島春句自解

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平成17年1月号

島春句自解

ポインセチアそのままに鉄鶏飾る

 

クリスマス飾りのポインセチアの鉢の傍に、来年の干支だからと鉄の鶏の像を置いた。現物大で黒塗りだからよく似合う。             

 

ブロンズの武者に小春の雲とろけ
騎馬像の望む未来を小春とす

 

ある団体で上京した。宮城前の楠公像である。

 

小春ビル仰ぐ目薬差すかたち

メカニックなビルは小春の喉の骨

 

東京都庁である。

 

おみくじのコインに崩す神の留守

 

土産物屋で、コーヒーを飲んで、小銭を得た。お社の背後の天にビルが聳えている。

 

うどん腹中にし菊人形の前

 

我が体内の構造である。

 

今朝の冬ラッキーカラー赤といふ

 

朝のテレビの占いで、身につけるもの。さて。

 

大根を託され道路横断す

 

横断歩道を渡るときに持たされた。ぶら下げて振って歩くとよい。

 

木の葉髪眉間の皺を撫でる時

 

つまむ癖がついたが、縦ジワは直らない。

 

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平成17年2月号

島春句自解

雀のやうに並び冬日の展望台

 

長崎稲佐山展望台。風の強い日だった。ケーブルで下ったのは数えれば四十五年ぶり。

 

湯豆腐を掬ふに肩を凝らせけり

 

よいしょと食卓につく。このところ、右肩は恒久的であるが。

 

冬籠コップに半分水残り

 

これも恒久化しているが、食後服用の薬には必要なのである。あと水を飲んだりすることはない。

 

師走晴雑草が抜かれに伸びる

 

ベランダの鉢の土。仕事場の外の日の射さぬ庭の土。

 

極月の卓に干菓子が溜まりけり

 

卓上に菓子鉢。餡ものとかケーキなどは早めに頂戴する。

 

大年の座右耳掻のふわふわ毛

 

取りやすいので、やはり卓の眼鏡立てに、ついでに耳掻きを立てている。

 

太箸に重の松葉をつまみけり

 

大昔だが、祖父が山で取ってきた小枝を削って作ってくれた。ほんとうに太箸で、困った。

 

鶏鳴の投輪つぎつぎ初日の出

路九十九折初鶏が麓より

初鶏や川上よりし此処応ず

 

酉年の新年句。

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平成17年3月号

島春句自解

寒雀小さく見ゆるが親なるべし

 

群れている中で元気そうなのが子雀の成長した姿であろう。痩せたのも目に入る。

 

パン屋さん光量ゆたか雪の朝

始発へと駅の雪景崩れつつ

 

大晦日の朝、当地で初めての雪が積もった。人を迎えに駅へ。駅前のベーカリー煌々と、バスロータリーも混んでゆく。

 

半寸の雪に旭光余りけり

 

積雪は僅か。光の帯が散開するような日が昇る。旭日である。

 

凍て土が同志としたり膝小僧

 

膝小僧を冷たい土が呼びかけるのである。

 

不燃物の中でも凍てにガラス瓶

 

不燃物置き場は寒々しい。

                          

豆を打つ下宿子の声頼もしく

 

下宿の大学生。セコムだね。

 

笹の葉の清しき高さ水仙花

 

笹の葉に隠れるかどうかの高さに水仙の花。

                                                                                             

水仙花なりに切り持ち活けしなり

 

水仙の茎や葉の向きにそれなりに従いながら動作する。

                                               

春そこの人工芝を踏みしめつ

 

春近し。

 

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平成17年4月号

島春句自解

丘一つまるまる学舎入試いま

学園の塔の異形や東風の街

 

医療福祉の公立大学を誘致して、丘一つが学園町という区画が出来た。メルヘンチックな学舎が丘にそびえている

 

お国の名ついてゐる紅梅を嗅ぐ

 

薩摩紅梅だけではなく、肥後とか豊後とかそれぞれの色かたち。

 

梅園の中央は池にかかる橋

 

橋のカーブの一番高いところに立つ。

 

ピンポーンが鳴って舞ひ込む蕗の薹

 

手のひらにころころさせたのを頂戴する。

 

陽光をはたかれじまひ猫柳

猫柳ひと粒光つまみけり

 

日の光をまぶした猫柳。

 

寄ってたかって沈丁花嗅ぐ着座前

 

一枝をみんなが嗅いでいる。

 

ペタンと座り菫たんぽぽ無い通路

 

街中で、なんやら坐りというきたない座り方で屯している。

 

啓蟄の日の屋上の大気浴

 

屋上のコンクリの隅に苔が青んでいる。

 

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平成17年5月号

島春句自解

霞んだる橋の対岸もまた島

 

しまなみ海道の島から島への部分。橋が出来て、島が持つある種の感じが薄れた。

 

パーキングより陽炎の一車抜く

 

満車の中から出てゆく。待ち構えた一台が入る。

 

掘り取ってから置くまでの春の土

 

一ショベルを、春の土だと思う。

 

昆虫のような脚曲げ雛の客

 

ジーパンの脚を如何にせん。

 

甘言が座を行き交ふや桜餅

生けるかの鶯餅や箸の先

 

この時期の句会の茶菓子である。席題になる。

 

バス降りて垂るる行列梅園へ

 

小高いところに駐車場があって、そこからぞろぞろ下りて来る。

 

プランターに漂ひ着きし母子草

 

二階のベランダ。ほんとうは使った古土からだろう。

 

泳ぐかに蓬が原を香に染まり

 

茫々とした蓬の中を手で掻き分けて進むのである。

 

菜の花を喰ひちぎるとき意識する

 

食用の菜の花だという。昔は咲いた花を食ったりはしなかった。

 

