰り花

 

「三景園」は山・里・海の三つの風景にちなんでの造園である。これは瀬戸内海を意味する「海のゾーン」である。石蕗の花も眩しかった。

 

人影が一つに寄りぬ枯野口

 

一行は近くの「女王瀧」へ。ドラマ「毛利元就」の冒頭シーンの瀧である。

 

滝道に潜る小春を吸ひ込みて

滝までの落葉を下るゐしき哉

岩のどれも素顔にあらず冬の山

 

岩は苔に覆われていて、散り紅葉を点じる。道を下るのに巧みな筋肉の動きがある。

 

重いもの下ろせば冬雲動きだす

 

物や心や、「重いもの」いろいろ。

 

林よりややに離れて冱ゆる松

 

庭の松の樹一本。周囲に見えるのも松林である。遠山も。

 

山茶花やすぐ水が減る庭の池

 

鯉がいるらしい。奥さんが毎朝蛇口を開けている。

 

島春ページへ戻る

 

 

 

平成16年2月号

島春句自解

善は昇り悪は沈むや水涸るる

年の瀬の感。阿久原川の僅かな水も大方は生活廃水らしい。

ぽろぽろと抜けてゐしネジ煤払

院長室を整理した。生活のあちこちにも、似たことがあるものだ。

兼題や聖夜の端で句帖抱く

シャーペンで句を記している。

考への牛歩に年の瀬の流れ

夜半,考えごとしながら歩いている。

去年今年じゃんけんといふ勝負事

ジャンケンも勝負事である。

一管の蛍光澄める若井かな

初日待つ銀杏も柿も枝つめられ

ひんがしへ展けし鳥居初日今

干川神社初詣。翌暁、ひっくり返ってしまった。

初日昇る様を語りて歯なき口

東端の病室の廊下で、日の出のありさまをつぶさに話している声がする。三日のことだが。

丹田を抉る太鼓や雑煮腹

実は絶食に近い状態だったので、ずんと響いた。

凡雲にして動かざり初写真

シャッターチャンスを待つのに。

カーテンに百パーセント初日差

病室の窓である。

ドック入りより漕ぎ出さな年男

脳も心臓も異常を認めず、結局は暇つぶしにピロリを除菌した。

チューリップ欠びかみ殺さぬ四日

花瓶でくたびれている。

初戸出の雲の五分五分幸とせん

御題「幸」。

島春ページへ戻る

 

平成16年3月号

島春句自解

寒晴の石ども坐り直すなり

磐石という言葉があるが、それぞれ所を得て据えられている。

寒紅を引きくちびるに閂を

真一文字。

寒紅の鏡にガラス見て居たり

考えごとに、目の焦点が浮いている。

和定食選ぶ皮手袋外し

やっぱりいつも通りがいい。

村人が流出霜柱がむっくり

霜柱の高さが目覚しい村。

何々反対それに反対ちゃんちゃんこ

それもこれも。

涸れ池を薄日渉ってしまひけり

束の間の明るさ。

涸れ切って骨と皮なる瀑探る

流水の痕跡が白けた瀧に立つ。

買ふ気あらなく福達磨白眼視
ポリ包装きらめく家路福達磨

三原神明市(だるま市ともいう)風景。

島春ページへ戻る

 

 

平成16年4月号

島春句自解

片手握って貰ひ猫柳を掴む

 

猫柳の枝のほうはしつかりしている。

 

埃置いて退屈な水温み初む

 

じっとしていて水は退屈している。

 

エスカレーター沿ひの階段日脚伸ぶ

春風と別れ回転ドアと組む

シネマ出て世の春風の軽きこと

 

旅先で時間があって、シネマコンプレックスというのを初めて覗き、『ラスト・サムライ』を観た。

 

梅の蘂日差は粉となって降り

 

紅梅に金粉の陽射し。

 

鬼追へば闇浅かりし窓の外

 

街中に暗闇はないようだ。

 

安らぎのマツタケウメや植木市

 

前のほうにシクラメンやパンジーの鉢を置いて、松や梅や竹は幾久しい姿かたちである。

 

手のひらに蕗のとう乗り凱旋す

手袋の指を惜しむや蕗のとう

 

見つけてどうしようかと思ったのだが、手袋を取り指二本の爪だけ使った。

 

島春ページへ戻る

 

平成16年5月号

島春句自解

花びらが散りこみ冴ゆる紅生姜

 

花見弁当。紅生姜の色が凛としているのへ花が散り掛かる

 

恐竜の歩みでお玉じゃくし追ふ

 

