平成23年
島春句
蓑のごと棕櫚の古葉や初日影
マンションは魚礁の如し帰り花
サイボーグのような視線に帰り花
養魚池の水平を置く枯野かな
体温を偸むベンチや草紅葉
色変へぬ松をダム湖の小島にす
紅葉観に登りて川の形見ゆ
山の膝組み替へしかに紅葉づれり
島春句
誰も風も片道切符日向ぼこ
牛も馬もさういへば見ず日向ぼこ
冬の月閉ぢない花は目出し帽
冬の月遠心分離されてゐる
東雲はカクテルの色冬の月
師走から次の師走へ自動ドア
ポケットの師走コインとレジシート
大年も日に三回のスクワット
あれから寒い部屋となりゐし今は冬
模造紙を一枚ひろげたる寒さ
島春句
雪催ひ砂場の砂の古びやう
雪催ひ一枚ガラス戸の不穏
小春日の奥のお包の鼻孔
とんでゐるなり寒雀空き店舗
黒のラメ入りを着て大寒をいふ
プランターに暖色片々御降す
天井板と電燈の紐と寝正月
初日影昼前になって亀動き
初明り梢の網が絡めつつ
初日待つ木々の緑が彩度上げ
島春句
作品である銅塊に木の芽馴れ
煉瓦塀と木の芽に親和力を見る
春は春らしや岩納豆生姜漬
淡雪ら内に曲って我へ降る
凧揚げしズボンの裾が砂拾ひ
成人の日の高声が城跡へ
福達磨遠くの駐車まで抱かれ
まだ水道凍結飴玉舐めてゐる
島春句
出港といふざはめきも霞みゆき
陽炎を銀輪が振りほどきつつ
ストライド走法パンジー小旗振る
踊り場の蝶の挙動を置き去りに
速乾のペンキ塗り終へ蝶も来ず
春眠や健康器具に取り巻かれ
細首に生まれさむがり雛まつり
坪庭に小鳥来てゐる雛まつり
球根を植ゑし爪切り日記書く
ゆるりゆるり動くは躯幹桃林
島春句
ロイヤルウェディング中継桜鯛
小鳥飼うてそこいらのハコベが実る
ホリデイの筍噛めりちと硬き
ケータイが震へをり亀鳴き止めば
鳥の巣や絵本の中のやうな木に
寧日のあくびが花を育てけり
橋を渡る横から縦へ桜土手
花時の寺といふ懐中に在り
幾曲りちぢんで花へ来たるバス
花散って木目に融け込む千社札
島春句
城見ゆる二階の窓に虹を見る
虹立つや平穏無事が永続き
虹消えてバイクのライト生ぬるし
白ペンキ塗り終へたるにみどりの日
貝掘ってしゃがんで来りみどりの日
昼深く旅より戻り新茶かな
若葉照り影のかたちに鳥が居て
折鶴の色滴れる若葉の碑
若葉風を特急通過尻押しす
雨が隠す山に若葉が気色ばむ
島春句
触れたりし蜘蛛の巣朝々にて忘れ
池巡る柵に露店のやうに蜘蛛
赤いマッチ箱ありき女郎蜘蛛がゐて
風鈴を外して吊りぬほたるかご
人が持つ高さといふを蛍越ゆ
時鳥所帯やつれの耳とがり
籠のインコの長広舌の明け易し
梅雨空のごく表面へあくびつく
梅雨川が不時の帰郷にくねるかな
眺め居て踏まぬ前山かたつむり
平成23年9月号
島春句
巡航船音止め寄港山滴る
錦鯉のやうに浴衣で回遊す
お醤油をこぼし浴衣を借りにけり
いちばんに金ぶん籠を出されけり
くちなしの初花に寄る嗅ぎ尽くせ
くちなしの腐乱で週末が暮れる
泉掬ぶ手の雪白に巧妙に
田植する景に弁当つかひゐる
そこばくのふるさと感に梅雨の山
梅雨明けの主婦らが雲を講釈す
島春句
満月は端山もっぱら揚げ花火
遠花火ビルのきんかん頭邪魔
週末の夕かなかなや傾聴す
脇ばさむ基礎体温計名残の蚊
浮き蔓の朝顔見上げ杖の人
一と部屋に時計二つの暑さかな
仕事場の風鈴に髪なぶらるる
休憩のたんび風鈴口で吹く
昼顔やゲートルは折り返し二度
昼顔やかつて鉄道は黒かりき
島春句
野の草が呉須手に靡く菊膾
歩み来し息継ぐ今の間菊の前
ワープロの装飾文字や菊花展
吟行や字余りにある団栗握り
千両箱開けたる入り日芒原
土橋より路でなくなり芒原
秋風裏渓の石みなころげそう
折れ曲がり草に花咲くベンチ脇
城濠に釣りの禁札いわし雲
いわし雲うごき耐震工事中
島春句
野の草が呉須手に靡く菊膾
歩み来し息継ぐ今の間菊の前
ワープロの装飾文字や菊花展
吟行や字余りにある団栗握り
千両箱開けたる入り日芒原
土橋より路でなくなり芒原
秋風裏渓の石みなころげそう
折れ曲がり草に花咲くベンチ脇
城濠に釣りの禁札いわし雲
いわし雲うごき耐震工事中