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平成17年6月号

島春句自解

落花踏みながら小雨を仰いでは

 

歩いてゆく。句の前半と後半の行動とずれているようでもあるが。そんな関連づけ。

 

花に来て手漕の舟を見守れり

花に見る空白といふ色の海

下山途中ずっと西日の花吹雪

 

瀬戸内海国立公園筆影山にて。駐車場から頂上まで少し登る。木組みの展望台よりの遠景の島々は霞む日だったが、花の枝隠れに足下の海が見えた。

 

卵黄や花は盛りに雲も無く

 

小泉句会の人たちが待っていた。雨の予報が外れたのである。急遽のコンビニ弁当に、輪切りのゆで卵が花見らしくする。

 

鶯や全身全霊吾がために

 

花見吟行にて。花の下でのお弁当。花の上を、山から鶯がとめどなく声を流し続けた。

 

ふじ園にチューリップ園に揚雲雀

 

村起こしということで、観光農園が幾つも出来て、道沿いにその矢印案内の幟が林立している。

 

おぼろ月何もせぬ手に肩が凝る

 

何もせぬということと肩が凝るということと朧ということ。

 

入学児耳動かせることが出来

 

私は、クラスで三人だけ長髪にしていたうちの一人で、背丈が一番低かった。もちろん耳たぶも動かせない。

 

看板の苺暑ぐるしいストア

 

句会の窓から見える青果ストア。ペンキの下地が真黄色で、赤い苺の絵の大きなこと

 

 

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平成17年7月号

島春句自解

若楓の光ころげる畳の目

 

好天。庭の若楓の影が畳の上に動き止まない。

 

池のあり新樹の影が躓くは

 

広大な庭園。若葉の影が一ところで折れている。見えないがそこに池がある。

 

木造りの家を若葉が覆ひきる

 

木造の家とことさらに言うようになった。

 

兜飾る窓の日にやや仰向かせ

 

床の間に飾り付けて、日差しのほうへやや上目具合に。

 

中座する遅日の膝ががっくりと

 

座を立つときに膝ががくがくするようになった。

 

微笑んで恵比寿大黒日の永し

 

木彫りの面を壁に掛けている。

 

書斎とは名ばかり昼の蚊が溜まる

 

部屋の片隅に蚊が住みついている様だ。

 

蚊帳畳むときの大波児に寄せ来

 

昔の回顧。そこにはいつも祖父の思い出がある。

 

噴水に灯が入り顔が流れ行く

 

街中の夕方の人波。

 

桐は盛りの遠富士に眼放せず

 

裏富士。桐の花盛りの天気であった。

 

花桐がヘアピンカーブにて常時

 

けっこう高木なのである。

 

屋外非常階段点検風薫る

 

余り緊張感は無さそう。

 

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平成17年8月号

島春句

サッカーフィーバー紫陽花が太りだす

 

ころころと牧の羊とあぢさゐと

 

噴水に灯が入りホテル夜の生気

 

用も無く噴水に在るこそばゆし

 

蝸牛拾うて帰る傘のうち

 

厠への灯を点ずればかたつむり

 

山椒が顰めたる芽のほぐれ出す

 

朝々や花ざくろより火星人

 

空梅雨の橋まで歩くため歩く

 

空梅雨のやうな声して大鴉

 

蚊が止まる白磁の碗の端正に

 

さざ波のごとくほほゑみ端居人

 

 

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平成17年9月号

島春句

 

冷房や耳欹てて耳冷ゆる

 

冷房に拱くのみぞ臍周り

 

冷房に独りやお菓子濃厚な

 

枇杷の種一見狷介皿の上

 

ピーマンの光が硬し茄子よりも

 

蔟れる紫蘇陽光を吸ひ余し

 

コンビニや鳴神行きつ戻りつし

 

お相撲の頭突きでトマト噛付く

 

鮎掛が見ゆる鉄橋わたるとき

 

沖泳ぎ対話するには遠い雲

 

 

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平成17年10月号

島春句

 

花野より石の階段また花野

 

花野やや溢れ岬の灯台へ

 

花畠見てゐることを空が見る

 

城崖の反りに乗ずる赤とんぼ

 

吟味する眼を子が持てりやんま釣

 

病院の個室に密着赤とんぼ

 

空港行リムジン待つや天の川

 

岩魚釣剣客のごと遡る

 

泳いでは野球の経過訊ねては

 

高枝鋏の音が西日へ蒸発す

 

 

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平成17年11月号

島春句

 

海原は絞り模様に島澄めり

 

飛石のいちばん手前の島が澄む

 

山も島も野分去りたる緑盛る

 

たたなはり昔毒ガス島も澄む

 

島分けて秋風来るや魚料理

 

島々が囲む海面月を待つ

 

かまきりを指に階段登りきる

 

丹念に無花果剥くは耐えてゐる

 

贅肉にもろに押し当て青りんご

 

ぴしり発言青りんご袖で拭き

 

深海のごと冷えたるや黒葡萄

 

秋風に揉まれてゐるや格子縞

 

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平成17年12月号

島春句

 

霧曲り川も曲りて橋のあり

霧濃淡土手を併走する車

 

市街地へ突っ込む山地霧隠れ

 

日輪やモーターショーと菊花展

 

菊膾しんしんと歯を力づけ

 

軍配返り谷を挟んで紅葉づりぬ

 

紅葉づるや鬢の辺りの岩露出

 

都市計画に家解体や紅葉どき

 

今日小鳥来て生真面目に声発す

 

コスモスの瓶に加はる女郎花

 

持ち寄りし萩減らされて活けられし

 

呼ばれたるかに葛花の香に向きぬ

 

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