平成24年
島春句
(御題)発光し湾岸道路去年今年
橋にある歩道の小草にて小春
掌で小春の頬っぺサンドイッチ
口に呉れし一厘玉や蓮根掘り
うそ寒のネクタイ結び直しけり
冷まじや一音躓くオルゴール
坪庭にいわし雲などありにけり
大理石の階にて桜紅葉踏む
湖面の影の紅の紅葉を照合す
紅葉谷の苔にルーペを当ててゐる
島春句
ちゃんちゃんこ畳に這うて捜し物
花八手植わり自転車置場かな
四季めぐる小学唱歌置炬燵
提げて大根引いたると葱引いたると
釦一個かがりゆるみし寒さかな
冬野行く漕がねば溺れる自転車で
枯野バス捌いた魚の包持ち
純アルミ像に霙やくろぐろと
聖樹燦たる店にて皺のお札出す
肥え松の茶盆磨いて煤籠
島春句
志赫々たりや氷柱村
氷柱群思ひつめたる容なり
氷柱まだ信頼に足る太さにて
氷柱見し瞼暫く揉みにけり
引きずる音なり年越し蕎麦啜る
窯変に似たる橙飾りけり
年立つや沖つ白波双手上げ
角々と街伸び凧も羽子も見ず
七草粥後にスポンジケーキかな
あの口調は街頭演説雪景に
島春句
見下ろして居し花苗へ意思ある手
奴隷市場のように苗木を見定める
さざ波を踏み若芝は海原や
芽吹く頃石投げ岩に当てにけり
福だるま腹の脂肪で抱へけり
素っぴんで来て福だるま購へり
福だるま赤い夕陽に買はれけり
銀の雪烏のやうな爺さまに
みな背骨曲げ枯芝に日全し
野水仙掘れば骨でも出て来そう
島春句
頂上を余し寺縁の囀りに
囀りを蔵して分限者が住まひ
城跡と云ふウエットさ囀れり
百千鳥にてローマ字とひらがなと
パンジーに紙切れが風に浮く物理
三月尽砂金さらさら砂時計
雛の間にやや尖端のカレンダー
雛の間の声坪庭に飛び来たり
春塵の如き不首尾を重ねけり
探梅や尿のやうなる茶を喫し
島春句
猫が居て蝶が来てそれらしくなる
道細り行きて蓬を踏む匂ひ
桃咲いてこの村の総幸福度
林中や菫大柄気立て良し
靴を履く生きものい行き落椿
落椿拾うてぞいざ断崖へ
勝鬨のごと城跡に花満ちし
広場横のトイレ出づれば花の瀑
B級グルメに列んで花の疲れ哉
意味が無い日数を終へし桜蕊
島春句
見めぐりの朝の緑や若葉寒
楠若葉神ぞ御座すと盛り上る
虹の色顕ちみどりの日始まりぬ
黒く塗り熊赤く塗り金太郎
日常茶飯よりは高所に桐が咲く
急湍や風縦横に藤の房
蜂が来て空気固めた金ンびかり
風に揺るる花を揺らして虻ぢから
景品の種から咲きて蝶呼べり
憂き胸にあれよあれよと蝶入り來
島春句
手入する薔薇に甘噛みされ続け
自由主義国の色濃し薔薇一円
龍舌闌缶詰工場守衛のみ
自画像のための鏡の五月闇
ビール飲む顔長男に描かれゐる
朝顔の最初はグーの芽がチョキに
母の日のカーネーションのスリーL
母の日の花いつまでも鏡台に
蛍捕ったる手足の長い女の子
旅のサングラスにカメラ作動中
島春句
風鈴を見て時計見る眇して
金魚玉仰げば宇宙船内部
花石榴縁に拾へば章魚小隊
ハンカチを膝にラムネの長いこと
ジャーマンアイリス咲かせて老婆たじたじと
電話では済ませぬ話著莪の雨
歯医者出て床屋で眠気五月闇
梅雨穴や負債の町に杖の人
踏んだり蹴ったり町中を梅雨の川
方形に溝川梅雨を押し出せり
一年分の雨量と報ず金魚池
梅雨明け宣言花屋さんパン屋さん
島春句
厚化粧にて古里のカンナを見
白桃にしんけい過敏の指の裏
一隅が老の書斎や蝿叩
天金に鎮まる埃蚊の声す
蟹逃げる地中に罅がある話
目高追ひ目がしょぼしょぼになりにけり
声嗄れて汐引き切ってキャンプ村
駐車場の遮断器多忙蝉は満ち
蝉が乗り雲塊が乗り緑化地区
島春句
女郎花たくさん束ね豊満に
ものを噛むこめかみ動き桐一葉
トンネルに入り秋風が風となる
もの運ぶ蟻のバイパス震災忌
推敲や剥かざる梨で額打ち
のぞみ号の風圧秋日めくりけり
白壁と屋根とで寺や百日紅
鈴をつけたらばと百日紅の盛
煉瓦敷きの並木通りに蝉の頃
虹のあと一本拾ふ鳩の羽根
島春句
露踏んで大分行けばいつもの朝
桟橋も跨ぐ船端も露のレベル
粘土質の雲が頭上に夜学生
印捺したかにあり彼岸花名残
人造湖の底へ滲めり昼の虫
秋風よ湖中の島に色かたち
寺までや垂れたる萩を掬ひつつ
留守番の腰曲げ鶏頭まで出で来
荒れ庭の戦力たりや彼岸花
雨なくて市塵厚しや鳳仙花