のっしのっしと、泥の中を恐竜のような足運び。

 

セカンドライフはこべら青く土黒く

 

リタイヤしてからの暮らしは土いじり。

 

椎茸と山葵の苞に椿加味

 

伊豆の宿からの贈り物。

 

土筆野に這入る屈折したままで

 

土筆の野の奥まで屈折した思いを持ち込んでいる。

 

春愁のチョコに銀紙噛みあてし

 

異物というより異質。噛んだ銀紙の金属味。

 

和蝋燭して春怨の影ゆらり

 

気分転換に蝋燭を灯してみたけれど。和蝋燭は内子で買ってきた。掛け金具がついている。

 

雛の夜の防火呼びかけ喨喨と

 

あたかも春の火災予防週間。がなり声である。

 

雛の宵なり黄金の玉子焼

 

卵焼きが大好きな女の子。

 

甘ったるい声が後見シャボン玉

 

若い母親がキャアキャア囃し立てている。

 

島春ページへ戻る

 

 

平成16年6月号

島春句自解

端然と飾り兜や塾で留守

 

恒例の床飾り。子供の成長。

 

蜥蜴去り墓所に古い風が来る

 

そういう風が吹いている。

 

遊園地成り桜咲き家が建つ

 

あやめが丘団地というのが出来ていた。この順序で、まだ空き地もぼつぼつ。

 

花吹雪尺取虫の持ち時間

 

小泉にて。花見茣蓙に弁当を開いていると、尺取虫の足取りを見つけた。

 

花見しての嘱目吟に鶏の鬨

 

雄鶏の声は久しぶりであった。

 

落武者のごとし筍狩りの衆

 

筍狩り吟行。女史のほうが多いのだが。

 

竹林の気合初竹の子に満ち

 

電線を張って、藪の半分は猪に呉れている。

 

竹の子の首の雪白一撃し

 

一撃にする。三本。

 

土筆摘むと筍掘ると静と動

 

筍藪から句会場までの路で土筆摘み。

 

土筆摘む字を書くやうに手が震へ

 

身構えるわけではないが、この頃筆の字が震える。

 

島春ページへ戻る

 

 

平成16年7月号より

島春句自解

肝胆相照らして酒後の蜆汁

 

何軒目かのスナックで、もう帰るかと蜆汁を啜っている。

 

京料理ちまちまと食べ弥生尽

 

弥生の膳のコース、何ともゆつたりと時間が流れる。

 

犬らの散歩済んで濠端新暖に

 

朝食前の犬に引かれての散歩の多いこと。一段落して暑くなる。

 

銅貨の釣り仕舞ひポケット薄暑とす

 

コインをちゃらちゃら入れて、ふくらむほどでもないが。

 

蟻あるく石英雲母長石と

 

花崗岩の風化地帯に住んでいる。雨の後の砂肌。

 

蟻が出る頃に落書薄れけり

 

また子供たちの夏がやつて来た。

 

腕組めば水をついばむ目高かな

 

無聊の腕組み。

 

目高掬ひたるままの口笛となる

 

やつたぁと得意の口を尖らせる。

 

鼻詰まるまで緋目高を覗き込む

 

昔の子供は年中洟が出ていた。

 

グッピーが押っ取り刀餌を撒けば

 

あたふたと袴着のグッピー。

 

島春ページへ戻る

 

平成16年8月号より

島春句自解

申の日の赤猿股や渋団扇

今年の旧の、というか本当の、端午の節句は申の日に当たっていた。乃ちである。当たり年だから自家調達した。

 

あぢさゐの鞠若うして膝のやう

若い人の二の腕の内側の色でもある。

 

枯れに就き人面となる七変化

そのまま乾びるとどくろみたいになる。

 

雲が垂れ捩花は綿棒となる

梅天に花を挙げて、耳掻きの棒のようでもある。

 

鉢植のいちご子一人親一人

一つ生るときも二つ生るときもあって、それぞれ幸せである。

 

夏茱萸にくすぐったいと喉ちんこ

滴るような紅玉で、口にすると渋みがのどに残る。

 

道路改装蟹よぎり昔がよぎる

家の前の道路が改装中だが、なかなかはかどらないで今年も梅雨に入った。

 

ぴかぴかのフェンス潜りし蟹如何に

パーキングの金網の柵を新しくして、アスファルトは漆黒。

 

蘭犇と笑みを固めて梅雨籠り

花鉢をいっぱい買い込んで来ては部屋に置いている。

 

粛と車列梅雨穴にみな身を揺らし

道路の一画が改装できないで居て、徐行する車が溜まって、よいしょと越えて行く感じ。

 

