平成18年
島春句
笑み初やブロンズ像の笑みの横
犬連れて来て長居せり絵双六
袴着や帯解や川端柳
鯉小春空気の中に口を入れ
テーマパークの水鳥に鴉も鳩も
小春より逃げ建物の間の通路
ログハウス夜は落葉が撫で回す
海の色首肯す冬芒に倣ひ
それぞれの島に小春の浜がある
百歳の留守番が居て籾むしろ
島春句
島越えの島の初日や本土より
一千尺にて三方海や初日待つ
島山と海原と半ばし初霞
吹抜に凧ゆらゆらと飾りけり
湯殿より雪見て柚を抱きしめる
島の柚とや湯に浮かび波に揺れ
掘り出した土土に載り霜柱
血サラサラの食材選び着膨れて
聖夜なる盛花に百合生臭き
島春句
立春へ貰ひし欠び返しけり
下萌の裡壮烈に蘇鉄枯れ
下萌の仮想ゴールへ靴先が
観光とや淡雪の戦争物に
淡雪を口あけて食ふ満ち潮は
節分を着込んで部屋にみんな福
肉とワインその後追はるる鬼となり
暖房と猫と漫画に帰宅せり
熱燗やテレビの笑顔悪いやつ
白い息長老にしてまんまるく
島春句
しゃんとして鶯の飛び去る時ぞ
宵の春時計お澄まししてここに
苔玉が吸ひ余したる水温む
水温む溝で二丁目三丁目
水温む田んぼが消えてコンビニに
若草の泪でぬれてゐるやうな
切花のアネモネ色づく微速進
指先がすこし霜焼してパキラ
白息のきれぎれ単語帳めくり
寒鯉の水を覗くに水の膜
島春句
花椿完全溶解して暮れし
カナリヤの嘴に告げやる春の夢
パレットに乾びし絵具春の夢
点眼し万朶の花を鎮めけり
花びらの千枚ほどを羅漢たち
白象が身揺るぎ枝垂桜かな
山頂にある長閑さの日南かな
鶯の声吸ふパラボラアンテナが
梅林が市街に埋もれこの一樹
三月をまた振り向いて四月馬鹿
島春句
花飛ぶや山頂に立つ鼻の先
花見茣蓙よりこぼれたる赤子這ふ
芽吹きては七里七島盛り上がり
麗らかな浜の半月島が抱く
川上に食ひ入る市街東風至る
残桜やどの山裾も寺構へ
史跡といふ白みに煙り山桜
人声に墓所も藪椿も目覚め
花は紅水白緑に走るなり
枝垂桜も川原の石も転ばずに
平成18年7月号
島春句
衣更へて肘の辺りが目を覚ます
掘り上げし筍嗅ぎに風が寄る
小半里は来つ竹の子を脇挟み
橋際に飼はれ鷹揚五月鯉
川を挟みクラスメートの鯉幟
松緑少年少女智慧がつき
駅裏の生活臭や春の雨
太陽を味方につけて囀る樹
囀りの深ふところを九十九折
山奥や擬音のごとく啼く蛙
前衛の書体で野火が走りぬけ
島春句
海見ゆる席クーラーの風が降り
指の先夏潮に刺し昼休み
遊園地の彩度にまぎれ花楓
闊葉に水明かりせり蛍待つ
時の日の蔓ものの先切らんとす
トマトやや一山いくらの懈怠感
部屋に風入れて造花を夏めかす
泰山木監視カメラがありそうな
昼の蚊や点検済みし非常口
道細り酔客に葉柳ゆらり
梅雨の山他人行儀に見えにけり
痩せる茶をまた一口や梅雨籠り
島春句
海べりの夜店時しも大汐で
テレビ中継夜店の奥の窓が沸く
蚊食鳥無声映画のやうな町
昼寝覚犬のことばが聞えけり
算盤を鳴らして昼寝起しけり
昼寝より覚めし児に会ひ辞しにけり
蟻一匹急げり顎がついてゆく
山からの風が見つけたあごの汗
見えたやうな見たやうな蛍反芻す
明けて今日の相を作りし五月川
通り抜け叱られさうな梅雨の闇
四角い職場より戻り来る梅雨の路地
島春句
角帽の青かまきりが伸び上がり
酩酊と泥酔の間花火散る
昼が来て麺を啜るや盆休み
蝉に囲まれワイシャツが窮屈で
水を得て魚になる子や夏休み
夏休み日記に鼻血つきにけり
昼顔の伝声管に羽の音
朝顔の紺が好きで馬券は外れ
浜へ泳ぎ上がりそのまま蝶となる
棕櫚の葉が外から昼寝煽るなり
島春句
邂逅や秋風の手の乾ききり
穂芒や伸び縮みして水の皺
鶏頭のアマゾネスたち塀の内
熱しと思ふ鶏頭に触れ触れ直す
八朔や卓のコップに海の照り
りんご拭く彼のジャケツの左胸
葡萄と書いた墨が滲んで葡萄とも
コスモスが白より桃へ朝の気温
客待ちのタクシー蟲を聴いてをり
蟲沿ひの川街に入り潜り込む
島春句
蟲すがれ北斗七星太線に
眇して浮かぶ昴や蟲の老い
ビラ張りが車で来て居鵙の村
メジャーカップの液面震ふうそ寒き
客待ちのテーブル拭けばそぞろ寒
やや寒の闇の充電ランプかな
海の色した車が来た赤のまま
蟷螂の腹は中流意識かな
月昇るデザートが出てコーヒーに
トンネルに吸排されつつ月の夜