島春ページへ戻る

 

 

平成16年9月号より

島春句自解

 

多弁とす海の日焼のグループは

 

休日明け。グループで海へ出かけた連中のほうが山組よりもにぎやか。

 

水錆びてしっかり月見草映る

 

川の水が日に日に干乾びてきている。

 

岩になり切れぬコンクリ月見草

 

草むらに放置されたコンクリの塊。まだ人工物の質感がある。

 

瀑道を辿る尺取虫となり

 

急勾配で、一方の足を踏み出して、他方の足がそれに就いてゆく。

 

局所的蝉の豪雨に鳥居かな

 

局所的豪雨という語感。

 

あめんぼと遊んで水に酔ひたる児

 

光と水とアメンボの臭いにふらふら。

 

船虫居て河口の水にとろみ感

 

潮が差して来て船虫が石垣の間から出てくると水がとろりとして見える。

 

蛍狩化粧道具が持ち重り

 

ご婦人は持ち歩かないと気が落ち着かないらしい。

 

でで虫の角の計算速度かな

 

コンピューター用語を使った。

 

中締めや扇子畳んで腋挟み

 

宴たけなわで、座に戻り、お開きの挨拶がある。

 

島春ページへ戻る

 

平成16年10月号より

島春句自解

 

階上る残暑の手摺たぐりつつ

 

二階に自宅玄関がある。手繰るというのが実感。

 

号令が飛ぶ消防署赤とんぼ

 

赤。隊列。飛ぶ。

 

目隠しの指を開けば赤とんぼ

 

赤とんぼ。最初に見たもの。

 

庭楽しや上半分に赤とんぼ

 

庭の上半分の景。「や」を加えた。

 

ときところことがら銀河長大に

翌の事にさざ波が立つ薄銀河

 

TPO。いろいろに見える。

 

出発や息もつかずに西瓜食ひ

 

「出発」とはこんなこと。

 

巡り来ても視線が合はず踊の輪

 

ずっと見つめ続けているのに。

 

展望や無名の雲の峰並び

 

頂上からの瀬戸内海国立公園の展望。

 

花道にかかり入道雲秀麗

 

湧き上がりつつ形づくり、今や純白に完成した。

 

島春ページへ戻る

 

平成16年11月号より

島春句自解

 

ノンアルコール服膺蟲を聴き澄ます

 

ドクターにアルコール断ちを宣言した。会合ではビールテイスト飲料で、もう一年を過ぎた。

 

扇置き庭の千草を引かんとす

 

と、構えているのである。草ぼうぼうでやっと涼しくなってきた。

 

凝らしゐる葡萄の肩のあたり食ふ

 

粒と粒とがみしみしと犇めいている房である。

 

房をこぼれ息ついてゐる葡萄つぶ

 

空気まみれの一粒。

 

横たはりモデルとなりぬ大葡萄

頬杖でこちら見てゐるマスカット

 

ずっしりした一房を置いてやると、なかなかに肉感的な姿態である。

 

横坐りしてゐる木落林檎かな

 

そんな感じ。台風が何度も来た今年だった。

 

陰に押しやられ鬼灯鬱血す

 

蔭の部分部分に血の色を残している。

 

野菊原しょんべん小僧置かれたる

 

わらんべがやって来て。

 

竜胆や喉が詰まった感のまま

 

ヒステリー球。なかなか取れない。

 

島春ページへ戻る

 

平成16年12月号より

島春句自解

 

三方金の頁を開き長夜とす

 

長夜、天金の書を繙くのだが、もっと豪華版にしてみた。

 

オーシャンビューホテルの窓の月何処

 

カーテンを開けて、全面ガラスの窓に海上の月を捜す。

 

曼珠沙華舗装が尽きしハンドルに

 

家の前のアプローチのところで舗装が途切れた。ここからは狭くて起伏がある。

 

くにがまへして曼珠沙華一軒家

 

漢字の部首の囗。田圃の中の家周り。

 

湾渡る黒衣の台風微光して

 

夜の台風。アニメ的。

 

高潮を老若叫ぶ久しぶり

 

血の滾り。けっこう、町内に若者がいることを認識した。

 

帽子行き影が過ぎまた稲雀

 

俯瞰した経過である。

 

古城址の語り部が踏み虫細る

 

滔々とした言葉での歴史。

 

草虱膝までつけて句が遁げる

 

俳句のことにした。

 

登高や名の島なんぼ習っても

 

高きに登り、分かっている島の名を唱えてみて、島のほうの数が余ってしまうのである。

 

島春ページへ戻る